会社の接待交際費の不正計上は業務上横領罪が成立する可能性。懲戒処分は有効か

会社の接待交際費の不正計上は業務上横領罪が成立する可能性。懲戒処分は有効か

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

会社の接待交際費を私的な飲食代に使う、あるいは架空の接待をでっちあげて経費を不正に請求する行為は、単なる社内規定違反にとどまらず、犯罪に該当しうる違法行為です。

これらの行為が発覚した場合、刑事罰や損害賠償、懲戒解雇など、社会的・経済的に極めて重大な責任を負うことになります。

本稿では、接待交際費の不正利用がどのような犯罪にあたるのか、そして不正が発覚した場合に取るべき対応について、詳しく解説します。

接待交際費の不正計上、不正受給は業務上横領罪や詐欺罪が成立する可能性がある

接待交際費の不正利用は、その手口によって業務上横領罪または詐欺罪が成立する可能性があります。
例えば、会社からあらかじめ預かっていた交際費を私的に使い込んだ場合は、管理を任された金銭を着服したとして業務上横領罪が問われます。

一方で、実際には行っていない接待の領収書を偽造して会社に提出し、経費をだまし取った場合は、会社を欺いて金銭を交付させたとして詐欺罪が成立する可能性があります。

業務上横領罪とは

業務上横領罪とは、業務として自己の管理下にある他人の財産を不法に自分のものにする犯罪です(刑法第253条)。経理担当者や営業担当者が、会社から管理を委託されている現金や預金を私的な目的で費消する行為が典型例です。

この犯罪は、会社からの信頼を裏切る悪質な行為とみなされるため、単純な横領罪よりも重い「10年以下の懲役」という刑罰が定められています。

業務上横領は必ず逮捕される?

詐欺罪とは

詐欺罪とは、人を欺いて財物を交付させたり、財産上不法の利益を得たりする犯罪です(刑法第246条)。
この犯罪の成立には、①人を欺く行為(欺罔行為)、②それによって相手が錯誤に陥ること、③その錯誤に基づいて財物を交付すること、という一連の因果関係が必要です。

接待交際費のケースでは、架空の接待や水増しした領収書を提出して会社を騙し、経費を不正に受け取るといった行為がこれに該当します。

接待交際費の不正計上、不正受給の時効

接待交際費の不正利用には、刑事と民事の両方で時効が存在します。刑事事件として起訴するための公訴時効は、業務上横領罪、詐欺罪ともに7年です。

一方、会社が損害賠償を請求する権利(民事)の消滅時効は、原則として会社が損害および加害者を知った時から3年、または不正行為の時から20年です。
刑事上の時効が完成しても、民事上の賠償責任は残る可能性があるため注意が必要です。

接待交際費の横領の例

接待交際費の横領には、以下のような手口が考えられます。

(1) 空接待の計上
取引先との接待を全く行っていないにもかかわらず、偽の報告書や自分で作成した領収書を用いて、架空の接待があったかのように装い経費を請求する。

(2) 接待費用の水増し請求
実際にかかった接待費用以上の金額を領収書に記載してもらったり、自身で改ざんしたりして、差額を着服する。

(3) 私的な飲食代の付け回し
家族や友人との私的な飲食にかかった費用を、業務上の接待であるかのように偽って会社の経費として精算する。

(4) 商品券等への換金
接待の名目で商品券やギフトカードなどを購入し、それらを金券ショップなどで換金して現金を得る。

領収書の偽造も違法行為

接待交際費を不正に計上する過程で、領収書の金額を書き換えたり、パソコン等で偽の領収書を作成したりする行為は、横領罪や詐欺罪とは別に私文書偽造・同行使罪(刑法第159条、第161条)という犯罪に該当します。

複数の犯罪が成立する場合、より重い刑罰が科される可能性があります。このように、安易な考えで行った不正工作が、自身の刑事責任をさらに重くする結果を招く危険性があります。

領収書の偽造・改ざんは業務上横領罪?

経費や備品の横領、その他のケース

会社における横領は、接待交際費に限りません。従業員が会社の財産を管理・利用する立場にあることを悪用し、様々な手口で不正に利益を得るケースが存在します。

例えば、日々の業務で発生する交通費の請求や出張時の経費精算、さらには会社から貸与されている備品に至るまで、様々な行為が、会社の財産が横領の対象となりうるのです。
以下では、接待交際費以外でよく見られる横領のケースについて解説します。

交通費の横領

通勤手当として支給されている定期券区間内の移動であるにもかかわらず、別途交通費を請求したり、最も安価なルートではなく高額なルートで交通費を申請したりする手口です。

これらの行為は、業務上横領罪や詐欺罪に問われる可能性があります。

会社の交通費を不正受給すると業務上横領になる?

空出張で出張費を横領

実際には出張していないにもかかわらず、出張したかのように装って交通費や宿泊費、日当などを不正に受け取る行為です。「空出張」と呼ばれ、会社を騙す行為であるため詐欺罪が、会社から預かった出張費を流用した場合は業務上横領罪が成立する可能性があります。

空出張で出張費を不正に計上したら業務上横領になる?

会社備品の横領

会社から貸与されているパソコンや社用スマートフォン、事務用品などを無断で売却したり、私物化したりする行為です。自己の管理下にある備品であれば業務上横領罪、管理権限のない倉庫の物品などを盗み出せば窃盗罪に問われる可能性があります。

会社の備品を横領すると業務上横領罪や窃盗罪になる可能性。

接待交際費の不正計上、不正受給した社員の責任

接待交際費を不正に利用した場合、社員は刑事上と民事上の二つの側面から責任を追及されることになります。刑事上の責任とは、国から懲役刑などの刑罰を科されることを意味します。

一方で、民事上の責任とは、被害者である会社に対して、与えた損害を金銭で賠償する責任のことです。
たとえ刑務所に服役したとしても、会社に対する賠償責任がなくなるわけではなく、両方の責任を負わなければなりません。

刑事上の責任

刑事上の責任として、業務上横領罪の場合は10年以下の懲役、詐欺罪の場合は10年以下の懲役が法定刑として定められています。罰金刑の規定はなく、起訴されて有罪となれば懲役刑が科される重い犯罪です。

被害額や手口の悪質性によっては、初犯であっても実刑判決(執行猶予がつかない判決)が下される可能性も十分にあります。また、有罪判決を受ければ「前科」がつくことになります。

民事上の責任

民事上は、会社に対して損害賠償責任を負います。これは、不法行為(民法第709条)または雇用契約上の義務違反(債務不履行)に基づくものです。

賠償すべき範囲は、横領した金額そのものに加え、調査費用や弁護士費用、そして不正発覚日までの遅延損害金などが含まれる場合があります。

会社は、社員の給与を差し押さえるなど、法的な手段を用いて賠償請求を行ってくる可能性があります。

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接待交際費の横領は懲戒解雇の可能性も

横領は、会社の財産を不法に侵害し、企業秩序を著しく乱す重大な背信行為です。そのため、就業規則上の懲戒事由に該当し、最も重い処分である懲戒解雇となる可能性が極めて高いです。

懲戒処分には、軽いものから順に譴責(けんせき)、減給、出勤停止などがありますが、金銭に関する不正行為、特に横領は悪質性が高いため、これらの段階を踏まずに即時懲戒解雇とされるケースが一般的です。

会社の接待交際費を不正計上したり、私的に使ってしまったりしたら

万が一、会社の接待交際費を不正に利用してしまった場合、まず行うべきは、正直に事実を会社に申告し、誠心誠意謝罪することが重要になります。

そして、不正に得た金額を全額返済する意思があることを明確に示さなければなりません。しかし、当事者だけで冷静な話し合いをすることは困難な場合も多く、対応を誤ると事態が悪化しかねません。

そのため、会社に申告する前に、速やかに専門家である弁護士に相談し、今後の対応方針を協議することをおすすめします。

事件化を防ぐためにも弁護士にご相談ください

業務上横領のような会社内部の犯罪は、会社が警察に被害届を提出したり告訴したりすることで初めて事件化するケースがほとんどです。裏を返せば、警察が介入する前に会社との間で示談を成立させることができれば、事件化を防げる可能性があります。

会社側も、評判の低下などを懸念し、内々での解決を望む場合があります。弁護士が代理人として交渉することで、被害弁償と引き換えに事件化しないよう働きかけることが可能です。

会社との示談交渉を弁護士に依頼するメリット

横領事件の示談交渉を弁護士に依頼するメリットは多岐にわたります。
まず、加害者本人が直接交渉すると感情的になりがちですが、弁護士が間に入ることで冷静かつ法的な観点から交渉を進めることができます。

また、横領額の確定や適切な示談金の算定、将来の紛争を防ぐための示談書の作成など、専門的な対応が可能です。
何より、逮捕や処罰への不安を抱えるご本人の精神的負担を大幅に軽減できる点が大きなメリットです。

逮捕されてしまった場合も減刑に向けてサポートします

もし逮捕されてしまった場合でも、弁護士はご本人と速やかに接見(面会)し、取り調べへの対応をアドバイスします。その後は、早期の身柄解放を目指す活動と並行して、会社との示談交渉を継続します。

示談が成立すれば、検察官が不起訴処分(起訴しないこと)と判断する可能性が高まります。

仮に起訴された場合でも、示談の成立やご本人の反省の情などを裁判で主張し、執行猶予付き判決の獲得など、可能な限り軽い処分となるよう働きかける余地があります。

返済する意思はあるが横領額が大きく一括では難しい。分割払いは可能?

被害弁償は一括で行うのが原則ですが、横領額が高額でどうしても一括での返済が困難な場合もあります。その場合、会社との交渉次第では分割払いが認められるケースもあります。

しかし、会社側からすれば分割払いには未回収リスクが伴うため、簡単に応じてくれるわけではありません。実現には、説得力のある返済計画の提示と、誠実な交渉が不可欠です。

このような複雑な交渉については、専門家である弁護士に依頼されることをおすすめします。

横領したお金を返済したら減刑される?

会社の接待交際費を横領してしまったら、お早めに弁護士にご相談ください

会社の接待交際費の不正利用は、発覚すれば職を失うだけでなく、刑事罰という重い責任を負う可能性がある重大な行為です。

しかし、問題が発覚した直後の迅速かつ適切な対応が、その後の人生を大きく左右します。
お1人で悩まれるのではなく、できる限り早期に弁護士にご相談されることをおすすめします。

社員が領収書を偽造し、または改ざんすることにより、会社の経費を不正に受給する行為は、会社に対する背信行為であり、重大な犯罪を構成する可能性があります。経費の不正受給は、単に金銭的な損害を与えるのみならず、会社の信用を失墜させ、懲戒解雇の対象ともなり得る重大な問題です。

本記事では、領収書の偽造や改ざんによる経費の不正受給が成立し得る刑事上の罪について解説します。
また、不正を行った社員が負うべき民事上の責任、並びに、問題が発生した場合の適切な対処法について詳しく解説します。

領収書を偽造、改ざんして会社の経費を不正受給するのは何罪?

領収書を偽造し、又は改ざんして会社の経費を不正に計上したり、受給したりする行為は、複数の犯罪に該当する可能性があります。
その罪名は、行為の態様によって、主に業務上横領罪、詐欺罪、または私文書偽造罪に分かれます。

以下では、それぞれの罪が成立する可能性のあるケースについて、具体的な解説を行います。

支給されている経費を私的に使用すると業務上横領罪が成立する可能性

会社から業務のために預かっている金銭、例えば出張のために仮払いされた経費を、私的な用途に流用した場合、業務上横領罪が成立する可能性があります。

このケースでは、領収書の提出前に、既に社員が占有している会社の金銭を領得する意思をもって私的に費消する行為が問題となります。例えば、接待費として支給された現金を私的な飲食代に充てた場合等です。

業務上横領罪とは

業務上横領罪は、業務上、他人の物を預かり、その預かっている物を不法に自分のものにした場合に成立する犯罪です。法定刑は10年以下の懲役と定められています(刑法第253条)。

業務上横領罪について、詳しくはこちらで解説します。

領収書を偽造、改ざんするなどして経費を不正計上すると詐欺罪が成立する可能性

社員が、偽造しまたは改ざんした領収書を会社に提出し、会社を騙して本来支払われるべきでない金銭を騙し取った場合には、詐欺罪が成立する可能性があります。

例えば、実際には存在しない出張の領収書を偽造して旅費交通費を請求したり、個人的な飲食費の領収書の金額を改ざんして水増し請求したりする行為がこれに該当します。
この場合、会社の担当者は社員の欺罔行為(人を欺く行為)によって金銭を交付しているといえます。

詐欺罪とは

詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させた場合に成立する犯罪です。法定刑は10年以下の懲役と定められています(刑法第246条第1項)。

領収書の偽造や改ざんは私文書偽造罪が成立する可能性

経費を不正受給する行為とは別に、社員が領収書そのものを偽造し、または改ざんする行為は、私文書偽造罪(私文書変造罪)を構成します。

領収書は、作成者がその内容を証明する文書であり、社会生活上の信用性が認められるためです。
不正受給の目的で領収書を偽造等した場合、詐欺罪(または業務上横領罪)と私文書偽造罪の両方が成立する可能性があります。

私文書偽造罪とは

私文書偽造罪は、行使の目的で、他人の印章や署名を使用して権利、義務、または事実証明に関する文書や図画を偽造した場合に成立する犯罪です。
法定刑は3カ月以上5年以下の懲役と定められています(刑法第159条第1項)。

経費の不正計上のケース

領収書を偽造し、または改ざんして会社の経費を不正に計上、受給するケースには、次のようなものが挙げられます。これらの不正行為は、会社の経費精算システムの盲点を突いた形で行われることが多いです。

交通費の不正受給

交通費の不正受給は、最も多い不正の態様の一つです。
具体的には、実際には定期券を利用して通勤したにもかかわらず、区間外の領収書を提出して運賃を二重に請求する手口、又は、実際とは異なる高額な経路の領収書を作成し、その差額を着服する手口があります。

交通費の不正受給について、詳しくはこちらで解説します。

会社の交通費を不正受給すると業務上横領になる?

空出張による不正受給

空出張(からしゅっちょう)による不正受給とは、実際には出張していないにもかかわらず、出張をしたかのように装い、架空の旅費や日当を会社から騙し取る手口を指します。
この不正を行う際、偽造した宿泊費の領収書や交通費の領収書が証拠として提出されることが一般的です。

空出張による出張費の不正受給の手口について、詳しくはこちらで解説します。

空出張で出張費を不正に計上したら業務上横領になる?

接待交通費の不正計上

接待交通費の不正計上とは、顧客との接待や会食の際に利用したと偽って、実際は個人的な飲食や交通に使った費用を会社の交際費として請求する手口です。
本来の目的と異なる私的な利用であるにもかかわらず、接待費用の領収書を改ざんし、または水増し請求することで、会社を欺き金銭を不正に受給することになります。

接待交通費の不正計上について、詳しくはこちらで解説します。

会社の接待交際費の不正計上は業務上横領罪が成立する可能性。

不正を行った社員の責任

領収書を偽造し、または改ざんして経費の不正計上を行った社員は、その行為に対して刑事上の責任、民事上の責任及び懲戒解雇の可能性、という三つの側面から責任を負うことになります。
不正の事実が発覚した場合には、会社からこれらの責任を追及されることになります。

刑事上の責任

不正を行った社員は、前述したとおり、業務上横領罪、詐欺罪、または私文書偽造罪(私文書変造罪)等の刑事責任を問われる可能性があります。

会社が警察に被害届を提出し、または告訴した場合、捜査機関による捜査が開始され、逮捕、起訴等の刑事手続きに進むことになります。業務上横領罪及び詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役であり、有罪判決を受けた場合、懲役刑が科されることになります。

民事上の責任

不正を行った社員は、会社に対して不正受給した金額、並びに、不正行為によって会社に生じた損害を賠償する民事上の責任を負います。

これは、不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償請求、または不当利得返還請求(民法第703条)として会社から請求されるのが一般的です。
会社は、給与から不正受給額を相殺する、若しくは民事訴訟を提起して返還を求めることができます。

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領収書の偽造、改ざんは懲戒解雇になる可能性も

領収書を偽造し、または改ざんする行為は、懲戒処分の中でも最も重い懲戒解雇となる可能性が非常に高いです。この種の不正行為は、労働者が会社の財産を着服し、並びに会社の信用を失墜させる行為であり、労働契約における信頼関係を著しく破壊するものと評価されるためです。

懲戒処分には、一般に、戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、及び懲戒解雇といった段階があり、不正受給は最も重い処分が選択される可能性が高いです。

懲戒処分を有効とする判例がある(ダイエー事件)

社員が架空の領収書を作成し、経費を不正受給した事案として、ダイエー事件と呼ばれる事件があります(大阪地裁平成10年1月28日判決)。
裁判所は、当該行為が会社の信用を失墜させる重大な行為であり、会社と労働者との間の信頼関係を破壊したと認定しました。

その結果、会社が行った懲戒解雇処分を有効であると判断しました。
この判例は、領収書の偽造等による不正受給が、懲戒解雇事由として十分なものであることを示しています。

領収書を偽造し会社の経費を不正受給してしまったら

もし、ご自身が領収書を偽造し、または改ざんして会社の経費を不正受給してしまった場合には、速やかにその後の行動を検討する必要があります。会社に対する謝罪、不正に得た金銭の返済が必要になります。

業務上横領罪は被害者からの被害申告(告訴)で事件化するケースが多い

業務上横領罪は、警察等の捜査機関が自ら認知して捜査を開始する場合もありますが、被害者である会社からの被害申告(告訴)によって事件化するケースが多い犯罪です。

そのため、不正を行った社員が会社との間で示談交渉を成立させ、被害弁償を行うことができれば、会社が告訴を取り下げる、または告訴しない判断をする可能性が高まります。
示談が成立すれば、事件化を回避できる、又は起訴猶予となる可能性が高まります。

会社との示談交渉を弁護士に依頼するメリット

横領の示談交渉を弁護士に依頼することには、複数のメリットがあります。

第一に、被害者である会社との交渉を冷静かつ円滑に進めることができます。

第二に、弁護士が代理人となることで、会社からの厳しい追及を直接受けることを避けられます。

第三に、弁護士は法的な観点から適切な被害弁償額を算出し、示談条件を交渉するため、不当に高額な請求をされることを防ぐことができます。

返済を考えているけど金額が大きく一括で支払うのは困難。分割払いはできる?

不正受給した金額が大きい場合、一括での返済が困難なケースは少なくありません。
不正受給額の分割払いを認めてもらえるか否かは、被害者である会社次第です。

会社に対して誠意を示し、返済計画を具体的に提示することで、会社が分割払いを認めてくれる可能性はあります。しかし、会社は全額一括返済を強く求めることが多いため、弁護士に依頼して交渉を代行してもらうことが有効です。

横領罪の返済について、さらに詳しくはこちらで解説します。

横領したお金を返済したら減刑される?

不正受給に関するお悩みはお早めに弁護士にご相談ください

領収書を偽造、または改ざんして会社の経費を不正受給する行為は、刑事上の罪に問われ、並びに懲戒解雇のリスクを伴う極めて危険な行為です。

もし、ご自身が不正行為に関与してしまった場合は、事件化を防ぐため、及び刑事処分を軽減するためにも、発覚する前、または発覚直後の早い段階で弁護士にご相談ください。

弁護士は、会社との示談交渉を代理し、被害弁償の手続きをサポートすることで、あなたの最善の解決を目指します。

相続では寄与分という制度があります。

寄与分は、相続の際、相続財産の維持又は増加について特別の貢献をした相続人がいる場合に、その相続人が取得できる遺産を増やす制度です。

相続財産の維持又は増加について特別の貢献をした場合としてはさまざまなものがありますが、ここでは、家事従事型として「被相続人の事業に関する労務の提供」民法904条の2第1項)を行っていた場合の寄与分について解説します。

家事従事型の寄与分とはどんなもの?

家事従事型の寄与分とは、「被相続人の事業に関する労務の提供」(民法904条の2第1項)によって、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合に認められる寄与分をいいます。

「事業」の内容や「労務の提供」の方法について、定まったものはありません。

家事=炊事洗濯ではない。家事従事型の具体例

では、家事従事型の具体例としてはどのようなものがあるか、ですが、たとえば、夫が農業を営み、妻が毎日無償でその手伝いを行って収穫を維持できるように貢献していた場合です。

また、父が個人で経営する店舗で長男が無償でほぼ毎日勤務した場合も家事従事型の寄与分として認められる可能性があります。

寄与分を認めてもらう要件

寄与分は、被相続人の財産形成に相続人が相当程度に高度な寄与をした場合に認められるものです。

これは「家事従事型」の寄与分においても同様です。
民法上の要件は、寄与した者が相続人であること、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により特別の寄与をしたこと、被相続人の財産が維持され又は増加があったことです(民法904条の2第1項)。

家事従事型の独自の要件

家事従事型で独自に求められる要件は以下のとおりです。

①無償性
無償又はこれに近い状態で行われていることが必要となります。
提供した労務に見合うだけの報酬が支払われていた場合は、寄与分として認められません。

②継続性
労務の提供が長期間継続していることが必要となります。
一時的ではなく、一定期間継続する必要があります。

③専従性
労務の内容がかなりの負担を要するものであることが必要となります。
専業であることまでは求められませんが、片手間ではできず、一定の負担を要する労務であると認められる必要があります。

通常の手伝いをした程度では認められない

寄与分は、その貢献が「特別の寄与」といえるかどうかがひとつの重要なポイントとなります。民法上、親族間では扶養義務があるとされていますので、親族間での通常の手伝いや身の回りの世話程度では当然行うべき行為とされ、寄与分が認められません。

先に述べましたとおり、家事従事型の場合は、無償又はこれに近い状態で労務に専念していなければ、扶養義務の範囲を超えるような貢献であると認められる可能性は低いでしょう。

家事従事型の寄与分を主張するためのポイント

家事従事型の寄与分を主張するためのポイントは、先ほど述べましたとおり、①無償性、②継続性、③専従性に加えて、寄与行為とその結果(財産の増加維持)との間に因果関係があるということを資料を示して主張する必要があります。

具体的な主張内容としては、

  • 被相続人との身分関係や扶養関係
  • 労務提供をするに至った事情
  • 報酬の有無(無償性)
  • いつからいつまで労務の提供をしていたか(継続性)
  • どのような働き方で労務に従事していたのか(専従性)
  • 寄与行為によって被相続人の財産が増加維持したこと

などです。
家事従事型の寄与分が認められるハードルは高いため、このような要件に沿って、説得的に事実を主張し資料を示す必要があります。

こういったものが証拠になります

特別の寄与があったことを裏付ける証拠は非常に重要になります。

②継続性の証拠としては、業務日誌(日報)、タイムカード、メール等が考えられます。
③専従性の証拠としては、被相続人の確定申告書、預金通帳、会計帳簿等が考えられます。

家事従事型の寄与分に関する裁判例

家事従事型の寄与分についての裁判例には様々なものがあります。
どの程度の寄与があれば寄与分が認められるのか、裁判例を紹介しつつ、着目すべきポイントを説明していきます。

相続人以外の寄与分が認められた裁判例

【神戸家庭裁判所豊岡支部平成4年12月28日審判】

被相続人(昭和51年7月6日死亡)は、長年農業に従事していましたが、昭和44年頃に高血圧と心臓病が悪化したため、仕事をやめ、申立人(被相続人の子)に扶養される状況となりました。

被相続人は、昭和48年末頃から高血圧と心臓病に老衰も加わり、寝たきりの状態となりました。申立人の妻が昼夜被相続人の側に付きっきりになり看護をしていました。

このような申立人の妻の被相続人に対する献身的看護は、親族間の通常の扶助の範囲を超えるものがあり、そのため、被相続人は、医療費の負担を免れ、遺産を維持することができたと考えられることから、遺産の維持に特別の寄与貢献があったものと評価するのが相当であり、遺産分割にあたって申立人の寄与分として考慮すべきである、とされました。

申立人の被相続人に対する妻の貢献について、申立人の補助者または代行者として遺産の維持に特別の寄与がなされたものであると認め、これを申立人の寄与分として考慮して遺産分割をした事例でした。

家事従事型の寄与分が認められなかった裁判例

【札幌高等裁判所平成27年7月28日決定】

相続人は、被相続人の求めに応じて勤めていた会社を退職し、被相続人が経営していた簡易郵便局に夫婦で勤めることになりました。

簡易郵便局で、夫婦は2人で月25万円から35万円の給与を得ていましたが、この金額は、当時の賃金センサスによると、大卒46歳時の平均給与の半分にも満たない金額でした。

しかし、被相続人が郵便局を引退するまでの間、業務主体は被相続人であったこと、月25万円から35万円という相応の収入を得ていたこと、相続人夫婦は被相続人と共に住んで家賃や食費は被相続人が支払っていたことをも考慮すると、相続人は当該事業への従事で相応の給与を得ていたというべきであるとして、寄与分は認められませんでした。

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家事従事型の寄与分の額はどのように決めるか知りたい

家事従事型の寄与分の額は、以下のような計算式で算出します。

寄与した者が通常得られたであろう年間の給付額×(1-生活費控除割合)×寄与年数-現実に得た給付

「寄与者が通常得られたであろう年間の給付額」は、相続開始時(被相続人が亡くなった時)における、家業と同種同規模の事業に従事する、寄与者と同年齢層の年間給与額が基準になります。

実際には、相続開始時の賃金センサスを使用し、同種同規模同年齢の年間給与額を参考にすることが多いです。
また、家事従事型の場合は、寄与した者が被相続人と同居していることが多く、寄与した者の住居や生活費等が家業収入の中から支出されていることが多いため、「生活費控除割合」に換算されて控除されます。

さらに、少額でも現実に給付を得ていたようであれば、「現実に得た給付」として控除されます。寄与分を決める際には、寄与の時期や方法、程度、相続財産の額といった一切の事情が考慮されるため、これらの計算式によって算出された額からさらに調整される可能性があります。

家事従事型の寄与分に関するQ&A

夫の飲食店を無償で手伝っていたが離婚しました。寄与分は認められますか?

寄与分が認められるのは、法定相続人(民法で定められた相続人)に限られます。すでに離婚していた場合には夫の相続人ではありませんので、寄与分が認められないという結論になります。

長男の妻として農業を手伝っていました。寄与分は主張できるでしょうか。

先に述べましたとおり、寄与分が認められるのは法定相続人に限られますから、長男の妻が相続人ではない限り、寄与分が認められることはないでしょう。
ただ、被相続人の親族(相続人以外)が特別の寄与をした場合には、特別寄与料として、相続人に対して寄与に応じた金銭を請求することができます。

夫の商店を手伝いながら、ヒット商品の開発にも成功しました。寄与分を多くもらうことはできますか?

認められる可能性はあると思います。夫の商店を手伝いつつも、ヒット商品の開発に成功しているということは、夫の財産の増加に寄与したと言いやすいからです。

ただ、寄与行為にかかった金額がそのまま算定されるのではなく、寄与行為の貢献度を割合に置き換えて算定することもあるため、遺産が少ない場合には貢献に見合っただけの金額の寄与分が得られない可能性があることに留意する必要があります。

父の整体院を給与無しで手伝っていました。小遣いを月4万円もらっていたのですが、寄与分は請求できるのでしょうか?

認められる可能性はあると思います。
受け取っていた4万円という報酬が、整体院での勤務内容(時間、職務等)からみて著しく低額であった場合は無償性を満たす可能性がありますし、整体院での勤務期間や専従性も考慮したうえで寄与分が認められる可能性があるからです。

父の会社に従業員として勤めて経営を支えていた場合、寄与分は認められますか?

認められることは難しいと思います。
理由は、法律が法人と個人(自然人)を別の主体と考えているため、寄与した方の貢献は法人に対してされたものと考えられるからです。

ただし、法人が一人会社の場合のように、実質的に個人と同視しうるような場合には、個人に対する貢献として寄与分が認められる可能性があるでしょう。

無給で手伝っていましたが、たまの外食や旅行等に行く場合は費用を出してもらっていました。寄与分の主張はおかしいと言われましたが、もらうことはできないのでしょうか。

寄与分が認められる可能性はあると思います。
たまの外食や旅行等であれば社会通念上相当の範囲にとどまるかぎり、寄与分額の算定で控除すべき対象とみなされる可能性は低いでしょう。

ただし、被相続人と同居して家賃や食費をほぼ被相続人が負担しているような場合は、寄与した者の利益とみなされて控除の対象となる可能性があります。

ご自身のケースが寄与分として認められるか、弁護士へ相談してみませんか?

被相続人に対してしたご自身の行為が寄与分として認められるかどうかの判断はなかなか難しいかと思います。
寄与分の主張によって他の相続人の理解を得られない等、遺産分割協議が紛糾し、相続手続が前に進まないということも考えられます。

寄与分が認められるのか、認められるとしてどの程度認められるものなのか等、不明点があれば遺産相続問題を早期に解決させるためにも、早めに弁護士に相談することを強くお勧めします。

交通事故に遭い、示談交渉などを依頼した弁護士に対して「本当にこのままで大丈夫だろうか」と不安を感じる方もいるかもしれません。
弁護士との相性の問題や対応への不満などから、弁護士の変更を検討することは決して珍しいことではありません。

交通事故の弁護士はいつでも変更することが可能です。

この記事では、弁護士を変更する方法から、変更を検討すべきケース、さらには弁護士を変更することのデメリットや注意点まで、知っておくべき情報を弁護士の視点から詳しく解説します。

交通事故の弁護士は変更できる!セカンドオピニオンの重要性

依頼した弁護士と委任契約を結んだ後でもその弁護士を解任し、別の弁護士に依頼し直すことが可能です。

弁護士を新しく変更する際に重要なのが「セカンドオピニオン」の活用です。
セカンドオピニオンとは、現在依頼している弁護士以外の別の弁護士に相談し、意見を聞くことを指します。

特に、現在の弁護士の提示する示談金額や解決方針に納得がいかない場合、別の専門家の意見を行くことで、より有利な解決方法が見つかる可能性があります。
変更を迷っている場合にはまず、別の弁護士に相談してみることが大切です。

法テラスや交通事故紛争処理センターを利用している場合は注意が必要

法テラスの民事法律扶助制度を利用している場合、原則として弁護士の変更はできません。
但し、弁護士側に著しい不適切な行為は職務懈怠などのやむを得ない事由がある場合には、変更が認められるケースがあります。

また、交通事故紛争処理センターを利用している場合も、一度手続を開始すると弁護士を変更することが難しい場合があるため、事前にセンターに確認が必要です。

弁護士の変更を検討したほうが良いケース

弁護士を変更すべきか検討した方がよいのは、以下のようなケースです。

相性が良くない

弁護士との相性が良くないと感じることは、弁護士変更を検討する大きな理由の一つです。

例えば、「高圧的な態度で話を聞いてもらえない。」、「専門用語ばかりで説明が理解できない」、「なんとなく威圧感があって相談しにくい」といった場合です。

弁護士と依頼者の関係は、二人三脚でトラブル解決を目指す信頼関係が非常に重要です。
弁護士に聞きたいことを聞けず、不満や疑問を抱えたまま手続を進めてしまうと、公開の残る結果につながりかねません。

安心してすべてを任せられる弁護士に依頼しなおすことが双方にとって良いこととなります。

解決の方向性が合わない

弁護士から提示された解決の方向性や見通しが、依頼者の希望と大きく食い違う場合も変更を検討するべきケースです。

例えば、依頼者が徹底的な裁判での争いを望んでいるのに、弁護士が安易に和解を勧めてくるようなケースです。また、弁護士が提案した賠償金の金額が低いと感じる場合や、過失割合などの重要な争点について、弁護士の主張に納得がいかない場合も同様です。

別の弁護士にセカンドオピニオンを求め、より良い解決策がないか検討してみましょう。

対応が遅い、連絡が取りにくい

弁護士の対応が遅い、又は、連絡が取りにくいと言ったケースも、依頼者の方にとっては大きなストレスになります。

特に交通事故の案件では、後遺障害の申請など、迅速な対応が求められる場面が多々あります。依頼者から問い合わせをしているのに何日も返事がない、資料の提出が毎回遅れる、といった状況が続くと、手続が滞り、依頼者の不利益につながる可能性もあります。

連絡が滞ることで、現状はどうなっているのか、対応が後回しにされているのではないかとのファンが増し、ストレスがかかってくることとなります。

しかしながら、相手側の返答が全く来ないなど弁護士の対応によってではなく、進行が遅れている可能性がありますので、一度現状を確認することも大切です。

弁護士に業務停止処分が下った

もし、依頼している弁護士が業務停止などの懲戒処分を受けた場合、その間は弁護士活動自体ができなくなるため、直ちに新しい弁護士を探す必要があります。

業務停止になった際には、一時弁護士との委任契約を解除することになりますが、業務停止期間が終了すると、再度契約することはできます。

しかしながら、その間は手続の進行が遅れることとなりますので、迅速な手続き進行を求める場合には、自分で新たに弁護士を探したうえで、依頼しなおすことが望ましいと言えます。

まずは交通事故事件専属のスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

交通事故被害者専門ダイヤル

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弁護士を変更する方法

上記のような状況が起こり、弁護士の変更を考えた際には以下の手順で弁護士の変更を行うことが望ましいと言えます。

新しい弁護士を探して相談する

まずは、交通事故の案件に強い新しい弁護士を複数探し、無料相談などを活用してセカンドオピニオンを受けましょう。

相談をするときには、現在依頼している弁護士の対応への不満点や、これまでの経緯、現在の事件の状況などを詳細に説明します。そのうえで、「新たな弁護士に依頼した場合の見通し」や「弁護士費用」について、明確な説明を受けましょう。

新しい弁護士が過去の経緯をしっかり理解し、今後の見通しを具体的に示してくれるか、また、相性が良いかを慎重に見極めてから正式に依頼を決めましょう。

ここで、注意するべきなのは、弁護士を探している間に損害賠償請求の時効が成立してしまう恐れもあるので、弁護士が不在の状況ができないようにしていきましょう。

今依頼している弁護士に変更したい旨を伝える

新しい弁護士に依頼することを決めたら、現在依頼している弁護士に対して、委任契約を解除する旨を伝えましょう。伝え方は、書面などで通知することで正式な意思を残すことができますが、電話やメールなどでも問題ないです。

伝える際には、単に「変更したい」と伝えるだけでなく、委任契約の解除と預けている書類の返却、預かり金の清算などを同時に申し出るとよいです。
そうすることで、新しい弁護士への引きつきも円滑に進むこととなります。

(弁護士費用特約を利用している場合)保険会社にも弁護士を変更する旨を伝える

弁護士費用特約を利用して弁護士費用を支払っている場合には、契約している保険会社にも弁護士を変更する旨必ず伝えるようにしましょう。

弁護士費用特約を利用する場合、新しい弁護士に切り替える際にも、保険会社の承認が必要になることがあります。保険会社に事前に連絡をしないと、新しい弁護士の費用が特約で支払われないなどトラブルの原因になり得ます。

また、保険会社によっては、着手金などを1事故につき1回限り支払うとしているところもあるので事前に確認しておくことが必要となります。

新たな弁護士に着手金を支払う

新しい弁護士との間で委任契約を締結し、着手金を支払います。
着手金は、弁護士が事件に取り掛かる際に支払う費用になるので、事件の結果や途中で解約した場合にも返金されないのが原則です。

そのため、以前の弁護士に払った着手金は返金されずに新しい弁護士に着手金を支払う必要がありますので、契約前に新しい弁護士の料金体系や着手金の金額をしっかり確認することも大切です。

引継ぎをしてもらう

事件の新着状況や保険関連書類、証拠資料などについては、以前依頼していた弁護士と新しい弁護士との間で、引継ぎがなされることがほとんどです。

しかしながら、当然に引継ぎがなされているかは不明確なところもありますので、手続の進行をスムーズにすることや新たな弁護士において誤解が生じないようにすることから引き継ぎが確実に行われるように確認しておくとよいです。

新たな弁護士が対応を開始する

引継ぎが完了すると、新しい弁護士がすべての資料を確認し、事件の状況を把握することができるようになりますので、新しい弁護士によって、新たな交渉などが進行することになります。

新しい弁護士が依頼者の方の意向などを把握するために打合せを調して、より自身の意向や利益になる進行を新しい弁護士にお願いしていくこととなります。

弁護士を変更した場合のデメリット

上述のように弁護士を変更することはできますが、弁護士を変更することによって発生するデメリットもありますので、事前にそのデメリットを確認することが大切です。

着手金は返ってこない

上述のように、着手金は弁護士が事件に着手するための費用であり、契約解除や結果の如何に関わらず、返還されないことが一般的です。

そのため、新しい弁護士にも着手金を支払う必要があるので、費用負担が二重になってしまうことが最大のデメリットです。

また、着手金を以前の弁護士に支払っていない場合でも、文書送付費などかかった費用を請求されるおそれがあります。

そのため、弁護士を変更する際には費用がかさむ可能性があることを意識しておくことが必要になります。

完全成功報酬型でも解任までの費用は請求される

また、「完全報酬型」の契約である場合にも弁護士を解任するまでの間に発生した費用やタイムチャージ(時間制報酬)などの費用を請求される可能性があります。

具体的には、契約を解除する時点までに弁護士が費やした労力や手続費用(実費)について、契約内容に基づいて清算されることとなります。
なので、契約内容を確認しておくとよいです。

解約金が発生する可能性がある

委任契約書の内容によっては、解約金または違約金が発生する可能性があります。

特に、弁護士側には非がなく、依頼者の都合で一方的に解約する場合、弁護士側が被る損害を補填するために、一定の解約金を請求されるケースがあります。

新しい弁護士に依頼する前に、現在の弁護士との委任契約書を隅々まで確認し、解約に関する条項をチェックしておくとよいです。

弁護士変更にあたっての注意点

以下では、弁護士変更にあたって注意するべき点を挙げて行きます。

書類は全て返してもらう

弁護士との契約を解除する際は、自身の交通事故に関する全ての書類(診断書、事故証明書、保険会社の提示書類など)を、返却してもらうようにすることが望ましいです。

新しい弁護士が事件をスムーズに引き継ぎ、適切な主張を行うためには、これまでの経緯がわかる全ての資料が必要です。書類の返却を申し出ても、前の弁護士が応じない場合は、内容証明郵便などで正式に請求することも検討します。

弁護士費用特約を利用している場合は要確認

弁護士費用特約を利用していても、特約には利用上限額が設定されていることがほとんどです。

弁護士を変更した場合、以前の弁護士に支払った費用と新しい弁護士に支払う費用の合計額が、特約の上限額を超えてしまう可能性があります。
上限を超えた費用は自己負担となりますので、特約の上限額と、これまでに利用した金額、新しい弁護士の費用を事前に確認し、自己負担額を把握しておくことが非常に重要です。

特に、弁護士費用特約の場合には着手金の支払いの回数制限などが設定されていることもありますので、注意しておくことが大切です。

変更しても結果が変わらない場合もある

弁護士を変更しても、必ずしも結果(賠償額など)が大きく変わるわけではありません。
弁護士が交渉などをする際には実務上の相場や理論的な考え方を基に話をしていくこととなります。

特に、すでに示談が成立している場合や、症状固定の診断が下っている場合など、法的に事態が確定してしまっている状況では、弁護士の力量だけで結果を覆すことが難しいケースがあります。

その2つのケースについて、以下で詳しく見て行きます。

示談を締結してしまった場合

一度、保険会社と示談書を締結してしまうと、原則としてその示談の内容を覆すことは非常に困難になります。

示談は、当事者間の合意によって紛争を解決する契約であり、法的な拘束力を持ちます。
新しい弁護士に依頼しても、示談のやり直しは原則としてできません。
示談書に署名をする前に、必ず内容に納得しているかを再確認しましょう。

また、ご心配や疑問がある場合には依頼している弁護士に相談するか、又は、法律相談などで新たな弁護士に相談されるとよいです。

症状固定してしまった場合

症状固定とは、これ以上治療を続けても症状の改善が見込めないと医師が判断した状態を指します。

症状固定の診断が下されると、それ以降の治療費は原則として加害者側(保険会社)に請求できなくなります。また、症状固定時に残っている後遺症について、後遺障害の等級認定を受けることになります。

後遺障害の等級が低い、又は非該当となった場合、その認定結果を覆すのは容易ではありません。弁護士を変更しても、等級認定のやり直しや、既に切られた治療費の請求を覆すのは非常に難しいため、変更を検討する前に状況を確認しましょう。

まずは交通事故事件専属のスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

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交通事故に強い弁護士の選び方

新しい弁護士を選ぶ際は、以下の3つのポイントを重視することで、有利な解決に導いてくれる可能性が高まります。

解決事例が豊富にある

交通事故の案件を数多く扱い、豊富な解決事例を持っている弁護士を選びましょう。

過去の解決事例は、その弁護士の実力と経験を示す最も明確な指標です。
特に、自身の事故状況と似たようなケースで高額な賠償金を獲得している事例があれば、あなたの事故でも成功に導いてくれる可能性が高いです。

弁護士事務所のウェブサイトなどで、実績をしっかり確認しましょう。

交通事故専門にやっている・専門の部署があるか

できる限り、交通事故の案件を専門に扱っている弁護士、または交通事故専門の部署を設けている法律事務所を選ぶとよいです。

交通事故案件は、損害賠償額の算定基準(自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準)や後遺障害の認定など、他の法律分野にはない専門的な知識とノウハウが必要です。
専門性の高い弁護士ほど、保険会社との交渉に強く、適正な賠償額(弁護士基準)での解決を目指すことができます。

医学知識があるか

交通事故案件においては、医学的な知識を持っているかどうかも、弁護士を選ぶ重要な基準になります。交通事故で怪我が発生した場合には、弁護士が怪我の内容等に詳しいことで治療期間の相当性等についても判断ができることとなります。

特に、後遺障害の等級認定を申請する際、診断書や医学的な資料を正確に理解し、法的な観点から説得力のある主張を展開するには、一定の医学知識が不可欠です。

医師との連携がある、または医学的な知見を活かして手続きを進められる弁護士は、等級認定を有利に進め、結果的に賠償額をアップさせる可能性を高めます。

交通事故は弁護士法人ALGにお任せください

弁護士法人ALGは、交通事故問題に特化した専門チームを設けており、これまで数多くの解決実績を積み重ねてきました。
依頼者様一人ひとりの状況を丁寧にヒアリングし、交通事故の専門的な知識と豊富な経験に基づき、最も有利な解決へと導きます。

現在の弁護士に不安がある方、提示された示談金額に納得がいかない方は、ぜひ一度、当法人にご相談ください。セカンドオピニオンとしての相談も積極的に受け付けております。

弁護士を変更すべきかどうかも含めて、最適なアドバイスをさせていただきます。

ご結婚生活の末に配偶者との離婚を考え、離婚協議を行ってみたものの、一向に離婚協議がまとまらない場合、次の段階として家庭裁判所での離婚調停を検討することになります。

多くの方にとって離婚調停に弁護士は必要か?、費用はどれくらいかかるのか?といった不安を感じることと思います。

本記事では、弁護士なしで離婚調停に臨むことの可否、そのメリット・デメリット、そして弁護士が提供できるサポートについて解説していきます。

離婚調停は弁護士なしでもできる?

離婚調停は弁護士に依頼せずに、ご本人だけで手続を行うことが可能です。

調停は、当事者間の合意を目指す話合いの手続であり、調停委員がその仲介を務める制度です。そのため、必ずしも弁護士の同席が必要なわけではありません。

弁護士なしで離婚調停する人の割合はどれくらい?

離婚調停において、当事者の双方または一方に弁護士が関与しないケースは申し立てられた離婚調停全体の半数以上といわれています。
多くの方が弁護士を立てずに離婚調停を利用している実情がうかがえます。

自力で離婚調停を申し立てる方法

ご自身で離婚調停を申し立てる場合、基本的には相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に「申立書」を提出する必要があります。
申立書は裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。

夫婦関係調整調停(離婚)の申立書(裁判所HP)

申立てに際しては、申立書のほかに、戸籍謄本をはじめとする様々な書類や手数料としての収入印紙なども必要となります。

弁護士なしだと離婚調停で不利になる?

弁護士に依頼しないことがそのままご本人に不利な結果につながるとは限りません。

しかし、一言で離婚といっても、その理解は複雑なため、法的な知識が不足していることで、本来得られるはずだった財産分与や慰謝料、養育費などを適切な条件で取り決められないリスクはあります。

特に、相手方が弁護士に依頼している場合には、交渉力や法的知識に差があるため、不利な条件で合意してしまう可能性は高まるともいえるでしょう。

離婚調停を弁護士なしで対応するメリットとデメリット

メリット

最大のメリットは、弁護士費用がかからないということにあります。
離婚事件を弁護士に依頼した場合、着手金や成功報酬などで数十万円以上の費用がかかることが一般的です。

デメリット

デメリットは、申立てに至る煩雑な手続きをすべてご自身で行う必要があります。
また、調停期日では、調停委員に対してご自身の主張を伝えることができず、いつまでも調停が成立しないという事態になりかねません。

さらに、提示された離婚条件がはたして妥当なものかを判断することが難しいため、本来であればもう少し交渉すべき場面で妥協してしまったり、見落としが生じてしまうこともあるといえます。

あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います

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離婚調停で弁護士ができるサポート

離婚調停申立ての手続を代行してもらえる

弁護士にご依頼いただければ、調停申立ての手続をすべて代理することができます。
申立書の作成から、戸籍謄本などの必要書類の収集、裁判所への提出まで行っていきます。

これにより、煩雑な手続的負担から解放され、ご自身の生活や調停に向けた準備に集中することができます。

陳述書や答弁書の作成時にアドバイスしてもらえる

調停手続きにも双方の持ち時間に限りがあるので、書面にて事前に調停委員に説明を行うことが効果的です。

弁護士に依頼すれば、ご自身の主張をまとめた陳述書や、相手方の主張に対する反論を記載した答弁書などの書面作成を、法的な観点から要点を整理し、調停委員にこちらの主張が的確に伝わるように代行してくれます。

調停委員と話すときに同席してくれる

調停期日には弁護士が同席し、又は依頼者様の代理人として、調停委員に対して主張を説明します。調停手続きを何度も行う人は稀ですので、裁判所で緊張する場面でも、弁護士が隣にいることで精神的な支えとなります。

離婚条件についてアドバイスがもらえる

財産分与、慰謝料、親権、養育費など、離婚に際して取り決めるべき条件は非常に多いといえます。弁護士は、過去の判例や実務的な基準に基づき、個別の事案に応じた妥当な解決策をアドバイスします。

これにより、知らないうちに不利益な条件で合意してしまうことを防ぎ、正当な権利を守ります。

相手とのやり取りを代わってくれる

離婚調停中は、相手方と直接話すことが精神的に大きな負担となるケースが少なくありません。弁護士が代理人となることで、相手方との連絡窓口はすべて弁護士が担います。

これにより、依頼者様は相手方と直接やり取りをするストレスから解放され、冷静に調停に臨むことができます。

離婚調停を成功に導くポイント

離婚調停を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。

まず、感情的にならず、冷静に事実を主張することです。調停委員は中立な立場であるため、感情的になったとしても有利になるとは限りません。

次に、ご自身の主張を裏付ける客観的な証拠(写真、メール、預金通帳の写しなど)を事前に準備しておくことです。言った言わないといった水掛け論になってしまうことを避けることができます。

最後に、離婚に際して「絶対に譲れない条件」と「譲歩できる条件」をあらかじめ明確にしておくことです。これにより、現実的に合意可能な範囲での交渉をできるため、調停が円滑に進みます。

ひとりで離婚調停を乗り切れるか心配な場合は、一度弁護士にご相談ください

ここまでご説明したとおり、離婚調停は弁護士なしでも進めることができます。

しかし、法的に妥当な条件で、かつ精神的な負担を軽減しながら手続を有利に進めるためには、弁護士のサポートが非常に有効といえます。

是非、弁護士に一度相談し、ご自身の状況でどのようなサポートが可能か、話を聞いてみることをお勧めします。

離婚の公正証書とは

離婚の際に夫婦間で合意した養育費や財産分与などの取り決めを、法的な効力を持つ文書として残すために作成されるのが離婚の公正証書です。

公正証書は、公証役場で公証人が作成する公文書であり、強い証明力と執行力を持つことが特徴です。公正証書の特徴によって、離婚後のトラブルを未然に防ぎ、特に養育費などの継続的な支払いを確実にする役割があります。

公正証書の必要性

公正証書は、離婚後の養育費や慰謝料などの不払いを防ぐために非常に重要となります。
公正証書に「強制執行認諾文言」といった文言を記載することで、万が一相手が支払いを怠った場合、裁判の手続きを経ることなく強制執行を行うことが可能になります。

私的な合意書や口約束では法的な強制力が弱いため、将来的なリスクを回避するためにも、公正証書の作成を強く推奨します。

離婚時に公正証書を作成する手順と費用について

離婚の公正証書を作成するためには、いくつかの手順と費用が発生します。

まず、夫婦間で話し合いを行い、離婚の条件について合意を形成することが前提となります。次に、必要書類を準備し、公証役場にて公証人と面談を行います。
その後、合意内容に基づき公正証書が作成されます。

詳細は下記のとおりです。

作成にかかる費用

公正証書の作成費用は、公正証書に記載する養育費や慰謝料などの合計額(目的価額)に応じて決まります。具体的な手数料は、以下の表の通りです。

公正証書の作成費用
目的価額(養育費の総額) 手数料
100万円以下 5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 11,000円
500万円を超え1000万円以下 17,000円
1000万円を超え3000万円以下 23,000円
3000万円を超え5000万円以下 29,000円
5000万円を超え1億円以下 43,000円
1億円を超え3億円以下 43,000円に超過額5000万円までごとに13,000円を加算した額
3億円を超え10億円以下 95,000円に超過額5000万円までごとに11,000円を加算した額
10億円を超える場合 249,000円に超過額5000万円までごとに8,000円を加算した額

引用元:日本公証人連合会(https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow12

上記の表に加えて、郵送費用や戸籍謄本などの書類取得費用も別途かかります。

①公正証書の作成に必要な書類

公正証書の作成には、以下の書類が必要となります。

  • 当事者双方の本人確認書類:運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなど
  • 実印と印鑑登録証明書:3カ月以内に発行されたものが必要となることが多いです
  • 戸籍謄本:夫婦の婚姻関係と離婚の事実を確認するために必要です
  • 不動産登記簿謄本や固定資産評価証明書:財産分与に不動産が含まれる場合
  • その他:年金分割のための情報通知書など、記載内容に応じて必要な書類が異なります

これらの書類は、公正証書に記載する内容によって追加で求められることがあります。

②公証人役場の公証人と面談

必要書類を準備したら、事前に予約した公証人役場で公証人と面談を行います。この面談では、夫婦が合意した内容を公証人に伝え、公正証書の原案を作成してもらいます。

当事者双方が公証人役場に出向くのが原則ですが、一方が都合が悪い場合は、委任状を作成して代理人に依頼することも可能です。
公証人は、中立な立場で公正証書の作成を進めてくれるため、安心して相談できます。

③公正証書の作成

公証人との面談後、合意内容が反映された公正証書の原案が作成されます。原案に目を通して内容に間違いがないか確認し、問題なければ署名・捺印を行います。

これにより、正式に公正証書が完成します。完成した公正証書は原本が公証役場に保管され、当事者には正本と謄本が交付されます。

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公正証書に記載すべき内容

公正証書に記載する内容は、離婚後の生活に直結するため、詳細かつ明確に定めることが重要です。

以下に、記載すべき主な項目を挙げます。
なお、例では、当事者を甲と乙として表記します。

離婚への合意

まず、夫婦が離婚することに合意している旨を明確に記載します。これにより、将来的に離婚の事実自体が争点になることを防ぎます。

例:「甲と乙とは互いに、甲と乙が離婚をすることに同意する。」

親権者について

未成年の子どもがいる場合、どちらが親権者になるかを定めます。親権は、子どもの監護・教育、財産管理など、子どもに関わる全ての決定権を持つ重要な権利です。
子どもが複数人いる場合には、それぞれの親権者が誰であるかを明記するようにしてください。

例:「甲と乙の間の長男〇〇(令和〇年○月○日生)及び長女〇〇(令和○年○月○日生)の親権者をいずれも母である乙と定め、乙において監護養育する。」

養育費の支払い

養育費は、子どもの生活費として支払われるものですので、子どもの成長の上で欠かせないものです。支払いの期間(いつからいつまで)、金額、支払い方法(振込先口座など)など、詳細に記載します。
また、将来的な金額変更の可能性についても言及しておくと良いです。

例:「(1) 甲は、乙に対し、甲と乙との間の未成年者の〇〇の養育費として、令和〇年○月から長男が満20歳に達する日の属する月まで、毎月末日限り金○万円を、〇〇銀行〇〇支店の乙名義の普通預金口座(口座番号〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。
   (2) 長男の進学、病気、事故等の事由により特別の出費を要する場合は、その負担につき甲乙間で別途協議定める。」

面会交流

親権を持たない親と子どもが定期的に会うための取り決めです。面会頻度(月に1回など)、時間、交流場所、引渡方法などを具体的に記載することで、スムーズな交流を促します。

例:「(1) 乙は、甲に対し、甲が甲乙間の長男と月〇回程度、毎月第〇土曜日の午前○時から午後○時まで、面会することを認める。
   (2) 前項の面会につき、乙は〇〇駅東口改札付近で長男を甲に引渡、甲は終了時間に同場所で長男を乙に引き渡す。」

慰謝料

離婚の原因となった有責行為(不貞行為など)に対する慰謝料の支払いについて定めます。
支払いの有無、金額、支払い方法、支払い期日を明確に記載することで、後々のトラブルを防ぎます。

例:「(1) 甲は、乙に対し、本件離婚に伴う慰謝料として金○万円の支払い義務があることを認める。
   (2) 甲は、乙に対し、前項の金員を、令和〇年○月○日限り、〇〇銀行○〇支店の乙名義の普通預金口座(口座番号〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。」

財産分与

夫婦の共同財産(預貯金、不動産、自動車など)をどのように分けるかを記載します。
それぞれの財産について、誰が何をどれだけ取得するのか、金額や分与方法を具体的に定めます。

例:「甲は、乙に対し、本件離婚に伴う財産分与として、金〇万円を支払うことを約し、これを令和〇年〇月〇日限り、〇〇銀行○〇支店の乙名義の普通預金口座(口座番号〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。」

年金分割

婚姻期間中に夫婦が支払った厚生年金や共済年金を分割する取り決めです。公正証書に記載することで、年金分割の割合を合意し、将来の老後の生活を安定させるのに役立ちます。

この点について、特に合意分割を行う場合には離婚協議書等の作成が必要となりますので、記載いただくことが望ましいと思われます。
なお、年金分割制度の具体的な内容につきましては、弊所サイト上で詳細にお話させていただいているものもございますので、ご確認ください。

例:「甲乙間の別紙年金分割のための情報通知書記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を、0.5と定める。」

公正証書を作成することへの合意(強制執行受諾文言)

上記のとおり、相手方が金銭の支払いに応じない場合には「強制執行認諾文言」といった文言を記載することで、万が一相手が支払いを怠った場合、裁判の手続きを経ることなく強制執行を行うことが可能になります。
そのためにも、公正証書を作成する際には強制執行受諾文言を記載するようにしましょう。

例:「甲は、本合意書に定める金銭債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。」

清算条項

離婚に際して、公正証書に記載された内容以外には、お互いに金銭的な請求権が存在しないことを確認する条項です。これにより、相手方からの将来的な予期せぬ請求を防ぐこととなり、突発的なトラブルが発生しにくくなります。

例:「甲と乙は、本件離婚に関し、本合意書に定めるほか、何らの債権債務関係がないことを相互に確認する。」

公正証書に書けないことはあるか

公正証書は、公証人が法律に基づいて作成する公文書であるため、法律に違反する内容や公序良俗に反する内容は記載できません。

例えば、不当に高額な慰謝料や、子どもの福祉に反するような面会交流の取り決めは、公正証書に記載することはできません。
また、確定していない事実や、法律上の効果を持たない単なる覚書のような内容は、公正証書にすることが難しい場合があります。

離婚の公正証書は弁護士にお任せください

離婚公正証書は、以上でご説明させていただいたとおり、ご自身で作成することも可能でございます。
しかし、記載内容が不十分である場合など、公証役場では当事者双方のより良い形での公正証書の作成を促すことはないことが多いです。

そのため、公正証書の内容に不十分なところがあるか確認したい、ご自身に最大限有利な内容を公正証書に入れたいなどのご希望がございましたら、弁護士に相談することをおすすめいたします。

弊所では、離婚事件を多く取り扱っておりますので、お気軽にご相談ください。

被相続人の生前、被相続人の財産の維持又は増加に特別な貢献をした相続人は、被相続人の財産の相続にあたり、他の共同相続人と取得する財産の額に違いはないのでしょうか。

共同相続人間の公平を図る制度として、「寄与分」という考え方があります。

そこで、以下では、特別な貢献行為(寄与行為)の中でも、被相続人の財産を管理・維持・増加させた寄与行為について、説明していきます。

財産管理型の寄与分とは

被相続人の寄与行為には、態様ごとによって家事従事型、金銭等出資型、療養看護型、扶養型、及び財産管理型に分けることができます。
財産管理型とは、文字どおり、相続人が被相続人の財産を管理した場合を意味します。

具体例

具体例としては、被相続人の所有する賃貸不動産を管理することで被相続人が管理費用の支出を免れた場合や、被相続人所有の土地の売却に際し、同土地上の家屋の賃借人との立退交渉、家屋の取壊し及び滅失登記手続、土地の売買契約の締結等に努力したことにより、被相続人所有の土地の売却価格を増額させた場合等があります。

寄与分と特別寄与料の違い

寄与分と区別すべき概念として、特別寄与料(民法1050条)があります。
後者は、相続人以外の親族の寄与を反映させるものであり、寄与の内容が療養看護その他の労務の提供をいいます。

財産管理型の寄与分の計算式

財産管理そのものが寄与行為である場合(不動産の賃貸管理等)は、当該行為を第三者に委託した際の報酬額を基準額とし、他方、財産管理に要した金銭の出資が寄与行為である場合(建物の火災保険料・修繕費の負担等)は、相続人が現実に負担した額を基準額として、それに裁量割合を乗じて計算する方法が一般的です。

寄与分を認めてもらう要件

まず、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であることが必要で、次に、寄与行為の結果として被相続人の財産を維持又は増加させていること(財産の維持又は増加との因果関係)が必要です。

前者は、ア 財産管理の必要性(被相続人の財産を管理する必要があったこと)、イ 特別の貢献(被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献が必要であること)、ウ 無償性(無報酬又はこれに近い状態でなされていること)、エ 継続性(相当期間に及んでいること)を意味します。

成年後見人として財産を管理していた場合

成年後見人は被相続人の代わりに被相続人の預貯金や不動産といった財産の管理等を行います。

後見人は、家庭裁判所に申立てることで後見人報酬を受領することができることから、無報酬又は低廉な報酬で管理を行わない限り、無償性の要件に欠け、寄与分が認められることは難しいでしょう。

また、そもそも相続人でない者が成年後見人として財産を管理した場合には寄与分は認められません。

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財産管理型の寄与分はどう主張すれば良い?

寄与分は、相続開始後に権利行使をしてはじめて実現されるものであることから、寄与分の要件を満たすことを具体的に主張立証しなければなりません。
遺産分割協議で認められない場合には、家事調停を申し立てる必要があります。

主張するための重要なポイント

財産管理型の寄与分を主張するための重要なポイントは、本来専門の業者に委託する必要がある被相続人の財産を相続人が無報酬で管理したことにより、被相続人の財産の維持・増加に貢献していることを証明できるかどうかです。

有効となる証拠

例えば、被相続人所有の不動産の管理(修繕費や公租公課等を負担)したのであれば、管理したことがわかる修繕前後の写真、修繕費の領収書、火災保険料を振り込んだ振り込み用紙、公租公課を納付した領収書等の支出を裏付ける証拠が、証拠として有効です。

財産管理型の寄与分に関する裁判例

財産管理型の寄与分が認められた裁判例・認められなかった裁判例には以下のようなものがあります。

財産管理型の寄与分が認められた裁判例

建物についての営繕費や庭木の手入れ費用を負担したことにより、遺産の維持に特別の寄与があったと認められた裁判例があります。
また、土地売却にあたり、借家人の立退交渉、家屋の取壊し、滅失登記手続、売買契約の締結等に努力した事実に対し、売却価格の増加に対する寄与があったと認めた裁判例があります。

財産管理型の寄与分が認められなかった裁判例

相続人が被相続人名義の株式や資金調達を行った結果、被相続人の資産を増加させたとして寄与分を主張した事案で、相続人が資金運用のリスクを負担していなかったこと、株価の上昇が偶然であること等から寄与分を認めなかった裁判例があります。

財産管理型の寄与分に関するQ&A

父の資産を株取引で倍増させました。寄与分は認められますか?

株式による資産運用には利益の可能性とともに、常に損失のリスクがあります。株価の上昇自体が偶然であり、特別の寄与と評価することはできず、寄与分は認められません。

母が介護施設に入っていた間、実家の掃除を定期的に行い、家をきれいに保ちました。寄与分は認められますか?

親子間には扶養義務があります。
そのため、子が実家の掃除をすることが被相続人と相続人の身分関係から通常期待されるような程度を超える貢献と認められず、寄与分が認められる可能性は低いです。

父の所有するマンションの一室に住みながら、管理人としてマンションの修繕等を行った場合、寄与分は認められますか?

寄与分が認められるためには、相続人が無報酬で被相続人の所有するマンションの管理をしていたことが要件となります。
そのため、マンションの一室を無償で借りていたのであれば、被相続人の財産から利益を受けていることになるので、使用利益分が寄与分から減額される可能性がございます。

財産管理型の寄与分請求は弁護士にご相談ください。

被相続人に対し、生前様々な寄与をした相続人にとっては、その寄与が遺産分割の場面で一切考慮されないことは納得がいかないものと考えます。

被相続人の財産への特別の寄与があったことを主張して、取得する財産の額を増額したいと考えた場合には、寄与分の主張がなかなか認められにくいということもございますので、是非一度、弁護士にご相談ください。

学生が交通事故に遭い、怪我を負った場合でも、加害者に対して慰謝料を請求することができます。

もっとも、学生は怪我を負うだけでなく、交通事故による怪我の治療等の影響で、学業、就職活動、アルバイト等の二次的な被害を受ける事例が多く存在します。このような事例の場合、どこまでの範囲で賠償を受けることができるのか、問題となります。

本記事では、学生が交通事故に遭った場合を想定して、慰謝料や損害賠償可能な項目について、裁判例を織り交ぜながら解説をしていきます。
交通事故に遭われてしまった学生の方やご家族の方の参考になれば幸いです。

学生の場合にもらえる慰謝料

慰謝料については、学生であることのみをもって請求できる項目、計算方法等が変わることはありません。

交通事故の被害に遭った場合、事故によって受けた精神的苦痛を償うためのお金として、交通事故の被害の程度に応じて、以下の3つの慰謝料を加害者に請求することができます。

  • ①入通院慰謝料
    事故によって負った怪我の治療のために入院、通院を余儀なくされたことの精神的苦痛への慰謝料です。
    初診日~治療終了日までの通院期間、実際に入通院した日数、通院頻度、症状、治療内容などによって、金額が決められます。
  • ②後遺障害慰謝料
    事故により後遺障害が残ってしまった精神的苦痛への慰謝料です。
    一般的に、加害者が加入する自賠責保険会社を通じて後遺障害等級認定を受けた場合に請求可能となり、等級に応じた金額の慰謝料が支払われます。
  • ③死亡慰謝料
    事故により被害者が死亡した場合の、本人及び遺族の精神的苦痛への慰謝料です。
    被害者の家庭内での立場や遺族の数、扶養人数などに基づき、金額が決められます。

なお、慰謝料を計算するための算定基準には3つの基準があり、

  • 自賠責基準:自賠責保険が使う最低補償の基準
  • 任意保険基準:各任意保険会社が独自に設定する基準
  • 弁護士基準:弁護士や裁判所が使う基準

基本的に、①≦②<③の順で、慰謝料の金額が高くなり、弁護士基準が最も高額となります。

慰謝料以外に受け取れるもの

慰謝料以外に受け取れる賠償金として、以下のようなものが挙げられます。

  • 休業損害
    交通事故によって負った怪我の治療のため、アルバイト等の仕事を休んだことで得ることができなかった収入に対する補償のことです。
    通常、事故前の収入資料を参考にしつつ、1日あたりの収入を算出し、その金額に休業日数を乗じて計算をします。そのため、職業、収入、休業中の通院日数等によって金額が変わります。
  • 逸失利益
    交通事故に遭わなければ将来的に得られていたはずの収入に対する補償のことです。
    交通事故で死亡した場合は「死亡逸失利益」、後遺障害を負った場合は「後遺障害逸失利益」として請求することができます。
    こちらについても、職業、収入、後遺障害によって労働能力がどの程度減少したか、労働能力が制限される期間等によって金額が変わります。
  • 治療関係費
    治療費、入通院交通費、付添看護費、入院雑費、装具・器具購入費、将来の介護費用などのことを指します。
  • 物損に関する補償
    壊れた車やバイク、自転車の修理代などのことを指します。
  • その他
    交通事故が原因で、留年や休学をしたために必要となった学費や下宿代などを指します。

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バイト収入があれば学生でも休業損害が認められる

「休業損害」とは、交通事故によって怪我を負い、その治療等のために仕事を休んだことで減ってしまった収入に対する補償のことです。

そのため、アルバイト等で収入を得ていない学生には、休業損害は通常発生しません。
しかし、学生であっても次のケースでは、休業損害を請求できる可能性があります。

①交通事故によってアルバイトができずに、収入が減ってしまった場合

生活費や学費を稼ぐためだけでなく、交際費や趣味のお金などを稼ぐためのアルバイトについても休業損害の対象となります。

②交通事故による留年や内定取り消しなどによって、就職が遅れてしまった場合

例えば、交通事故によって負った怪我の治療のために長期入院したために留年し、就職が1年遅れた場合、交通事故に遭わなければ通常通り就職をすることができ、その分収入も得られていたはずですから、就職が遅れた1年分の休業損害を請求できる場合があります。

ただし、事故が原因で留年したことが明らかであるなどの事情が必要となり、認められるためにはそれなりにハードルが高いですので、弁護士に一度ご相談されることをお勧めします。

アルバイトの休業日数の出し方

アルバイトの休業日数は、シフト制であって事故日の時点ですでに出勤日が決まっていた場合は、治療のために休んだ出勤日が休業日数となります。

一方、事故日において出勤日が決まっていなかった場合は、事故前3ヶ月間の勤務状況を参考にして、事故後も同様に働いていたとみなして、休業日数をカウントすることがあります。

なお、休業日数は、実際にアルバイトを休んだ日数ではなく、ケガの治療のためにアルバイトを休む必要があると認められた日数(入院・通院した日など)が対象となります。
医師の指示なく、自己判断で仕事を休んだ日は、休業日数にカウントされない場合があるため注意が必要です。

特に、勤務先に、「休業損害証明書」という書類を書いてもらう必要があるので、その点も勤務先との調整が必要になります。

アルバイトの休業損害の計算方法

アルバイトの休業損害は、前述の慰謝料と同じく、以下の3つの基準のいずれかを適用して、計算します。

  • ①自賠責基準
  • ②任意保険基準
  • ③弁護士基準

基準ごとの計算方法を確認していきましょう。

【自賠責基準】

日額6100円×休業日数
ただし、休業損害証明書などの立証資料等により、休業損害が日額6100円を超えることを証明できる場合は、日額1万9000円を限度に、実際の損害額が認められる場合があります。

【任意保険基準】

1日あたりの基礎収入(事故前3ヶ月の給与÷90日)× 休業日数
ただし、任意保険基準では、基礎収入を低く計算されやすい(稼働率を反映しない)、正当な休業日数を認めてもらいにくい(シフト未確定日は休業日数として認めない)などの注意点があります。

【弁護士基準】

・1日あたりの基礎収入(事故前3ヶ月分の給料÷90日)×休業日数
・1日あたりの基礎収入(事故前3ヶ月分の給料÷稼働日数)×休業日数

アルバイトの場合は、週に2~3回しか働いていないことが多く、事故前に得た3ヶ月分の給料を90日で割ると、1日あたりの基礎収入がかなり低額になってしまうおそれがあります。
そのため、このような場合は、90日をそのまま使用するのではなく、事故前3ヶ月間の実出勤日数(稼働日数)で割った金額を、1日あたりの基礎収入とするケースがあります。

請求には休業損害証明書・源泉徴収票が必要

学生が休業損害を請求するには、「休業損害証明書」「源泉徴収票」の提出が必要になります。

「休業損害証明書」とは、交通事故によって仕事を休んだことを証明する書類です。
加害者側の保険会社から書式が送られてくることが一般的ですので、勤務先に休業した日、遅刻・早退した日、所定の休日、減収の有無、事故前3か月分の給与などを書いてもらい、証明してもらうことになります。アルバイト先が2社以上ある場合は、すべてのアルバイト先に書いてもらう必要があります。

また、「源泉徴収票」とは、事故前の学生の給与を証明する書類であり、勤務先から発行してもらいます。源泉徴収票がすぐに手に入らない場合は、事故前3ヶ月間の給料額がわかる給与明細書などでも代用可能です。

学生の後遺障害逸失利益は高額になりやすい

「逸失利益」とは、交通事故がなければ、将来働いて得られていたはずの収入のことです。
学生は、交通事故発生時点で働いていない場合でも、近い将来就職して働くことが予想されます。

しかし、交通事故により、例えば手や足などに障害が残ると、就職した場合に、事務作業がスムーズにこなせない、外回りの仕事ができないなど労働の一部が制限されたり、就職可能な職種も限定されたりする可能性があるため、将来的に得られるはずの収入が減ることが想定されます。

この減収分を、後遺障害逸失利益として、加害者に請求することが可能です。

学生の場合はまだ年齢的に若く、これから長い間働くことが予想されるため、通常のサラリーマンなどよりも、後遺障害逸失利益の金額が高額になりやすい傾向にあります。

学生の逸失利益の基礎になる収入はどうやって計算するの?

逸失利益は、以下の計算式で使用して算出します。

  • 後遺障害逸失利益:基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
  • 死亡逸失利益:基礎収入×(1-生活費控除率)×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

しかし、学生の場合は、交通事故発生時点で仕事をしておらず、収入がありません。
そのため、基礎収入をどのように計算するかが問題となります。

この点、学生については、基本的に、賃金センサスの「学歴計・男女別全年齢平均賃金」を基礎収入として、計算します。「賃金センサス」とは、厚生労働省が、労働者の性別、年齢、学歴等の別に、その平均収入をまとめて公表されているデータのことです。

ただし、大学生や、高校生以下でも大学進学が確実視される場合は、「大卒の全年齢平均賃金」を基礎収入とする場合があります。
また、大学の学部によっては、「職種別の全年齢平均賃金」を基礎収入とし、内定を得ていた場合は、「内定先でもらえるはずだった給与」を基礎収入とすることもあります。

このように、逸失利益の計算は複雑となる反面、逸失利益の額は高額になりやすく、計算を間違うと受け取れる額にも大きな差が生じる可能性があります。学生が後遺障害等級に認定され、逸失利益を請求する際には一度弁護士に相談されることをお勧めします。

学生の交通事故被害に関する裁判例

学生の交通事故被害についての裁判例を2つご紹介します。

交通事故の被害者が高校生だった場合の裁判例

【神戸地方裁判所 平成28年5月26日判決】

(事件の内容)
高校2年生の女子である被害者が、加害者の運転する車に同乗中、加害者が先行車を追い抜こうとした際に中央分離帯に衝突して横転し、被害者が死亡した事案。
本件では、被害者の逸失利益の基礎収入の金額について争いとなりました。

(裁判所の判断)
加害者は、逸失利益の基礎収入は、賃金センサス「女性の全年齢平均賃金353万円」とすべきと主張していました。
しかし、裁判所は、被害者は高校の単位の取得状況も順調で、海外居住時には現地に馴染んだ生活をしており、大学進学が話題に出ることはあったが、受験準備は始めていなかったなどの事情を考慮し、基礎収入は「男女の全年齢平均賃金468万円」が相当とし、約4462万円の逸失利益を認めました。
さらに、死亡した本人への慰謝料2200万円、両親への慰謝料400万円の支払いも命じています。

事故に遭った大学生に高額な逸失利益が認められた裁判例

【名古屋地方裁判所 平成23年2月18日判決】

(事件の内容)
大学3年生の男子である被害者が悪ふざけで、車のボンネット上で寝ていたところ、加害者が車を発進させたため、ボンネット上から転落。結果、遷延性意識障害や四肢体幹運動障害などの重い後遺障害を負い、要介護状態になった事例。

(裁判所の判断)
裁判所は、被害者が大学3年生であったため、後遺障害逸失利益の基礎年収は、賃金センサスの「男子大卒全年齢平均賃金676万円」が相当とし、労働能力の喪失率は100%、労働能力の喪失期間は22歳~67歳まで45年分を認め、約1億1455万円の逸失利益を認めました。
さらに、将来介護費 約1億5903万円、入通院慰謝料+後遺障害慰謝料3130万円、母親への慰謝料500万円の支払いも命じています。

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学生の交通事故に関するQ&A

事故により入試が受けられず、入学が1年遅れました。慰謝料は請求できますか?

交通事故が原因で入試が受けられず、入学が遅れた場合は、慰謝料ではなく、休業損害を請求できる可能性があります。
ただし、主張内容や立証方法などは工夫が必要であると思われますので、こういったケースでは、弁護士への相談をしていただくべきものといえます。
類似の裁判例をご紹介します。

【東京地方裁判所 平成13年3月28日判決】
(事件の内容)
大学進学を目指して受験勉強中だった高校3年生の男子が、交通事故の被害に遭い、当該年度の大学入試を受けられず、翌年に受験して大学に入学したため、就職時期が1年遅れたという事案です。

(裁判所の判断)
裁判所は、被害者は1年の就職遅れにより、賃金センサスの「大卒男子20歳~24歳の平均賃金322万円」の休業損害を受けたとして、加害者に支払いを命じています。
また、足に後遺障害が残ったため、入通院慰謝料+後遺障害慰謝料1866万円、逸失利益 約9466万円の支払いも命じられました。

怪我の治療のために就活を中断せざるを得ず、就職が1年遅れました。休業損害は請求できますか?

ケガの治療のために就職が遅れた場合は、休業損害を請求できる可能性があります。類似の裁判例をご紹介します。

【札幌地方裁判所 令和3年8月26日判決】
(事件の内容)
事故当時、大学2年生であった男性が交通事故の被害にあい、長期入院したために、就職が遅れたという事案です。

(裁判所の判断)
裁判所は、事故がなければ、被害者は大学4年の3月に大学を卒業し、同年4月1日から就職する可能性があったとして、就職遅れによる休業損害を認めました。
具体的には、基礎収入は賃金センサスの「大卒男子20~24歳の平均賃金322万円」とし、就職予定日である4月1日から症状固定日までの期間について、約354万円の休業損害の支払いを命じています。

交通事故で入院していたために留年してしまいました。授業料や慰謝料は請求できますか?

交通事故が原因で留年してしまった場合は、余分に必要になった授業料や、慰謝料を請求できる可能性があります。
裁判例の中には、交通事故に遭って1年間留年してしまった大学生に対して、留年期間中に支払った授業料の賠償を認めたものがあります。

ただし、授業料を請求するためには、「怪我で入院して長期間欠席していたため、進級単位がとれず留年した」など、交通事故が原因となって留年したことが明らかであるという因果関係が求められます。

そのため、事故以前から学業成績が良くない、出席日数が足りないなどの場合には、事故のせいで大学を留年したことが明らかであるとはいえないため、損害賠償を請求できないことになるでしょう。

なお、留年や休学、退学などの事情が発生すると、学生が受ける精神的苦痛が大きくなるので、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料が通常の基準より高額に算定される可能性もあります。

勉強の遅れを取り戻すために家庭教師を付けました。家庭教師代は請求できますか?

勉強の遅れを取り戻すために、家庭教師を付ける必要があったのであれば、家庭教師代を請求できる可能性があります。
類似の裁判例をご紹介します。

【名古屋地方裁判所 平成26年6月27日判決】
(事件の内容)
高校1年生であった被害者が交通事故で入院し、高校に復学したものの、授業の内容についていけなかったため、夏休みに家庭教師を付けたという事案です。

(裁判所の判断)
裁判所は、家庭教師代については、本件事故との因果関係を認めて、178万円の支払いを命じました。ただし、その後の予備校代については、大学受験のための支出であり、本件事故と因果関係がないため、認めないと判示しています。
つまり、交通事故と家庭教師代の出費に因果関係が認められれば、家庭教師代の請求が認められるということになります。

交通事故に遭われた学生の方・ご家族の方は弁護士にご相談ください

これまで見てきた通り、学生が交通事故の被害にあったときの損害は、通常の社会人とは異なる考え方・損害の算定をすることになります。
特に、学生の休業損害や逸失利益については、相手方の保険会社から、基礎収入を低く計算されやすい傾向にあるため、注意が必要です。

自分の対応が正しいのか不安に感じたり、相手方の示談案に不満があったりする場合は、弁護士への相談をご検討ください。

弁護士であれば、正確で適切な賠償金を計算することが可能です。
また、弁護士が介入すると、最も金額の高い弁護士基準で慰謝料を請求できるため、慰謝料アップの可能性も高まります。

交通事故の被害に遭いお困りの学生の方、ご家族の方は、ぜひ交通事故に精通した弁護士法人ALGまでご相談ください。

会社のお金を横領してしまい返済義務はあるのか、返済を申し出たものの会社から受け取りを拒否された、一括での返済は困難なため分割払いにしたい、など横領した金銭の返済についてお悩みの方もいらっしゃるでしょう。

この記事では、横領と返済にまつわる法律上の問題点や対処法について、弁護士が詳しく解説します。

横領罪とは

横領罪とは、他人から預かるなどして自己が占有している他人の物を、不法に自分のものにする犯罪です。
単純横領罪の法定刑は、刑法第252条1項により5年以下の懲役と定められています。

横領罪の全体像や他の犯罪との違いについては、こちらの記事で詳しく解説しております。

横領罪の初犯は執行猶予がつく?背任罪とのちがい

業務上横領罪とは

会社員が会社の経費を使い込むなど、業務上の委託信任関係に基づいて占有している物を横領した場合は、特に業務上横領罪が成立します。

業務上横領罪の法定刑は、刑法第253条により10年以下の懲役とされており、単純横領罪よりも重い刑罰が科されます。詳しくは、こちらの記事をご参照ください。

業務上横領は必ず逮捕される?横領額と刑の重さは関係あるのか

刑事上の責任だけでなく、民事上の責任も負うことになります

横領事件を起こした場合、刑事手続によって懲役刑などの刑罰が科される「刑事上の責任」とは別に、被害者である会社に対して金銭的な損害を賠償する「民事上の責任」も負わなければなりません。
民事上の責任は、不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償義務として発生します。

たとえ刑事手続で有罪判決を受け、刑に服したとしても、横領した金銭を返済する義務がなくなるわけではありません。
会社は、刑事手続とは別に民事訴訟を提起し、横領された金銭の返還や、それによって生じた損害の賠償を求めてくる可能性があります。

刑事と民事の責任は、それぞれ別個独立したものであるとご理解ください。

横領してしまったお金に返済義務はあるの?

横領行為は、法律上の原因なく他人の財産によって利益を得て、その者に損失を及ぼす行為であるため、不当利得(民法第703条)に該当します。
また、故意に他人の権利を侵害する不法行為(民法第709条)にもあたります。

そのため、横領した者は、被害者である会社に対して、不当利得返還義務または不法行為に基づく損害賠償義務を負うことになります。
会社は、これらのいずれかの法的根拠に基づき、横領された金銭の返還を請求することができます。
したがって、横領してしまったお金は、法律上、全額を返済する義務を負うことになります。

親や家族に請求がいくことはあるの?

横領による返済義務は、あくまで行為者本人が負うものであり、原則としてその親や家族に支払い義務が及ぶことはありません。
たとえ家族であっても、法的には別人格であるため、本人の債務を当然に肩代わりする義務はないのです。

しかし、例外として、親や家族が会社への入社時に「身元保証人」になっている場合は注意が必要です。
身元保証契約を締結している場合、身元保証人は被用者(本人)の行為によって使用者が受けた損害を賠償する責任を負います(身元保証ニ関スル法律第1条)。

そのため、会社は身元保証人である家族に対し、横領によって生じた損害の賠償を請求してくる可能性があります。

横領罪の時効が完成したら返済しなくてもいいの?

業務上横領罪の刑事上の時効(公訴時効)は、犯罪行為が終わった時から7年です(刑事訴訟法第250条2項3号)。この期間が経過すると、検察官は起訴できなくなります。

しかし、刑事上の時効が完成しても、民事上の返済義務が自動的になくなるわけではありません。
民事上の損害賠償請求権の時効は、被害者が損害および加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年と定められています(民法第724条)。

したがって、刑事事件として罪に問われなくなっても、民事上の返済義務は時効が完成するまで残り続けます。

全額返済するまで返済義務はあるの?

民事上の返済義務は、前述の時効が完成するか、あるいは横領した金銭およびそれに伴う損害の全額を返済し終えるまで存続します。一部を返済したとしても、残額についての支払い義務はなくなりません。

また、仮に時効が完成し、法律上の支払い義務が消滅したとしても、他人の財産を不法に利得したという事実に変わりはありません。
そのため、法律上の義務とは別に、道徳的・倫理的な観点から、被害者に対して真摯に謝罪し、返済を尽くすことが望ましいといえるでしょう。

自己破産すれば返済する必要なくなるの?

多額の借金を抱えた場合に利用される自己破産手続ですが、横領による返済義務は、自己破産をしても免れることはできません。
破産法では、破産者が「悪意で加えた不法行為」に基づく損害賠償請求権を、免責の対象とならない「非免責債権」と定めています(破産法第253条1項2号)。

横領は、他人の財産を害することを意図した悪意による不法行為の典型例です。
したがって、横領による損害賠償義務は非免責債権に該当し、裁判所から免責許可決定が下されたとしても、その支払い義務は免除されません。

横領したお金の返済は分割払いにできるの?

横領した金額が高額にのぼり、一括での返済が困難なケースは少なくありません。
法律上、債務は一括で弁済するのが原則ですが、被害者である会社との交渉により、分割での返済を認めてもらえる可能性は十分にあります。

会社側としても、全く回収できないよりは、分割であっても着実に返済してもらう方が利益に適うと判断する場合があるからです。
もっとも、分割払いを認めるか否かは、あくまで会社の裁量によります。真摯な反省の態度を示し、誠実な返済計画を提示することが、交渉の鍵となります。

分割払いの交渉は弁護士にお任せください

分割払いの交渉は、加害者本人が直接行うと、被害者である会社の処罰感情を刺激し、かえって交渉が難航するおそれがあります。
また、法的に有効な合意書を作成しなければ、後々のトラブルの原因ともなりかねません。

このような交渉は、法律の専門家である弁護士に一任することをお勧めします。
弁護士が代理人として介入することで、冷静かつ客観的な話し合いが可能となり、会社側の理解を得やすくなります。また、将来の紛争を防ぐための適切な内容の示談書を作成し、円満な解決を目指します。

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返済の意思はあるが会社がお金を受け取ってくれない場合はどうしたらいいの?

横領の事実が発覚した後、加害者が真摯に反省し、被害弁償を申し出ても、会社側が「返済は受け取らない、刑事罰を受けてもらう」などと、頑なに金銭の受領を拒否するケースがあります。
このような場合、返済の意思と能力があるにもかかわらず、被害弁償ができないという状況に陥ってしまいます。

しかし、このような状況においても、法的に返済と同様の効果を生じさせ、自らの誠意を示すための手段が存在します。

供託という方法があります

会社が正当な理由なく弁済の受領を拒む場合、「弁済供託」という制度を利用することができます(民法第494条1項)。
これは、返済すべき金銭を最寄りの法務局に預ける(供託する)ことで、法的に債務を履行したのと同様の効果を発生させる制度です。

供託を行えば、それ以降の遅延損害金の発生を止めることができます。
また、刑事手続や民事訴訟において、供託を行った事実を証明する書類を証拠として提出し、返済の意思と努力を尽くしたことを客観的に示すことが可能となります。

供託手続は専門的な知識を要するため、弁護士にご相談ください。

会社に返済を申し出たら自分の記憶している金額よりも多い返済を命じられた

横領事件において、会社側が主張する被害額と、本人が認識している横領額との間に齟齬が生じ、トラブルになるケースは頻繁に見られます。
会社側が調査の過程で使途不明金をすべて横領額として計上するなど、実際の被害額よりも過大な金額の返済を求めてくることもあります。

このような場合は、冷静に対応し、会社側が主張する金額の根拠となる証拠の開示を求める必要があります。客観的な証拠に基づいて横領額を正確に確定させ、適切な金額での返済を目指すべきです。
不当な請求に応じる前に、まずは弁護士にご相談ください。

横領したお金を返済しないとどうなるの?

会社と返済に関する合意をしたにもかかわらず、その約束を履行しない場合、深刻な事態を招く可能性があります。

まず、民事上の問題として、会社から返済を求める民事訴訟を提起されるでしょう。
裁判で敗訴すれば、判決に基づき、給与や預貯金、不動産などの財産が差し押さえられる強制執行手続に移行する可能性があります。

また、刑事上の問題として、会社が警察に被害届を提出したり、刑事告訴を行ったりする可能性が極めて高くなります。その結果、警察の捜査が開始され、業務上横領罪の容疑で逮捕・起訴されるリスクに直面することになります。

業務上横領は被害者(会社)からの告訴により事件化するケースが多い

業務上横領罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない「親告罪」ではありません。
したがって、理論上は第三者からの告発などによっても捜査が開始されることはあり得ます。

しかし、犯罪の性質上、その多くは組織内部で行われ、外部からは発覚しにくいのが実情です。
そのため、実際には、被害者である会社が社内調査によって横領の事実を把握し、警察に告訴状や被害届を提出することによって初めて事件化するケースがほとんどを占めています。

会社から告訴されないためには返済していることが重要です

会社からの告訴を避けるためには、被害弁償、すなわち横領した金銭の返済に真摯に取り組むことが極めて重要です。もちろん、返済さえすれば絶対に告訴されないという保証はありません。

しかし、多くの企業にとって、刑事罰を求めること以上に、被った金銭的損害の回復が最優先事項です。
加害者が深く反省し、誠実に返済の努力を尽くす姿を見せることで、会社側が「金銭さえ返還されれば、これ以上の大事にはしたくない」と考え、告訴を見送る可能性は十分にあります。

返済は、被害回復のみならず、反省の態度を示すための最も重要な行動の一つです。

全額返済すると減刑される?

仮に業務上横領罪で逮捕・起訴されてしまった場合でも、被害者である会社に対して横領した金銭の全額を返済(被害弁償)し、示談を成立させることは、量刑を判断する上で非常に重要な意味を持ちます。
被害弁償がなされているという事実は、被告人にとって極めて有利な情状として考慮されます。

これにより、起訴前の段階であれば不起訴処分となる可能性が高まり、起訴後であっても執行猶予付き判決となったり、刑が減軽されたりする可能性が高まります。

業務上横領罪の量刑に影響を与える要素については、こちらの記事で詳しく解説しています。

業務上横領は必ず逮捕される?横領額と刑の重さは関係あるのか

事件化を回避するためにも弁護士にご相談ください

前述のとおり、業務上横領事件の多くは、被害者である会社からの告訴によって事件化します。
逆に言えば、会社が告訴に踏み切る前に適切な対応をとることができれば、事件化そのものを回避できる可能性があるということです。

そのためには、発覚後、直ちに弁護士に相談し、迅速に行動を開始することが不可欠です。
弁護士が代理人として会社側と交渉し、被害弁償を含む示談を成立させることで、告訴を未然に防ぎ、円満な解決を図ることが可能となります。

会社との示談交渉も弁護士にお任せください

会社との示談交渉では、返済額や返済方法(一括か分割か)、遅延損害金の有無といった金銭的な条件に加え、「宥恕(ゆうじょ)条項」と呼ばれる、加害者を許し刑事処罰を求めない旨の条項を盛り込むことが重要になります。

これらの複雑な交渉を、深い負い目のある加害者本人が行うことは精神的にも困難であり、不利な条件で合意してしまうリスクもあります。
横領事件の示談交渉の経験が豊富な弁護士であれば、依頼者の利益を守りつつ、円滑かつ適切な内容での示談成立を目指すことが可能となります。

返済をお考えの方、返済で会社とトラブルになっている方はまずは弁護士にご相談ください

会社のお金を横領してしまい、これから返済を考えている方、あるいは既に返済を開始しているものの会社との間でトラブルが生じている方は、早い段階で、弁護士にご相談されることをお勧めします。

横領事件は、初動の対応がその後の結果を大きく左右します。弁護士に早期に相談することで、刑事事件化の回避や、民事上の紛争の円満な解決、そして何よりご自身の社会生活への影響を最小限に抑えるための最善の道筋を見出すことができます。

一人で抱え込まず、まずは専門家である弁護士の助言を仰がれてください。

会社のお金を横領してしまい、損害賠償や示談金の支払いを求められている方向けに、示談金の相場や、支払いの際に気を付けるポイント、会社との示談交渉の進め方について解説します。

会社のお金を横領すると業務上横領が成立する可能性がある。

経理担当者が会社の売上金を私的に使用するなど、業務上で管理している金銭を横領してしまった場合、横領罪の中でも、業務上横領罪が成立する可能性があります。
この場合、損害賠償責任を負うことになります。

業務上横領とは

業務上横領罪は、他人の物を取り扱う業務に従事している者が、その業務に関して自己の占有する他人の物を横領することで成立する犯罪です。法定刑は10年以下の懲役と定められています。

業務上横領罪について、詳しくは以下の記事で解説します。

業務上横領は必ず逮捕される?横領額と刑の重さは関係あるのか

横領罪とは

横領罪は、自己の占有する他人の物を不法に領得した場合に成立する犯罪です。業務上横領罪は、横領罪よりも重い刑罰が科せられる犯罪です。

横領罪について、詳しくは以下の記事で解説します。

横領罪の初犯は執行猶予がつく?背任罪とのちがい

横領すると民事上、刑事上の責任を負うことになる

会社のお金を横領した場合、法的には、刑事上と民事上の責任を問われることになります。

刑事上の責任は、横領罪または業務上横領罪に該当し、刑事罰を課されることになります。
一方で、民事上の責任は、不法行為に基づく損害賠償請求を受けることになります。

民事上の責任

横領という不法行為によって会社に損害を与えた者は、民法第709条に基づく損害賠償責任を負うことになります。

この損害賠償責任は、横領された金銭の返還のみならず、会社の信用失墜によって生じた損害や、横領行為によって会社が被った調査費用なども含まれることがあります。
また、不法行為があった時点から返済が完了するまでの遅延損害金も請求される可能性があります。

刑事上の責任

業務上横領罪で有罪が確定した場合、刑事罰として懲役刑が科せられることになります。
刑法第253条は、業務上横領罪の法定刑を「10年以下の懲役」と定めています。

実際に科される刑罰は、横領金額の多寡、動機、被害弁済の有無、並びに示談が成立しているか等、様々な事情を考慮して決定されます。

会社に与えた損害により懲戒処分になる可能性もある

会社のお金を横領した場合は、会社に損害を与えたことにより、懲戒処分される可能性があります。懲戒処分の段階は様々ですが、横領行為は非常に悪質と判断されるため、懲戒解雇とされる可能性が高いです。

過去の裁判例では、被害金額の大小に関わらず懲戒解雇処分を有効と判断しているケースが多く存在します。

重い処罰を回避するために損害賠償をしておくことは非常に重要

損害賠償をしたからといって、必ずしも懲戒処分を免れたり、事件化が回避されたりするわけではありません。しかし、横領罪は相手からの被害申告がなければ事件化しないことが多いため、被害額が少なく、会社が大事にしたくないケースなどにおいては、損害賠償をしておくことが重要です。

横領罪は会社からの被害者申告(告訴)がなければ事件化しないことが多い

業務上横領が事件化するには、被害者である会社側からの告訴が必要となるケースが多いです。必ずしも必要ではなく、被害者からの通報がなくても、第三者からの通報で事件化することがあります。
しかし、実務上は被害者からの被害申告がきっかけで事件化することが多いです。

示談交渉を弁護士に依頼するメリット

横領の示談交渉を弁護士に依頼するメリットは、当事者同士の交渉では、感情的な対立により話がこじれてしまう危険性があるためです。

弁護士は会社との間に立ち、客観的な第三者として冷静に交渉を進め、適正な賠償額の算定や支払方法の交渉をサポートします。これにより、事件化の回避や穏便な解決を目指します。

損害賠償金を支払っておくことは事件化した際に量刑を与える可能性がある

万が一事件化した場合、損害賠償の有無や金額は、量刑を決定する上で非常に重要な要素となります。

被害者への弁済が完了している場合や、示談が成立している場合は、その事実が裁判官に反省の態度として評価され、刑が軽くなる可能性があります。
一方で、被害弁済が全くされていない場合は、そのことが量刑に悪影響を及ぼす可能性があります。

その他の量刑に影響を与える要素

業務上横領罪の量刑は、被害弁済の有無だけでなく、様々な要素によって影響を受けます。
例えば、横領の動機(生活苦によるものか、遊興費のためか等)、横領した期間、横領の回数、横領金額の多寡、及び前科の有無等が考慮されます。
これらの要素は、裁判官が被告人の反省度合いや再犯の可能性を判断する上で重要な材料となります。

業務上横領罪の詳細については、以下の記事で解説します。

業務上横領は必ず逮捕される?横領額と刑の重さは関係あるのか
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横領の損害賠償金(示談金)の相場

横領の損害賠償金や示談金には、明確な相場はありません。
しかし、以下の要素が含まれるのが一般的です。

  • (1)横領した金額全額:当然のことながら、横領した金額の全額を返済する必要があります。
  • (2)遅延損害金:横領したときから時間が経っている場合は、遅延損害金を上乗せした金額となります。
  • (3)迷惑料:当事者間の取り決めなので、迷惑料を上乗せした金額を支払うケースもあります。

最終的な金額は、当事者間の話し合いで決定されます。

横領したお金は使ってしまった。分割で支払うことは可能なの?

横領したお金をすでに使ってしまったり、金額が大きすぎて一括での返済が難しかったりする場合、分割払いを認めてくれることもあります。ただし、これはあくまで会社の承諾があってのことです。

会社との分割払いの交渉も弁護士にお任せください

横領した金銭を既に使ってしまい、手元にない場合や、横領額が大きく一括での返済が困難な場合があります。このような状況でも、会社側は被害金額の回収を最優先に考えるため、分割払いを認めてくれることがあります。

ただし、分割払いが認められるかどうかは会社の判断次第であり、必ずしも応じてもらえるわけではないことに注意が必要です。

自分が支払えない場合、親や家族に損害賠償請求がいくことはあるの?

原則として、賠償責任は横領した本人にあります。しかし、入社の際に身元保証人になっていたり、会社と返済契約を交わす際に保証人になっていたりすると、請求がいく可能性があります。

自己破産すれば損害賠償金を支払わなくていいの?

横領行為によって発生した損害賠償金は、自己破産をしても支払いを免れることはできません。
破産法第253条1項2号は、破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権を非免責債権として定めているためです。

損害賠償を支払う際のポイント

損害賠償責任を支払う際には、後のトラブルを避けるためにいくつかの注意点があります。

公正証書を作成しておく

後のトラブルを避けるため、支払額や分割払いの回数などの取り決めを公正証書として残しておくようにしましょう。公正証書は、公証人が作成する公文書であり、強い証拠力を持つため、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。

領収書を必ずもらい保管しておく

返済した際には、トラブルを避けるため領収書を必ずもらうようにしましょう。
分割払いの際はその都度もらうようにしてください。領収書は、支払いが完了したことを証明する重要な書類であり、将来的なトラブルが発生した場合の証拠となります。

支払い期限は必ず守る

大前提として、会社と決めた返済期日は必ず守るようにしましょう。返済が遅れた場合、遅延損害金を支払う可能性があります。

横領の損害賠償請求が来た方や示談交渉をお考えの方は弁護士にご相談ください

分割払いの交渉や示談交渉は、横領した当事者では話がこじれてしまい難しいこともあります。
横領してしまい損害賠償をお考えの際は、お早めに弁護士にご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。