監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
配偶者から浮気・不貞をされた際には、その配偶者に対して慰謝料請求をすることが考えられます。
ただし、この慰謝料請求をするにあたっては、いくつか注意すべき点があります。その代表的な例が、「時効」です。
本記事では、浮気・不貞の慰謝料請求の時効について詳しく解説していきます。
目次
浮気(不倫)の慰謝料請求には時効がある!
浮気・不貞の慰謝料請求は、いつまでもできるわけではありません。
浮気・不貞の慰謝料には、一定の期間を超えると請求できなくなるという時間的な限界が存在します。いわゆる「時効」と呼ばれるものです(より正確にいえば、「消滅時効」と呼ばれるものです)。 ただし、時効は、所定の期間が経過すると自動的に請求権が失われるという性質のものではありません。
請求される側(債務者)が、時効の完成を主張することで、はじめて時効の効果が生じ得ます。これを「時効の援用」といいます(民法145条)。
浮気相手への慰謝料請求の時効は?
浮気・不貞の慰謝料請求の法的な性質は、不法行為に基づく損害賠償請求権です。
したがって、慰謝料請求の消滅時効は、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の規定に従って処理されます。
民法724条には、不法行為に基づく消滅時効として、3年と20年という2つのパッケージが用意されています。このように、短期と長期の消滅時効に分けられているのは、時効が進み始める時点、すなわち「時効の起算点」が異なるからです。
以下では、この「時効の起算点」について、詳しくみていきましょう。
慰謝料請求の時効はいつから起算する?
先ほども解説したとおり、慰謝料請求の時効には、3年という短期の消滅時効と、20年という2つのパッケージが存在します。両者が時効完成の期間を異にするのは、「時効の起算点」が異なるからです。
前者の起算点は、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」です。権利行使が可能であることを知った時点という、債権者側の認識を基準とするため、3年という短期間で消滅時効が完成します。
債権者が、権利行使が可能であることを知っているのであれば、通常はすぐに行動できるはずですから、短期間で時効が完成したとしても、不合理ではないからです。「主観的起算点」などと呼ばれたりします。
これに対して、後者の起算点は「不法行為の時」です。前者の場合と異なり、不法行為時には、かならずしも請求する側が、権利行使可能であることを認識しているとは限りません。
このため、短期間で消滅時効が完成してしまうと請求する側の利益を著しく害してしまうため、このような長期の時効期間が設けられているのです。
なお、後述するように、改正前民法において、後者のパッケージは、時効期間ではなく除斥期間と考えられていました。
浮気の慰謝料請求の時効を止める5つの方法
浮気・不貞の慰謝料請求の時効を止めるには、いくつかの方法があります。
本記事では、①裁判上の請求、②内容証明郵便による催告、③債務の承認、④協議を行う旨の合意、⑤仮処分・仮差押え・差押さえの5つについて解説していきます。
①裁判で請求する
時効の完成を止めるための第1の方法は、「裁判上の請求」です。
民法147条1項は、「次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6か月を経過する)までの間は、時効は完成しない」と定めています。
そして、同条1項1号に「裁判上の請求」を挙げています。これは、「時効の完成猶予」と呼ばれるものです。
②内容証明郵便を送付する
内容証明郵便などで相手方に権利行使をすることも、「催告」として時効の完成を止めるための1つの手段です。
民法150条1項には、「催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しない」と規定されています。この催告も、時効の完成猶予事由として位置づけられています。
③債務を承認させる
相手方(債務者)に債務を承認させることも、時効の完成を遅らせるための1つの手段です。
民法152条1項には、「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める」と規定されています。
前述の場合と異なり、債務の承認は、時効完成までの期間をリセットするという意味で、時効の更新事由として位置づけられています。
④協議を行う旨の合意をする
相手方(債務者)と協議を行う旨の合意をすることも、時効の完成を止めるための1つの手段です。
民法151条には、「権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない」と定められています。
⑤仮処分・仮差押え・差押えを行う
仮処分・仮差押えを行うことも、時効の完成を止めるための1つの手段です。
民法149条には、「次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しない」と定められています。
また、差し押さえなどの強制執行を行うことも、時効の完成を止めるための手段です。
民法148条1項1号には、時効の完成猶予事由として、「強制執行」が定められています。
民法改正による慰謝料請求権の時効への影響
前でも少し触れたとおり、改正前まで、724条の20年間との規定は、除斥期間と捉えられており、完成猶予や更新(改正前でいうところの、時効の中断や停止のことを指します)ができない状態でした。
しかし、民法改正で、時効期間と定められたことで、20年間の部分についても、時効の更新や完成猶予が可能となりました。
時効が過ぎた後では慰謝料を請求できない?
時効期間が経過したと思っていても、実は完成猶予や更新事由が生じていたなどして、未だに時効が完成していない場合もあり得ます。
また、そもそも、起算点の捉え方がズレているといったケースもあります。このあたりについて、正確に把握するためにも、まずは専門家である弁護士にご相談ください。
時効で浮気の慰謝料を取り逃がさないためのポイント
時効で慰謝料を取り逃がさないためのポイントは、先ほども挙げたように、時効を完成させないための措置を定期的に講じることです。
上記5つの方法のうちでも、内容証明郵便による催告などは、比較的容易に行えるものですので、時効を完成させないための手段として重要になってきます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
浮気の慰謝料の時効に関するQ&A
5年前の浮気を最近知ったのですが、浮気相手に慰謝料を請求することは可能ですか?
不貞行為時から20年未満ですので、客観的起算点という意味では、未だに時効は完成していません。
このため、浮気を知ったことという主観的起算点から3年以内であれば、浮気相手に慰謝料を請求すること自体は可能と言えるでしょう。
ただし、15年前の不貞について、きちんとした証拠が残っているのかという、立証上の問題には注意する必要があります。
10年前の浮気が発覚したのですが、既に離婚しています。元夫に慰謝料を請求することはできますか?
仮に、10年前にはいまだ婚姻しており、夫婦関係が破綻していなかったような場合であれば、10年前の浮気についても、消滅時効が完成していない限りという留保付きではありますが、請求することが可能です。
不貞の慰謝料請求権は、あくまでも不貞時に発生しているからです。ただし、10年前の浮気時点で、両者が離婚していたなど、既に夫婦関係が破綻していたような場合には、慰謝料請求をすることはできません。
時効を止めるために裁判を起こしたいのですが、相手の居場所が分かりません。何か対処法はありますか?
裁判を起こすためには、相手の居場所(住所)を知る必要があります。
相手が請求者の親族等であれば、自身で住民票や戸籍を取り寄せることも可能ですが、そういった一部の場合を除くと、自分自身で相手の情報を調査することには限界があります。
従って、このような場合には、弁護士に裁判を依頼すべきでしょう。弁護士は、職務上請求や弁護士会照会などにより、第三者であっても、相手の住民票や戸籍等を取り寄せることができるからです。
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浮気の慰謝料請求は早い段階で行う必要があります。まずは弁護士にご相談下さい。
以上で述べてきたように、時効による権利消滅のおそれがあるため、浮気の慰謝料請求はできる限り早い段階で行う必要があります。
ただし、時効期間の判断や、相手の調査など、自分自身でできることには限界がありますので、まずは、弁護士に相談することを強くおすすめします。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)