監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
公務員が業務中に管理する金銭を着服した場合、業務上横領罪だけでなく、文書偽造などの犯罪も成立する可能性があります。
万が一、横領をしてしまった場合、逮捕や懲戒免職のリスクが高まりますので、早期に弁護士へ相談し、被害弁償や示談交渉を行うなど、適切な対応をとることが重要です。
公務員が公金などを横領すると業務上横領罪が成立する可能性がある
公務員が業務として管理している「公金」を、自身の私的な目的で使用したり持ち出したりした場合、刑法253条の業務上横領罪が成立する可能性があります。
公金は国民の税金等から成るという性質上、極めて厳格な管理が求められており、これを着服する行為は国民の信頼を裏切るものとして厳しく処罰される傾向にあります。
金額の多寡にかかわらず、1円であっても自己の占有する他人の物を領得すれば犯罪は成立し得ます。
業務上横領罪とは
業務上横領罪とは、業務上自己の占有する他人の物を横領した場合に成立する犯罪です。
単純な横領罪よりも刑が重く規定されています。
業務上横領罪の詳細な成立要件や刑罰については、別の記事で詳しく解説していますので、そちらをご参照ください。
業務上横領罪について詳しく見る領収書の偽造や改ざんを行った場合は私文書偽造罪が成立する可能性もある
横領の事実を隠蔽するために、領収書の金額を書き換えたり、架空の領収書を作成したりするケースがあります。
このような行為を行った場合、刑法159条の私文書偽造罪および同行使罪が成立する可能性があります。
横領行為そのものに加え、証拠となる文書を改ざんする行為は、犯行の隠蔽工作として悪質性が高いと判断され、量刑判断においても重く考慮され得る重大な要素となります。
私文書偽造罪とは
私文書偽造罪とは、行使の目的で、他人の印章や署名を使用して権利義務や事実証明に関する文書を偽造する犯罪です。
例えば、店舗が発行した領収書の金額を勝手に書き換える行為や、白紙の領収書に店舗の印鑑を無断で使用して作成する行為などがこれに該当します。
作成権限のない文書を作成すること自体が処罰の対象となります。
公務員の場合、横領の際に書類を偽造すると虚偽公文書作成罪が成立する可能性もある
公務員が、その職務に関し、行使の目的で虚偽の文書を作成した場合、刑法156条の虚偽公文書作成罪が成立する可能性があります。
公務員という立場を利用して、決裁文書や会計報告書などに嘘の記載を行い、公金を不正に引き出した場合などがこれに該当します。
公文書に対する社会的信用を損なう犯罪であるため、私文書偽造よりも厳しく処罰される傾向にあります。
虚偽公文書作成罪とは
虚偽公文書作成罪とは、公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときに成立する犯罪です。
公務員が作成する文書は社会的に高い信用性を有しているため、その内容に嘘を記載することは、公務に対する信用を害する行為として処罰の対象となります。
実際にあった公務員の横領事件
例えば、ある自治体の職員が、生活保護費の支給業務を担当していた際、架空の受給者をシステムに登録し、数千万円単位の公金を自身の管理する口座に振り込ませて横領した事例があります。
また、公立学校の事務職員が、PTA会費や給食費などの公金外現金を管理していることを奇貨として、数年間にわたり着服し、発覚後に懲戒免職および業務上横領罪で起訴されたケースも存在します。
横領した公務員の責任
公務員が横領を行った場合、単に職を失うだけでなく、法律上の重い責任を負うことになります。
具体的には、国や自治体に対する損害を賠償する民事上の責任と、国家から刑罰を受ける刑事上の責任の双方です。
これらは別個の手続きで追及されるため、民事上の全額返済が完了しても、刑事責任が当然に消滅するわけではありません。
刑事上の責任
刑事上の責任としては、刑法253条の業務上横領罪により、10年以下の懲役に処せられる可能性があります。
公務員の場合、公金を取り扱うという職務の性質上、社会的影響が大きく、初犯であっても金額が高額であれば実刑判決が下されるリスクがあります。
起訴され有罪となれば前科がつき、その後の社会生活に多大な影響を及ぼす可能性があります。
民事上の責任
民事上の責任として、横領した公金全額に加え、遅延損害金を付して返還する義務を負います。
これは民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求にあたります。
横領した金銭を既に遊興費などで費消してしまっている場合でも、原則として、返還義務は免れません。
場合によっては、監督不届き等を理由に上司等が処分を受けることもありますが、本人の賠償責任が免除されるわけではありません。
懲戒免職について横領した公務員は懲戒免職の可能性がある
国家公務員法や地方公務員法、各自治体の条例・規則に基づき、懲戒処分が行われる可能性があります。
公金の横領は、公務員に対する国民の信用を著しく失墜させる行為であるため、最も重い懲戒免職処分となる可能性が極めて高いものです。
懲戒免職となると、退職金が支給されない、あるいは全額没収されるケースが一般的であり、経済的にも大きな打撃を受ける可能性があります。
将来の再就職のためにも弁護士にご相談ください
再就職を目指すにあたり、前職での横領による懲戒免職事由は大きな不利益になり得ます。
しかし、横領した公金を全額返済し、真摯に反省している事実は、採用選考における情状として考慮される可能性があります。
返済計画の履行を含め、法的な観点からどのように身の振り方を考えるべきか、将来の生活再建に向けて弁護士にご相談ください。
横領に時効はあるのか
業務上横領罪の公訴時効は7年と定められており(刑事訴訟法250条2項4号)、この期間が経過すると検察官は起訴することができなくなります。
他方、民事上の損害賠償請求権の消滅時効は、被害者である国や地方公共団体が損害及び加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年(民法724条)です。
刑事と民事で時効期間が異なる点に注意が必要です。
公務員の横領は必ず逮捕される?
公務員の横領は社会的関心が高く、事件化する可能性は否定できません。
しかし、必ず逮捕されるわけではありません。
捜査機関が介入する前に、弁護士を通じて職場である役所等と交渉し、全額を弁償して示談が成立すれば、刑事告訴を行わないとの合意を取り付けることが可能な場合もあります。
逮捕を回避するためには、早期の対応が不可欠です。
自宅待機を命じられた場合にできること
横領の疑いで自宅待機を命じられた場合、懲戒処分や刑事告発が差し迫っている状況といえますので、できる限り早い段階で弁護士へ相談されることをおすすめします。
弁護士が代理人として職場と交渉し、被害弁償の申し入れや事実関係の精査を行うことで、懲戒処分の軽減や刑事事件化の回避を目指します。
何もしないまま待機していると、事態は悪化する可能性があります。
逮捕された場合は減刑に向けて弁護士がサポートします
万が一、事件化し逮捕された場合、弁護士は直ちに接見を行い、取調べへの対応をアドバイスします。
また、被害弁償を行い、職場や関係者からの嘆願書を集めるなどして、裁判所や検察官に対して情状酌量を求めます。
これらの活動により、起訴猶予(不起訴)や、起訴された場合でも執行猶予付き判決などの減刑を目指して、全力で弁護活動を行います。
身柄が拘束されてしまった場合は解放に向けて動きます
逮捕・勾留により警察署に身柄が拘束されると、防御の準備が十分にできません。
弁護士は、証拠隠滅や逃亡の恐れがないことを客観的な証拠とともに主張し、勾留請求の却下や保釈許可決定を求めます。
弁護活動が功を奏し、早期に身柄が解放されれば、会社への対応や社会生活への影響を最小限に留めつつ、裁判に向けた準備を整えることが可能になります。
横領に関するご相談はお早めに弁護士へご相談ください
公務員による横領は、社会的信用を失い、人生を大きく左右する重大な問題です。
しかし、早期に対処することで、最悪の事態を回避できる可能性は残されていますので、一人で抱え込まず、まずは弁護士へご相談ください。
交通事故の示談交渉では、過失割合が最も揉めやすいポイントです。
過失割合とは、事故原因について被害者側と加害者側がどの程度責任を負うかを示すもので、事故状況や双方の不注意の程度を踏まえて決められます。
しかし、具体的な事故状況等に対する評価に幅があるため、保険会社を含めた当事者間で意見が対立しやすく、賠償額にも大きく影響します。
そのため、適正な過失割合を主張し、必要に応じて修正を求めることが交通事故の賠償請求では重要です。
本記事では、経験豊富な弁護士が揉めやすいケースや対処法等について解説します。
交通事故の過失割合で揉める理由とは?
交通事故の過失割合は、具体的な事故状況等に対する評価に幅があるうえ、当事者双方が「相手が悪い」と感じやすいことから感情面でも対立し、揉めやすくなります。
まずは過失割合がなぜ重要な争点となるかを理解し、適切な対処の方向性を掴むことが重要です。
損害賠償の金額に影響するため
交通事故の過失割合が揉める大きな理由の一つは、損害賠償金に直接影響するためです。
被害者側に過失が認められると、その割合分だけ賠償金が減額される「過失相殺」が適用されます。
被害者としては、当然ながら少しでも多くの賠償を受け取りたいと考えます。
一方、相手方保険会社は支払額を抑えたいという立場にあり、双方の利害が真っ向から対立します。
このように、金銭面での思惑が大きく関係するため、過失割合は示談交渉で特に争いが生じやすいのです。
警察は過失割合に関与しないため
交通事故の過失割合が揉める理由の二つ目に、警察が過失割合の判断に関与しないことが挙げられます。
事故発生時には警察が現場検証や実況見分を行い、事情聴取も実施するため、一見すると警察が過失も判断してくれそうに思われがちです。
しかし、警察が扱うのはあくまで「刑事事件」であり、被害者が加害者に賠償を求める「民事上の過失割合」については判断しません。
そのため、双方の主張が対立したまま調整機関が存在せず、結果として過失割合が争いになりやすくなるのです。
事故状況の食い違いがあるため
交通事故の過失割合が揉める理由の三つ目は、事故状況の認識に食い違いが生じやすいことが挙げられます。
過失割合は、被害者側と加害者側の注意義務違反の程度を事故状況から判断して決められますが、その前提となる事実関係が一致していない場合、双方の主張は大きく対立します。
たとえば「信号は自分が青だった」と当事者双方が主張するようなケースでは、過失の評価自体が進まず、示談交渉が難航しがちです。
このように、事故状況の食い違いは過失割合が揉める典型的な原因の一つといえます。
まずは交通事故事件専属のスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
過失割合について揉めやすい4つのパターン
次に、過失割合について揉めやすいパターンとしてどのようなものがあるか、4つに分類して、以下、解説していきます。
①交通事故に関する証拠が不足している
過失割合が揉めやすい典型例の一つが、交通事故に関する証拠が不足しているケースです。
過失割合は、事故状況や双方の不注意の程度を基に判断されますが、当事者の主張が食い違っているにもかかわらず、状況を客観的に示す証拠がない場合、どちらの言い分が正しいのか判断しにくく、対立が深まりやすくなります。
証拠としては、ドライブレコーダー映像、監視カメラ、目撃証言、事故直後の写真や動画、実況見分調書などが挙げられます。
特にドライブレコーダーは事故状況を鮮明に示す有力な証拠となり得ます。
証拠が無い場合の対処法
では、交通事故に関する証拠が不足している場合、どのように対応すべきでしょうか。
一つの方法として、相手方保険会社に対し、提示された過失割合の理由や根拠を書面で明示するよう求めることが挙げられます。
必要に応じて、相手方が保有している警察の捜査記録や記録映像などの証拠の確認も求めましょう。示談交渉では、相手方の主張とその裏付けを把握することが重要です。
自ら証拠を持っていない場合でも、相手方に根拠を提示させることで、過失割合の適正性を検討しやすくなります。
②損害賠償額が大きい
過失割合が揉めやすいパターンの二つ目は、損害賠償額が高額なケースです。
損害が大きいほど、過失割合の違いによる受取額の差が拡大するため、当事者の利害が強く対立します。
たとえば損害額が1000万円の場合、被害者の過失が3割であれば請求額は700万円、1割であれば900万円となり、その差は200万円にも及びます。
このように、わずかな過失割合の違いでも賠償額が大きく変動するため、重症を負った事故や高額損害の事案では過失割合が特に争われやすくなります。
損害賠償額が大きい場合の対処法
損害賠償額が大きい場合は、過失割合のわずかな差で受け取れる賠償金が大きく変動するため、安易な妥協は避けることが重要です。
相手方保険会社の提示をそのまま受け入れる前に、事故状況や証拠に照らして過失割合が妥当か慎重に確認する必要があります。
そのうえで、交通事故に精通した弁護士へ早期に相談し、専門的な視点から主張の組み立て方や反論の可否を検討しましょう。
また、交渉で折り合いがつかない場合には、ADR(紛争解決手続)や訴訟も選択肢となるため、適切な手続きを視野に入れて進めることが望まれます。
③どちらが悪いか判断がしにくい
過失割合が揉めやすい三つ目のパターンは、どちらが悪いか判断しにくいケースです。
過失割合は、事故状況や双方の不注意の程度から決められますが、双方に一定の注意義務違反がある場合、どちらの過失がどの程度重いのか判断が難しく、主張が対立しやすくなります。
たとえば、同一方向走行中の車線変更に伴う事故で、変更車両が駐車車両を避けようとして衝突したケースや、信号機も道路幅の差もない交差点での出合い頭事故などは典型です。
このような事案では、事故状況を把握しても過失割合の評価が分かれやすく、示談が難航しがちです。
判断がしにくい場合の対処法
どちらが悪いか判断しにくい場合は、過失の評価自体が分かれやすいため、示談交渉が難航する傾向があります。
そのため、被害者としても一定の範囲で妥協して示談に応じるという選択肢があり得ます。
一方で、提示された過失割合が不当だと感じる場合には、中立的な判断を求めるためにADR(紛争解決手続)や訴訟を利用する方法も考えられます。
いずれにしても、事故類型ごとの相場や判断基準を踏まえる必要があるため、交通事故に精通した弁護士に相談し、交渉方針や適切な手続を検討することが重要です。
④駐車場内での事故
過失割合が揉めやすい四つ目のパターンは、駐車場内で発生した事故です。
駐車場内の事故については、参照できるデータや判例が相対的に少なく、典型的な過失割合が明確に示されていない点が問題となります。
判例タイムズや赤い本に掲載されている過失割合は主に道路交通を前提としており、駐車区画内の低速走行や後退、歩行者の動きなど特徴的な事故態様には十分対応していません。
そのため、基準に当てはめにくく、双方の主張が対立しやすいのが実情です。
このように駐車場事故は過失割合で特に揉めやすいため注意が必要です。
駐車場内の事故の対処法
駐車場内での事故は、参照できる基準が少なく過失割合の判断が難しいため、双方の主張がぶつかりやすい類型です。そのため、被害者としても、一定の範囲で妥協しつつ示談を検討するという選択肢があります。
一方で、提示された過失割合が明らかに不合理と感じられる場合には、中立的な判断を求めてADRや訴訟を利用する方法も有効です。
駐車場特有の状況(後退、徐行義務、死角など)がどのように評価されるかを踏まえる必要があるため、交通事故に詳しい弁護士へ早めに相談し、適切な交渉方針や手続の選択を検討することが重要です。
交通事故の過失割合で揉めた場合はどうする?
交通事故の過失割合でもめた場合には、いくつかの対処法があります。
まず、①相手方保険会社に対し、提示された過失割合の根拠を明示するよう求めることが基本となります。
次に、②交通事故紛争処理センターなどのADR機関を利用して、中立的な第三者に判断を求める方法があります。
さらに、③調停や裁判で法的に解決を図ることも可能です。
また、迅速な解決を優先する場合には、④双方が一定の負担を認め合う「片側賠償」などの妥協案を提案することも考えられます。
そして最も重要なのは、⑤交通事故に精通した弁護士に相談し、適切な戦略や証拠収集の方針を確認することです。
保険会社に対して根拠を提示するよう求める
交通事故の過失割合に納得できない場合は、まず相手方保険会社に「提示した過失割合の理由と根拠」を書面で示すよう求めることが有効です。
保険会社は支払額を抑えるため加害者側に有利な割合を提示することがあるため、安易に同意すべきではありません。必要に応じて、警察の捜査記録や映像などの証拠も確認し、相手方の主張内容と根拠を正確に把握することが重要です。
ADRを利用する
交通事故の過失割合で交渉が難航した場合、ADR(裁判外紛争解決手続)の利用が有効です。代表的な機関として、交通事故紛争処理センターと日弁連交通事故相談センターがあり、いずれも無料で利用できます。
ADRでは中立的立場から過去事例を踏まえたあっ旋案や裁定案が示されますが、必ずしも被害者に有利とは限らず、主張が大きく対立していると和解が難しいこともあるため注意が必要です。
調停や裁判で解決する
過失割合で合意に至らない場合、調停や裁判での解決が選択肢となります。
調停は、裁判所で調停委員が双方の間に入り、話し合いによる解決を促す手続きで、感情的な対立を和らげながら協議を進められます。
一方、裁判は当事者が提出する主張や証拠に基づき、最終的に裁判所が判断を下す方法です。交渉や調停で折り合いがつかなければ裁判を検討することになります。
いずれも適切な主張と証拠が重要であり、専門的判断が必要なため、交通事故に詳しい弁護士への相談が望まれます。
妥協案として片側賠償を提案する
過失割合で交渉が平行線となった場合、折衷案として「片側賠償」を提案する方法があります。片側賠償とは、双方に過失があるケースでも、一方のみが損害賠償責任を負う形で示談する方法です。
たとえば、加害者側が「9対1」、被害者側が「10対0」と主張して対立している場合、双方が譲らなければ「9対0」で合意し、被害者は1割を支払わず、加害者は9割のみ支払う形で示談することが可能です。
この方法を用いれば、完全な折り合いがつかない場合でも、双方が一定程度譲歩した形で解決を図ることができます。
弁護士に相談・依頼する
過失割合で相手方保険会社と対立した場合は、弁護士への相談・依頼が有効です。
弁護士に依頼すれば、煩雑な交渉を任せられ、被害者は仕事や生活への影響を最小限にできます。また、弁護士は過去の裁判例や見逃されがちな修正要素を踏まえて主張・立証するため、過失割合が有利に修正される可能性もあります。
さらに、「弁護士基準」による損害賠償金の請求が可能となるため、賠償額が増額される見込みも高まります。過失割合で揉めている場合は、交通事故に精通した弁護士へ早めに相談することをおすすめします。
交通事故の過失割合について揉めた場合は、お早めに弁護士にご相談ください
以上のとおり、過失割合は最終的に受け取る賠償金額に直結するため、相手方保険会社の提示に安易に応じるべきではありません。
なぜ過失割合でもめやすいのか、また対処法についてもご理解いただけたかと思います。
過失割合の主張・立証には、事故状況の分析や専門的な判断が不可欠であり、被害者ご自身で十分に対応するのは難しい場合が多くあります。
そのため、交通事故案件を多数扱う経験豊富な弁護士に依頼し、より納得のいく解決を目指すことをおすすめします。過失割合でお困りの方は、ぜひ弁護士法人ALGへお気軽にご相談ください。
別居中の配偶者から生活費(婚姻費用)を請求された際、相手の勝手な別居や離婚を前提としていることなどを理由に、支払いを拒否したいと考える方は少なくありません。
しかし、法律上、婚姻費用の分担は夫婦の義務であり、自己判断で拒否することは大きなリスクを伴います。
この記事では、婚姻費用の支払いを拒否できる例外的なケースや拒否し続けた場合のリスクなど適正な額に減額するための方法について解説します。
婚姻費用の支払いは拒否できない
原則として、婚姻費用の支払いを完全に拒否することはできません。
民法760条は「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」と定めています。
この「婚姻から生ずる費用」がいわゆる婚姻費用であり、夫婦が別居していても、法律上の夫婦である限り、収入の多い側(義務者)は少ない側(権利者)に対して、自分と同程度の生活水準を保持させる義務(生活保持義務)を負います。
そのため、単に「相手の顔を見たくない」「離婚するつもりだ」といった理由だけで支払いを拒否することは、法律上認められません。
拒否できる可能性があるケース
原則として支払いは必須ですが、例外的に支払いを拒否、あるいは大幅に減額できるケースがあります。
それは、婚姻費用を請求する側(権利者)に、婚姻関係破綻の主な原因がある場合です。
具体的には、権利者自身が不倫(いわゆる不貞行為)を行って家を出て行った場合などが該当します。
このような場合、自身の不始末で別居しておきながら生活費を請求することは信義則に反するとして、請求が認められない、または、子どもの養育費相当分にまで減額されることがあります。
相手が勝手に別居した場合は?
相手が勝手に家を出て行ったのだから、生活費を渡す必要はないと考える方も多いですが、単に無断で別居したというだけでは、支払いを拒否する正当な理由にはならないことが一般的です。
相手が同居しないことを理由に婚姻費用の支払を拒否できるのは、社会通念上、極めて例外的な場合に限られます。
単に夫婦喧嘩の末に家を出た、実家に帰ってしまったという程度では、婚姻費用分担義務は消滅しないと判断されるのが通常です。
婚姻費用の支払いを拒否し続けるリスク
話し合いがまとまらないからといって婚姻費用の支払いを勝手に止めてしまうと、以下のようなリスクが生じます。
婚姻費用の支払い義務は、請求した時から発生すると考えられています。
支払いを拒否して調停や審判が長引いたとしても、最終的には申立時まで遡って未払い分を一括で支払うよう命じられる可能性が高く、その場合には数百万円単位の多額の債務を負うことになりかねません。
調停や審判で金額が確定したにもかかわらず支払わない場合、相手方は裁判所に強制執行を申し立てることができます。
生活費を渡さないということは、離婚訴訟において悪意の遺棄や婚姻を継続し難い重大な事由として、有責性の判断で不利に働く可能性があります。
また、親権争いにおいても、子の養育環境を顧みない親としてマイナス評価を受けるおそれがあります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
婚姻費用の支払いを減額することはできる?
一度決まった婚姻費用であっても、その後に事情変更があった場合には、減額を求めることができます。
事情変更とは、合意や審判の当時には予測できなかった事情の変化を指します。
具体的には以下のようなケースで減額が認められる可能性があります。
- リストラによる失業や病気による休職、倒産など、自己の責任によらない理由で収入が激減した場合
- 専業主婦だった妻が就職して収入を得るようになった場合
- 義務者が再婚して扶養すべき家族が増えた場合や、子どもが就職して自立した場合
などが挙げられます。
弁護士の介入により婚姻費用を減額できた事例
婚姻費用の減額が認められた事例を紹介します。
妻が子を連れて別居し、夫名義の自宅に住み続けているケースで、夫は別居後も住宅ローンを支払い続けていました。この場合、夫は自分の住居費と妻子の住居費(住宅ローン)を二重に負担している状態となります。
妻は夫の負担によって住居費の支払いを免れていると主張し、標準的な算定表の金額から、妻の収入に応じた標準的な住居関係費を控除するよう求めました。
裁判所はこの主張を認め、夫が支払うべき婚姻費用から一定額(妻の住居費相当額)を差し引く決定をしました。
このように、単に算定表の数字を当てはめるだけでなく、個別の事情(住宅ローンの負担など)を主張することで、減額が認められるケースがあります。
婚姻費用の拒否に関するQ&A
離婚を前提として別居しているため婚姻費用の支払いを拒否したいです。可能ですか?
原則としてできません。
離婚を前提としていても、離婚届が受理され戸籍上の夫婦関係が解消されるまでは、婚姻費用を支払う必要があります。
離婚協議中だから払わないという対応は、未払い分を累積させるだけであり、得策ではありません。
子供と会わせてもらえないことを理由に婚姻費用の支払いを拒否できますか?
原則としてできません。
面会交流と婚姻費用の支払いは、法律上別の問題として扱われます。会わせてくれないなら金は払わないという主張は認められません。
面会交流が実現しないことへの不満がある場合は、婚姻費用の支払いを止めるのではなく、別途面会交流調停を申し立てるなどして、適切な交流のルールを決める必要があります。
生活が苦しいため婚姻費用の支払いが難しいです。拒否できますか?
完全に拒否することは難しいですが、減額の余地はあります。
生活が苦しい場合でも、自己と同程度の生活を相手にも保障する必要があるため、支払い義務自体は減免されにくい傾向にあります。
しかし、失業や病気などで収入が著しく減少し、算定表の基準通りに支払うと自身の最低生活費すら維持できないような場合には、その状況を説明することで、支払い額の減額が認められる可能性があります。
算定表で決めた婚姻費用を支払っています。子供の進学費として追加で請求されているのですが、拒否できますか?
義務者の承諾がない私立学校の学費などは、拒否できる可能性があります。
家庭裁判所が使用している算定表の金額には、公立学校の教育費相当額があらかじめ含まれています。したがって、公立学校の費用であれば追加で支払う必要はありません。
私立学校の学費や塾代などの高額な教育費については、義務者がその進学や通塾を承諾していた場合や、義務者の収入・学歴等から見て不合理でない場合を除き、原則として加算は認められません。
そのため、承諾していない高額な費用については、支払いを拒否できる可能性があります。
なお、ここでいう承諾とは、明らかに承認しているような場合だけではなく、黙示的な承認(黙認)を含みますのでご注意ください。
婚姻費用の支払いを拒否したいと思ったら弁護士にご相談ください
婚姻費用の支払いは、原則として拒否できませんが、相手方に不貞行為などの有責性がある場合や、ご自身の経済状況が急変した場合など、例外的に減額や免除が認められるケースがあります。
しかし、自己判断で支払いを止めてしまうと、給与の差し押さえなどの強制執行を受けたり、離婚条件で不利な立場に立たされたりするリスクが高まります。
相手の請求額に納得がいかない、住宅ローンを払っているのに二重払いはきつい、相手が不倫をして出て行ったといった事情がある場合は、適正な金額を算定し直すことで、負担を軽減できる可能性があります。
交渉や調停において、法的な根拠に基づいた適正な主張を行うためにも、まずは弁護士にご相談ください。
突然ですが、あなたは「遺留分」という言葉を聞いたことがありますか?
故人(被相続人)が遺言書を作成していても、一定の法定相続人には最低限受け取れる財産の割合が民法で保障されています。これが「遺留分」です。
しかし、この遺留分は、相続人自身の意思で「放棄」することが可能です。
本記事では、この「遺留分放棄」について、それがどのような制度なのか、生前(相続開始前)と相続開始後で手続きがどのように異なるのか、さらには放棄のメリット・デメリット、「相続放棄」との違いなど、法律実務を踏まえて弁護士が分かりやすく解説します。
ご自身やご家族の相続対策、事業承継などを検討されている方は、ぜひこの記事を最後までお読みいただき、検討の一要素としてください。
「遺留分」は放棄できるのか?
結論から申し上げますと、遺留分は放棄することができます。
ただし、遺留分を放棄する手続きは、「相続開始前(生前)」と「相続開始後(死後)」とで大きく異なります。
特に生前に放棄をする場合は、家庭裁判所の許可が必要となり、非常に厳格な要件が定められています(民法1049条1項)。
遺留分は、相続人の生活保障や相続財産の公平な分配という観点から、民法が強く保護している権利です。
そのため、その権利を失う「放棄」については、本人の自由な意思と合理性が特に重視されます。
まずは、この遺留分と遺留分放棄の制度について、基本的な点から解説していきましょう。
そもそも遺留分とは
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子、直系尊属)のために、民法上保障されている最低限の遺産の取り分のことです(民法1042条1項参照)。
被相続人は、生前に自らの財産をどのように処分するか、あるいは遺言書を作成して誰にどれだけ相続させるかを自由に決定できます(遺言自由の原則)。
しかし、もし遺言書によって特定の相続人にすべての財産が集中したり、特定の第三者に多額の財産が遺贈されたりした場合、他の近しい相続人の生活が脅かされたり、公平さを欠いたりする事態が生じかねません。
このような事態を防ぎ、相続人の生活保障や相続財産の最低限の公平性を確保するために設けられたのが遺留分制度です。
遺留分が侵害された相続人は、財産を受け取った人に対して、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます。
この権利を遺留分侵害額請求権といいます。
ここでのポイントは、遺留分の権利を持つ人(遺留分権利者)は、配偶者、子(代襲相続人を含む)、直系尊属であり、兄弟姉妹は法定相続人であっても遺留分はないところです。
遺留分放棄とは
遺留分放棄とは、遺留分権利者である相続人が、将来的にまたは現に発生した遺留分侵害額請求権を行使する権利を自らの意思で手放すことです。
つまり、遺留分権利者が遺留分放棄をすると、他の相続人や受遺者が遺言書通りに財産を取得したとしても、その相続人は「遺留分が侵害された」として金銭を請求する権利を失います。
遺留分放棄は、被相続人の生前に行う場合と、相続開始後に行う場合とで、その法的性質と手続きが異なります。
生前(相続開始前)の遺留分放棄:
まだ発生していない将来の遺留分侵害額請求権をあらかじめ放棄することであり、家庭裁判所の許可が必要です。
相続開始後(死後)の遺留分放棄:
既に発生している遺留分侵害額請求権を、権利行使しない旨を表明することであり、特定の厳格な手続きは不要です。
遺留分放棄は、特に事業承継の場面や、特定の相続人に特定の財産を集中させたいという被相続人の強い意向がある場合に、相続トラブルを未然に防ぐために検討されることが多い手続きです。
遺留分放棄のメリット・デメリット
遺留分放棄は、被相続人側と遺留分権利者側の双方にメリット・デメリットが生じます。
特に被相続人の意思を尊重し、円滑な相続を実現するうえで大きな効果がありますが、一方で権利者側には注意すべき点もあります。
メリット
遺留分放棄の最も大きなメリットは、「被相続人の意思を確実に実現し、相続争いを未然に防げること」にあります。
- 事業承継の円滑化
中小企業の経営者などが、後継者である特定の子に自社の株式や事業用資産を集中させたい場合、他の相続人に遺留分を放棄してもらうことで、後継者の事業基盤が揺るがされるリスクを排除できます。
これにより、遺留分侵害額請求による会社の不安定化を防ぎ、円滑な事業承継が可能となります。 - 特定の財産保全
自宅などの特定の不動産を特定の相続人に確実に残したい、あるいは、長年の介護に対する報償として特定の相続人に多くの財産を譲りたいといった被相続人の意向を、遺留分侵害額請求によって覆されることなく実現できます。 - 相続開始後の紛争防止
遺留分侵害額請求権は、相続開始後に行使されると、他の相続人との間で感情的な対立を生み、長期的な紛争に発展しやすい傾向があります。
生前に放棄が完了していれば、この紛争の火種を事前に消すことができます。
デメリット
遺留分放棄は、放棄した相続人自身にとっては大きなデメリットを伴う可能性があります。
- 権利の喪失
最も大きなデメリットは、被相続人の財産に対して最低限保障されていた取り分(遺留分)を一切請求できなくなることです。
被相続人が、遺言書で放棄者に財産を全く残さない内容を書いても、放棄者はそれに対して何も主張できなくなります。 - 生前放棄の厳格な要件
生前に遺留分を放棄するためには、家庭裁判所の許可が必要です。
この許可を得るためには、「本人の自由な意思」「合理的な理由」「代償措置の有無」といった厳格な要件を満たさなければならず、手間と時間がかかります。 - 放棄後の撤回は原則不可能
一度、家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄した場合、原則としてその放棄を撤回することはできません。
後になって「やっぱり放棄しなければよかった」と思っても、基本的に権利を回復することは不可能です。 - 相続人としての地位は維持
遺留分放棄をしても、その人は相続人としての地位を失うわけではありません。
例えば、借金などのマイナスの財産を含めた相続財産全体を放棄したい場合は、遺留分放棄とは別に「相続放棄」の手続きが必要になります。
この点は、次の章で詳しく解説します。
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相続開始前(生前)に遺留分放棄する方法
生前に遺留分を放棄するためには、必ず遺留分権利者本人が家庭裁判所に対して許可の申立てを行い、許可を得る必要があります。
この手続きは、遺留分制度が相続人の生活保障を目的とする強力な権利であるため、本人の意思を尊重しつつ、不当な強制がないかを厳格に審査するためです。
ここで注意するべき点は、生前に親族間で「遺留分はいらない」という念書や覚書を交わしても、家庭裁判所の許可がない限り、その遺留分放棄は法的な効力を持ちません。
遺留分放棄の手続きの流れ
生前の遺留分放棄は、以下の流れで進められます。
- 1 必要書類の準備:申立書、戸籍謄本、被相続人の財産目録(分かる範囲で)、放棄に至る経緯を記載した書面、代償措置に関する資料(ある場合)などを準備します。
- 2 家庭裁判所への申立て:遺留分権利者本人が、被相続人(財産を遺す人)の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、「遺留分放棄の許可の申立て」を行います。
- 3 家庭裁判所による調査(審問):裁判所の調査官や裁判官が、申立人(放棄する人)や被相続人に対して、申立ての経緯、放棄の真意、放棄に至る合理的な理由、代償措置の有無や内容などについて聞き取り調査(審問)を行います。
- 4 許可の審判:家庭裁判所が上記の要件をすべて満たしていると判断した場合、遺留分放棄を許可する旨の審判を下します。
この手続きは、あくまで本人の自由な意思と合理性を審査するものであり、単に「親が望んでいるから」という理由だけでは許可が出ないことが多いことに留意が必要です。
家庭裁判所が遺留分放棄の許可を出す要件
家庭裁判所が遺留分放棄の許可を出すかどうかは、主に以下の3つの要件を総合的に判断して決定されます。
これらの要件は、遺留分権利者の権利を不当に侵害しないための重要なチェック機能となっています。
①本人の自由な意思に基づいているか
遺留分放棄は、遺留分権利者本人の自由な意思に基づいていることが大前提です。
- 強制・欺罔の有無
被相続人や他の相続人から、脅迫や強要、あるいは欺罔によって放棄をさせられたのではないか、精神的に追い込まれてやむを得ず放棄する状況ではないか、といった点が厳しく審査されます。 - 意思能力の確認
放棄する人が、遺留分という権利の内容や、放棄によってどのような効果が生じるかを正しく理解し、判断できる能力(意思能力)を有しているかも確認されます。 - 自由な意思の立証
申立書や審問において、放棄が自発的な選択であることを説得的に説明する必要があります。
②遺留分放棄をする合理的な理由があるか
単に「親の言うことだから」という理由だけでは不十分で、遺留分を放棄することに客観的・合理的な理由がなければなりません。
- 先行して財産を受け取っている
例えば、放棄する相続人が既に被相続人から多額の生前贈与を受けている、あるいは海外留学や起業の資金援助など、特別の利益を受けているといった事情は合理的な理由として認められやすいです。 - 被相続人の事業への協力
被相続人の事業承継を円滑にするために、後継者でない相続人が放棄をすることに合理性が認められるケースもあります。 - 他の相続人との公平
他の相続人の生活状況や介護への貢献度などを総合的に考慮し、放棄することが家族全体の公平に資すると認められる場合も、合理的な理由となり得ます。
③放棄する遺留分と同等の代償があるか
家庭裁判所は、遺留分権利者がその権利を放棄することによって、経済的に不利益を被らないよう、代償措置の有無と相当性を重視します。
- 代償措置の例
放棄の見返りとして、被相続人から金銭を受け取っている、または特定の不動産を譲り受けている、あるいは生命保険金の受取人になっているといった事実がこれに当たります。 - 代償額の相当性
代償措置がある場合、その経済的価値が、放棄する遺留分の価値と比べて著しく不均衡でないかが審査されます。不均衡が大きすぎる場合は、自由な意思に基づく放棄と認められない可能性があります。 - 代償がない場合
代償が全くない場合でも、上記の「合理的な理由」で述べたように、既に多額の生前贈与を受けているなどの特別な事情があれば、許可が下りる可能性はあります。
しかし、代償がない場合は、より厳格な審査が行われることになります。
生前に書いた遺留分放棄の念書は有効か?
前述の通り、被相続人の生前に、遺留分権利者が「遺留分はいらない」という内容の念書や覚書を単独で作成したり、親族間で交わしたりしても、それ自体には法的な遺留分放棄の効力は認められません。
民法上、生前の遺留分放棄の効力発生要件として、家庭裁判所の許可が必須と定められているからです。
したがって、もし念書を作成していたとしても、相続開始後に遺留分を請求されれば、その念書を理由に請求を拒むことはできません。
念書は、裁判所に提出する際の「放棄の意思を示す資料の一つ」として機能し得るに過ぎず、単独で法的効力を持つことはないため注意が必要です。
生前に確実に放棄の効果を得たいのであれば、必ず家庭裁判所へ申立てを行う必要があります。
遺留分放棄を撤回することはできるか?
原則として、家庭裁判所の許可を得て有効に成立した生前の遺留分放棄は、撤回することができません。
遺留分放棄は、被相続人の遺言作成の自由を保障し、円滑な財産承継の基盤を確立するための制度であり、法律関係の安定が極めて重要だからです。
ただし、例外的に以下のようなケースでは、無効または取り消しが認められる可能性があります。
- 詐欺・強迫による放棄
家庭裁判所の許可を得る過程で、他の相続人や被相続人から詐欺や強迫があったことが判明した場合、民法の規定に基づいて放棄の意思表示を取り消すことができます。 - 錯誤による放棄
放棄の内容について、重大な勘違い(錯誤)があった場合、その放棄は無効となる可能性があります。
しかし、これらの主張が認められるためのハードルは非常に高く、裁判で立証していく必要があり、簡単なことではありません。
相続開始後(死後)に遺留分放棄する方法
相続が開始された後(被相続人の死後)の遺留分放棄は、生前の放棄とは全く異なります。
相続開始後においては、遺留分権利者に与えられた権利は「遺留分侵害額請求権」という具体的な金銭債権です。
この金銭債権を行使しないことを表明したり、権利を行使する期限が過ぎたりすることで、結果的に遺留分を放棄したのと同じ状態になります。
相続開始後の遺留分放棄に、家庭裁判所の許可は不要です。
放棄の方法としては、内容証明郵便など書面で、財産を受け取った人(受贈者・受遺者)に対して「遺留分侵害額請求権を行使しない」旨を通知する方法などが一般的です。
これは、相手方に権利不行使の意思を明確に伝えることで、後日の紛争を防ぐためです。
遺留分放棄に期限はあるのか?
相続開始後の遺留分侵害額請求権には、厳格な期限が定められています。
この期限内に権利を行使しなければ、時効により請求権は消滅し、結果的に遺留分を放棄したのと同じ効果となります。
そのため、遺留分放棄自体には、期限はないですが、消滅時効の期間を迎えてしまうと放棄するか否かを選択することができなくなります。
遺留分侵害額請求権の行使期間(消滅時効)は、以下のいずれか早い方です。
- 1「相続の開始を知り、かつ、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時」から1年間
- 2「相続開始の時」から10年間
このうち特に重要なのは1年間の期限です。
1年間の期限は、相続人(遺留分権利者)が「被相続人が亡くなったこと(相続の開始)」と「自分の遺留分が侵害されているという事実」の両方を知った時点からスタートします。
この1年という期間は非常に短いため、遺留分を請求するか放棄するかは、速やかに判断する必要があります。
また、10年間の期限は、仮に遺留分の侵害を知らなかったとしても、相続開始から10年が経過すると、時効により遺留分侵害額請求権は完全に消滅するものです。
遺留分侵害額請求権を行使するのか、あるいは行使せずに放棄するのかを迷っている場合でも、この1年間の期限を徒過しないよう、まずは弁護士に相談し、現状の権利関係を把握することが極めて重要です。
「遺留分放棄」と「相続放棄」の違い
「遺留分放棄」と「相続放棄」は、どちらも「放棄」という言葉が入っていますが、放棄の対象、法的効果が全く異なる別個の制度です。まず、放棄の対象が異なります。
「遺留分放棄」は、これまでの記載のとおり、遺留分侵害額請求権のみを放棄します。
そのため、相続人としての地位は維持されます。
しかしながら、「相続放棄」は相続人としての地位をすべて放棄することになります。
他にも違いはありますが、最も重要な違いは、「相続人としての地位を失うかどうか」です。
「遺留分放棄」は、遺留分侵害額請求権を失うだけなので、相続人の地位として故人(被相続人)の財産を承継することができます。
一方で、「相続放棄」は、初めから相続人ではなかったことになるので、故人(被相続人)の財産の一切を承継しないこととなります。
したがって、被相続人に多額の借金があり、財産を一切受け継ぎたくない場合は、「遺留分放棄」ではなく「相続放棄」の手続きをする必要があるため、混同しないよう注意が必要です。
このように、「遺留分放棄」は、事業承継、特定の財産保全、特定の相続人への集中的な財産承継等を特定の人やモノを保護するために用いられることがほとんどです。
その一方で、「相続放棄」は、個人(被相続人)に多額の借金がある、相続争いに巻き込まれたくない等、相続の舞台から離れることを目的として用いられることがほとんどです。
遺留分放棄すべきかどうかで判断に迷ったら、まずは弁護士にご相談下さい。
遺留分放棄は、一度有効に成立すると原則として撤回できないという、非常に重い法律行為です。
特に生前放棄の場合は、家庭裁判所の許可要件をクリアするための合理的な理由の準備や資料の提出が不可欠となります。
故人(被相続人)側では、特定の相続人に確実に財産を集中させたい、事業承継を円滑に進めたいが、遺留分が紛争の火種にならないかという不安があると思います。
一方で、相続人側では、親から「遺留分を放棄してほしい」と言われたが、放棄することで将来の生活が不安で、代償として提示された額が適正なのか判断できないという不安があると思います。
このように、遺留分放棄は、単なる法律手続きではなく、ご家族の将来の生活や事業の安定に直結する、極めてデリケートな問題を含んでいます。
なので、判断に迷う場合は、一度、相続問題に強い弁護士にご相談ください。
弁護士は、あなたの状況を正確に分析し、遺留分の金額の試算、代償措置の適正性の判断、家庭裁判所への申立に必要な書類作成、裁判所とのやり取りまで、一貫してサポートいたします。
会社の社長という立場にある者が、その地位を利用して会社の資金を私的に流用したり、不当に財産上の損害を与えたりする行為は、業務上横領罪や特別背任罪といった重大な犯罪に該当する可能性があります。
これらの犯罪が成立した場合、社長は刑事上の責任を負うだけでなく、会社に対する民事上の損害賠償責任、さらには解任請求を受ける可能性もあります。
本記事では、会社社長による横領はどのような犯罪が成立し、どのような責任を負うことになるのか、具体的に解説します。
会社社長が会社のお金を横領すると業務上横領罪が成立する可能性がある
会社社長が会社の金銭を私的に費消するなど、自己の利益のために利用する行為は、業務上横領罪に問われる可能性があります。
社長は、会社の財産管理を業務として担っており、この職務上の立場を利用して会社の財産を自分のものにしようとすれば、業務上横領罪の構成要件に該当します。
会社の子会社の資金を着服する行為も同様に、業務上横領罪が成立する可能性があります。
業務上横領罪とは
業務上横領罪は、刑法第253条に規定されており、「業務上自己の占有する他人の物を横領した者」に成立する犯罪です。
法定刑は10年以下の懲役と、通常の横領罪(刑法第252条)よりも重く設定されています。
この犯罪は、会社から信任されて財産を任されているにもかかわらず、その信頼を裏切る行為を特に重く罰するものです。
業務上横領罪の概要を簡単に述べましたが、より詳細な解説については、こちらの記事をご参照ください。
業務上横領罪について詳しく見る中小企業では社長による横領事件は多い
一般的に、中小企業においては、社長が会社の資金を自由に扱う権限を強く持っている場合が多く、他の役員や従業員、株主によるチェック機能が十分に働いていないことがあります。
特に、社長が経理業務も兼任しているような小規模な会社では、監視の目が緩みがちであるため、社長が私的な目的で会社の財産を流用(着服)する事件が発生しやすい傾向があります。
社長による横領事件の例
社長による横領事件の事例としては、以下のような手口が考えられます。
- ①取引の仮装による着服:
社長が、実際には存在しない取引先との間で架空の取引を捏造し、その代金名目で会社の資金を経費として計上し、最終的に自らの口座に送金する手口。 - ②子会社を利用した資金流用:
社長が、支配下にある子会社との間の送金や融資を装い、実態のない名目で会社から資金を流出させ、私的な借金の返済などに充てる手口。 - ③不透明な経費の計上:
社長自身の飲食費や旅行費、趣味の物品購入費など、個人的な支出を業務上の経費であると偽って精算させ、会社のお金を着服する手口。
これらの手口で会社の財産を不法に領得した場合、社長には業務上横領罪が成立します。
会社社長の地位を利用して横領行為をすることは刑の重さに影響するの?
会社社長という、会社財産の管理における最も重要な地位を利用して横領行為に及ぶことは、裁判になった際に刑の重さに影響します。
業務上横領罪は、会社からの信任に背いた行為であるため、その責任は元々重いものですが、社長という最高責任者の立場が悪用されたことは、悪質性が高いと判断され、より重い刑罰が科される傾向があります。
特別背任罪と業務上横領罪の違い
社長による不当な財産処分行為は、業務上横領罪と特別背任罪の2つの犯罪が問題となる可能性がありますが、その成立要件には明確な違いがあります。
業務上横領罪は、社長が自己の占有下にある会社の財産を着服し、自分のものにする(不法領得の意思)行為であるのに対し、特別背任罪は、自己または第三者の利益を図る目的、あるいは会社に損害を与える目的で、任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を与えることで成立します。
例えば、会社の資金を直接着服すれば横領罪、会社の利益にならない高額な不動産を第三者から購入させ、会社に損失を与えれば特別背任罪が問題となります。
特別背任罪とは
特別背任罪は、会社法第960条等に規定されている犯罪です。これは、会社の取締役などの役員が、その任務に背き、会社に財産上の損害を与える行為をした場合に成立します。
会社法第960条(特別背任)
「発起人、取締役、執行役、監査役若しくは会社法第59条第1項の清算人又は支配人その他の会社を代表する者(以下略)が、自己若しくは第三者の利益を図り、又は会社に損害を加える目的をもって、その任務に背く行為をし、当該会社に財産上の損害を加えたときは、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」
この特別背任罪は、自己のために着服することを目的としている「不法領得の意思」までは必要とせず、子会社を利用した不当な利益供与や、会社に不利益な取引の締結など、任務違背行為によって会社に損害を与えた場合に成立する点が、業務上横領罪との大きな違いです。
横領を行った社長の責任
横領を行った社長は、その行為に対して、刑事上の責任、民事上の責任を負うことになり、さらに会社に損害を与えたことにより、解任請求の可能性があります。
刑事上の責任
社長が横領を行った場合、その行為は業務上横領罪(刑法第253条)または特別背任罪(会社法第960条等)という犯罪に該当し、刑事上の責任を問われます。
これらの犯罪が成立すると、社長は10年以下の懲役に処せられる可能性があり、特別背任罪の場合は1000万円以下の罰金が併科される可能性もあります。
社長による横領は悪質性が高いと判断されやすいため、起訴された場合には実刑判決となるリスクも高まります。
民事上の責任
社長が横領行為により会社に損害を与えた場合、会社に対して民事上の責任を負います。
これは、民法上の不法行為責任(民法第709条)または会社法上の取締役の任務懈怠による損害賠償責任(会社法第423条第1項)に基づき、会社が被った損害額を賠償しなければならないというものです。
具体的には、横領した金銭の全額(着服した金額)並びに、その行為によって会社が被った間接的な損害(例:調査費用、信用毀損による逸失利益など)についても賠償を求められる可能性があります。
会社に損害を与えたことにより解任請求の可能性がある
社長は会社との間で雇用契約を結んでいるわけではないため、「解雇」されることはありませんが、取締役という地位にあります。
しかし、社長が横領行為によって会社に対して重大な損害を与えた場合や、法令に違反した責任を負うことになった場合、会社法に基づき、株主総会において解任請求を受ける可能性があります。
具体的には、以下のいずれかの手続きにより、取締役の地位を失うことになります。
- ①株主総会の特別決議による解任:
会社法第339条に基づき、株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)によって取締役を解任することができます。
横領行為は、取締役としての適格性を著しく欠く行為であり、解任請求の正当な理由となります。 - ②訴訟による解任の請求:
会社法第854条に基づき、総株主の議決権の100分の3以上を有する株主は、取締役がその職務に関し不正の行為をし、又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があるにもかかわらず、当該株主総会においてその解任の議案が否決された場合には、株主総会の日から30日以内に、訴えをもって解任の請求をすることができます。
横領した会社のお金を返済さえすれば逮捕されない?
業務上横領罪は、被害者である会社からの刑事告訴を受けて事件化するケースが多い犯罪です。
したがって、社長が横領した会社のお金を全額弁済するなどして会社との間で示談が成立し、会社が刑事告訴を行わない、あるいは既に提出した刑事告訴を取り下げるという合意が得られれば、警察の捜査が開始されない、または事件化しても不起訴処分となる可能性があります。
着服したお金を返済し、被害弁償を尽くすことが、逮捕を回避し、または刑を軽くするための最も重要な要素となります。
示談交渉は弁護士にお任せください
社長という会社のトップの地位を利用して横領してしまった責任は重く、被害者である会社側も厳しい態度で臨むことが予想されます。
このような状況の中、当事者同士で示談交渉を進めることは極めて困難であり、冷静な話し合いが実現しない可能性が高いです。
そのため、社長だからこそ、速やかに弁護士に相談し、示談交渉のサポートを依頼することが不可欠です。
弁護士が代理人として交渉することで、客観的な立場から示談条件の調整を行い、会社側の感情的な反発を抑えつつ、穏便な解決を目指すことができます。
事件化した際も減刑にむけてサポートします
業務上横領罪で警察の捜査が入り、事件化してしまった場合でも、弁護士は減刑にむけた最大限のサポートを行います。
具体的には、検察官や裁判所に対して、示談の成立や被害金額の全額弁済など、被疑者・被告人にとって有利な情状事実を主張・立証します。
反省の意思、再発防止策の策定、家族などの監督環境の整備といった要素も減刑の重要な判断材料となるため、これらを客観的に示すための証拠収集及び主張活動を行います。
身柄が拘束されている場合は解放に向けて活動します
業務上横領罪は重い犯罪であり、逮捕された場合、身柄が拘束される期間が長くなる可能性があります。
社長が逮捕され、身柄が拘束されてしまうと、会社の業務が滞り、事業にも深刻な影響を与えかねません。
弁護士は、逮捕後の警察や検察による取調べへの対応を助言するとともに、勾留阻止のための意見書の提出や、勾留が決定された場合の準抗告手続きなどにより、早期の身柄解放に向けて活動します。
横領したお金を返済する際に分割払いは可能なのか
横領した金額が大きく、一括での返済は難しいが、返済の意思はあるというケースは少なくありません。
このような場合、会社側との示談交渉において、分割払いを認めてもらえる可能性もあります。
会社側としても、分割払いであっても確実に返済を受ける方が、刑事告訴により事件化させ、一切の返済を受けられない可能性があるよりも現実的だと判断する場合があります。
この分割払いの交渉においても、会社側の同意を得るためには、返済計画の確実性を示すなど、専門的な知見と交渉力が必要となるため、弁護士のサポートが不可欠です。
横領による返済については、こちらの記事でより詳しく解説しています。
横領による返済について詳しく見る会社のお金を横領してしまったらお早めに弁護士にご相談ください
会社の社長による横領行為は、業務上横領罪や特別背任罪という重い犯罪に該当する可能性があり、刑事、民事、さらには解任請求といった複数の問題が同時に発生します。
特に、社長という立場を利用した行為は悪質性が高いと判断されやすく、ご自身だけで解決を図ることは極めて困難です。
逮捕を回避し、会社との示談を成立させ、減刑を目指すためには、一刻も早く弁護士に相談し、適切な法的手続きと示談交渉のサポートを受けることが重要です。
横領が発覚する前、あるいは着服が始まった早い段階でご相談いただくことで、とり得る選択肢を増やし、最も円満な解決を目指すことが可能です。
まずはお気軽に当事務所の弁護士にご相談ください。
刑事告訴の手続きや、横領で告訴された場合の基本的な対応を分かりやすく解説します。
横領事件は被害の立証や事情聴取の結果によって捜査が進むため、告訴の方法や警察対応、逮捕後の流れを理解しておくことが重要です。
本記事では、横領罪の基礎、告訴と被害届の違い、実務上の注意点まで具体的に説明します。
横領罪とは
横領罪は、他人の物を預かった立場にある者が、その物を自己のものとして処分する行為を処罰する犯罪です。
会社の経理担当者が現金を着服するケースや、預かった物品を無断で売却するケースなどが典型例です。
横領は被害者が法人であっても成立し、犯意の有無や行為の継続性が争点になることがあります。
また、罪名は異なるものの、横領罪は遺失物や漂流物等、他者の占有から離れた物に対しても成立します。
詳しい要件や量刑、類型ごとの違いについてはこちらで詳しく解説しています。
横領罪について詳しく見る横領罪に時効はあるの?
刑事事件の時効は、各犯罪の法定刑の重さに応じて定められています(刑事訴訟法第250条2項各号)。
「単純横領罪」の時効は5年、「業務上横領罪」の時効は7年、「遺失物等横領罪」の時効は3年です。
横領は告訴されなければ逮捕されない?
横領罪は、親告罪ではないため、被害者の告訴が無ければ捜査を開始できないという犯罪ではありません(親族間の特例を除く。)。
もっとも、横領罪は知人間で発生することが大半を占める犯罪であることから、その多くは被害者からの被害申告がきっかけで事件化することがほとんどです。
そのため、被害者が被害申告をしなければ、刑事事件として捜査され、逮捕などされることは少ないのが実情です。したがって被害者の対応や証拠保全が重要です。
刑事告訴とは
刑事告訴は、被害者などが刑事事件として処罰を求める意思を公的に表明する手続きで、通常は告訴状を検察庁や警察署に提出して行います。
告訴が受理されると、捜査機関は事実関係の調査を開始することが一般的です。
ただし告訴が必ずしも起訴に直結するわけではなく、証拠不十分や違法性阻却が認められれば不起訴となることもあります。
告訴状の作成や証拠添付は手続上の有効性に影響するため、弁護士に相談して準備することが望ましいです。
親告罪とは
親告罪とは、被害者の告訴がなければ公訴(検察による起訴)できない犯罪を指します。代表例には名誉毀損罪や侮辱罪などがあり、告訴がない限り刑事手続きが進行しません。
前述のとおり、横領罪は親告罪ではありませんが、親族間での特殊事情が関与する場合には取り扱いが変わることがあるため注意が必要です。
告訴と被害届のちがい
告訴と被害届は似て非なる手続です。被害届は被害事実を警察に知らせるための通報であり、捜査の端緒となりますが、被害者の処罰意思の有無にかかわらず受理され得ます。
一方、告訴は処罰を求める意思表示であり、告訴が提出されれば捜査機関はその意思を重視して捜査を進めます。
被害届のみで捜査が開始されることもありますが、告訴の有無は捜査の方向性や検察の判断に影響を与える可能性があります。
刑事告訴するのにリミットはあるの?告訴期間とは
告訴期間とは、被害者が告訴できる期間のことで、親告罪では被害発覚から一定期間内に告訴しなければならない規定があります。
非親告罪では告訴期間の制約は問題にならないことが多いですが、公訴時効(検察が起訴できる期間)は別途適用され、時効を超えると刑事責任の追及ができなくなります。具体的な期間は罪名により異なります。
刑事告訴の流れ
一般的な流れは、告訴状の提出→受理→捜査(事情聴取、証拠収集)→逮捕→起訴です。
告訴状が提出されると警察や検察が受理し、被疑者の聴取や証拠の押収・鑑定を行います。
捜査段階で逮捕が必要と判断されれば身柄を拘束し、勾留や起訴に向けた手続きが進みます。
逮捕後の詳細な手続(勾留、起訴・不起訴の分岐など)についてはこちらで詳しく解説しています。
逮捕された時の流れについて詳しく見る刑事告訴は取り下げてもらうことは可能なの?
刑事告訴は、被害者が捜査機関に対して「犯罪を処罰してほしい」と意思表示する手続きですが、提出後でも取り下げることは可能です。
ただし、告訴を取り下げたからといって事件そのものが自動的に終了するわけではありません。
捜査機関は告訴とは独立して捜査を続行し、証拠の内容に基づき逮捕や起訴を判断します。
告訴取り下げは、あくまで「処罰を求めない」という意思表示に過ぎません。
ただ、告訴取り下げがあると検察官が量刑判断や起訴不起訴を判断する際に考慮されることが多く、実務的には不起訴処分や早期解決につながることがあります。
横領の刑事告訴を取り下げてもらうには
横領の刑事告訴を取り下げてもらうためには、被害者との示談成立が最も重要なポイントです。
横領で争われる中心は「被害回復」ですので、被害額全額の弁済、または支払い計画を説明し誠実に交渉する姿勢が求められます。
ただし、横領罪は原則として非親告罪(告訴がなくても捜査や逮捕が可能)であるため、告訴が取り下げられても捜査が継続され、逮捕される可能性は残ります。
とはいえ、示談成立や告訴取り下げは、検察官に「被害者が処罰感情を持っていない」という事情を示す有力な材料であり、不起訴処分や執行猶予の獲得につながる可能性があります。
示談交渉は専門的な対応が必要なため、早期に弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士による横領の示談交渉のメリット
横領事件では、示談交渉を誤ると被害者の感情を刺激し、刑事手続きが厳しく進むリスクがあります。
弁護士が介入することで、感情的な対立を避けながら、適切な条件で示談を進めることができます。
また、弁護士は捜査機関との対応方法にも精通しており、逮捕回避や不起訴の可能性を高める資料の提出など、刑事弁護を総合的に行うことができます。
示談や損害賠償の相場は
横領事件における示談金の相場は、被害額の全額に加え、迷惑料(慰謝料)を加算した金額が一般的です。
迷惑料は事件の性質や被害者の処罰感情によって増減しますが、被害者が法人の場合でも迷惑料が請求されるケースは多く見られます。
示談成立は検察官の処分判断に大きく影響するため、無理のない弁済計画と誠意ある対応が重要です。
告訴を取り下げたあと再告訴されることはあるの?
親告罪の場合、いったん告訴を取り下げると再度告訴することができません(刑事訴訟法237条2項)。
一方、横領罪のように非親告罪の場合は、告訴取り下げ後に再度告訴することを禁止する規定はありません。そのため、法的には再告訴は可能です。
ただし、実務では取り下げ後の再告訴は受理されにくく、捜査機関が再度動くためには新しい証拠などの事情が必要になります。
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内縁関係、いわゆる「事実婚」の状態であっても、法律上の婚姻関係に準ずるものとして、一定の法的保護が与えられています。
そのため、内縁関係が不当に破棄された場合や、内縁の配偶者に不貞行為があった場合など、特定の状況下では慰謝料を請求することが可能です。
しかし、婚姻届を提出している法律婚とは異なり、まず「内縁関係にあったこと」を証明する必要があるなど、慰謝料請求のハードルが高い側面もあります。
本記事では、内縁関係における慰謝料請求に焦点を当て、請求が認められるケースと認められないケース、慰謝料の相場、請求に必要な条件や具体的な方法について、弁護士が詳しく解説します。
内縁関係とは
内縁関係とは、一般に「お互いに婚姻の意思を持ち、夫婦としての共同生活の実態があるものの、婚姻届を提出していないために法律上の夫婦とは認められない関係」を指します。
当事者間に「婚姻の意思」があり、「夫婦共同生活」の実態が伴っている点が重要です。
近年では、婚姻届の提出という形式にこだわらない結婚の形として「事実婚」と呼ばれることも多く、両者はほぼ同様の意味で用いられています。
法律婚ではありませんが、判例上「婚姻に準ずる関係(準婚関係)」として、一定の法的保護の対象とされています。
内縁関係と同棲の違い
内縁関係と「同棲」との最も決定的な違いは、「婚姻意思の有無」にあります。
内縁関係が成立するためには、当事者双方が将来的に婚姻届を提出する意思、あるいは夫婦として生涯を共にするという明確な意思を持っていることが必要です。
これに対し、同棲は、単にカップルが生活上の便宜などのために共同生活を送っている状態を指す場合も含まれ、必ずしも婚姻の意思を伴うとは限りません。
したがって、お互いに婚姻意思がなく、家計も別々であるような場合は、単なる同棲に過ぎず、内縁関係とは認められません。
内縁関係で慰謝料請求できるケース
内縁関係は、判例上「婚姻に準ずる関係」として、法律婚に準じた法的保護が与えられています。
そのため、法律婚の夫婦間で慰謝料請求が認められるような、権利を侵害する不法行為があった場合には、内縁関係であっても慰謝料を請求できる可能性があります。
ただし、慰謝料請求の前提として、当事者間に有効な「内縁関係」が成立していたことを証明する必要があります。
不貞行為
内縁関係にある当事者間においても、法律婚の夫婦と同様に、互いに貞操義務を負うものと解されています。
貞操義務とは、配偶者以外の者と性的な関係(肉体関係)を持ってはならないという義務です。
したがって、内縁の配偶者がこの貞操義務に違反して不貞行為を行った場合、それは不法行為に該当し、精神的苦痛を受けたもう一方の配偶者は、不貞行為を行った配偶者に対して慰謝料を請求することができます。
また、不貞行為の相手方に対しても、故意または過失がある場合には、共同不法行為者として慰謝料を請求することが可能です。
正当な理由なく内縁関係を解消・破棄された
内縁関係は「婚姻に準ずる関係」として法的に保護されているため、法律婚における離婚と同様、正当な理由なく一方的に内縁関係を解消・破棄することは不法行為に該当し、慰謝料請求の対象となります。
ここでいう「正当な理由」とは、基本的には民法第770条第1項に定められている法定離婚事由に準ずると考えられています。
具体的には、①相手方の不貞行為、②悪意の遺棄、③3年以上の生死不明、④回復見込みのない強度の精神病、⑤その他婚姻(内縁)を継続し難い重大な事由、がこれにあたります。
したがって、これらの事由に該当しないにもかかわらず、「他に好きな人ができたから」「性格が合わないと感じたから」といった理由で一方的に関係を破棄された場合には、不当破棄として慰謝料を請求できる可能性が高いといえます。
既婚者であることを隠して内縁関係になった
内縁関係を結んだ相手が、実は既婚者であった、いわゆる「重婚的内縁」のケースです。
この場合、相手が既婚者であると知りながら内縁関係を結んだのであれば、その関係は公序良俗に反するものとして原則として法的保護を受けられず、慰謝料請求も認められません。
しかし、相手方が既婚者である事実を意図的に隠しており、こちらがその事実を知らずに内縁関係に入った場合には、貞操権(誰と性的な関係を持つかを自由に決定する権利)を侵害されたとして、相手方に対して不法行為に基づく慰謝料を請求することが認められる可能性があります。
一方的な別居
法律婚の夫婦は、民法上、互いに同居し、協力し、扶助する義務(同居義務、協力義務、扶助義務)を負っています。内縁関係も「婚姻に準ずる関係」である以上、これらと同様の義務を負うものと考えられています。
したがって、内縁の配偶者が、合理的な理由(例:DVからの避難、単身赴任など)がないにもかかわらず、一方的に同居を解消して別居した場合は、同居義務違反に該当する可能性があります。
さらに、生活費を送金しないなどの状況が伴えば、法定離婚事由の一つである「悪意の遺棄」にも該当し得、不法行為として慰謝料請求の対象となる場合があります。
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内縁関係で慰謝料請求できないケース
内縁関係において慰謝料請求が認められないのは、基本的には法律婚において慰謝料請求が認められないケースと同様です。
例えば、相手の不貞行為を理由に慰謝料を請求しようとしても、それを裏付ける客観的な証拠が乏しい場合や、不貞行為が発覚した時点ですでに内縁関係が破綻していたと認められる場合などです。
また、内縁関係特有の事情として、相手が既婚者であると知りながら内縁関係を継続していた「重婚的内縁」の場合、公序良俗違反として原則として法的保護が受けられません。
さらに、そもそも「内縁関係」自体の成立が証明できない場合も、慰謝料請求は困難となります。
内縁関係の慰謝料相場
内縁関係の慰謝料相場は、請求の理由にもよりますが、法律婚の離婚慰謝料とおおむね同等であり、数十万円から300万円程度とされています。
内縁関係も「婚姻に準ずる関係」として法的に保護されるため、不法行為によって生じた精神的苦痛に対する賠償という点では、法律婚と大きな差は設けられていません。
ただし、これはあくまで目安であり、実際の金額は内縁期間の長さ、子供の有無、不法行為の態様や悪質性など、個別の事情によって大きく変動します。
| 請求理由 | 慰謝料相場 |
|---|---|
| 浮気(不貞) | 50万円~300万円 |
| 一方的な関係の破棄 | 数十万円~300万円 |
| 重婚的内縁 | 数十万円~300万円 |
| 一方的な別居 | 数十万円~300万円 |
内縁期間の長さは慰謝料額に影響する?
内縁関係の期間の長さは、慰謝料の金額を算定する上で重要な考慮要素の一つとなります。
一般的に、内縁期間が長ければ長いほど、関係破綻によって受ける精神的苦痛はより大きいと判断される傾向にあります。
例えば、15年間連れ添った内縁の配偶者による不貞行為と、1年間の内縁関係における不貞行為とでは、前者の方が、精神的ダメージが大きいと評価される可能性が高いでしょう。
ただし、慰謝料額は内縁期間だけで決まるわけではなく、不法行為の悪質性、有責性の程度、未成年の子の有無、支払い側の資力など、他の様々な事情も総合的に考慮されて最終的に判断されます。
内縁関係の慰謝料請求に必要な条件
内縁関係において配偶者に慰謝料を請求するためには、大きく分けて二つの条件を証明する必要があります。
第一に、当事者間に「内縁関係が有効に成立していたこと」の証明です。
婚姻届を提出していないため、この点がしばしば争点となります。
第二に、「相手方の不法行為の存在」の証明です。
例えば、不貞行為があったこと、正当な理由なく一方的に関係を破棄されたこと、DVやモラハラがあったことなどを、客観的な証拠に基づいて立証しなければなりません。
これら二つの証明ができて、はじめて慰謝料請求が法的に認められることになります。
内縁関係を証明するには
内縁関係の存在は、慰謝料請求の前提として極めて重要です。
なぜなら、相手方から「内縁関係ではなく、単なる同棲だった」と反論されるケースが少なくないからです。
内縁関係を証明するためには、①婚姻意思の存在と、②夫婦共同生活の実態を、客観的な証拠をもって示す必要があります。
具体的な証拠としては、住民票の続柄欄の記載(「妻(未届)」「夫(未届)」など)、賃貸借契約書(連名契約や同居人としての記載)、健康保険証(被扶養者となっている場合)、長期間の同居の事実、周囲の知人や親族から夫婦として扱われていた事実、結婚式を挙げた証拠(写真や招待状)などが挙げられます。
内縁関係証明について詳しく見る不貞等の証拠を集める方法
内縁の配偶者による不貞行為などの不法行為を理由に慰謝料を請求する場合、その事実を裏付ける客観的な証拠が不可欠です。
証拠収集の方法としては、ご自身で収集する方法と、探偵(興信所)に調査を依頼する方法があります。
主な証拠としては、ラブホテルに出入りする場面の写真や動画、肉体関係があったことを推認させるメールやLINE、SNSのやり取り、ラブホテルや宿泊施設の領収書、クレジットカードの利用明細、交通系ICカードの履歴などが考えられます。
一つの証拠だけでは弱くとも、複数の証拠を組み合わせることで、不貞行為の事実を強固に立証できる場合があります。
内縁の夫・妻に慰謝料請求する方法
内縁の夫または妻に対して慰謝料を請求する具体的な方法としては、まず、当事者間で直接話し合い(交渉)を行うのが一般的です。
ここで慰謝料の金額や支払方法について合意ができれば、その内容を合意書(可能であれば公正証書)として残しておくとよいでしょう。
話し合いで解決しない場合や、相手が交渉に応じない場合は、家庭裁判所に「内縁関係調整調停」を申し立て、調停委員を介して話し合う方法があります。
調停でも合意に至らない場合は、最終的に地方裁判所に慰謝料請求訴訟(裁判)を提起し、裁判所の判決によって解決を図ることになります。
離婚慰謝料を請求する方法について詳しく見る内縁関係の慰謝料請求は弁護士にご相談ください
内縁関係の慰謝料請求は、法律婚のケースと比較して、まず「内縁関係の成立」自体を立証しなければならないという点で、難易度が高いといえます。
また、相手方から関係性を否認されることも多く、法的な主張や証拠収集を適切に行う必要があります。
弁護士にご相談いただければ、内縁関係を証明するためにどのような証拠が有効か、慰謝料請求が認められる可能性はどの程度かについて、法的な見地から具体的なアドバイスが可能です。
相手方との交渉や、調停・裁判といった法的手続きの代理も一任できるため、ご自身の精神的な負担を軽減し、適正な慰謝料の獲得を目指すことができます。
ご自身だけで悩まれず、まずは、弁護士に相談されることをおすすめします。
交通事故に遭い、治療を続けても症状が改善せず、いわゆる「後遺症」が残ってしまった場合、適切な補償を受けるために「後遺障害等級」の認定を受ける必要があります。
特に最も認定件数の多いとされる後遺障害等級14級9号は、「局部に親権症状を残すもの」として認定されることが多く、適切な慰謝料を得るためには、認定条件や相場を正確に理解しておくことが不可欠です。
本記事では、後遺障害14級の慰謝料相場、具体的な症状、そして認定のポイントについて、弁護士の視点から詳しく解説します。
後遺障害等級14級の慰謝料の相場はいくら?
後遺障害等級14級における「後遺障害慰謝料」の相場は、どの算定基準を用いるかによって大きく変動します。慰謝料には主に3つの基準があり、提示される金額が異なります。
具体的には、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判所基準)になります。
被害者が適正な補償、すなわち最も高額な慰謝料(弁護士基準)を得るためには、弁護士による交渉または裁判手続きが必要となるケースがほとんどです。
慰謝料は増額できるのか
結論からいえば、後遺障害慰謝料は増額できる可能性があります。
特に、保険会社が当初提示してくる金額は「任意保険基準」または「自賠責保険基準」をベースとしていることが多く、これは最も高額な「弁護士基準(裁判所基準)」と比べて大幅に低い水準です。
適正な慰謝料額は、後遺障害14級の場合で110万円が目安となります。
この金額を獲得するためには、弁護士に依頼して裁判所が認める基準に基づく交渉を行うか、訴訟を提起することが有効な手段となります。
後遺障害等級14級の症状と認定されるための条件
後遺障害等級14級には、全部で9つの症状が定められています。
そのうち最も件数が多いのが「14級9号:局部に親権症状を残すもの」ですが、その他の症状についても確認しておきましょう。
| 等級 | 後遺障害の症状 |
|---|---|
| 14級1号 | 1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの |
| 14級2号 | 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
| 14級3号 | 1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの |
| 14級4号 | 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
| 14級5号 | 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
| 14級6号 | 1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの |
| 14級7号 | 1手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの |
| 14級8号 | 1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの |
| 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
14級1号:片目のまぶたの一部欠損、またはまつげはげ
後遺障害14級1号は、「1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの」とされています。
具体的な基準としては、「瞼の組織の一部が欠けたり、失われたりした場合」や「まつ毛の生え際に傷が残り、まつげの半分以上を欠損した場合」などが該当します。
視力そのものに影響がない場合でも、美容的な観点や、眼球保護機能のわずかな低下が認められる場合に認定されます。
14級2号:歯3本以上の歯科補綴
後遺障害14級2号は、「3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」と定められています。
交通事故によって3本以上の歯を失ったり、大きく損傷したりした結果、入れ歯、差し歯、ブリッジ、インプラントといった歯科補綴(ほてつ:失われた歯の機能や形態を補う治療)を行った場合に認定対象となります。
認定を受けるためには、事故との因果関係が明確な事、そして補綴治療が完了していることが重要です。
14級3号:聴力が落ちた
後遺障害14級3号は、「1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの」と規定されています。
これは、通常の会話では問題ないものの、小さな声(小声)での聞き取りに支障が出るレベルの聴力低下が一方の耳に生じた場合を指します。
具体的には、平均聴力レベルが30dB以上40dB未満に相当する場合が該当します。
認定には、耳鼻咽喉科での精密な聴力検査の結果が必要となります。
14級4号:上肢の露出面に手のひら大の傷跡
後遺障害14級4号は、「上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」と規定されています。
ここでいう上肢の露出面とは、上腕から前腕にかけての部分を指し、傷跡(醜状痕)の大きさが「てのひらの大きさ」以上であることが条件となります。
手のひらの大きさとは、原則として被害者本人の手のひら(指を除く)の面積に相当します。
この等級は、機能的な障害ではなく、外見上の障害(醜状障害)に対するものです。
14級5号:下半身の露出面に手のひら大の傷跡
後遺障害14級5号は、「下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」と規定されています。
下肢の露出面とは、膝から下の部分などを指し、傷跡(醜状痕)の大きさが「てのひらの大きさ」以上であることが認定の条件です。
上肢と同様に、手のひらの大きさは被害者本人の手のひら(指を除く)の面積が目安となります。
これも機能的な障害ではなく、外見上の醜状障害に対する認定基準です。
14級6号:片手の親指以外の指の骨の一部を失った
後遺障害14級6号は、「1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの」と定められています。
具体的には、親指を除く人差し指、中指、薬指、小指のいずれかの指について、指の骨(指骨)の一部が欠損した場合が該当します。
たとえわずかな骨の欠損であっても、指先の機能や外観に影響を及ぼす場合に認定されます。
骨の一部欠損は、レントゲンやCTなどの画像診断によって確認される必要があります。
14級7号:片手の親指以外の指の第一関節を屈伸することができなくなった
後遺障害14級7号は、「1手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの」と規定されています。
遠位指節間関節(DIP関節)とは、指先の第一関節のことです。
この関節の動きが、正常な可動域の2分の1以下に制限されてしまった場合に認定されます。
これは指の機能障害であり、関節の動きを計測する他覚的所見(医師による客観的な所見)が認定の決め手となります。
14級8号:片足の中指・薬指・小指のうち1~2本の用を廃した
後遺障害14級8号は、「1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの」と定められています。
第3の足指以下とは、足の中指、薬指、小指を指します。
これらの指のうち1本または2本について、機能が完全に失われた(用を廃した)場合に認定されます。
「用を廃した」とは、指の関節が固まって動かない、または指の切断によって一部が失われた状態などを指します。歩行機能に重大な支障がない程度の軽微な足指の障害が対象となります。
14級9号:局部に神経症状が残った
後遺障害14級9号は、「局部に神経症状を残すもの」と規定されており、むちうちなどの神経症状で最も多く認定される等級です。
具体的には、首や腰の痛み、しびれ、めまい、頭痛などが該当します。この等級の認定で重要となるのは、「症状が一貫して継続しており」、かつ「症状を医学的に説明できること」です。
MRIなどの画像所見がなくても、一貫性のある症状経過と、治療経過から神経系統の障害が推認できる場合に認定される可能性があります。
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14級に認定されるためのポイント
後遺障害14級、特に最も件数の多い14級9号(神経症状)の認定を受けるためには、以下の5つのポイントを特に意識した対応が重要となります。
交通事故と症状の因果関係が明らかであること
後遺障害の認定を受ける大前提として、交通事故という出来事と、その後に残った症状との間に明確な因果関係が証明できる必要があります。
特にむちうちなどの神経症状では、事故の態様(衝突の程度など)から医学的に症状が発生することが妥当であると判断されることが重要です。
診断書や診療録(カルテ)に、事故直後から症状に関する記載が一貫して残っていることが、因果関係を裏付ける重要な証拠となります。
事故直後から定期的な病院への通院を継続している
症状が残存していることを客観的に示すためには、事故直後からの継続的かつ定期的な通院が不可欠です。
通院頻度が低い場合や、途中で長期間のブランクがある場合、「症状は軽度であった」「治療の必要性が低かった」と判断され、後遺障害の認定が難しくなる可能性があります。
症状が固定する(それ以上改善が見込めない状態になる)までの期間、医師の指示に従い、少なくとも月に10日程度の頻度で通院することが望ましいとされています。
事故直後から症状が一貫して継続している
症状の訴えに「一貫性」があることが、後遺障害14級9号の認定の鍵となります。
事故直後に訴えた痛みやしびれなどの部位や性質が、治療期間を通して大きく変化することなく継続している必要があります。
例えば、当初は首の痛みだけだったのに、後から急に腰の痛みを強く訴え始めるなど、症状の訴えが不安定な場合、後遺障害診断書の信憑性が疑われ、認定が不利になる可能性があります。
症状がそれなりに重篤で、日常生活において慢性的に生じている
残存している症状が、単なる「違和感」程度ではなく、日常生活や労働に支障をきたす程度の「重篤性」を持っている必要があります。そして、その症状が一時的なものではなく、治療を継続しても改善しない「慢性的なもの」であることが求められます。
症状の具体的な内容や、それによって生じている日常生活上の不便を詳細に記録し、医師に正確に伝えることが、重篤性と慢性性を裏付ける上で重要です。
症状を医学的に説明することが可能である
後遺障害の認定では、被害者の自覚症状だけでなく、その症状を裏付ける医学的な根拠、すなわち「他覚的所見」が重要視されます。
14級9号の場合、MRIなどの画像所見(器質的損傷)がなくても、神経学的検査の結果(例えば、知覚検査や徒手筋力テストなど)や、医師の診察所見から、残存する症状が神経系統の障害によって生じていることを医学的に説明できる必要があります。
治療経過全体を通じて、症状の発生機序が合理的であると判断されることがポイントです。
後遺障害等級14級が認定された事例
会社員Aさんは、追突事故により頸椎捻挫(むちうち)と診断されました。事故直後から首から肩にかけての痛みと、手にしびれを感じ、約6か月間、定期的に整形外科へ通院し、理学療法や投薬治療を受けました。
治療期間中、症状の訴えに一貫性があり、医師も症状の重篤性を認識していました。
最終的に症状固定となり、後遺障害診断書を作成。
画像上、神経を圧迫するような明らかな異常所見はなかったものの、一貫した症状経過と、特定の神経学的検査で異常所見が認められたことから、「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級14級9号が認定されました。
その後、弁護士が介入し、相手方保険会社との交渉の結果、自賠責基準ではなく、弁護士基準で慰謝料を受け取ることができました。
後遺障害等級についてのお悩みは弁護士にご相談ください
後遺障害等級の認定は、適正な賠償金を受け取るための最も重要なステップですが、特に14級9号(神経症状)の認定は医学的知識や手続きの複雑さから、被害者の方ご自身で進めるには非常に困難が伴います。
認定の可否は、提出する資料の質や、治療の過程での対応によって大きく左右されます。また、認定後に保険会社から提示される慰謝料額は、弁護士が介入した場合に比べて大幅に低いことがほとんどです。
適正な後遺障害等級の認定を受け、裁判所基準に基づいた満額の慰謝料を獲得するためには、交通事故案件に精通した弁護士へのご相談をお勧めします。
弁護士は、認定手続きのサポートから、保険会社との賠償交渉まで、被害者の方の権利を守るために尽力いたします。
相続人には、遺言書どおりでは遺産が相続できない場合でも、最低限の遺産(遺留分)を得られる権利が保障されています。もし、他の相続人から「遺留分を侵害された」として遺留分侵害額請求をされた場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
請求を受けた場合、まずは冷静に請求内容を確認することが重要です。
請求が法的に正当なものなのか、金額は妥当なのかを見極め、慎重に対応を進める必要があります。
ここでは、遺留分侵害額請求をされた場合の確認事項や対処法について詳しく解説します。
遺留分侵害額請求をされたら、内容をよく確認しましょう
遺留分侵害額請求をされた場合、まずは請求内容をきちんと確認しましょう。
請求者の権利の有無、遺留分が本当に侵害されているか、請求額の妥当性、そして時効が成立していないかなど、確認すべき点は多岐にわたります。
これらの点を一つひとつ丁寧に検討することが、適切な対応への第一歩となります。
請求者に遺留分を請求する権利はある?
まず、請求者に遺留分を請求する権利があるかを確認しましょう。
遺留分が認められているのは、被相続人(亡くなった方)の配偶者、子(またはその代襲相続人である孫など)、そして直系尊属(父母や祖父母など)に限られます。
被相続人の兄弟姉妹や甥・姪には遺留分はありません。
また、相続放棄をした人、相続欠格や相続廃除によって相続権を失った人は遺留分を請求する権利がありません。
請求者がこれらの遺留分権利者に該当するかどうかを最初に確認することが重要です。
遺留分の侵害は事実かどうか
次に、遺留分の侵害が実際に発生しているかを確認します。遺留分侵害額は、遺留分額から、実際に相続で取得した財産の価額を差し引いて計算されます。
遺留分を算定するための財産には、被相続人が亡くなったときに所有していた財産だけでなく、相続人に対して相続開始前の10年間に行われた生前贈与(特別受益)なども含まれます。
これらの財産をすべて洗い出し、請求者の遺留分額と実際に取得した財産額を正確に計算し、本当に遺留分が侵害されているのかを判断する必要があります。
もし、請求者が遺留分額以上の財産をすでに受け取っていれば、遺留分は侵害されていないことになります。
請求された割合は合っている?
請求されている遺留分の割合が正しいかどうかも確認が必要です。
全体の遺留分割合は、相続人が直系尊属(父母など)のみの場合は遺産の3分の1、それ以外の場合は2分の1です。個別の遺留分割合は、この全体の遺留分割合に、各相続人の法定相続分を乗じて算出します。
例えば、相続人が配偶者と子2人の場合、全体の遺留分は2分の1です。
配偶者の法定相続分は2分の1、子の法定相続分はそれぞれ4分の1なので、配偶者の遺留分は4分の1(1/2 × 1/2)、子1人あたりの遺留分は8分の1(1/2 × 1/4)となります。
請求された割合がこの計算と合致しているかを確認しましょう。
遺留分請求の時効を過ぎていないか
遺留分侵害額請求権には時効があります。
具体的には、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しなければ、時効によって消滅します(民法1048条)。
また、遺留分侵害の事実を知らない場合でも、相続開始の時から10年経ったときは同様に権利が消滅します。
そのため、請求がいつ行われたかを確認し、時効が成立しているかを確認する必要があります。
もし時効期間が過ぎている場合は、支払いを拒否できる可能性があります。
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払わなくていいケースでも連絡は必要?
請求内容を確認した結果、時効が成立している、請求者に権利がないなど、遺留分を支払う必要がないと判断した場合でも、請求を無視することは避けるべきです。
無視を続けると、相手方が調停や訴訟といった法的手続きに進む可能性があります。
支払う義務がないと考える場合でも、その根拠を明確に示して相手方に回答しておきましょう。
これにより、無用な紛争の拡大を防ぐことができます。
もし相手が内容証明郵便で請求してきた場合は、回答したという証拠を残しておく意味でも、こちらも書面で回答するのが望ましいです。
遺留分の請求は拒否できないの?
遺留分は法律で認められた相続人の権利であるため、法的に有効な遺留分侵害額請求を全面的に拒否することはできません。
請求を無視したり、単に支払いを拒否したりすると、最終的には調停や訴訟に発展し、裁判所の命令によって支払いを強制される可能性があります。
最悪の場合、財産を差し押さえられることも考えられます。
遺留分は減らせる可能性がある
遺留分自体は存在する場合でも、請求された金額が不当に高い場合は、その金額について争うことは可能です。
ただし、遺産分割で主張できる事情でも、遺留分に関する請求では主張できないものがあるため、注意が必要です。
自身に寄与分がある場合
寄与分とは、被相続人の財産の維持または増加に特別の貢献をした相続人に認められる、相続財産からの割増分のことです。
寄与分がある場合、遺産分割の時には、寄与分が加算されて具体的相続分が増加します。
しかし、残念ながら、遺留分侵害額請求の場面では、支払うべき遺留分額から差し引くことは認められていません。そのため、寄与分の存在は、遺留分を減額させる事情にはなりません。
請求者に特別受益がある場合
請求者である相続人が、被相続人から生前に多額の贈与(特別受益)を受けている場合、その分を考慮して遺留分侵害額を減らせる可能性があります。
もし請求者が遺留分額を超える特別受益を得ていれば、遺留分はすでに満たされていると主張することも可能です。
遺留分を主張する相続人が被相続人からの援助について話していたり、被相続人の通帳や取引履歴をたどると大きな送金や出金があったりする場合には、特別受益が主張できないかを検討してみましょう。
遺産の評価額を争う
遺留分侵害額は、相続財産の評価額を基に計算されます。
特に不動産などは評価方法によって金額が大きく変わることがあります。
請求者が提示する評価額が不当に高い場合は、自身でも市場価格や路線価などを調査した上で減額を主張することが可能です。
相続財産の評価額を適正に見直すことで、結果的に支払う遺留分侵害額を減らせる可能性があります。
遺留分を請求されてお困りのことがあれば弁護士にご相談ください
遺留分侵害額請求への対応は、法律的な知識が不可欠であり、ご自身だけで進めるのは非常に困難です。
請求内容が正当かどうかの判断、特別受益や財産評価の主張、相手方との交渉など、自身では正しいと思ってした対応が、実は間違っていたということも少なくありません。
もし請求を無視すれば、調停や訴訟に発展し、かえって時間的・精神的な負担が増大する可能性があります。
遺留分に関するトラブルでお悩みの場合は、早期に相続問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士に依頼すれば、法的な観点から適切な対応策を提案し、相手方との交渉や法的手続きを代理で行ってくれるため、円満な解決につながりやすくなります。
はじめは少額であっても、長期間に渡り横領を重ねることで横領額が高額になってしまうことは珍しくありません。横領した額の大きさは、刑罰の重さ(量刑)に直接的に影響を与えます。
本記事では、高額横領となるケースを簡単に述べ、横領額が量刑に影響を与えるのか、並びに逮捕されてしまった場合の対応方法、及び執行猶予付判決を獲得するための具体的な弁護活動について解説いたします。
会社のお金を横領すると業務上横領が成立する
会社のお金を横領した場合、横領した金額の大小に関わらず、業務上横領罪が成立します。
高額な横領は当然ながら、少額であっても犯罪であり、刑事罰の対象となります。
業務上横領罪とは
業務上横領罪は、業務上自己の占有する他人の物を横領することで成立する犯罪です。
本罪が成立した場合、十年以下の懲役に処せられます。
業務上横領罪のより詳しい概要については、こちらの記事で解説しておりますのでご参照ください。
業務上横領罪について詳しく見る横領額が高額の場合実刑となり、量刑も重くなる可能性がある
業務上横領罪において、「いくら以上の横領で懲役〇年」と明確に規定されているわけではありません。
横領の金額に加え、犯行の常習性や動機、弁済の有無、並びに会社からの処罰感情など他の要素も加味されるため、量刑を断言することはできません。
しかしながら、横領額が大きくなればなるほど、刑罰が重くなる傾向にあることは事実であり、実刑判決(執行猶予が付かない懲役刑)となる可能性が高まります。
1400万円横領し、懲役3年6月となった判例
リフォーム工事を行う会社の従業員が、顧客からの集金代金の着服及び架空請求書の偽造等により、約1400万円を不正に着服した事件があります。
裁判所は、横領金額が高額であり、計画的な犯行であったことを重く見て、長野地方裁判所は平成29年10月17日に懲役3年6月の判決を言い渡しました(長野地方裁判所平成29年10月17日判決)。
この事例は、1000万円を超える横領事案では、実刑となるリスクが高いことを示しています。
8000万円横領し、懲役6年となった判例
経理事務の担当者がインターネットバンキングを悪用して会社のお金を横領した事案において、被害金額が8000万円に達した事例があります。
裁判例によると、被告人男性は、会社の銀行口座から自身の銀行口座に振り込み送金する方法で、数年間にわたり400回以上も振り込み操作を実行することで現金を着服したことが認定されました(千葉地方裁判所 平成31年3月19日判決)。
この事案に対し、裁判所は懲役6年の判決を言い渡しました。
ネットバンキングを悪用して自身の個人口座に現金を送金させる行為も不法領得の意思の発現といえるため、「横領した」に該当し、常習性や被害額の大きさから重い刑罰が科されます。
1億6500万円横領し、懲役7年となった判例
學校の理事長であった被告人が、その立場を悪用して公私混同を繰り返し、長期間にわたり横領を継続した結果、合計1億6500万円を着服した事案において、仙台地方裁判所は、平成18年2月24日に懲役7年及び罰金2000万円の実刑判決を下しました(仙台地方裁判所平成18年2月24日判決)。
これは、組織への重大な信頼侵害、身勝手な動機、及び長期にわたる計画性が認められたものであり、一億円を超えるような超高額の横領事件では、執行猶予付判決の獲得は極めて困難となり、重い実刑判決が下される傾向にあることを示す事例です。
高額の横領で逮捕されてしまったら
横領額が高額の場合、会社が被害届を提出し、警察が捜査に乗り出すケースが多くなります。
その結果、ある日突然、警察官が自宅を訪れ逮捕されるケースも珍しくありません。
逮捕されてしまった場合、直ちに弁護士にご相談ください。
弁護士は以下のような活動を行い、ご依頼人様の権利を守ります。
身柄を拘束されている場合は保釈に向けて活動します
逮捕や勾留により身柄を拘束されている場合、弁護士は保釈(勾留されている被告人を一時的に釈放すること)に向けて活動します。
具体的には、検察官や裁判官に対して、ご依頼人様が逃亡したり証拠を隠滅したりするおそれがないことを客観的な資料に基づき説明し、勾留の取り消し又は保釈を請求します。
身元引受人を確保すること、及び職場復帰の可能性を示すことなどが、保釈を認めてもらうために重要な活動となります。
執行猶予つき判決の獲得を目指します
業務上横領罪は懲役刑しか規定されていない犯罪であり、判決によっては直ちに刑務所に入らなければならない可能性があります。そのため、社会復帰を目指す上で、刑の執行を一定期間猶予してもらう執行猶予付判決の獲得が重要となります。
特に高額の業務上横領事件においては、実刑判決となるリスクが高いため、弁護士のサポートが必要不可欠です。
具体的な弁護活動としては、被害者である会社との示談を成立させること、横領金を弁済すること、並びに再犯防止のための環境を整備すること(家族による監督や治療の開始など)を裁判所に主張立証します。
逮捕はされていないが自宅待機を命じられた
高額な業務上横領の場合であっても、会社が警察に被害届を出す前に、調査のために従業員に自宅待機を命じるケースもあります。逮捕はされていなくとも、会社は既に横領の事実を把握している可能性が高く、事件化の準備を進めている段階であると言えます。
このような場合も、一刻も早く弁護士にご相談ください。
弁護士が会社と示談交渉します
弁護士は、被害者である会社との示談成立を目指し、交渉を行います。
高額横領事件の場合は、一括での全額返済が難しいことが多いため、一時金の支払確保や長期の分割による支払計画を立案するなど、粘り強い交渉を行います。
高額横領は事件化(警察に被害届が提出されること)することが多いですが、仮に事件化し裁判になったとしても、会社と示談が成立しているかどうかは、執行猶予付判決を獲得するために極めて重要な要素となります。
返済したいが高額のため一括では難しい
横領した本人に返済の意思はあるものの、横領額が高額であるために一括での弁済が難しいというケースも多くあります。そのような場合も、弁護士にご相談ください。
弁護士は、ご依頼人様の財産状況をもとに、実現可能な返済計画を作成します。
そして、この返済計画に基づき、分割払いによる返済を会社に対し交渉します。
横領罪における返済に関するより詳しい内容は、こちらの記事で解説しております。
横領罪における返済について詳しく見る懲戒解雇の可能性も
業務上横領は、従業員が会社に対して負う信頼関係を根本から裏切る行為であり、その額が高額であればあるほど、懲戒解雇となる可能性は極めて高くなります。
懲戒解雇は、退職金不支給、又は再就職の困難など、社会生活において大きな不利益をもたらします。
再就職のためにも会社と示談しておくことは非常に重要です
仮に刑事裁判になったとしても、会社と示談を成立させておくことで、執行猶予付判決の獲得を目指すことができ、早い社会復帰が望めます。
また、示談が成立していることは、その後の再就職活動においても、反省の態度を示す一助となり、非常に重要です。
会社のお金を横領してしまったらお早めに弁護士にご相談ください
会社のお金を横領してしまった場合は、警察の捜査が本格化する前、あるいは会社からの追求が始まる前といったお早めの段階で弁護士にご相談ください。
特に高額の横領事案は実刑のリスクが高く、早い段階での弁護士のサポートが必要となります。
弁護士にご相談いただくことで、今後の刑事手続きの適切な見通しを立て、最善の弁護活動を行うことができます。

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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
