監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
交通事故の被害に遭われた方の中には、残念ながら身体に後遺障害が残ってしまう方もいらっしゃいます。後遺障害のために得られなくなった収入を確保できる手段がありますので、以下を参照してください。
目次
後遺障害逸失利益とは
後遺障害逸失利益とは、身体に後遺障害が残り、労働能力の一部又は全部が喪失するために、将来的に発生する収入の減少のことをいいます。
後遺障害逸失利益の計算方法
後遺障害逸失利益は、「基礎収入×労働能力喪失率×喪失期間に対応するライプニッツ係数」という算定方式で算定されます。
有職者は、原則として事故前の給与の金額を基礎として算定し、18歳未満の未就労者は、原則として賃金センサスの平均賃金額を基礎として算定します。
基礎収入の算出方法
基礎収入とは、事故前の収入を基礎として算定します。
給与所得者(会社員など)
原則として、事故前の給与の金額を基礎とします。給与額には、本給のほか、歩合給、各種手当、賞与を含みます。
個人事業主(自営業など)
原則として、事故前年の確定申告所得額を基礎とします。
会社役員
取締役報酬額をそのまま基礎収入にするのではなく、取締役報酬中の労務対価部分を認定し、その金額を基礎とします。
家事従事者(主婦など)
原則、賃金センサスの女性労働者の平均賃金を基礎とします。
無職
労働能力と労働意欲があり、就労の可能性がある場合には、原則として失業前の収入を参考に基礎収入を計算します。
学生
原則として、賃金センサスの平均賃金額を基礎とします。
高齢者
就労の蓋然性が認められる場合には、賃金センサスの平均賃金額を基礎とします。
幼児・児童
原則として、賃金センサスの平均賃金額を基礎とします。
労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、後遺障害の影響が仕事の遂行にどれくらいの影響を与えているかを示すものです。そして、自動車損害賠償保障法施行令別表の後遺障害別等級表に対応する労働者労働基準局長通牒別表の労働能力喪失率表記載の喪失率を適用するのが原則です。しかしながら、被害者の年齢・職業・性別・後遺障害の内容・部位・程度、事故前の稼働状況等から総合的に判断されるため、異なる認定がなされる場合もあり得ます。
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
第1級~第3級 | 100% |
第4級 | 92% |
第5級 | 79% |
第6級 | 67% |
第7級 | 56% |
第8級 | 45% |
第9級 | 35% |
第10級 | 27% |
第11級 | 20% |
第12級 | 14% |
第13級 | 9% |
第14級 | 5% |
労働能力喪失期間の算出方法
後遺障害によって労働能力が喪失してしまう期間のことを、労働能力喪失期間といいます。原則として症状固定時から67歳までの期間とされます。
幼児~高校生
労働能力喪失期間の始期は症状固定日ではなく、18歳となり、期間は18歳から67歳までとなります。
大学生
労働能力喪失期間の始期は症状固定日ではなく、22歳となり、期間は22歳から67歳までになります。
会社員
症状固定日から67歳までの期間になります。
高齢者
症状固定日から67歳までの年数が簡易生命表により求められた平均余命の2分の1以下となる高齢者は、原則として平均余命年数の2分の1の期間が労働能力喪失期間となります。
中間利息の控除
逸失利益は被害者の方が将来にわたって得られるはずであった利益です。しかし、将来受け取るべき利益を現時点でそのままの額で受け取ってしまうと、本来受け取ることができる時点までに発生する利息の分、被害者が不当な利益を得ることになってしまいます。そこで、この利息分に対応する金額を中間利息としてあらかじめ差し引くことを中間利息控除といいます。
ライプニッツ係数
将来発生する利息を控除するために用いる中間利息控除の方式の一つです。
参考:国土交通省 就労可能年数とライプニッツ係数表(https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/syuro.pdf)
後遺障害逸失利益の計算例
16歳の高校生 後遺障害等級8級に該当した場合
16歳の高校生は、全年齢平均賃金である487万2,900円を基礎収入と考えます。
労働能力喪失期間は、後遺障害等級が8級であるため、45%です。
労働能力喪失期間は、67歳-18歳で49年とし、49年に対応するライプニッツ係数は25.5017です。
そのため、基礎収入(487万2,900円)×労働能力喪失率(45)%×喪失期間に対応するライプニッツ係数(25.5017)で逸失利益は計算されます。
50歳の公務員 後遺障害等級12級に該当した場合
給与所得者は、源泉徴収票からわかる前年の年収を基礎収入と考えます。
労働能力喪失期間は、後遺障害等級が12級であるため、14%です。
労働能力喪失期間は、67歳-50歳の17年とし、17年に対応したライプニッツ係数は13.1661です。
そのため、基礎収入×労働能力喪失率(14)%×喪失期間に対応したライプニッツ係数(13.1661)で逸失利益は計算されます。
30歳の主婦 後遺障害等級14級に該当した場合
主婦の場合は、女性学歴計全年齢平均の平均賃金である381万9,200円を基礎収入と考えます。
労働能力喪失期間は、後遺障害等級が14級であるため、5%です。
労働能力喪失期間は、14級のむちうちの場合には5年とし、5年に対応したライプニッツ係数は4.5797です。
そのため、基礎収入(381万9,200円)×労働能力喪失率(5)%×喪失機関に対応したライプニッツ係数(4.5797)で逸失利益は計算されます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
後遺障害逸失利益を増額させるポイント
後遺障害逸失利益を増額させるポイントは、後遺障害が適切な等級に認定されていること、基礎収入が正しく計算されていること及び労働能力喪失期間が正しく計算されていることです。
減収がない場合の後遺障害逸失利益
損害賠償制度が、被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とするものであるから、被害者の収入の減額がない場合には、逸失利益が認められないのが原則である。しかしながら、事故後収入の減少がなくても労働能力の喪失がある場合、逸失利益の存在を認める判例もある。すなわち、事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人の努力によるものであることや勤務先や周囲の配慮による等の特段の事情の存在がある場合には判例で逸失利益を認めています。
後遺障害逸失利益に関する解決事例・裁判例
耳鳴りなどの症状から後遺障害等級12級相当の認定が受けられ、後遺障害逸失利益などの増額に成功した事例
依頼者の方は両耳鳴症で、後遺障害等級12級相当との認定を受けました。この結果を踏まえて、依頼者の方が、相手方保険会社と賠償額の交渉に臨んだところ、事故直後に発症した症状ではないということで逸失利益について労働能力喪失率は5%、労働能力喪失期間は3年との回答を受けました。しかしながら、最終的に弁護士が介入したことで、賠償額提示額の4倍強の金額を支払ってもらうことに成功しました。
弁護士が介入したことで学生の後遺障害逸失利益と後遺障害等級14級9号が認められた事例
依頼者の方は、自転車で横断歩道を走行中に右後方から相手方車両に衝突された高校生の方でした。転倒した際に肩を地面にぶつけるなどした結果、頚椎捻挫、腰痛捻挫、左上腕骨近位不全骨折等との診断を受けました。後遺障害等級申請をしたところ、非該当でしたが、弁護士が異議申立てをして、14級9号という認定がなされました。また、被害者が高校生であり、逸失利益が認められないとの反論が相手方保険会社からありましたが、在学時にアルバイトをして収入を得ていたこと及び卒業後は進学せずに働く可能性があり後遺障害逸失利益は発生すると主張した結果、後遺障害逸失利益を認めてもらうことに成功しました。
後遺障害逸失利益は弁護士に依頼することで増額できる可能性があります
後遺障害の等級や基礎収入によって、請求できる金額が大きく変わってきます。正しく計算がなされているかどうかについてご自身で判断するのは難しいと思います。そこで、弁護士に相談して適切な逸失利益を獲得しましょう。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)