交通事故の素因減額について

交通事故

交通事故の素因減額について

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

交通事故の前から、被害者にあった身体的・心因的な要因(素因)が原因となって、損害が発生したり、拡大したりすることがあります。そのような場合に、保険会社や加害者から、損害賠償額に一定割合の減額を求められる場合があり、これは素因減額と呼ばれます。
以下では、交通事故の素因減額について説明します。

素因減額とは

素因減額とは、被害者が、交通事故の前からもつ身体的・心因的要因が原因(素因)となって、損害が発生もしくは拡大したと認められる場合に、公平の観点から、素因の程度に応じて、損害賠償額に一定割合の減額を認める考え方をいいます。

心因的要因について

素因減額の心因的要因としては、被害者の心理的、精神的、性格的な要因が考えられます。心因的要因としての素因減額には基準はなく、個別具体的に判断されます。
他覚初見は認められず、医学的根拠がないが、自覚症状とその証言もある場合に、素因減額を認めるか否かが争われることがあります。

身体的要因について

たとえば、被害者が平均的な人と比較して首が長い場合や肥満であるなど、特異な身体的特徴があった場合でも、その特徴が疾患にあたらない場合には、原則として、素因減額の対象とはならないとされています。
事故の前から疾患があるからといって、必ず素因減額の対象とされるとは限りません。一律に決まった基準はなく、あくまでも、個別具体的に判断されるのです。
ヘルニアや骨粗鬆症等、加齢による老化現象においても、それが年齢相応のものであれば、素因減額の対象とはされません。

保険会社から素因減額が主張されやすいケース

加害者や保険会社から素因減額が主張されやすいケースとしては、既往症がある場合や、被害者が高齢である場合等があげられます。特に、被害者が高齢である場合には、年齢相応の老化現象もあり、加害者や保険会社は、これを理由として医学的根拠に基づかずに素因減額を求めてくることがありますので注意が必要です。

素因減額の立証について

立証するのは誰?

素因減額の立証をしなければならないのは、素因減額を主張する加害者及び保険会社です。素因減額によって利益を得るのは加害者や保険会社であることから、その立証責任を負うのです。したがって、加害者や保険会社が、素因減額を立証できない場合には、素因減額が認められないことになります。

立証する内容は?

加害者や保険会社は、素因減額を立証するために、被害者の肉体的・精神的・体質的な特徴や特性が、単なる被害者の特徴や特性ではなく、疾患にあたることを立証する必要があります。また、加害者や保険会社は、交通事故のケガが、事故と疾患の両方が原因になって発生していることを立証しなければなりません。さらに、素因減額をしなければ損害分担として公平に反することになること、も立証しなければなりません。

損害賠償請求時の素因減額を争う場合の判断基準

素因減額を争う場合において、示談交渉で解決できない場合には、調停や裁判となります。その場合には、交通事故の態様や事故車両の損傷状況、既往症の有無及び既往症の内容や程度、交通事故で被った傷害の治療に必要とされる平均的な期間、受傷・発症・拡大した傷害の内容・部位・程度を判断基準として、素因減額ができるか否かが判断されます。

まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

交通事故被害者専門ダイヤル

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
交通事故の経験豊富な弁護士にお任せください

素因減額と過失相殺の順序

素因減額と過失相殺の両方が問題となる場合については、まずは素因減額をして、のちに過失相殺をするという方法が一般的です。

素因減額と過失相殺の計算式

素因減額と過失相殺の計算について具体例を用いて説明します。
たとえば、損害金額200万円、過失割合が2割、素因減額3割の場合、まずは、素因減額がされますので、200万円×0.7=140万円。続いて、過失相殺がされますので、140万円×0.8=112万円。
以上より、112万円が損害賠償額となります。

素因減額についての判例

素因減額についての判例を紹介します。
まずは、素因減額が認められた判例を紹介します。

最高裁判所 平成5年9月9日
交通事故により受傷した被害者がその後自殺し、被害者の遺族が、加害車の運転者等に対し、死亡による損害を含む損害賠償を請求した事案。
裁判所は、事故と自殺との間に因果関係があるとしたうえで、被害者の心因的要因が自殺に寄与している点を考慮して、賠償額の減額を認めた。

次に、素因減額が認められなかった判例を紹介します。

最高裁判所 平成8年10月29日
追突事故によって、頚椎捻挫の傷害を負った被害者が、加害者に損害賠償請求をしたところ、加害者は、被害者が、平均的体格に比べて首が長く、多少の頸椎の不安定症があるという身体的特徴を有していたことから症状を悪化・拡大させたとして、素因減額を主張した事案。

裁判所は、不法行為により傷害を被った被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有しており、これが、加害行為と競合して傷害を発生させ、又は損害の拡大に寄与したとしても、身体的特徴が疾患に当たらないときは、特段の事情がない限り、これを損害賠償の額を定めるに当たりしんしゃくすることはできないとして、本件被害者の特徴を損害賠償の額を定めるにあたって考慮できないとした。

素因減額についてお困りの場合は弁護士にご相談ください

加害者や保険会社が、素因減額について主張してきた場合には、被害者も、医療と法律に関する専門的な知識が必要となりますので、一人で加害者や保険会社と交渉することは難しいでしょう。そこで、素因減額について専門的な知識を持つ弁護士に依頼して、加害者や保険会社との交渉を任せれば、適正な賠償金を獲得するために動いてくれるでしょう。加害者や保険会社が、素因減額について主張してきた場合や主張することが予想される場合には、弁護士に相談することを強くお勧めします。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。