監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
交通事故は、ほとんどの人にとって非日常的な体験です。どうしたらいいのかが分からなかったり、わずらわしさから早く解放されたいと考えたりして、あまり内容を理解しないままに示談してしまうこともありえます。
しかし、あせって示談をすると、得られるはずだった賠償が得られないことがあります。
損をせず、納得のいく示談交渉を行うには、どうすれば良いのでしょうか。本コラムでは、望ましい示談交渉を行うために必要な情報をご紹介していきます。
目次
- 1 その場で示談は行わない
- 2 事故状況や加害者の連絡先を控えておく
- 3 交通事故の処理は人身事故にする
- 4 通院頻度を確認する
- 5 痛みがある場合は医師に必ず伝える
- 6 もし治療費を打ち切られても通院をやめないこと
- 7 領収書などは全て保管しておく
- 8 症状固定の時期は医師に見極めてもらう
- 9 後遺障害診断書の内容を確認する
- 10 示談交渉を焦らない・相手任せにしない
- 11 過失割合をきちんと決めること
- 12 交渉が長引くようなら時効についても気にしておく
- 13 弁護士に依頼する場合は、交通事故に詳しい弁護士へ依頼する
- 14 示談金の計算は正しくされていますか?
- 15 示談書は正しく書けていますか?
- 16 全ての注意点に気を付けて示談を成立させるのは難しい
- 17 納得のいく示談成立を目指すなら、弁護士へご相談下さい
その場で示談は行わない
示談は事件の解決のためにするものですから、示談の際には追加の請求をさせないための条項(清算条項)が加えられます。そのため、予想できない後遺症が生じた場合などの例外的な場合を除き、示談後に追加で損害賠償を請求することはできません。例えば、治療費が当初考えていたより多額になった場合でも、示談のときに治療対象のけがを把握していたのであれば、追加での治療費の請求が認められることは基本的にありません。
交通事故の直後に、治療費などの損害額が全く把握できない状況で示談をすることは避けましょう。
事故状況や加害者の連絡先を控えておく
賠償額を算定する上では、事故状況が重要となります。現場や被害箇所を写真に収めるなど、事故状況を把握しておきましょう。ドライブレコーダーなどの記録がなく、警察も実況見分をしなかったような場合では、自身で収集した証拠が事故状況を示す唯一の証拠となることもあります。
用事があって急いでいるような場合でも、必ず加害者の連絡先は確認しておきましょう。警察が連絡先を把握しているような場合を除いて、事故現場を離れてから加害者の連絡先を知ることは困難です。
交通事故の処理は人身事故にする
警察による交通事故の処理について、物損事故ではなく人身事故にすることが可能なときは、人身事故にしておきましょう。
人身事故の場合には警察が実況見分調書を作成するので、事故状況を確認するための重要な資料を得られるようになります。
また、特にけがが軽微な場合などでは、人身事故になっていないことを理由に、保険会社が賠償額を低く算定する可能性も否定できません。
通院頻度を確認する
けがを負ったことに対する慰謝料(傷害慰謝料)は、主に通院期間によって決められます。しかし、通院期間に比べて通院日数があまりに少ない場合には、実通院日数をベースとして慰謝料が算定されて慰謝料額が少額となる可能性があります。
医師の指示に従うことが前提ですが、適正な慰謝料を受け取るためには、我慢せず、1か月に10日程度、1週間に2、3日を目安に通院を続けましょう。
痛みがある場合は医師に必ず伝える
けがが交通事故によるものといえるか(因果関係)や後遺症にあたるかは、医師の診断書やカルテを参考にして判断します。痛みがあるのに、「これは大した痛みじゃない」「これくらいなら我慢できる」と痛みを医師に伝えないままでいると、診断書やカルテに痛みについての記載が残りません。そうなると、交通事故によるけがではないと判断されたり、後遺症ではないと判断されたりして、治療費や慰謝料を受け取れない可能性があります。痛みがある場合は、必ず医師に伝えておきましょう。
もし治療費を打ち切られても通院をやめないこと
保険会社に治療費を打ち切られても、痛みが残るようであれば通院を続けることも考えられます。治療期間が充分でないと、後遺症が認められない可能性もあります。医師と相談して決定しましょう。
ただし、治療費の打ち切り後は、治療費を自分で支払う必要があります。治療費が負担しきれない場合には、健康保険を利用することもできます。
領収書などは全て保管しておく
初診の治療費や治療費打ち切り後の治療費、診断書の作成料などの自分で立て替えた費用については、保険会社に請求が可能な場合があります。
請求をする際には、治療費や作成料を支払ったことを確認するため、保険会社から領収証の提出を求められることになります。費用について、保険会社から支払いを受けるためにも領収証は必ずとっておきましょう。
症状固定の時期は医師に見極めてもらう
症状固定は、けがの状態と治療の必要性についての判断なので、原則として医師の判断が尊重されます。保険会社が判断するものではありませんから、保険会社から「そろそろ症状固定でいいですか」と尋ねられても安易に返事をしないように気をつけましょう。
本来の症状固定よりも先に症状固定を認めてしまうと、適正な賠償を受けられない可能性があるので、注意が必要です。
後遺障害診断書の内容を確認する
後遺障害等級認定を受けるためには、医師に依頼して後遺障害診断書を作成してもらいます。後遺障害診断書で、障害の状態や痛みの状況について適切に書かれていないと、後遺障害の認定を受けられにくくなります。
きちんとけがの状態や痛みの状況について伝え、きちんと医師には後遺障害診断書に書いてもらいましょう。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
示談交渉を焦らない・相手任せにしない
交渉のわずらわしさから解放されたいと思って焦って交渉を進めたり、交渉が面倒だからと加害者側の言うとおりに示談を成立させたりすると、適正な示談金額にならない危険性が高いです。
一度示談をしてしまうと後から撤回することもできず、取り返しのつかない場合もあります。適正な額の示談金を得るためには、あせらずしっかりと考えて示談交渉を進めていきましょう。
過失割合をきちんと決めること
被害者に過失があるときは、過失の大きさを考慮して賠償金額が算定されます(過失相殺)。過失相殺は、治療費や慰謝料などすべての賠償金額に及ぶため、過失割合が賠償金額の決定に与える影響はとても大きいです。
適正な過失割合になっていないと賠償金額が大きく減額されるため、示談を成立させる際には、適正な過失割合になっていることを確認することが重要です。
交渉が長引くようなら時効についても気にしておく
物的損害は3年間、人的損害は5年間で消滅時効が成立し、損害賠償請求ができなくなります。治療が長期間に及ぶ場合には、消滅時効が成立する可能性があるため注意が必要です。
時効を成立させないために、内容証明郵便で損害賠償を支払うよう求めること(催告)が考えられますが、催告後6か月以内に改めて訴訟の提起などをする必要があるため、注意が必要です。
弁護士に依頼する場合は、交通事故に詳しい弁護士へ依頼する
弁護士によって、得意な分野は異なります。
もちろん、弁護士ですから調査の上で交通事故事件を扱うことはできます。しかし、日常的に交通事故を扱っていない弁護士だと、調査に時間がかかることも考えられますし、知識の不足から見落としをする可能性も否定できません。
示談交渉をスムーズに進めるためには、交通事故に詳しい弁護士に依頼しましょう。
示談金の計算は正しくされていますか?
示談金額のうち、治療費などの実費を除く部分で大きいのが慰謝料です。加害者側の保険会社から提示される慰謝料の金額は、保険会社の内部基準(任意基準)に基づいて算定されています。基本的に、任意基準に基づく慰謝料は、弁護士が交渉の際に用いる基準(裁判基準)に基づく慰謝料に比べると低額です。
弁護士が示談交渉に入ると裁判基準を目安として慰謝料額が決まることになるので、弁護士が入っていない場合に比べると慰謝料額が高くなるケースがほとんどです。
示談書は正しく書けていますか?
示談をすると、基本的に撤回はできません。また、一般的に清算条項を入れるため、追加で請求することもできなくなります。示談書が作成されたら、示談金額が適正か、条件に不備がないかを改めて確認しておきましょう。
示談条件が不利になっていないか確認する
後から後遺症が現れた場合でも、示談時に後遺症の存在が予想できるものであったときは、基本的に損害賠償は請求できません。
後遺症が出た場合の処理について明確に定められているかなど、示談条件が不利になっていないかはよく確認しておく必要があります。
公正証書だとなお良い
公正証書は、公証役場で公証人が作成者の意思を確認して作成する書面のことです。公的機関によって意思が確認されているため、改めて裁判を起こして裁判所に判決をもらうことなく、強制執行が可能です。
加害者が任意保険に加入しておらず、加害者からの支払いが確保されていない場合には、公正証書化しておくことが有効です。
全ての注意点に気を付けて示談を成立させるのは難しい
今まで見てきたように、示談の際には注意すべき点が数多くあります。
ほとんどの被害者にとっては、交通事故は初めての経験です。一方で、多くの場合に交渉相手となる保険会社は、日常的に交通事故の案件を扱っているプロフェッショナルです。そのような保険会社を相手に、数々の注意点に気を付けながら交渉を進め、満足のいく結果を得ることはやはり簡単ではありません。
納得のいく示談成立を目指すなら、弁護士へご相談下さい
納得のいく示談を成立させる上では、保険会社との交渉を被害者に代わって行い、知識面でもサポートをする弁護士を利用することが有効です。
弁護士特約に入っている方であれば、基本的に弁護士費用を負担することはありません。示談について、少しでも不安に思う点があれば、一度弁護士に相談してみましょう。
きっと、納得のいく示談成立を目指す、あなたのお役に立てるはずです。
-
- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)