監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
目次
後遺障害による逸失利益とは
後遺障害が認められた時に請求が可能となる損害項目の1つです。
自賠責もしくは裁判上で後遺障害があると認められた被害者は、労働能力が低下したもの扱われ、事故前の収入額を基礎収入とし、後遺障害の等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間を乗じて算定されます。
ただし、中間利息が控除されたり、後遺障害の内容によっては逸失利益が認められなかったり、労働能力喪失期間が通常より短かったりするものもあるため、注意が必要です。
後遺障害逸失利益の算定方法
後遺障害による逸失利益は、以下の計算式によって求められます。
基礎収入は、原則として事故前年の年収を基礎とします。
労働能力喪失率は、基本的には自賠責保険の後遺障害別等級表・労働能力喪失率の後遺障害の等級に対応した労働能力喪失率が用いられます。例えば14級だと5%、10級だと27%、5級だと79%といったものです。
労働能力喪失期間は、原則として、症状固定時から就労可能年齢とされる67歳までの期間(67歳-症状固定時の年齢)となります。
また、いわゆるむち打ち症の場合の労働能力喪失期間については、通常、14級の場合は5年、12級の場合は10年とされています。
中間利息控除というのは、将来受け取るべき減収分に対する賠償を現在の価格に評価し直す作業のことです。この中間利息控除のための計算要素としてライプニッツ係数というものが用いられます。
67歳以上の場合の労働能力喪失期間
後遺障害の症状固定時、すでに67歳を超えていた場合は「簡易生命表」の平均余命の2分の1の期間が67歳までの労働能力喪失期間よりも長い場合は、平均余命の2分の1の期間を労働能力喪失期間とし、逸失利益を賠償してもらうことができます。
給与所得者(会社員、公務員等)の基礎収入
給与所得者の基礎収入は源泉徴収票を基準として決まります。社会保険料や税金を控除した後のいわゆる手取り額ではなく、控除前のいわゆる額面金額です。
将来昇給の可能性がある場合の基礎収入
若年被害者で傷害を通じて全年齢平均賃金程度または学歴別平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められる場合については、基礎収入を賃金センサスの全年齢平均賃金または学歴別平均賃金により算定することもできます。
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会社役員の基礎収入
役員報酬というのは、労働の対価としての部分と、経営による利益配当的な部分によって構成されています。後遺障害の逸失利益の算定における基礎収入額は、会社役員の役員報酬のうち労働の対価としての部分の金額となります。
ただし、後遺障害により役員を解任された場合、利益配当的な報酬も含めた基礎年収による逸失利益が認められる場合もあります。
事業所得者の基礎収入
事業所得者の場合、原則として、事故前年の確定申告書の売上額から必要経費を控除した額に、被害者本人の寄与分を掛けて、基礎収入を算定します。
寄与分は、事業の種類、規模、本人の労務内容、家族、従業員の関与の程度などから判断されます。
収入に変動が大きい場合
毎年収入に変動が大きい場合は、事故前3年の平均収入を基準としたり、賃金センサス(性別、年齢、学歴等の平均的な年収額を算出した統計)を基準としたりして基礎収入が定められることになります。
家事従事者の基礎収入
主婦の逸失利益の算定の際の基礎収入は、賃金センサス(性別、年齢、学歴等の平均的な年収額を算出した統計)の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の全年齢平均の賃金額を基準として算定されます。なお、男性の主夫についても、同様の基準が用いられます。
学生、生徒、幼児等の基礎収入
学生、生徒、幼児等の場合、症状固定時の賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、男女別労働者、学歴系、全年齢の平均賃金を基礎収入とします。
ただし、中学生くらいまでの女子の場合、通常、女子全年齢の平均賃金ではなく、男女計、学歴系、全年齢の平均賃金を基礎収入とします。
大学生の場合、賃金センサスの大学、大学院卒の全年齢平均賃金を基礎収入とします。
無職者の基礎収入
労働能力と就労意欲があり、就労する確実性がある程度認められる場合は、逸失利益を請求できます。
その場合の基礎収入額は、通常、症状固定時の賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、男女別労働者、学歴計、年齢別の平均賃金を基礎収入となります。また、事故前の実収入なども参考にされます。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)