監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
後遺障害というと、手足の一部を失ってしまったり、ケガがいつまでも痛んだり、傷痕が残ってしまったりというものがイメージしやすいのではないでしょうか。一方で、腕や足の関節がうまく動かせなくなってしまった場合も、後遺障害にあたることがあります。
このコラムでは、そのような場合に問題となる関節の可動域制限について解説いたします。治療をしたのに、関節がうまく動かせない症状が残ってしまったというという方は、このコラムをご覧ください。
目次
可動域制限とは
人は、関節を曲げたり伸ばしたりすることで、腕や足を自由に動かすことができます。この曲げたり伸ばしたりして動かすことができる範囲を、関節の可動域といいます。可動域制限とは、可動域が以前と比べて狭くなった状態のことをいいます。
可動域制限が後遺障害として認められるのは、原則として、腕や足の重要な関節(三大関節)について、屈曲・伸展という主要運動が制限されている場合に限られます。
交通事故による可動域制限の原因
交通事故によって可動域制限が生じるのは、交通事故で骨折した後に関節部分がうまくくっつかなかったり、神経に損傷が生じたりして、関節をうまく動かすことができない状態になるためです。このような状態になるのは、交通事故によって関節の近くにある骨が骨折した場合や、大腿骨の骨頭(大腿骨の丸い上端部分)が壊死して人工股関節に置換した場合などに生じ得ます。このような骨折などが生じていない場合には、可動域制限の原因が交通事故であるかどうかが医学的に明らかでないため、可動域制限があっても後遺障害として認定してもらえないことが多いです。
例えば、関節付近に骨折はないが痛むから曲げられないという場合には、基本的に可動域制限にあたらないことになります。もっとも、この場合でも局部に神経症状を残すもの(14級9号)という後遺障害として認められる可能性はあります。
可動域制限の後遺障害認定に必要な要件
関節の可動域制限が後遺障害として認められるためには、可動域制限が交通事故によって生じたものであるだけでなく、三大関節について生じており、しかも一定の程度を超えて可動域が制限されている必要があります。可動域制限の程度については「用を廃したもの」「著しい機能障害」「機能障害」の三つの基準が存在します。
関節の「用を廃したもの」
「用を廃したもの」には、①関節が硬直した場合、②完全弛緩性麻痺かそれに近いものになった場合、③人工関節又は人工骨頭を挿入置換された上で、ケガのない腕や足と比べて可動域が2分の1以下である場合が含まれます。
①硬直とは、関節が全く可動しないか、ケガのない腕や足と比べて関節可動域が10パーセント以下に制限されている状態のことです。②完全弛緩性麻痺とは、末梢神経が機能しないために自分の意思で動かすことができない状態のことです。
関節の「著しい機能障害」
可動域には個人差があるため、単純にケガをした腕や足の可動域だけを計測しても、事故前と比べて制限されているかは分かりません。そこで、可動域制限の有無は、基本的には、ケガをしていない腕や足と比較して判断します。
「著しい機能障害」とは、①ケガをしていない腕や足と比較した場合に、可動域が2分の1以下に制限されたか、②人工関節又は人工骨頭を挿入置換された上で、可動域が2分の1以下に制限されていない(「用を廃したもの」の③にあたらない)場合です。
関節の「機能障害」
「機能障害」とは、ケガをしていない腕や足と比較した場合に、ケガをした手足の可動域が4分の3以下に制限された場合をいいます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
可動域制限の後遺障害等級と慰謝料
可動域制限が後遺障害として認められる場合でも、制限のある関節の数や制限の程度によって、後遺障害の等級が異なります。また、左右の一方ではなく左右両方に可動域制限が存在すれば、その分等級は高くなり、重大な後遺障害として扱われます。具体的な等級と弁護士基準での慰謝料額は、以下の表のとおりです。
上肢
等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
1級4号 | 両上肢の用を全廃したもの | 2800万円 |
5級6号 | 1上肢の用を全廃したもの | 1400万円 |
6級6号 | 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | 1180万円 |
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
下肢
等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
1級6号 | 両下肢の用を全廃したもの | 2800万円 |
5級7号 | 1下肢の用を全廃したもの | 1400万円 |
6級7号 | 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | 1180万円 |
8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
可動域制限が認められた裁判例
弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所が関わった、可動域制限に関する事例をご紹介いたします。
この事件は、被害者が下腿に関する複雑骨折を負い、足に重い可動域制限を残すことになったという事案です。後遺障害申請の段階で、被害者の方から弊所にご依頼いただきました。弊所からは、主治医の先生に追加で必要となる検査を依頼したうえで、後遺障害診断書をご作成いただきました。結果として、他の後遺症も含めて併合7級の認定を受けることができています。
その後、消極損害について激しい争いになり訴訟も提起しましたが、最終的には和解を成立させ、自賠責保険金を含めて6100万円(治療費など除く。)を獲得しています。
可動域制限の後遺障害が残ってしまったらご相談ください
可動域制限の有無や程度の判断には、専門的な知識が必要となります。そのため、後遺障害等級認定を得ようと思っても、被害者本人だけで対応するのには難しい部分もあります。
ALGでは多数の可動域制限の事件を扱っているため、可動域制限に関する知識があることはもちろん、豊富な経験も有しています。
交通事故のケガで関節がうまく動かせなくなってしまった場合などには、まずは一度弁護士にご相談ください。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)