共有名義で相続登記を行うデメリット

共有名義で相続登記を行うデメリット

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

遺産分割協議において相続人間の合意形成が難しい場合、不動産を共有名義で相続登記することにより、一時的に問題を解決できることがあります。

しかしながら、共有名義での不動産所有は、その後の活用や処分に制約が生じ、将来的に新たな紛争の火種となる可能性をはらんでおり、必ずしも最適な解決策とは言えません。

本記事では、不動産の共有名義がもたらす具体的な問題点、相続との関係性、共有名義での相続を回避する方法、そして既に発生してしまった共有状態を解消するための具体的な手続きについて、詳しく解説します。

共有名義とはどんな状態のこと?

「共有」とは、一つの物を複数の者が共同で所有する状態を指します。

不動産の所有権が複数人に帰属している場合、その権利関係を登記簿上で公示したものが「共有名義」です。各共有者は、その不動産に対して持分という権利の割合を有します。

相続においては、遺産分割協議が完了するまでの間、各相続人が法定相続分に応じて被相続人の財産を共有するという状態が生じることがあります。この遺産を共有している状態を経て、遺産分割協議の結果として共有名義で登記する場合もあります。

共有名義のメリット

共有名義で相続登記を行う主な利点は、相続人間の公平感を確保しやすい点にあります。

遺産分割協議において、特定の相続人が不動産を単独で取得することに異論が出る場合でも、法定相続分に従って共有名義で登記をすることにより、形式的な平等を保つことができます。

これにより、相続を巡る争いを一時的に収束させ、当事者が冷静に話し合うための時間を確保できる可能性があります。

共有名義のデメリット

共有名義の不動産は、その活用や処分に制約が生じることが最大の欠点です。

不動産全体を売却したり、大規模な増改築を行ったり、第三者に賃貸借契約を締結したりする行為には、共有者の同意が必要となるなど、簡単には処分等ができなくなってしまいます。

また、共有者が死亡すると、その者の持分はさらにその相続人に承継されるため、時間の経過とともに権利関係者がネズミ算式に増加し、合意形成はますます困難になります。

これは、問題を次世代に先送りすることに他ならず、結果として不動産が有効活用も処分もできない状態に陥る危険性をはらんでいます。

共有名義で不動産を相続する場合の手続き

不動産を共有名義で相続する場合、まず相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどのくらいの持分割合で共有するのかを決定します。

その合意内容を記した遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名及び押印をします。

その後、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、住民票、印鑑証明書、不動産の固定資産評価証明書などの必要書類を揃え、不動産の所在地を管轄する法務局に対して登記を申請を行います。

共有名義で不動産を相続したくない場合の対処法

不動産を共有名義で相続することを望まない場合、いくつかの選択肢が考えられます。

一つは「相続放棄」です。家庭裁判所で手続きを行うことで、不動産だけでなく全ての遺産を相続しないことになります。
もう一つは、遺産分割協議において、他の相続人に不動産を単独で取得してもらう方法です。

その代償として、他の財産(預貯金など)を多く相続する(代償分割)、あるいは不動産を売却してその代金を分割する(換価分割)といった方法で調整を図ることが可能です。

相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします

相続問題ご相談受付

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
相続問題の経験豊富な弁護士にお任せください

共有名義の相続登記を解消する方法は?

一度共有名義となった不動産の共有状態を解消するには、まず共有者全員での協議が基本となります。協議において、特定の共有者が他の共有者の持分を全て買い取る、あるいは他の共有者から持分の贈与を受けて単独所有とする方法が考えられます。

また、不動産全体を第三者に売却し、その売却代金を持分割合に応じて分配する(換価分割)方法もあります。

もし、共有者間での話し合いがまとまらない場合には、裁判所に対して「共有物分割請求訴訟」を提起することができます(民法第258条)。

裁判所は、現物を分割する方法(現物分割)、一人が不動産を取得し他の共有者に対価を支払う方法(代償分割)、不動産を競売にかけて代金を分ける方法(換価分割)など、事案に応じた適切な方法で共有関係の解消を命じます。

共有名義での相続登記に関するQ&A

共有名義の不動産の固定資産税は、どう課税されるのですか?

共有名義の不動産にかかる固定資産税は、共有者全員がそれぞれの持分割合に関わらず、納税額の全額について連帯して納付する義務を負います(地方税法第10条の2第1項)。これを連帯納税義務といいます。

ただし、市区町村から送付される納税通知書は、通常、共有者の中から選ばれた代表者一人にのみ送付されます。
そのため、実際に誰がどのように税金を負担するのかについては、共有者間で事前に取り決めておかないと、後々のトラブルの原因となる可能性があります。

親と長男の共有名義の不動産、親が死亡したらどうなる?

ご質問の事例(家族構成:父・母・長男・次男で、父と長男の共有名義)のように、父と長男が不動産を共有している状況で父が亡くなった場合、相続の対象となるのは父が所有していた持分のみです。

長男が元々所有していた持分は、相続財産には含まれません。
この事例における相続人は、母、長男、次男の3人です。したがって、父の持分については、この3人で遺産分割協議を行い、誰が相続するのかを決定する必要があります。

法定相続分に従うと、母が父の持分の2分の1、長男と次男がそれぞれ4分の1ずつを相続することになり、不動産の権利関係はさらに複雑化します。
協議により、特定の相続人が父の持分を全て相続することも可能です。

共有持分を相続する場合の登録免許税はいくらですか?

相続を原因とする所有権移転登記の登録免許税は、原則として不動産の価額の1000分の4(0.4%)です(登録免許税法別表第一 第1号(二)ハ)。
これは、不動産全体を相続する場合でも、共有持分のみを相続する場合でも税率は同じです。ただし、計算の基礎となる課税標準が異なります。

共有持分を相続する場合の課税標準は、不動産全体の固定資産評価額ではなく、その評価額に相続する持分の割合を乗じて算出した金額となります。

共有名義の相続登記についてご心配な点は、ぜひ弁護士にご相談ください

これまで見てきたように、不動産を安易に共有名義で相続することは、多くのデメリットを内包しており、将来の紛争の種になりかねません。

遺産分割協議の段階で相続人間の意見がまとまらない場合でも、弁護士が介入することで、法的な観点から公平かつ円満な解決策を提示することが可能です。

代償分割や換価分割、共有物分割請求など、共有名義を回避し、あるいは共有状態を解消するための具体的な方法を提案し、他の相続人との交渉を代理することもできます。

将来にわたる無用な争いを避け、円滑な資産承継を実現するためにも、共有名義での相続登記をされる前に、一度、法律の専門家である弁護士に相談されることを強く推奨します。

交通事故によって怪我を負い、治療を続けたにもかかわらず痛みやしびれなどの症状が残ってしまった場合、後遺障害等級の認定を申請することになります。

しかし、申請すれば必ず認定されるわけではなく、「非該当」という結果になることも少なくありません。体に辛い症状が残っているのに、正当な補償が受けられないのではないかと、ご不安に思われる方もいらっしゃるでしょう。

本記事では、後遺障害等級が認定されない場合に考えられる主な理由と、非該当の通知を受けてしまった場合の具体的な対処法について、詳しく解説します。

後遺障害等級が認定されない理由

後遺障害等級が認定されない場合、その原因は一つとは限りませんが、主に次の5つの理由が考えられます。これらの要因が複合的に影響し、非該当という判断に至ることがあります。

  • 後遺障害診断書の記載が不十分
  • 症状を裏付ける他覚的所見・検査が不足している
  • 通院期間・通院日数が足りていない
  • 症状に連続性・一貫性がない
  • 交通事故の規模が小さい

以下、それぞれの理由について詳しく見ていきましょう。

後遺障害診断書の記載が不十分

後遺障害等級認定の審査において、医師が作成する「後遺障害診断書」は最も重要な書類の一つです。

この診断書の内容に記載漏れや誤りがあったり、症状の具体的な内容が十分に記載されていなかったりすると、症状が正しく評価されず、非該当の原因となります。

医師は治療の専門家ですが、後遺障害認定の専門家ではないため、認定に必要な情報が記載されないケースもあります。

ご自身の症状を正確かつ具体的に医師に伝え、適切な内容を記載してもらうことが極めて重要です。

症状を裏付ける他覚的所見・検査が不足している

被害者の方が訴える症状(自覚症状)を客観的に証明する医学的な所見、すなわち「他覚的所見」が不足していると、等級認定は難しくなります。

他覚的所見とは、レントゲン、MRI、CTなどの画像検査や、神経学的検査などによって明らかになる異常所見のことです。

特に、むちうちなどの神経症状は画像に写りにくいため、症状の存在を証明するための神経学的検査などを適切に受けておくことが、認定の可能性を高める鍵となります。

通院期間・通院日数が足りていない

症状固定までの通院期間が短い、あるいは通院日数が極端に少ない場合、「症状が軽微であった」または「治療に専念しなかったために症状が残った」と判断され、非該当となる可能性があります。

後遺障害は、適切な治療を継続してもなお残存してしまった症状に対して認定されるものです。そのため、医師の指示に従い、適切な頻度で定期的に通院を続けることが、症状の存在と治療への真摯な取り組みを証明する上で重要になります。

症状に連続性・一貫性がない

事故直後から症状固定に至るまで、症状の訴えに連続性や一貫性がない場合も、認定の妨げとなることがあります。

例えば、事故当初は訴えていなかった部位の痛みを、治療の途中から急に訴え始めたり、カルテの記載と後遺障害診断書の自覚症状の内容が異なっていたりすると、症状と事故との因果関係が疑われる可能性があります。

事故直後から、痛みや違和感がある部位はすべて医師に伝え、継続して症状を訴え続けることが大切です。

交通事故の規模が小さい

車両の損傷がほとんどないような軽微な物損事故の場合、後遺障害が残るほどの強い衝撃はなかったと判断され、症状と事故との因果関係を否定される傾向があります。

もちろん、事故の規模が小さくても体に症状が残ることはありますが、審査機関は客観的な事故の規模を重視するため、認定のハードルは高くなります。

このような場合でも、事故直後から継続して通院し、症状の存在を記録に残しておくことが重要です。

交通事故で最も多い「むちうち」の後遺障害認定は特に厳しい

交通事故による怪我の中で最も多い「むちうち(頚椎捻挫、腰椎捻挫など)」は、後遺障害等級の認定が特に厳しい傷病の一つです。

その主な理由は、痛みやしびれといった症状が被害者の訴え(自覚症状)が中心となり、レントゲンやMRIなどの画像検査では異常が見つからない、いわゆる「他覚的所見」に乏しいケースが多いからです。

客観的な証拠が少ないため、症状の存在を証明することが難しく、認定されにくい傾向にあります。適切な神経学的検査を受けるなど、症状を客観的に示すための対策が不可欠です。

後遺障害に認定されなかった場合は慰謝料をもらえない?

後遺障害等級が非該当となった場合でも、すべての慰謝料がもらえなくなるわけではありません。交通事故の慰謝料には、主に「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」の2種類があります。

入通院慰謝料は、交通事故による怪我で入院や通院を余儀なくされたことに対する精神的苦痛への補償です。これは、後遺障害の認定有無にかかわらず、治療期間や通院日数に応じて請求することができます。

一方、後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ったことによる将来にわたる精神的苦痛への補償です。したがって、後遺障害等級が認定されなければ、原則として後遺障害慰謝料を受け取ることはできません。

ただし、例外的に、等級には該当しないものの、顔に目立つ傷が残った場合など、将来の仕事や生活への影響が明らかであると裁判所が判断したケースでは、後遺障害慰謝料に相当する賠償が認められた例も存在します。

まずは交通事故事件専属のスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

交通事故被害者専門ダイヤル

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
交通事故の経験豊富な弁護士にお任せください

後遺障害等級認定で「非該当」と通知されたときの対処法

非該当という結果に納得できない場合、その判断を覆すための手段がいくつか残されています。諦めずに、以下の方法を検討しましょう。

異議申立てを行う

後遺障害等級の認定結果に対して不服がある場合、審査を行った自賠責保険会社に対して再審査を求める「異議申立て」を行うことができます。
異議申立ての回数に制限はありません。

しかし、一度下された判断を覆すためには、なぜ非該当となったのか理由を分析し、それを覆すだけの新たな医学的証拠や説得力のある主張を用意する必要があります。

単に不服であると主張するだけでは結果は変わりません。
そのため、異議申立ては非常に難易度が高く、専門家である弁護士のサポートが不可欠と言えるでしょう。

異議申立てには時効がある?

異議申立てという手続き自体には、法律上の時効期間は定められていません。
しかし、注意すべきは、加害者の自賠責保険に対する被害者からの損害賠償請求権(被害者請求権)の時効です。

この請求権は、自動車損害賠償保障法第19条により、症状固定日から3年で時効によって消滅してしまいます。

せっかく異議申立てによって等級が認定されても、保険金を請求する権利が時効で消滅していては意味がありません。
そのため、異議申立ては実質的に症状固定日から3年以内に行う必要があると考えるべきです。

紛争処理制度を利用する

異議申立てを経ても結果に納得できない場合や、異議申立てとは別の手段を取りたい場合、「自賠責保険・共済紛争処理機構」に審査を申し立てる「紛争処理制度」を利用する方法があります。

この制度は、弁護士や医師など、中立かつ公正な立場の専門家で構成される紛争処理委員会が、自賠責保険会社の判断が妥当であったかを審査するものです。

手数料は無料で、新たな証拠を追加することも可能です。
ただし、申請は一度しかできず、審査には数か月から1年程度の長い期間がかかる点には注意が必要です。

紛争処理申請の流れ

紛争処理制度を利用する場合、一般的に以下のような流れで手続きが進みます。

  1. ①申請書の提出: 紛争処理申請書やその他必要書類を準備し、自賠責保険・共済紛争処理機構に提出します。
  2. ②受理の判断: 機構は、自賠責保険会社から事故に関する資料を取り寄せ、申請を受理できるか判断します。受理可能と判断されれば、申請者に受理通知が送付されます。
  3. ③紛争処理委員会による審査: 受理後、紛争処理委員会が取り寄せた資料や申請者が提出した資料に基づき、公平な立場で審査を行います。
  4. ④結果の通知: 審査結果(「調停結果通知書」)が、申請者および自賠責保険会社などの関係者に通知されます。

紛争処理申請の必要書類

紛争処理の申請には、主に以下の書類が必要となります。これらの書類は、自賠責保険・共済紛争処理機構のウェブサイトからダウンロードできるものもあります。

  • 紛争処理申請書
  • 紛争処理を求める事項やその理由を記載した書類(別紙)
  • 同意書
  • 交通事故証明書
  • 自賠責保険会社からの支払通知書や後遺障害非該当の通知書
  • レントゲン写真、MRI画像などの資料
  • (弁護士に依頼する場合)委任状、委任者の印鑑証明書

不備なく書類を準備することが、スムーズな審査のために重要です。

裁判を提起する

異議申立てや紛争処理制度を利用しても望む結果が得られなかった場合、最終的な手段として、裁判所に対して損害賠償請求訴訟を提起する方法があります。

裁判所は、自賠責保険の認定結果に拘束されず、提出された証拠に基づいて独自に後遺障害の有無や等級を判断します。

そのため、これまでの判断が覆り、後遺障害が認められる可能性はあります。しかし、裁判には多くの時間と費用がかかる上、専門的な知識が不可欠です。

訴訟に踏み切る際は、交通事故案件に精通した弁護士に依頼することが強く推奨されます。

後遺障害が非該当となった場合に弁護士に依頼するメリット

後遺障害が非該当となった場合、弁護士に相談・依頼することで多くのメリットが得られます。まず、弁護士は非該当となった理由を専門的な視点から分析し、異議申立てなどで認定を覆すために何が必要かを的確に判断できます。

例えば、追加で取得すべき医療記録や、医師に作成を依頼すべき意見書の内容について具体的なアドバイスが可能です。

また、法的な主張を組み立てた異議申立書の作成や、保険会社との交渉、煩雑な手続きのすべてを任せることができるため、被害者の方の精神的・時間的な負担を大幅に軽減できます。

後遺障害等級認定の異議申立ての結果、等級が認定された事例

【事案の概要】

依頼者は、自動車で信号待ち中に後方から追突される事故に遭いました。

事故後、約6か月にわたり通院を続けましたが、首と腰に痛みとしびれが残り、後遺障害等級認定を申請したところ「非該当」と判断されました。
この結果に納得がいかず、当事務所にご相談に来られました。

【弁護士の対応と結果】

担当弁護士は、依頼者から詳細な聞き取りを行い、事故態様、治療経過、症状の内容などを精査しました。そして、非該当の理由を分析した上で、依頼者の症状を医学的に証明するために有用と考えられる新たな証拠を収集し、説得力のある主張を記載した異議申立書を作成・提出しました。

その結果、一度は非該当とされた判断が覆り、後遺障害等級14級9号が認定されました。

これにより、依頼者は等級に応じた後遺障害慰謝料および逸失利益を獲得することができ、正当な補償を受けることができました。

後遺障害認定されない・非該当の場合はご相談ください。弁護士が等級獲得に向けてサポートいたします。

後遺障害等級が「非該当」となっても、決して諦める必要はありません。異議申立てなどの手続きを通じて、適切な等級が認定される可能性は十分にあります。

しかし、その判断を覆すためには、医学的・法的な専門知識に基づいた的確な主張と立証が不可欠です。

なぜ非該当になったのか、その理由を正確に分析し、次の一手をどう打つべきか。その判断には専門家の力が欠かせません。
後遺障害の認定結果は、最終的に受け取れる賠償金額に極めて大きな影響を与えます。

納得できない結果を受け入れる前に、まずは一度、交通事故案件の経験豊富な弁護士にご相談ください。時効の問題もありますので、お早めに行動することが重要です。

夫婦の仲が悪くなって、前に一度書いてしまった離婚届を勝手に出されてしまうのではないかと不安を抱く方は少なくありません。

また、離婚に合意していないにもかかわらず、相手方が勝手に離婚届を作成してしまうというケースも残念ながら存在します。

このような状況に直面した際、ご自身の意思に反する離婚が成立してしまうことを防ぐための有効な手段として「離婚届不受理申出」があります。

本記事では、この不受理申出制度の概要、手続き方法、万が一の事態への対処法などについて詳しく説明していきます。

勝手に出された離婚届は受理されてしまう?

ご自身の知らない間に、又は、同意していないにもかかわらず、相手方が勝手に作成した離婚届が役所に提出された場合、その離婚届が受理されてしまう可能性は十分にあります。

日本の戸籍制度においては、離婚届が提出された際、役所の担当者は形式的な面(署名・押印の有無、証人欄の記載など)のみを確認し、離婚の意思が双方にあるかどうかまで実質的に確認することは困難だからです。

特に、筆跡が偽造されている場合や、印鑑が勝手に持ち出されて押印されている場合でも、外見上問題がなければ受理されてしまう可能性はあります。

一度受理されてしまうと、法的には離婚が成立したことになるので、その状態を覆すためには複雑な法的手続きが必要となります。そのため、ご自身の意思に反する離婚を防ぐためには、事前に予防策を講じることが極めて重要になります。

離婚届の不受理申出制度とは

離婚届不受理申出制度とは、ご自身の意思に反して離婚届が提出されたとしても、役所がその離婚届を受理しないようにするための法的な手続きです。

この制度を利用することで、事前に役所に対して「自分が窓口に出頭して提出する離婚届以外は受理しないでください」という意思表示をすることができます。

具体的には、本人の署名・押印がある離婚届で会っても、不受理申出が提出されていれば、役所の担当者は原則として離婚届を受理しません。
これにより、相手方が勝手意に作成・提出した離婚届によって、ご自身の知らないうちに離婚が成立してしまう事態を未然に防ぐことが可能となります。

特に、夫婦関係が悪化し、相手方による一方的な行動が懸念される場合には特に有効な防衛策といえます。

不受理申出をした方が良いケース

離婚届の不受理申出は、以下のようなケースで特にその必要性が高まります。

まず、夫婦間の話し合いがまとまっておらず、離婚の合意が形成されていないにもかかわらず、相手方が強引に離婚を成立させようとするおそれがある場合です。
例えば、相手方が離婚を急いでおり、一方的に離婚届の作成を進めていることが疑われるケースなどが挙げられます。

次に、相手方による署名・押印の偽造や、印鑑の無断使用の危険性がある場合です。夫婦間で日常的に印鑑や身分証明書が共有されているような状況では、特に注意が必要です。

また、モラハラやDVなどの問題があり、相手方からの精神的・肉体的圧迫を受けている状況下では、正常な判断能力が阻害され、意に反する離婚に同意させられるリスクもあります。

このような状況下では、ご自身の意思を守るための最後の砦として、不受理申出が非常に有効な手段となります。

離婚届不受理申出をするメリット・デメリット

離婚届不受理申出には、上記のとおり、その目的に沿った大きなメリットがある一方で、いくつか考慮すべきデメリットも存在します。

制度の利用を検討する際は、これらの点を総合的に考慮したうえで判断することが重要です。

メリット

最大のメリットは、上記のとおり、何よりもご自身の意思に反して勝手に離婚が成立してしまう事態を確実に防げる点にあります。

不受理申出を一度提出しておけば、ご自身が窓口に出向いて離婚届を提出しない限り、相手方が偽造した離婚届や、勝手に作成した離婚届が受理されることはありません。

これにより、精神的な安心感を得ることができ、離婚に向けた冷静な話し合いを進めるための時間的猶予を確保できます。
また、相手方に対して「勝手に離婚を進めさせない」という強い意思表示となり、交渉の主導権を確保する上でも有効な心理的効果をもたらすことがあります。

意図せぬ離婚を防ぐことで、その後の婚姻関係の継続や、適切な離婚条件の交渉につながることとなります。

デメリット

一方で、不受理申出にはいくつかのデメリットも存在します。

まず、相手方に不受理申出をしたことが知られてしまう可能性がある点です。
役所は、不受理申出があったことを相手方に通知することはありませんが、相手方が離婚届を提出しようとした際に受理されないことで、不受理申出がされていることに気づかれる可能性があります。

これにより、夫婦関係がさらに悪化し、感情的な対立が深まることも考えられます。

次に、一度不受理申出を行うと、たとえ後で合意ができても、ご自身が役所の窓口に出向いて申出を撤回するか、ご自身が署名・押印した離婚届を提出するまで、離婚が成立しない状態が続くという点です。

相手方に離婚届の提出を任せることができないことになります。このことは、迅速な離婚を望む場合には手続きが煩雑になる原因になり得ます。

そのため、不受理申出は、あくまで「勝手な離婚」を防ぐための最終手段として捉え、その後の夫婦関係や離婚交渉への影響も考慮した上で慎重に判断する必要があります。

離婚届不受理申出の手続き方法

離婚届不受理申出の手続きは、比較的簡単に行うことができます。重要なのは、正しい書類を準備し、適切な窓口に提出することです。

以下に、手続きの主な流れと必要事項を解説します。

申出ができる人

離婚届の不受理申出ができるのは、申出を希望する本人に限られます。具体的には、離婚届の「届出人」となるべき者、つまり夫婦のいずれか一方が申出を行うことができます。

例えば、夫が勝手に離婚届を提出するのを防ぎたい妻、あるいは妻が勝手に提出するのを防ぎたい夫がそれぞれ申出を行うことが可能です。

代理人による申出は原則として認められていません。申出の際には、本人の意思確認と身元確認が厳格に行われるため、必ず申出者本人が役所の窓口に出向く必要があります。

申出先

離婚届の不受理申出の提出先は、原則として、申出を行う方(夫婦のいずれか)の本籍地または所在地(住民票のある場所)の市区町村役場となります。

また、申出は基本的には役所の開庁時間内に行う必要がありますが、休日や夜間でも宿直窓口で受け付けてもらえる場合がありますので、急を要する場合には事前に役所に確認しておくとよいです。

本籍地以外の提出は可能?

本籍地以外の市区町村役場でも、離婚届の不受理申出を行うことはできます。申出人の現在の所在地(住民登録をしている場所)の役場でも受理されます。

これは、転勤や引っ越しなどで本籍地と現住所が離れている場合でも、迅速に手続きを行えるようにするための配慮とされています。

例えば、本籍地が遠方にあっても、現在お住まいの地域の役所で手続きをすることで、時間や労力をかけずに不受理申出を完了させることができます。

どちらの役場に提出しても、その不受理申出の効力は全国の自治体で有効ですので、全国どこの役所に離婚届が提出されても受理されない状態となります。

申出に必要なもの

婚届不受理申出を行う際に必要なものは、以下のとおりです。

  • 1.離婚届不受理申出書
    各市区町村役場の戸籍課窓口に備え付けられているほか、多くの場合、役所のウェブサイトからダウンロードすることも可能です。
    事前に記入しておくと、手続きをスムーズに進められます。
  • 2.本人確認書類
    運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど、顔写真付きの公的身分証明書が1点必要になります。顔写真がない健康保険証や年金手帳などの場合は、2点以上の提示を求められることがありますので、お気を付けください。
  • 3.印鑑
    申出書に押印するための印鑑(認印で可)が必要です。シャチハタは認められない場合が多いので注意してください。
  • 4.戸籍謄本
    本籍地以外の役場に申出をする場合、申出人ご自身の戸籍謄本が必要となることがありますので、事前に確認されると安心です。なお、本籍地の役場で申出をする場合は不要です。

あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います

離婚問題ご相談受付

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
離婚問題の経験豊富な弁護士にお任せください

離婚届不受理申出書の書き方

離婚届不受理申出書は、戸籍課の窓口に備え付けられている用紙又はウェブサイト上でダウンロードできる書式を使用します。主な記入事項は以下のとおりです。

  • 申出の年月日
  • 申出人:申出を行う本人の氏名、生年月日、住所、本籍、署名、押印をします。
  • 対象者:相手方の氏名、生年月日、本籍を記入します。
  • 申出の趣旨:通常、「夫(又は妻)から提出される離婚届を受理しないよう申し出ます」といった定型文が印刷されていますので、記載は不要ですが確認されるとよいです。
  • 不受理とする届出の種類:今回は「離婚届」にチェックを入れます。

記入に際しては、黒のボールペンを使用し、訂正する場合は二重線で消して訂正印を押すのが一般的です。不明な点があれば、役所の窓口で質問すれば丁寧に教えてもらえます。

不受理申出に有効期限はある?

離婚届不受理申出には、有効期限というものはありません。
一度有効に提出された不受理申出は、申出を行った本人が「不受理申出の取り下げ(撤回)届」を提出しない限り、半永久的にその効力が継続します。

これは、本人の意思に反する離婚が勝手に成立してしまうリスクを継続的に排除することを目的としているためです。

したがって、例えば離婚の話し合いが一時的に中断した場合や、相手方との関係が改善し、当面は離婚の危険がないと思われる場合でも、申出を撤回しない限りは効力が失われることはありません。

ですので、将来的に合意離婚をする際には、必ずご自身で不受理申出を取り下げる手続き、又は、ご自身で離婚届を提出することが必要となる点に留意が必要です。

不受理申出を撤回・取り下げることはできる?

一度提出した離婚届不受理申出は、いつでも撤回・取り下げることができます。
撤回の手続きは、不受理申出を行った時と同様に、申出を行った本人が直接役所の窓口に出向いて行う必要があります。

【撤回・取り下げの手続き方法】

  1. ①「不受理申出の取り下げ(撤回)届」を役所の戸籍課窓口で取得・記入します。
  2. ②本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど顔写真付きの公的身分証明書)を提示します。
  3. ③印鑑(認印で可)を持参し、押印します。

この手続きが完了すると、不受理申出の効力は失われ、その後は有効な離婚届が提出されれば受理されるようになります。

離婚の合意が成立し、双方の意思に基づいて離婚届を作成し、相手方が提出する際には、この撤回手続きが必要となりますので、忘れないように注意してください。

申出が間に合わず離婚届が受理された場合の対処法

万が一、離婚届不受理申出を提出する前に、あるいは何らかの事情で不受理申出が間に合わずに、ご自身の意思に反して離婚届が受理されてしまった場合には、法的にその離婚は無効であると主張するための手続きをとる必要があります。

離婚無効調停

離婚届がご自身の意思に反して受理されてしまった場合、最初に行うべきは、家庭裁判所への離婚無効調停の申立てです。

この調停は、「受理された離婚は無効である」ということを家庭裁判所に認めてもらうための手続きです。調停委員を交えて相手方との話し合いを試み、合意が得られれば調停成立となり、離婚が無効となります。

しかし、相手方が合意しない限り、無効とはなりません。

離婚無効訴訟

離婚無効調停が不成立に終わった場合や、そもそも調停が適切ではないと判断される場合には、離婚無効訴訟を提起することになります。これは、家庭裁判所に「当該離婚の届出は無効である」ことの判断を求める訴訟です。

訴訟では、偽造の事実や、ご自身の離婚の意思がなかったことを客観的な証拠に基づいて主張・立証していく必要があります。裁判所の判決により離婚が無効と認められれば、その離婚ははじめからなかったことになります。

この訴訟は専門的な知識と経験を要するため、弁護士にご相談いただくことを強くお勧めします。

離婚届の不受理申出に関するQ&A

不受理申出をしたことが相手にバレることはありますか?

役所は、不受理申出があったことを相手方に直接通知することはありません。

しかし、相手方が勝手に離婚届を提出しようとした際に、役所で「不受理申出がされていますので、受理できません」と告げられることで、不受理申出がされていることに気づかれる可能性はあります。

離婚届を勝手に提出することは犯罪になるのでしょうか?

ご自身の同意なく、偽造した離婚届を提出したり、印鑑を無断で使用して離婚届を提出したりする行為は、犯罪に該当する可能性があります。

具体的には、文書偽造罪(私文書偽造罪)、偽造私文書行使罪、公正証書原本不実記載等罪(虚偽の届け出をした場合)などが問われる可能性があります。
このような行為は、民事上の無効を主張できるだけでなく、刑事上の責任も追及される可能性がありますのでお気を付けください。

不受理申出をしなくても、離婚届が受理されないケースはありますか?

不受理申出をしていなくても、離婚届が受理されないケースはあります。

例えば、離婚届の形式的な不備(夫婦双方の署名・押印がない、証人の署名・押印がない、日付の記載がない、本籍地が間違っているなど)がある場合です。また、届出人の身元確認ができない場合も受理されないことがあります。
しかし、これらの不備がなく、形式が整っていれば受理されてしまう可能性はあります。

離婚届の不受理申出について分からないことがあれば弁護士にご相談下さい。

離婚届不受理申出は、ご自身の意思に反する離婚を防ぐための重要な手続きです。

しかし、その必要性の判断、適切な手続き方法、そして万が一、ご自身の意に反して離婚が受理されてしまった場合の対処法など、専門的な知識が求められる場面も少なくありません。

特に、相手方との間で深刻な対立がある場合や、DV・モラハラなどが背景にある場合には、判断が難しくなることもあります。

このような状況に直面した際は、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことを強くお勧めします。
ご自身の状況を正確に把握し、不受理申出の要否、手続きのサポート、そしてその後の離婚交渉や、万が一の際の法的手続きについて、弁護士として、適切なアドバイスとサポートを提供いたします。

ご自身の権利を守り、安心して新たな一歩を踏み出すために、どうぞお気軽にご相談ください。

会社から支給される交通費を不正に受け取ると、業務上横領罪や詐欺罪に問われる可能性があります。

この記事では、交通費の不正受給が犯罪となるケースや、発覚した場合に懲戒解雇となる可能性、そして逮捕された場合の後の流れについて詳しく解説します。

そもそも労働基準法等には交通費を会社が支給する規定はない

前提として、労働基準法などの法律には、会社が従業員へ交通費を支払うことを義務付ける規定は存在しません。交通費の支給は法律上の義務ではなく、あくまで会社の裁量に委ねられているのが現状です。

交通費を支給するかどうかは会社の規約による

多くの企業では通勤手当や営業交通費が支給されていますが、これは法律で定められているからではなく、福利厚生の一環として会社が独自に設けている制度です。

そのため、交通費を支給するかどうか、支給する場合の上限額や計算方法、申請ルールといった具体的な内容は、すべて会社の就業規則や賃金規程などの内部規約によって定められています。

会社の交通費を不正受給すると業務上横領罪や詐欺罪が成立する可能性がある

交通費の不正受給は、その手口によって「業務上横領罪」または「詐欺罪」に問われる可能性があります。

例えば、会社から営業交通費として現金を事前に預かり、それを使わずに自分のものにした場合、業務上横領罪が成立することがあります。
一方、プライベートな旅行で使った領収書を業務上の出張と偽って提出し、会社を騙してお金を受け取った場合は、詐欺罪が成立する可能性があるのです。

業務上横領罪とは

業務上横領罪とは、仕事上で自分が管理を任されている会社のお金などを、不法に自分のものにする犯罪です。経理担当者が会社の資金を着服するような典型的なケースのほか、交通費の着服もこの罪に問われる可能性があります。

「業務上横領」について、詳しくはこちらで解説します。

業務上横領は必ず逮捕される?横領額と刑の重さは関係あるのか

業務上横領罪は横領罪の3つのうちのひとつです

横領罪には、実は「単純横領罪」「業務上横領罪」「遺失物等横領罪」の3種類があります。業務上横領 罪は、仕事上の信頼関係を裏切る行為であるため、他の横領罪よりも重い刑罰が科されます。

3つの「横領罪」の違いについて、詳しくはこちらで解説します。

横領罪の初犯は執行猶予がつく?背任罪とのちがい

詐欺罪とは

詐欺罪は、人を欺いて財産を交付させることで成立する犯罪です。

成立するには「①欺く行為(噓をつくなど)」「②相手が錯誤に陥る」「③財産の交付」「④財産上の損害」という要件を満たす必要があります。法定刑は10年以下の懲役と定められています。

交通費の不正受給のパターン

交通費の不正受給には様々な手口が存在します。
以下に代表的なパターンを挙げますが、どの手口が業務上横領罪と詐欺罪のどちらに該当するかは、会社の規約や具体的な状況によって異なります。

通勤交通費を支給されているのに自転車や徒歩で通勤し交通費を浮かせる

会社へは電車通勤と申請し、月2万円の定期代を受け取っているAさん。しかし実際には、健康のためと称して毎日自転車で通勤していました。

会社に申請した交通手段を使わずに交通費を浮かせるこの行為は、典型的な不正受給のパターンです。

会社から「交通費」として支給された金銭を、本来の目的である通勤に使わなかったと判断されれば、横領にあたる可能性があります。

申請の際に住所を偽り通勤交通費を多く受領する

Bさんは会社の近くに引っ越したにもかかわらず、会社には届け出ず、以前住んでいた遠方の住所のまま通勤費を受け取り続けていました。また、実際は一人暮らしなのに、より遠くにある実家の住所で申請し、差額を得るという手口もあります。

このように居住地を偽って会社を欺き、不当に多くの交通費を受け取る行為は、詐欺罪に問われる可能性が高いケースです。

最安値ではない経路で通勤交通費を申請する

多くの会社の就業規則では、通勤経路は「最も経済的かつ合理的」なルートを申請するよう定められています。Cさんは、乗り換えが一度少ないという理由で、わざと新幹線を利用する高額なルートを申請し、毎月数万円も多く交通費を受け取っていました。

会社の規程に反して意図的に高額なルートを申請する行為は、会社を欺く行為として詐欺罪に問われる可能性があります。

切符を金券ショップなどで安く購入する

出張を命じられたDさんは、会社から正規料金の新幹線代を現金で事前に受け取りました。
しかし、Dさんは金券ショップで回数券のばら売りを安く購入して出張へ行き、正規料金との差額を自分の小遣いにしていました。

このように、正規料金を申請・受給しておきながら、実際には安く購入して差額を着服する行為は、業務上横領罪にあたる可能性があります。

交通費を申請する際に定期区間を控除しない

営業職のEさんは、自宅の最寄り駅から会社の最寄り駅までの定期券を支給されています。会社の規程では、営業で外出する際の交通費は、この定期区間内の料金を差し引いて申請しなければなりません。

しかしEさんは、定期区間内の移動にもかかわらず、全額を営業交通費として二重に申請し、不正に利益を得ていました。この行為も詐欺罪や業務上横領罪に問われる可能性があります。

架空の業務や出張を装い交通費を不正受給する

実際には訪問していない取引先への訪問をでっちあげたり、行っていない出張を報告したりして(いわゆる「空出張」)、交通費や日当を不正に請求するケースです。

これは、不正受給額が大きくなりやすく、極めて悪質な行為と見なされます。会社を積極的に騙す行為であるため、詐欺罪が成立する可能性が高いでしょう。

「空出張と業務上横領」の成立の可能性については、こちらで詳しく解説します。

空出張で出張費を不正に計上したら業務上横領になる?
刑事事件に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
刑事事件ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

会社の交通費と具体的な法的な問題

【東京地方裁判所 平成25年1月25日判決の要約】

従業員が申告と異なる安価な経路で通勤し、差額の通勤手当を受給していた事案です。

裁判所は、経路変更を届け出なかった行為が就業規則の懲戒事由である「基金をいつわったとき」に該当すると認定しました。しかし、差額が比較的小額であること、基金側の管理体制が厳格でなかったことなどを踏まえ、積極的に不当な利益を得る意思があったとまでは認められないとしました。

結論として、従業員の身分を剥奪する諭旨退職処分は重すぎて社会通念上相当性を欠くとして無効と判断し、従業員の地位確認と未払賃金等の支払いを命じましたが、この裁判例は、場合によっては懲戒解雇や諭旨退職処分の対象となり得ることを示唆しています。

刑事上の責任だけではなく民事上の責任も負うことになります

交通費の不正受給が発覚した場合、業務上横領罪や詐欺罪といった刑事上の責任を問われるだけでは済みません。刑事責任とは別に、会社に対して民事上の責任も負うことになります。

これは、不正行為によって会社に与えた金銭的な損害を賠償する責任です。刑事事件として立件されなかったとしても、会社から損害賠償を請求される可能性は十分にあります。

不法行為による損害賠償請求の可能性も

従業員の交通費不正受給は、会社に対する「不法行為(民法709条)」にあたります。不法行為が成立する場合、会社(被害者)は加害者である従業員に対して、被った損害の賠償を請求することができます。

具体的には、不正に受給した交通費の全額に加え、調査費用や、遅延損害金(利息に相当するもの)を上乗せして請求される可能性があります。

会社から損害賠償請求をされた場合は、速やかに弁護士にご相談ください。

会社の交通費を不正受給すると懲戒解雇になる?

交通費の不正受給が発覚した場合の処分は、会社の就業規則の定めによります。懲戒処分には、譴責(始末書の提出)、減給、出勤停止、そして最も重い懲戒解雇など段階があります。

不正受給の期間が長く、金額も大きいなど、行為が悪質であると判断された場合には、普通解雇ではなく、退職金が支払われないこともある最も重い処分である懲戒解雇となる可能性も十分に考えられます。

交通費の横領が発覚すると逮捕される?

もし、交通費の不正受給が会社に発覚してしまったら、一体どうなるのでしょうか。最も心配なのは「逮捕されてしまうのではないか」ということでしょう。

不正受給の額が少額であれば、内規による処分や返金で済むこともありますが、金額が大きい場合や手口が悪質な場合には、警察が介入し、逮捕に至るケースも少なくありません。

業務上横領は被害者(会社の)被害申告により事件化するケースが多い

業務上横領罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない「親告罪」ではありません。

そのため、理論上は第三者からの告発で事件化することもありますが、実態としては、被害者である会社からの告訴や被害届の提出といった被害申告がきっかけとなって警察が捜査を開始し、事件化するケースがほとんどです。

逆に言えば、会社が被害申告をしなければ、事件化を避けられる可能性も残されています。

事件化を回避するために弁護士ができること

事件化を回避するためには、会社が警察に被害申告をする前に、迅速に示談を成立させることが極めて重要です。

弁護士は、ご本人に代わって会社の窓口と交渉を行います。不正に受給した金額の全額を弁済し、誠心誠意謝罪することで、会社から許し(宥恕(ゆうじょ))を得られれば、被害届の提出を思いとどまってもらえる可能性が高まります。

まずは弁護士にご相談ください。

事件化した場合も弁護士のサポートが必要です

万が一、会社が被害届を提出し事件化してしまった場合でも、決して諦めてはいけません。早期に弁護士に依頼すれば、逮捕・勾留からの解放や、最終的な処分を軽くするための弁護活動が可能です。

具体的には、以下のような弁護活動を行います。

減刑に向けて活動します

弁護士は、まず被害者である会社との示談成立を目指します。被害額を弁償し、示談が成立しているという事実は、検察官や裁判官が処分を決定する上で非常に有利な事情となります。

また、本人が深く反省していること、家族による監督が期待できること、再発防止策が具体的に講じられていることなどを客観的な証拠と共に主張し、不起訴処分や執行猶予付き判決の獲得など、減刑に向けて尽力します。

返済の意思はあるけど一括で支払うのは難しい。分割払いはできるの?

不正受給した交通費を返済する意思はあるものの、長年の着服で金額が膨らんでしまい、一括での返済が難しいというケースも少なくありません。
そのような場合、会社との間で分割払いの交渉が必要になります。しかし、当事者同士では感情的な対立も生まれがちです。

弁護士が間に入ることで、冷静かつ現実的な返済計画を提示し、円滑に交渉を進めることが可能です。

まずは弁護士にご相談ください

交通費の不正受給が会社に発覚しそう、あるいはすでに発覚してしまったという方は、一人で悩まず、できるだけ早く弁護士にご相談ください。
早期の対応が、事件化の回避や、懲戒解雇といった最悪の事態を防ぐための鍵となります。

会社への返済や示談交渉、そして万が一逮捕された場合の弁護活動まで、専門家として全面的にサポートいたします。まずは勇気を出して、お気軽にお問い合わせください。

クレジットカードの不正利用は、どのような罪に問われるのでしょうか。

本記事では、クレジットカードの不正利用がどのような犯罪に該当する可能性があるのかを解説していきます。

他人名義のクレジットカードを使用することは詐欺罪

他人名義のクレジットカードの不正利用は、多くの場合、横領罪ではなく、詐欺罪が成立します。

詐欺罪は、人を欺いて財産をだまし取る行為に適用される犯罪です。
他人名義のクレジットカードの不正利用は、カード会員の個人的信用力に基づき無担保での信用供与を可能にするというクレジットカードの前提条件を偽るものであるため、人を欺く行為になります。

一方で、横領罪は、自己の占有する他人の物を横領した場合に成立します。横領罪は、「物」を横領したことにより成立する犯罪であるため、信用力を偽る行為は横領罪に該当しません。

詐欺罪とは

詐欺罪は、人を欺いて錯誤に陥らせ、その錯誤に基づいて財産を交付することで成立する犯罪です。「人を欺く行為」から「錯誤に基づいて財産を交付すること」までが一連の行為で繋がっている必要があります。

詐欺罪(刑法246条)は、10年以下の懲役に処するとされています。

他人からカードを盗んだ場合は窃盗罪

他人のクレジットカードを無断で持ち去った場合、カードを窃取した行為に対して窃盗罪が成立します。窃盗罪は、他人の財物を窃取する犯罪であり、クレジットカードそのものは財物とみなされます。

窃盗罪とは

窃盗罪は、他人の財物を窃取した場合に成立します。

「他人の財物」とは、他人が所有する財物だけではなく、他人が事実上占有する財物についても意味します。
「窃取」とは、他人の占有する財物を占有者の意思に反して、自己または第三者の占有に移転させることをいいます。

以上のとおり、占有者の意思に反して他人の占有を侵害した場合に成立する犯罪であること及び物に対する占有であることが特徴となります。

盗む際に暴行や脅迫を用いた場合は恐喝罪や強盗罪が成立する可能性

上記のとおり、占有者の意思に反して、他人の財物に対する占有を侵害した場合には、窃盗罪が成立します。

他人の財物に対する占有を侵害する過程で、相手方に暴行や脅迫を用いた場合には、占有者の瑕疵ある意思表示によって、占有が移転することになります。
相手方が暴行または脅迫を用いた場合、その行為の程度に応じて、強盗罪または脅迫罪が成立します。

恐喝罪とは

恐喝罪は、暴行または脅迫を用いて他人の財物を交付させた場合に成立する犯罪です。「暴行または脅迫」の程度は、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものである必要がある。

強盗罪とは

強盗罪は、暴行または脅迫を用いて他人の財物を強取する犯罪です。恐喝罪よりも重い暴行・脅迫が要件となります。具体的には、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度であるひつようがあります。

名義人の許可を得ていても詐欺罪が成立する

例えば、クレジットカードの名義人から使用する許可を受けていたとしても、詐欺罪が成立します。
上記のとおり、詐欺罪は、人を欺く行為となりますので、名義人からの許可があれば、犯罪が成立しないことと考える方が多くいると思います。

しかし、クレジットカードを利用することは、前述のとおり、個人的信用力に基づき無担保での信用供与を可能にするという仕組みに基づいて利用されています。そのため、カードの利用者が信用力があることを前提として、店舗側はカード名義人にのみ、カードの利用を認めているからです。

他人名義のカードの利用をすることは、この個人的信用力を偽って、決裁を行うことになるため、店員である「人」を欺く行為になります。

家族に不正利用された場合

家族が不正利用した場合であっても、上記のとおりの個人的信用力の問題は変わりません。そのため、法律上、詐欺罪が成立する可能性があります。

また、家族が占有している財物の占有を自己の元に移すことは、「窃取」にあたり、窃盗罪が成立する可能性があります。

ただし、親族間の場合には、特定の犯罪について、特例が認められており、刑罰が免除される場合があります。

刑事事件に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
刑事事件ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

クレジットカードの現金化は犯罪?

クレジットカードの現金化とは、クレジットカードを用いて、高価な商品を購入して、買い取り業者に売ることで一時的に現金を得る方法が典型的な例です。

クレジットカードは、個人的信用力を用いて、商品を購入したり、サービスを利用したりすることを目的としています。それにもかかわらず、個人的信用力を利用して現金を得ることは、クレジットカードの目的に反するものであり、規約により禁止されていることが一般的です。

クレジットカードの利用自体は、「人を欺い」ておらず、直ちに犯罪行為と判断されることは少ないです。ただ、違法な高金利での貸付など、別の犯罪に該当する可能性があります。

規約により禁止されていることがほとんど

クレジットカードの現金化は、上記のとおり、ただちに犯罪行為に該当することはなく、裁判例としても多くはありません。ただ、クレジットカードの目的に反する行為のため、クレジットカード会社の多くが規約で禁止しています。

規約に反する行為を行うと、カードの利用停止や強制退会といった措置が取られることがありますので、クレジットカードの現金化は行わないようにしましょう。

会社から貸与されているカードを私的目的で利用した場合

会社から貸与されているクレジットカードを私的目的で利用した場合は、業務上横領罪、背任罪に該当する可能性があります。「横領罪」は「物」に対する犯罪、「背任罪」は、委託信任関係を毀損する犯罪である点が異なります。

以下で詳しく解説します。

業務上横領罪とは

業務上横領罪は、業務上自己の占有する他人の物を横領したときに成立する犯罪です。「業務上」とは、社会生活上の地位に基づいて、反復継続して行う事務を指します。

その他の要素については、前述の横領と同様です。
詳しくは、こちらの記事で解説しています。

業務上横領は必ず逮捕される?横領額と刑の重さは関係あるのか

背任罪とは

背任罪は、他人のために事務を処理する者が、自己や第三者の利益を図る目的で任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を与えた場合に成立します。

財産上の損害は、物そのものに限られません。委託を受けた者がその任務に背いたことを問題とする行為のため、物自体ではなく、財産全体を見て、経済的に損害があるかどうかを判断することになります。

ETCカードやガソリンカードも同じ

会社から貸与されたETCカードやガソリンカードを私的な目的で利用した場合も、クレジットカードと同様に業務上横領罪や背任罪が成立する可能性があります。

これらのカードも会社に損害を与える行為と見なされるためです。

会社のカードを私的利用してしまった場合どうすればいい?

業務上横領罪は、被害者からの申告がないと事件化しないことが多い犯罪類型です。

自身がクレジットカードを不正利用してしまった場合には、早期に会社側との示談交渉を開始し、被害の回復に努める必要があります。
示談が成立すれば、会社からの被害申告のリスクが減り、事件されない可能性が高まります。

事件化させないためにも弁護士にご相談ください

当事者同士の示談交渉では、感情的な対立があり、中々進まないことが多いです。また、交渉自体の性質上、経験値が必要な部分もあります。

その点、日々交渉に携わり、代理人の立場から冷静に会社と交渉することができる弁護士にご依頼いただければ、会社との合意形成が円滑に進めることができます。
事件化を防ぐためにも、まず、弁護士への相談をご検討ください。

クレジットカードの不正利用に関するトラブルは弁護士にご相談ください

クレジットカードの不正利用は、その手口や状況によって成立する犯罪や、適切な対処法が異なります。

どのような罪に問われる可能性があるのか、どのように対応すべきか判断が難しい場合が多いため、全体の状況を整理し、法的な観点からアドバイスを受けるためにも、弁護士にご相談ください。

「相続」と聞くと、多くの人は預貯金や家など、プラスの財産を思い浮かべるかもしれません。しかし、実は借金や保証債務といったマイナスの財産も相続の対象になることがあります。

特に、亡くなったご家族が誰かの連帯保証人だった場合、「この借金は誰が引き継ぐの?」と不安になる方も多いでしょう。

今回は、もしもの時に困らないよう、亡くなった方が連帯保証人だった場合の相続について、わかりやすく解説します。

亡くなった人が連帯保証人だった場合の相続はどうなる?

残念ながら、亡くなった方が連帯保証人だった場合、その借金(連帯保証債務)は、ご本人が亡くなっても消えるわけではありません。基本的には、残されたご家族(相続人)が引き継ぐことになります。

ただし、例外もあります。例えば、単なる「身元保証人」のように、保証人と借りた人との個人的な信頼関係が非常に重要だとされる保証は、相続されないことがあります。

しかし、一般的な銀行からの借金などに対する連帯保証は、基本的には相続人が引き継ぐと裁判所も判断しています。

つまり、亡くなったご家族が連帯保証人だった場合、基本的には、その借金は、相続人が連帯保証人として引き継ぐことになるのです。

連帯保証人の債務負担の相続割合は?

連帯保証の借金を相続することになった場合、複数の相続人がいれば、その借金は相続人それぞれの「法定相続分」に応じて分担されます。

例えば、連帯保証の借金が100万円で、亡くなった方に配偶者と子どもが2人いる場合、配偶者が借金の2分の1の50万円、子どもたちがそれぞれ4分の1の25万円ずつ借金を分担して引き継ぐことになります。つまり、借金が一人に集中するわけではありません。

相続人の中に債務者がいる場合

もし、連帯保証人が保証していた借金をした本人(主たる債務者)が、相続人の中にいる場合はどうなるでしょうか?

この場合でも、原則として連帯保証の借金は、他の相続人にも法定相続分に応じて引き継がれます。

しかし、借金をした本人である相続人は、もともとの借金と、相続した連帯保証の借金(自分の相続分)の両方を負うことになります。

もし他の相続人が、引き継いだ連帯保証の借金を代わりに返済した場合、その返済した分は、借金をした本人である相続人に「返してほしい」と請求する権利(求償権)があります。

相続開始後に発生した債務は?

連帯保証契約では、亡くなった後に借金をした本人が支払いを滞納し、新たに損害金などが発生することもあります。このような「相続後に新しく発生した借金」も、相続人が引き継ぐのでしょうか?

原則として、相続の対象となるのは「亡くなった時点にあった権利や義務」です。そのため、相続後に新しく発生した借金は、原則として相続の対象にはなりません。

ただし、もともとの連帯保証契約が、将来発生するあらゆる借金を保証する「根保証」のような内容だった場合や、相続後に発生した借金が、亡くなった方の連帯保証が原因で生じたと判断される場合は相続の対象となることもあります。

これはケースバイケースなので、契約内容をよく確認する必要があります。

連帯保証の時効について

連帯保証の借金にも、返済しなくてよくなる「時効」があります。借金をした本人の借金が時効で消滅すれば、それに伴って連帯保証の借金も消滅するのが一般的です。

時効の期間は、借金の種類によって異なりますが、会社の事業に関する借金なら5年、個人間の借金なら10年が一般的です。時効がいつから始まるかは、借金の返済期限や最後の返済日など、状況によって変わります。

相続人が連帯保証の借金を承継した場合でも、時効が成立していれば「時効なので支払いません」と主張することができます。しかし、時効の期間中に、借金の一部を支払ったり、債権者から請求を受けたりすると、時効の期間がリセットされてしまうことがあります。

時効を主張できるかどうかは専門的な判断が必要なので、弁護士に相談することをおすすめします。

相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします

相続問題ご相談受付

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
相続問題の経験豊富な弁護士にお任せください

相続放棄をすれば連帯保証人にならずに済む

亡くなった方が連帯保証人だった場合、その借金の引き継ぎを回避する最も確実な方法が「相続放棄」です。

相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がないことになるため、連帯保証の借金も引き継がずに済みます。

相続放棄は、原則として「自分が相続人になったことを知ってから3か月以内」に、家庭裁判所に申し出る必要があります。

この期間を過ぎてしまうと、原則として借金を含むすべての財産を引き継いだことになってしまうので注意が必要です。

連帯保証人の地位は他の相続人に引き継がれる?

もし、ある相続人が相続放棄をすると、その人が引き継ぐはずだった連帯保証の借金は、他の相続人に引き継がれることになります。相続放棄によって、放棄した人の分の相続はなかったことになるため、残された他の相続人が引き継ぐ借金の割合が増える可能性があります。

加えて、ある相続人が相続放棄をすることによって、これまで相続人ではなかった者が相続人になる場合もあります。

そのため、相続放棄を検討する際は、他の相続人への影響もよく考え、場合によってはその後に相続人になる者も含めて相続人全員で相続放棄を検討することも一つの方法です。

連帯保証人であることを知らなかった場合の対処法

「亡くなった人が連帯保証人だったなんて知らなかった!」というケースも少なくありません。もし、連帯保証の借金があることを知らずに相続してしまい、後からその事実が判明した場合、原則として相続放棄の期間は過ぎてしまっています。

ただし、例外的に、だまされたり、脅されたりして相続を承認してしまった場合や、非常に重要な事実を勘違いしていた場合など、特定の状況では、相続を承認したことを取り消せる可能性があります。

しかし、これは法的に非常に難しいケースなので、もしこのような状況になったら、すぐに弁護士に相談することが重要です。

相続人が亡くなった人の連帯保証人だった場合は?借金は一人で相続するの?

もし、相続人自身が、亡くなった方(被相続人)の連帯保証人になっていた場合、相続人は、本人が負っている借金を相続する分の責任と、連帯保証の責任の両方を負うことになります。

この場合でも、亡くなった方が負っていた借金は、他の相続人にも法定相続分に応じて引き継がれます。つまり、借金が相続人一人に集中するわけではありません。

しかし、連帯保証人でもある相続人は、連帯保証人としての責任と、相続人としての責任が別個に存在することとなります。

この場合は相続放棄できないことに注意が必要

もしあなたが亡くなった方(被相続人)の連帯保証人だった場合、「相続放棄」をしても安心できないことがあります。

相続放棄は、被相続人の借金を含め、すべての財産を引き継がない手続きです。これによって相続人としての借金はチャラになります。

しかし、個人的に連帯保証人として負っている責任は、相続放棄では消えません。つまり、相続人ではなくなったとしても、連帯保証人として借金を払う義務は残ってしまう可能性があるのです。

連帯保証人の相続は弁護士にご相談ください

亡くなった方が連帯保証人だった場合の相続は、とても複雑な問題が多く絡み合います。借金の有無の確認、相続放棄をするかどうか、時効の確認など、専門的な知識と手続きが必要になります。

間違った判断をしてしまったり、手続きが遅れてしまったりすると、思いがけない借金を背負うことになりかねません。もしこのような問題に直面したら、決して一人で抱え込まず、弁護士にご相談ください。

弁護士は、あなたの状況に合わせて、適切なアドバイスをしたり、相続放棄の手続きや、借金を取り立てる側との交渉をサポートしたりするなど、あなたの負担を減らすための力になります。

亡くなった方が残した連帯保証の借金について不安な点があれば、できるだけ早く専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

養育費の支払いは法律で義務化されている

「養育費」とは、子どもが経済的に自立し、社会の一員として独り立ちするまでに要する生活全般の費用を指します。

この養育費の支払いは、民法で定められた法的な義務であり、万が一支払いを怠れば、財産を差し押さえられる「強制執行」という事態に至るリスクもあります。

本稿では、養育費という義務の具体的な内容や、支払いが免除される例外的なケースについて詳しく解説いたします。

養育費はいくら支払う義務がある?

民法第766条1項には、「父母が協議上の離婚をするときは…子の監護に要する費用の分担…について必要な事項は、その協議で定める。」との規定があり、これが養育費の支払い義務に関する直接的な法的根拠となります。

この規定に基づき、離婚に際して子どもを監護養育することになった親(権利者)は、子どもと離れて暮らすことになったもう一方の親(義務者)に対し、養育費を請求することができます。

養育費の支払い義務はいつから始まる?

親が子に対して負う扶養の義務は、単に「生活に困っていたら援助する」という程度のものではありません。法的には「自身と同水準の生活を子どもに保障すべき義務(生活保持義務)」とされており、極めて重い責任であると解されています。

したがって、「自身の生活にゆとりがない」といった理由は、養育費の支払いを拒むための正当な事由とはなりません。

養育費の支払い義務はいつまで続く?

養育費を支払う義務は、子どもが「未成熟子」でなくなる時点まで継続します。

ここでいう「未成熟子」とは、経済的、社会的に見て、まだ自分ひとりの力で生活していくことができない状態の子どもを指します。

このため、「未成熟子」でなくなるタイミングと、成年年齢に達する時期は、必ずしも同じではありません。たとえ成人していても、大学などに在学中であったり、心身に障害があるために自立した生活が困難であったりするような場合は、「未成熟子」に該当します。

なお、平成30年の民法改正によって成年年齢は満18歳に引き下げられましたが、上述の通り、「未成熟子」であるか否かは、あくまで子どもの個別の生活状況に応じて判断されます。したがって、この法改正がこれまでの実務上の見解に影響を及ぼすことはないと考えられています。

離婚後、養育費を支払わないとどうなる?

養育費の支払いについて取り決めを交わしたにもかかわらず、正当な理由なく支払いを怠った場合、法的な手続きによって支払いを強制されることがあります。

強制執行される

当事者間の合意内容を記した公正証書や、裁判所の手続きで作成された調停調書などがある場合、養育費の不払いが生じると、権利者は裁判所に申し立てて、義務者の財産を強制的に差し押さえる「強制執行」が可能です。

差し押さえの対象は預貯金や不動産に限らず、給与も含まれます。

給与債権は、一度手続きを行えば、将来分も含めて継続的に、手取り額の最大2分の1まで差し押さえることができ、極めて強力な回収手段です。

財産開示を拒否したり、嘘をついたりすると前科が残る

強制執行を試みても、相手の財産がどこにあるか分からなければ、差し押さえはできません。このような場合、裁判所に「財産開示手続」を申し立てることができます。

これは、裁判所が相手方を呼び出し、自己の財産状況について説明させる制度です。

相手方が正当な理由なく出頭しなかったり、虚偽の説明をしたりした場合は、刑事罰の対象となる可能性があります。

養育費を払わなくていいケースは?支払い義務がなくなるのはどんな時?

原則として必ず支払わなければならない養育費ですが、以下のような特定の状況下においては、支払い義務が免除されたり、減額されたりする場合があります。

相手が養育費を請求しないことに同意した場合

養育費を受け取る権利のある親が、その支払いを求めないことに明確に同意した場合は、支払い義務は生じません。

ただし、その合意はあくまで権利者の自由な意思に基づくものである必要があります。脅迫や偽計によって同意させたような場合は、その合意自体が無効になる可能性があります。

受け取る側が再婚した場合

養育費を受け取る側の親が再婚したという事実のみで、支払い義務が自動的になくなることはありません。しかし、その再婚相手と子どもが「養子縁組」をした場合は、法律上、子どもを扶養する第一次的な義務は養親(再婚相手)に移ります。

その結果、実親であるあなたの支払い義務は、免除されるか、あるいは大幅に減額されるのが一般的です。

養育費の支払い能力がない場合

支払う側の親が、不景気による会社の倒産で失業したり、重い病気やけがで働けなくなったりして、支払い能力を喪失した場合は、その事情が考慮されます。

例えば、生活保護を受給している間は、支払い能力がないとみなされ、事実上、支払いを免除されることがあります。ただし、これは義務自体が消滅するわけではなく、支払い能力が回復した際には、再び支払いを再開する必要があります。

養育費のことでお悩みなら、一度弁護士にご相談ください

養育費は、お子様の健やかな成長と未来のために、極めて重要な意味を持つものです。

支払い条件の取り決めや、万が一の不払いへの対応には、専門的な知識が不可欠な場面が多くあります。

「相手とどのように話し合えば良いか分からない」「約束通りに支払われず困っている」といったお悩みは、決して一人で抱え込まず、まずは法律の専門家である弁護士に相談されることを強くお勧めします。

交通事故に遭ってしまったとき、身体的・精神的な負担だけでなく、保険会社とのやり取りや損害賠償の問題など、様々な対応が必要となります。

そんなとき、弁護士に相談・依頼することで得られるメリットは非常に大きいです。

本記事では、交通事故に遭った場合に弁護士に相談するべき理由や、相談のタイミング、具体的な事例などについて解説します。

事故直後から解決までの流れを知ることで、より有利な結果を導くための一助となれば幸いです。

交通事故で弁護士に相談するメリットとは?

まずは、交通事故に遭った場合に弁護士に相談することのメリットについて解説していきます。弁護士に相談・依頼することで、得られるメリットは数多くあります。

可能な限り損をしないためにも、まずは以下の解説に目を通していただき、交通事故に遭われた際には、なるべく早い段階で弁護士にご相談ください。

通院慰謝料が増額する可能性が高くなる

交通事故に遭った場合、通院慰謝料(通院によって生じた慰謝料)を加害者や加害者が加入する任意保険会社(以下「相手方保険会社」といいます。)へ請求することができます。

通院慰謝料を算定する基準として、自賠責基準、保険会社基準、弁護士基準(裁判所基準)があります。この3つの基準のうち、一番高額な通院慰謝料を算定できるのは、弁護士基準です。

弁護士に依頼せず、ご自身で交渉を行う場合、相手方保険会社からは、自賠責基準や保険会社基準で算定された通院慰謝料を提示されることがほとんどです。

他方、弁護士に依頼し、相手方保険会社との交渉に介入すれば、相手方保険会社は弁護士基準を用いて通院慰謝料を算定します。そのため、弁護士に依頼をすれば通院慰謝料が増額する可能性が高くなります。

後遺障害等級申請をサポートしてもらえる

交通事故後、通院を継続したにもかかわらず痛みが残存した場合、主治医によって残存した症状が後遺障害と診断されることがあります。

この場合、加害者の自賠責保険会社に対して後遺障害等級申請を行い、同申請が認められた場合に初めて後遺障害慰謝料や逸失利益(交通事故が無ければ得られたであろう利益)を、加害者や相手方保険会社へ請求することができます。

後遺障害等級申請には、様々な資料を収集、整理をすることが必要となります。またむち打ち等の他覚的所見が無い症状については、初診時からの通院頻度等が後遺障害認定のための鍵となります。

そのため、弁護士に依頼をすることで後遺障害等級申請の対応や認定を得られるためのアドバイスを受けることができます。

適切な通院頻度等のアドバイスを受けられる

前述の通院慰謝料は通院期間に応じて発生します。

もっとも、ただ闇雲に通院を続ければよいのではなく、主治医への症状の伝え方、通院を継続すべきか否か等の確認の要否等適正な通院慰謝料を請求するためには適切な通院が必要となります。

またその通院頻度は後遺障害申請が認められるための重要要素にもなります。

弁護士に依頼をすることで、どの程度の頻度で通院すべきか、主治医にどのような点を確認すべきか、どのような検査を受診すべきかなどの通院に関するアドバイスを受けることができます。

正しい過失割合を主張できる

交通事故に遭った場合、事故態様によっては加害者が100%悪いと認定されないケースがあり、事故が発生した責任が被害者にもあると認定されることがあります。

このように、被害者と加害者の交通事故発生に対する責任の割合のことを過失割合と言います。この過失割合は、最終的な損害賠償額を大きく左右する重要な要素であり、過失が少なければ少ないほど、賠償額は増えることになります。

弁護士に依頼をすることで、過去の裁判例や証拠に基づいて適正な過失割合を主張することができます。

保険会社や加害者への対応を全て任せられる

弁護士に依頼をしなければ、被害者が一人で相手方保険会社の担当者と交渉等を行うこととなりますが、相手方保険会社の担当者によっては被害者からの主張を全く受け入れない場合もあります。

このような相手方保険会社の対応によって、被害者が交渉そのものに大きなストレスを感じることもあります。

弁護士に依頼すれば、相手方保険会社とのやり取りを全て弁護士に任せることができ、被害者の精神的な負担を軽減できます。

弁護士に相談することでデメリットはある?

結論から申し上げますと、一般的に弁護士に相談・依頼することで大きなデメリットはありませんが、弁護士費用について不安を感じられる方もいらっしゃいます。

しかし、これについても対策がありますので、以下解説します。

費用の不安を解消する「弁護士費用特約」とは?

多くの自動車保険には「弁護士費用特約」が付帯されており、これを利用することで弁護士費用を実質無料にできる場合があります。

そのため、ご自身の加入されている任意保険に弁護士費用特約が付帯されているかの確認をすることは非常に重要です。

弁護士費用特約は、交通事故について弁護士を依頼する場合の相談料、着手金・成功報酬、その他実費等を依頼者が加入する保険会社が負担してくれるものです。

弁護士費用特約の内容によって、弁護士費用の上限はありますが、死亡事故や重大な後遺障害が残る事故等でない限りは、上限内に収まることがほとんどです。

まずは交通事故事件専属のスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

交通事故被害者専門ダイヤル

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
交通事故の経験豊富な弁護士にお任せください

交通事故で特に弁護士に依頼した方が良いケースとは?

後遺障害が残るような場合、過失割合に争いがある場合、保険会社からの提示額が低すぎると感じる場合などは、弁護士に依頼すべき典型的なケースです。

なお前述のとおり、たとえ軽微な事故であっても、弁護士に依頼をするだけで、通院慰謝料については弁護士基準が用いられることになるため、交通事故に遭った場合で、ご自身の保険に弁護士費用特約が付帯されている場合には、弁護士に依頼されることを強く推奨いたします。

弁護士に相談・依頼するベストタイミングはいつ?

結論から申し上げますと、事故直後から早い段階で弁護士に相談・依頼するのがベストです。事故からしばらく経過した時点や怪我の治療が終了した時点、相手方保険会社からの提示がされた時点等、どのタイミングであっても弁護士に相談・依頼することは可能です。

しかし、後になって取り返しがつかない場合もあります。そこで、以下では、早い段階から弁護士に相談・依頼すべきことについて解説します。

なるべく早い段階で相談・依頼した方がメリットは多い!

交通事故後すぐに弁護士に相談・依頼をすることで、前述したような通院のアドバイス等を受けることができ、初期段階から損をしないための適切な対応が可能になります。

損をしないためには、初期段階からの適切な対応が必要不可欠です。
また、通院時の疑問点等も都度弁護士に質問できることも大きなメリットといえます。

弁護士への相談・依頼が手遅れになってしまうケースも

弁護士への相談・依頼が遅くなった場合、手遅れになるケースもあります。

例えば、通院慰謝料が通院期間に応じて発生することを知らず、通院が面倒だから等という理由で通院を中断した場合、どんなに痛みが残っていたとしても、通院慰謝料が増額されることはありません。

また、実際に通院された日数が少数であることから後遺障害等級申請をしたとしても申請が通りづらいという事態にもなりかねません。

手遅れになる前にまずは弁護士に相談することが肝要です。

交通事故に強い弁護士を選ぶためのポイント

弁護士に早期に相談・依頼すべきであることはこれまで述べた通りですが、次はどの弁護士に相談・依頼すべきかを考える必要があります。弁護士選びは交通事故の解決に大きな影響を与えます。

そこで、以下では交通事故に強い弁護士を選ぶためのポイントについて解説します。

交通事故の実績が豊富な弁護士(法律事務所)を選ぶ

交通事故に関する知識や経験が豊富な弁護士は、過去の裁判例や実務に基づいた適切な対応が可能です。

特に多くの解決実績がある事務所に所属する弁護士は、たとえ弁護士歴が浅くても交通事故をメインに取り扱っていることもあるため、それだけ信頼性が高いといえます。

また、そのような事務所には交通事故を専門に取り扱う事務員が所属している場合も多いため、弁護士が別件で不在の場合でも質問に回答してくれる場合もあります。

無料相談を利用して弁護士を選ぶ

多くの弁護士事務所では、初回無料相談を実施しています。複数の弁護士に相談してみることで、自分に合った対応をしてくれる弁護士を見つけることができます。

相談時の対応や説明の丁寧さも重要な判断材料となります。

弁護士法人ALGが解決へ導いた事例のご紹介

以下では、弊所が解決へ導いた事例を紹介いたします。

弁護士が交渉を行った結果、賠償額が約250万円増額した事例

依頼者が相手方保険会社から提示された賠償額に納得できず、弊所に相談した結果、交渉によって約250万円の増額が実現した事例があります。弁護士の介入により、被害者が本来得られるべき賠償額をしっかりと受け取ることができました。

弁護士の介入で後遺障害等級が認定され、賠償額が1000万円以上増額した事例

当初、後遺障害等級が認定されなかった依頼者が弊所に相談し、追加の資料や異議申し立ての書類を提出したことで、適切な等級が認定されました。
その結果、賠償額が1000万円以上増額された事例があります。

交通事故の弁護士依頼に関するよくある質問

弁護士に相談・依頼すれば過失割合を10対0にできますか?

過失割合は、過去の裁判例の蓄積から交通事故の態様によってある程度類型化されています。そのため、弁護士に依頼をすれば、過失割合を必ず10対0にできるということはありません。

もっとも、個別具体的な事案ごとに、類型化された過失割合を修正する要素があることも事実です。
弁護士は、類型化された過失割合を前提に、個別事情を指摘し、主張することで、過失割合を依頼者に少しでも有利になるよう対応していきます。

交通事故による怪我が軽傷の場合でも、弁護士に相談した方が良いですか?

前述のとおり、通院慰謝料は通院期間に応じて発生します。そのため、たとえ軽傷であっても、弁護士に相談されることを推奨いたします。

仮に保険会社からの提示があったとしても、その金額が適正であるかを確認するためにも、まずは弁護士にご相談ください。

交通事故を弁護士に依頼した場合、解決までの日数はどれぐらいかかりますか?

具体的な事件態様、争点の有無、損害の大小等によって異なりますが、相手方保険会社との交渉で終わる場合には、治療終了から2~4か月程度かかります。
交渉でまとまらず、紛争処理センターや裁判所への申立てを行う場合、後遺障害等級の申請を行う場合には、半年~1年以上かかることもあります。特に後遺障害が絡む場合や、過失割合に争いがある場合は長期化する傾向にあります。

交通事故の被害に遭ってお困りなら、ぜひ弁護士への相談・依頼をご検討ください。

交通事故に関する悩みや不安は、弁護士に相談することで早期に解消されることがあります。適切なサポートを受けることで、精神的・金銭的な負担を軽減し、正当な権利をしっかりと守ることができます。

まずはお気軽に専門の弁護士へご相談ください。

「妻や夫と性格が合わず、離婚を考えているが、離婚した後に子どもの生活費等が不安である」、「子どもを連れて、別居をしている妻や夫から養育費を請求されているが、その額が妥当かわからない。」など、離婚を考えるにあたって、子どもの生活費としての養育費が不安の種になることもあると思います。

以下では、裁判所において、養育費の額を判断する際に使用されている養育費算定表を基に養育費の額をどのように考えるか見ていきます。

養育費算定表とは

養育費算定表は、家庭裁判所で婚姻費用や養育費の算定に用いられる標準算定方式を基に作成された表になります。

養育費算定表は、両当事者の年収を用いて、縦軸と横軸の重なる点を見ると、簡易迅速に家庭裁判所の実務上の養育費の額を把握することができます。個別的事情も算定表によることが特段不公平であると判断されない限りは、算定表の幅の中で判断されるにとどまるため、実務上でも養育費算定表により、養育費を決定していくことが多数あります。

新養育費算定表について

元々の算定表が前提としていた計算は平成15年4月に考えられたものでした。ただ、社会の変化に伴い、物価の上昇、子どもにかける教育費の変化など10年前と後では必要な養育費の額が異なることがしばしば見受けられました。そこで、令和元年10月ごろに租税公課の額や生活費として必要な額を見直し、再度作成されたものが新養育費算定表になります。

ですので、現在の家庭における支出の相場に近づけた額が新養育費算定表では出ることになり、旧算定表に比べて新算定表の額が高くなる傾向にあります。

養育費算定表の使い方

養育費算定表を利用することによって、裁判所等で利用されている養育費の相場が分かります。また、養育費算定表を確認しておくことで、将来的にいくらの養育費を支払う、又は、支払わられることになるかを事前に把握することにもなります。

それでは、実際に裁判所の調停などで実際に用いられる養育費算定表の見方について見ていきたいと思います。具体的な例として、夫の収入600万円、妻の収入500万円、12歳の長男、8歳の長女、妻が子2人を連れて別居・離婚して、妻が夫に対して養育費を請求する場合を架空の家族として想定したいと思います(以下、「本例」と言います。)。

子供の人数と年齢を確認する

2.2で見るように、子の人数、年齢によって、見るべき養育費算定表が異なります。子の年齢は、0~14歳、15歳以上で分けられています。また、子の人数については、1人増えるごとに、見るべき表が異なりますので、子の人数が何人であるかも重要になります。

本例で考えると、子の人数は長男と長女の2人となり、子の2人の年齢は0~14歳になります。

裁判所のHPから該当の算定表をダウンロードする

裁判所のHPに「養育費・子1人表(子0~14歳)」などと子の人数と子の年齢ごとに作成された表がありますので、ご自身の子の人数と子の年齢に当てはまる表を選択して、ダウンロードします。本例では、「養育費・子2人表(第1子及び第2子0~14歳)」の表を見ることになります。

義務者(支払う側)の年収を確認する

見るべき算定表が決まったら、今度は当事者の年収を確認していきます。まず、支払う側である義務者の年収を額面で確認したうえで、養育費算定表上の縦軸のどのあたりにあたるか見ていきます。自営業者と給与受領者では見る部分が異なりますので、注意してください。

本例では、妻が夫に対して養育費を請求しているので、夫が義務者となります。夫は給与受領者で年収600万円であることから、養育費算定表上の縦軸の外側のうち、600万円部分になります。

権利者(もらう側)の年収を確認する

次は、養育費をもらう側である権利者の収入を確認します。権利者についても、同様に控除等がなされる手取り額ではなく、額面上の年収で確認します。また、給与受領者と自営業者では異なる点も同様です。

本例でみると、妻が権利者にあたります。また、妻は、給与受領者で年収500万円であることから、横軸のうち、外側の「給与」とされている部分の500万円部分を見ることになります。

2つの年収を辿り、養育費の金額を決定する

2.3や2.4で見てきました義務者の収入額の横線と権利者の収入額の縦線が重なり合う部分が、養育費の金額の幅になります。

本例でみると、夫の年収600万円の横線と妻の年収500万円の縦線の重なるところが養育費の金額になります。そうすると、重なる部分は、「6~8万」の下の方になります。ですので、養育費の相場としては、6万円が相当であると考えられます。

養育費算定表の結果はあくまでも相場

もっとも、ここで見てきた養育費の額はあくまでも一般的に必要な子どもの生活費の額になります。ですので、夫婦間で話し合い、互いに合意をすれば、算定表で示される額よりも高い額や低い額で養育費を決定することも可能です。また、病気や子どもの教育費など特別な事情があることを主張して、養育費を増額することもあります。

養育費算定表に関するQ&A

養育費算定表以上の金額をもらうにはどうしたらいいですか?

養育費算定表は、上記のように一般的に考えられる子どもの生活費として養育費を算出するので、一般的に考えられる生活費の他に、当事者間で子どもについて拠出することを決めていた私立学校の学費などを当事者間で加算することを合意することにより養育費算定表以上の金額をもらえる可能性はあります。

古い算定表で金額を決めました。新養育費算定表の金額で支払ってほしいのですが、どうしたらいいですか?

古い算定表よりも新算定表の方が高いために、新算定表に照らして養育費を支払うべきとの主張のみでは、家庭裁判所により養育費を増額するべきだと判断される可能性は低い状況にあります。一度決定した養育費の額を変更するためには、大きな事情変更、例えば、当事者一方の収入が激増、激減したことや子どものうち一人が社会人になり、自立したこと等が必要になります。
ただ、両当事者間で、新算定表の額で支払うことを決めた場合には新算定表に依った金額で支払うようにできます。

子供に障害があるため医療費がかかります。それでも算定表の額しか支払ってもらえないのでしょうか?

子どもに障害があるために、高額な医療費がかかる場合には通常想定される生活費ではまかなえない額になりますので、通常、子どもにかかる医療費を超える部分については算定表上の養育費の額に加算していくことになります。ですので、算定表どおりの額のみが支払われるのではなく、それに加えてかかる医療費等を養育費として加えることもあります。

新算定表の額が高すぎると調停を申し立てられました。減らさなければいけないのでしょうか?

新算定表上の養育費は、前記のとおり、今の社会情勢上子どもの生活費として一般的にかかるであろう額になりますので、通常は新算定表の養育費の額が高すぎるとして減らす必要はないと考えられます。しかし、特別な事情として特別に子どもの生活費としてかからない費用があるなどの事情がありましたら、新算定表の額から減らす可能性もあります。

再婚を理由に算定表の金額よりも養育費を減らしたいと言われました。受け入れなければいけないのでしょうか?

再婚だけを理由に算定表の額よりも養育費を減らすべきであると判断される可能性は低いです。しかし、養育費を支払う側に新たに子どもができた等の事情がある場合や、養育費を受ける側が再婚して、再婚相手が子どもを養育している等の場合には、算定表の額から減額される可能性はあります。

子供が4人以上いる場合の養育費算定表がありません。相場はどう調べればいいでしょうか?

子どもが4人以上いる場合の算定表は、裁判所のHP上にはございませんので、算定表にしたがって、相場を調べることは難しいです。ですが、標準算定方式と呼ばれる計算式を用いて計算することや法律事務所のサイトなどで自動で算定してくれるツール等がございます。弊所でも養育費計算ツールがございますので、ご活用ください。

上の子を夫が引き取り、下の子2人を私が引き取ることになりました。算定表はどう見たらいいのでしょうか?

算定表では、養育費をもらう側が子ども全員を見た場合を想定して表を作成しております。ですので、算定表を用いてすぐには養育費の相場を把握することは難しいです。
しかし、ある程度の相場は計算により把握することができます。まず、夫が子1人を監護し、妻が夫に対して養育費を支払うと考えて、養育費の額を計算します。一方で、妻が2人の子を引き取り、夫が妻に対して養育費を支払う場合の養育費の額を計算します。2つの計算により算出した養育費をそれぞれ相殺して、残った額について、養育費を支払うと考えます。
もっとも、この計算は正確なものとは言えないので、あくまでも、相場の大体の幅を知るための計算にすぎません。

算定表に書かれている年収は手取りですか?支払額ですか?

算定表で書かれている年収は、これまで見てきたように、支払額、いわゆる、額面になります。これは、算定表が前提としている標準査定方式が支払額から様々な控除分を計算した上で養育費を算定するため、標準査定方式を基に作成されている算定表に記載の年収も支払額になります。

養育費のことでお困りのことがあれば、弁護士への相談がおすすめ

これまで見てきたように、算定表を用いることによって、一般的な家庭で支払われるべきと考えられる養育費の相場を知ることはできます。ですので、当事者間で話し合いする際には、養育費の相場を前提にお話合いされることもよいかと思います。

もっとも、Q&Aで見てきたように、細かい事情を含めて正確に養育費を決めていきたいとのご希望や当事者間の話し合いでは養育費の額について決められない等の困りごとがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。

交通事故の被害に遭われた際、加害者側との交渉や適正な損害賠償金の獲得のために弁護士への依頼を検討される方は少なくありません。

弁護士が介入することで、賠償額の増額が期待できるなど多くの利点がありますが、同時に「弁護士費用はどれくらいかかるのか」「費用倒れになってしまわないか」といった金銭的なご不安を抱かれるのも事実です。

本稿では、弁護士費用の内訳や相場、費用負担を軽減するための具体的な方法、そして安心して弁護士に依頼するための知識について、専門家の立場から詳しく解説いたします。

交通事故の弁護士費用の内訳と相場

交通事故案件を弁護士に依頼する場合の費用は、かつて日本弁護士連合会による統一的な基準が存在しましたが、現在は廃止され、各法律事務所が自由に料金体系を定めています。

もっとも、その内訳は一般的に「相談料」「着手金」「成功報酬(報酬金)」「実費」「日当」といった項目から構成されており、事務所ごとの大きな違いはありません。

それぞれの費用の意味と相場を正しく理解することが、適切な弁護士選びの第一歩となります。

費用 相場
相談料 30分5000円程度
着手金 10万円~
成功報酬 経済的利益の額によって異なる
実費 交通費・収入印紙代・通信費などで異なる
日当 3~5万円/半日、5万~10万円/1日

相談料

相談料とは、弁護士に事件処理を正式に依頼する前段階で、法律的な助言を求める法律相談の対価として支払う費用です。

多くの法律事務所では、30分あたり5,000円から10,000円程度を相場としていますが、近年、交通事故分野に注力している事務所を中心に「初回相談料無料」のサービスが広く普及しています。

まずは無料相談を活用し、事件の見通しや弁護士との相性を確認することが推奨されます。費用に関する不明点も、この相談の機会に遠慮なく質問すべきです。

着手金

着手金は、弁護士に事件の対応を正式に依頼し、委任契約を締結する際に支払う費用です。

これは、事件の結果(例えば、示談交渉の成否や裁判の勝敗)にかかわらず、弁護士が業務に着手するための対価として支払うものであり、原則として返還されません。

金額は事務所によって様々ですが、近年では依頼者の初期負担を軽減するため、「着手金無料」としている法律事務所も増えています。

ただし、その分、後述する成功報酬の算定率が異なる場合があるため、総額での費用を見極める必要があります。

成功報酬(報酬金)

成功報酬は、委任された事件が解決に至った際に、その成功の度合いに応じて支払う報酬です。

交通事故の案件では、一般的に「弁護士が介入したことで増額した賠償金の額」や「最終的に獲得した賠償金の総額」を「経済的利益」と定義し、これを基準に「経済的利益の〇%+〇万円」といった形で算出されることが多くなっています。

この報酬体系により、依頼者の得た利益が大きくなるほど弁護士の報酬も増えるため、双方の利害が一致しやすいという特徴があります。

実費

実費とは、弁護士の報酬とは別に、事件を処理するために実際に必要となった経費のことを指します。

具体的には、裁判所に納める収入印紙代、訴訟記録の謄写費用、通信費(郵便切手代)、遠方への移動が必要な場合の交通費や宿泊費などがこれに該当します。

これらの費用は、事件の進行に応じて発生するため、あらかじめ一定額を預かり金として事務所に預託し、事件終了時に精算する方式が一般的です。

日当

日当とは、弁護士が事件処理のために事務所を離れて外部で活動(裁判所への出廷、現地調査、遠隔地での示談交渉など)を行った場合に、その拘束時間に対して支払われる費用です。

通常、半日あたり3万円~5万円、1日あたり5万円~10万円程度が相場とされています。

この日当は、交通費や宿泊費といった実費とは別途に発生する費用です。もっとも、近年の民事裁判ではウェブ会議システムの活用が進んでおり、遠方の裁判所への出廷に伴う日当が発生するケースは減少しつつあります。

交通事故の弁護士費用は誰が払う?相手に請求できる?

交通事故の損害賠償請求において、弁護士に依頼した際の費用は、原則として依頼者自身が負担することになります。示談交渉の段階で、加害者側の保険会社に対してこちらの弁護士費用を請求しても、支払いに応じられることはまずありません。

ただし、交渉が決裂し、訴訟を提起した場合には、判決において損害賠償元金の1割程度が弁護士費用相当の損害として認められ、相手方に負担させることができる場合があります。

これは、不法行為(民法第709条)と損害との間に相当因果関係が認められる費用は賠償の対象となるという考え方に基づくものであり、判例上確立された実務です。

しかし、これはあくまで賠償額の1割程度であり、実際に支出した弁護士費用の全額が填補されるわけではない点には注意が必要です。

交通事故を弁護士に依頼すると費用倒れのリスクがある?

費用倒れとは、弁護士に依頼したことで得られた経済的利益(賠償金の増額分など)よりも、支払う弁護士費用の方が高額になってしまい、結果的に依頼者の手元に残る金額が減ってしまう状態を指します。

このリスクは、特に車両の修理費のみを争う物損事故や、通院期間が1ヶ月程度の軽傷事案など、弁護士が介入しても賠償額の大きな増額が見込みにくいケースで高まります。

もっとも、依頼を受ける前の相談段階で費用倒れの可能性を十分に説明しますので、ご依頼される方が知らないうちに損をするという事態は通常起こりにくいと言えます。

弁護士費用を抑えるための4つのポイント

早めのタイミングで相談する

費用倒れのリスクを回避し、かつ、適正な賠償を受けるためには、事故後可及的速やかに弁護士へ相談することが重要です。

事故直後の段階で相談すれば、通院方法、医師への症状の伝え方、証拠の保全方法など、後々の交渉を有利に進めるための的確なアドバイスを受けられます。

自己判断で不適切な対応をしてしまい、後から弁護士に依頼しても覆すことが困難になるケースは少なくありません。

早期の相談は、結果的に不要な紛争の長期化を防ぎ、弁護士費用を抑制することにも繋がります。

見積もりを出してもらう

弁護士への依頼を具体的に検討する際には、必ず費用の見積もりを請求し、その内訳を詳細に確認することが不可欠です。

特に、複数の法律事務所に相談し、それぞれの見積もりを比較検討することが望ましいでしょう。「着手金無料」といった表面的な宣伝文句だけで判断するのではなく、成功報酬の算定基準や実費、日当の有無などを含めた総額でどれくらいの費用が見込まれるのかを把握することが重要です。

着手金無料・成功報酬型の弁護士を選ぶ

初期費用を抑えたい場合には、着手金が無料の法律事務所を選択することが有効な手段となります。これにより、事件を依頼する時点での経済的な負担がなくなり、弁護士へのアクセスが容易になります。

ただし、着手金を無料とする代わりに、成功報酬の算定率を比較的高めに設定している事務所も存在します。

したがって、最終的に獲得できる賠償額の見込みと、総額で支払うことになる弁護士費用を天秤にかけ、自身の事案にとって最も合理的な料金体系の事務所を選択する視点が求められます。

弁護士費用特約が使えるかを確認する

弁護士費用を抑制する最も効果的な方法は、ご自身またはご家族が加入している自動車保険等に「弁護士費用特約」が付帯しているかを確認することです。

この特約を利用すれば、保険会社が弁護士費用を上限額(多くの場合300万円)まで負担してくれるため、実質的な自己負担なく弁護士に依頼することが可能となります。

費用倒れのリスクを完全に払拭できるため、もし特約が利用可能であれば、積極的に活用すべきです。

交通事故で弁護士費用特約を利用するメリット

弁護士費用が300万円まで補償される

弁護士費用特約の多くは、法律相談料の上限を10万円、弁護士報酬や実費などの上限を合計300万円と定めています。死亡事故や重篤な後遺障害が残る事案でない限り、弁護士費用の総額が300万円を超えるケースは稀です。

そのため、この特約を利用することにより、大半の交通事故案件において、被害者は費用負担を一切気にすることなく、賠償請求に関する一切の手続きを弁護士に委任することができます。

これは、被害者が経済的な不安から解放され、治療に専念できるという点で非常に大きなメリットと言えます。

保険の等級は変わらない

自動車保険を利用すると、翌年度のノンフリート等級が下がり、保険料が上がってしまうという懸念をお持ちの方もいらっしゃいます。

しかし、弁護士費用特約のみを利用した場合には、等級に影響はなく、保険料が上がることはありません。したがって、特約の利用を躊躇する必要は全くありません。

ただし、ご自身の車両保険や対人・対物賠償保険などを同時に使用した場合は、当然ながら等級ダウンの対象となりますのでご注意ください。

家族や同乗者でも利用できる

弁護士費用特約の補償対象は、契約者本人に限定されません。

保険契約の内容にもよりますが、一般的に、契約者の配偶者、同居の親族、さらには別居している未婚の子なども対象に含まれることが多くなっています。

また、契約車両に同乗中に事故に遭った友人・知人も利用できる場合があります。ご自身の保険に特約が付いていないと諦める前に、ご家族が加入する保険の内容も確認してみることが重要です。

車を運転中の事故以外でも利用できる

弁護士費用特約の補償範囲は、自動車を運転中の事故に限定されません。歩行中に車にはねられた、自転車で走行中に自動車と接触した、といったケースでも利用できるのが一般的です。

さらに、自動車保険だけでなく、火災保険や傷害保険などにこの特約が付帯している場合もあります。交通事故に遭われた際は、ご自身が加入しているあらゆる保険契約の証券を確認し、特約の有無を調べることが肝要です。

弁護士費用特約なしでも弁護士に依頼した方がいい?

弁護士費用特約が付帯しておらず、費用を自己負担しなければならない場合でも、弁護士に依頼すべき事案は数多く存在します。

特に、後遺障害の等級認定が争点となるケース、死亡事故、被害者の過失割合に大きな争いがあるケースなどでは、弁護士が介入することによる賠償金の増額幅が、弁護士費用を大幅に上回る可能性が高いと言えます。

軽微な物損事故や短期の通院で完治した怪我の場合には費用倒れのリスクも考慮すべきですが、重大な被害を受けたにもかかわらず、費用を懸念して泣き寝入りすることは避けるべきです。

交通事故の弁護士費用でご不安がある場合は、まず無料相談をご利用ください。

ここまで解説してきたとおり、交通事故の弁護士費用には様々な種類と料金体系があります。費用に関するご不安や疑問をお持ちのまま、独りで悩み続けることは得策ではありません。

現在、多くの法律事務所が交通事故に関する初回無料相談を実施していますので、まずは専門家である弁護士に直接ご相談されることをおすすめします。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。