
監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所で行われるのが遺産分割審判です。これは、裁判官が当事者の主張や証拠に基づいて遺産の分け方を決定する手続きです。協議とは異なり、話し合いではなく裁判官による判断が下されます。審判には強制力があり、不履行の場合には強制執行も可能です。以下では、審判の流れや効果、注意点などを簡潔に解説していきます。
目次
遺産分割審判とは
遺産分割審判とは、共同相続人の間で遺産分割の協議ができなかった、又は、まとまらなかった場合に家庭裁判所に遺産分割を請求するという手続きです。遺産分割調停を申し立てた場合、調停が不成立となったときに、審判の申立てがあったものとみなされます。
遺産分割調停との違い
遺産分割審判 | 遺産分割調停 | |
---|---|---|
分割方法 | 裁判官が決定する | 協議結果による |
調停委員の関与 | 関与しない | 関与する |
当事者全員が同席するのか | 原則、当事者の一方の出席で足りる | 同席する |
遺産分割調停の場合、遺産の分割方法は調停での話合いの結果次第ということになります。相続人全員が合意した方法で分割がされるため、相続人全員の出席が必要ということになります。調停手続きには、調停委員が関与し、調停委員を通して、相手方との話合いが進行していきます。
これに対し、審判は話合いではありません。書面審理を主として手続きが進められます。裁判官が、審判を行うという形で分割がなされます。また、審判は、一方当事者の出席で足りるのが原則ですが、審問の際には、全員の同席が要求される場合があります。
遺産分割審判の効果
遺産分割審判は、「執行力のある債務名義と同一の効力」(家事審判手続法75条)を持っています。そのため、他の相続人が審判の結果に従わないような場合には、強制執行をすることができます。
また、遺産分割には遡及効と呼ばれる効果があるため、審判の効力は「相続開始の時」(民法909条本文)、すなわち、被相続人の死亡時に遡ります。そのため、同時点で相続人は個別の財産を取得したものと扱われます。
強制執行を行うことができる
上で述べたとおり、遺産分割審判が成立すると、強制執行をすることができます。もっとも、強制執行をするためには、別途、裁判所に対する申立てが必要になります。
不動産の名義変更などができる
審判書の謄本を持っていくことによって、金融機関において預金解約等の手続きを行うことが可能となります。また、法務局において、不動産の登記名義の変更手続きをすることが可能になります。
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遺産分割審判の流れ
まず、申立書を家庭裁判所に提出し、申立てを行います(家事審判手続法49条1項)。申立書には、①当事者及び法定代理人、②申立ての趣旨及び理由、③事件の実情を記載します(家事審判手続法49条2項、家事事件手続規則37条1項)。また、④申立ての手数料も必要となります。
遺産分割審判の1回目期日が決まる
審判を申し立てる、もしくは調停が不成立となると、審判手続が開始されます。家事審判の申立てがあった場合、裁判所で、書記官が申立書や添付された書類をチェックし、不備がある場合は、これを補正するよう当事者に求めます。不備がないということになれば、裁判長が1回目の期日を定め、両当事者を呼び出します。
また、裁判官から提出するよう求められている資料がある場合には、期日までにこれを提出しておく必要があります。
期日当日
期日当日、両当事者が出頭し、裁判官と両当事者が同じ部屋に集まります。裁判官が当事者の提出した書面や証拠を確認します。遺産分割協議が先行してなされていた場合は、その内容も考慮されます。また、裁判官が当事者に意見を求めたりすることもあります。
期日は、1、2か月に1度という頻度で、複数回行われることとなります。
審判が下される
審判分割は、相続人間の均衡を考慮し、法定相続分に従い、なされます。
審判分割の場合、現物分割が原則とされています。しかし、現物分割が適切でないような場合、現物を売却し、売却価格を分割するという方法が採られます(換価分割)。また、遺産の分割に当たって特定の相続人に相続財産を現物で取得させ、その相続人が他の共同相続人に対して債務を負担する(代償分割)という分割方法が採られることもあります。
審判が下されると、審判書が裁判所から郵送されてきます。不服申立て機関の起算点となりますので、すぐに確認することが重要です。
審判に不服がある場合
遺産分割審判の内容に不服がある場合、審判告知日の翌日から2週間以内に限り、即時抗告という不服申立ての手続きをすることができます。期間経過後の不服申立てはできませんので、注意が必要です。
遺産分割審判を有利に進めるためのポイント
遺産分割審判を有利に進めるためには、ご自身の主張を具体的かつ明確に整理し、関連する証拠を収集、整理することが重要です。また、遺産分割審判では、書面による審理がなされます。そのため、法的根拠に基づいた書面を作成し、提出していくことが、遺産分割審判を有利に進めるために必要となります。
弁護士に早期に相談することで、効果的な戦略を立て、法的観点から適切な主張を組み立て、証拠収集や書面作成をしていくことが効果的であるといえるでしょう。
遺産分割審判を欠席した場合のリスク
遺産分割審判を欠席した場合、自身の主張を裁判官に伝えられず、不利な内容で審判が確定する可能性があります。また、欠席が続くと、裁判所の心証を害し、さらに不利になることもあります。しっかりと出席し、自身の主張を示していくことが重要です。
欠席したい場合の対処法
遺産分割審判期日に欠席せざるを得ない場合、速やかに裁判所に連絡しましょう。その際、単に欠席する旨を伝えるだけでなく、具体的な理由と、可能な範囲でそれを証明する書類(診断書など)を提出することが重要です。これにより、裁判所も事情を考慮し、期日の変更や延期といった措置を検討する可能性が高まります。
次に、自身の主張を裁判所に適切に伝えるための手段を講じる必要があります。出席できない場合、書面によって意見陳述をすることができます。裁判官は期日に本人がいなくても、書面を通じてその意向を把握することができます。
欠席したい場合でも、弁護士に依頼していれば、弁護士が代理人として出席することができます。これにより、欠席のリスクを回避することが可能となります。
遺産分割審判で解決した事例・裁判例
遺産分割審判は、遺産分割協議が整わない場合に、裁判所が公平な解決を図る手続きです。
例えば、不動産の評価で対立が生じたケースでは、不動産鑑定士の評価に基づき、取得者が他の相続人に代償金を支払う代償分割が認められ、共有状態を解消しました。また、被相続人への貢献度合いに応じて遺産分割割合が調整されることもあります。
介護に尽力した相続人の寄与分が認められ、取得割合が増加した事例もあります。所在不明の相続人がいる場合には、不在者財産管理人を選任して審判手続きを進めることが可能です。
さらに、遺言の有効性が争われたケースでは、裁判所が遺言の成立過程や被相続人の意思を審理し、その有効性を判断した上で遺産分割方法を決定しました。
遺産分割審判を検討されている場合は弁護士にご相談ください
相続問題は、親族間の感情的な対立や、複雑な法的判断が絡み合い、当事者の方々にとって大きな負担となることが少なくありません。遺産分割審判という法的手段を選択せざるを得なくなった場合、その手続きは専門的な知識と経験を必要とします。
弁護士は、個別の状況を詳細に把握し、関連する法律や判例に基づき、最適な遺産分割の戦略を策定します。審判手続きにおいては、裁判所への的確な主張、証拠の収集・提出、複雑な書類作成などの全面的なサポートができます。
また、弁護士が代理人として手続きを進めることで、ご本人様は精神的な負担から解放され、冷静に事態の推移を見守ることができます。万が一、審判の結果にご納得いただけない場合でも、不服申し立ての手続きについても適切なアドバイスとサポートを提供いたします。
遺産分割でお困りの際は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)