監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
離婚協議を行う上で重要な項目が「財産分与」です。
財産分与とは、婚姻継続中に夫婦で形成した財産を清算する手続きです。そして、財産分与の対象となるのが、預貯金(通帳)です。預貯金は、通常財産分与の対象となりますが、婚姻前の預貯金や子ども名義の預貯金も財産分与の対象となるか等多くの問題を含んでいます。
以下では、離婚問題、財産分与問題に精通した弁護士が、本件に関して解説します。
目次
通帳の預貯金は財産分与の対象になる?
財産分与とは、婚姻継続中に夫婦で協力して形成した財産を対象に行います。そのため、通常、婚姻時から別居または離婚時までに形成した財産が対象となります。つまり、それ以外の時期や要因で形成した預貯金は、原則、財産分与の対象とはなりません。 以下、解説します。
財産分与の対象になる預貯金
財産分与とは、婚姻継続中に夫婦で協力して形成した財産を対象とします。
そのため、婚姻継続中に形成した預貯金であれば、通常、それぞれの収入から個人で貯蓄した預貯金や互いの収入から出し合って貯蓄した預貯金も財産分与の対象となります。
財産分与の対象にはならない預貯金
上記のとおり、財産分与の対象となる財産は、婚姻継続中に夫婦で協力して形成した財産をいいます。
そのため、婚姻前(独身時代)に形成した預貯金や相続で得た財産(預貯金)は、財産分与の対象とはなりません。
婚姻前の口座を婚姻後も使い続けている場合は要注意
上記のとおり、通常、婚姻前(独身時代)に形成した財産は財産分与の対象とはなりません。もっとも、お金に色はありません。そのため、離婚協議する際、その預貯金が婚姻前に形成した財産なのか婚姻後に形成した財産なのかを判別することは困難です。その結果、実際には婚姻前に形成した財産であっても、その判別ができず、財産分与の対象に含まれてします可能性があります。
財産分与の対象にしないためにできることはある?
財産分与の対象財産には含まれないと主張するためには、婚姻前の残高を明確にしておくことが重要です。より確実を期すのであれば、婚姻後の貯蓄は別の預金口座にするべきです。または、明らかに結婚前の財産と分かるように日付と残高を証明できる資料や相続で得た財産であると証する資料などを残しておく必要があります。
なお、古い通帳を処分してしまった場合、金融機関に問合せすれば一定期間の取引履歴が開示されることもあります。
へそくり用の隠し口座は財産分与の対象になる?
婚姻継続中に夫婦で協力して形成した財産は、財産分与の対象となります。そのため、隠し口座の原資が、婚姻期間中の収入であれば財産分与の対象となります。
子供名義の預貯金は財産分与の対象になる?
子ども名義の預貯金であっても、財産分与の対象となる場合があります。
具体的には、その原資が夫婦の収入であれば、夫婦で協力して形成した財産であるため、財産分与の対象となります。他方で、子どもが個人的にもらったお年玉や入学祝金等であった場合には、夫婦で協力して形成した財産ではないため、財産分与の対象とはなりません。
なお、学資保険については、保険料の支払いが夫婦の共有の財産から支払われている場合には、別居時や離婚時における解約返戻金が財産分与の対象となります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
財産分与するには通帳の開示が必要
財産分与を行うためには、当事者双方の財産を正確に把握する必要があります。預金通帳においては、基準時(原則として別居時)の口座内の残高をお互いに知る必要があります。
そのためには、相手方に預金残高を開示してもらうだけでなく、自己の預金残高も相手方に開示する必要があります。
通帳のコピーを用意しましょう
財産分与の対象財産を正確に把握するためには、婚姻開示時点の預金残高と別居(または離婚)時までの預金残高を把握する必要があります。そのため、婚姻時点と別居(または離婚)時点の預金通帳(取引履歴)を準備する必要があります。
また、不正な出入金があるなどと主張する場合には、相手方に当該出入金記録が記載されている取引履歴を準備してもらう必要があります。
通帳開示をしたくない場合
預金通帳を開示したくない場合、相手方が配偶者であっても強要することはできません。
もっとも、財産分与を行う前提として、お互いの財産を正確に把握する必要があります。そのため、預金通帳を開示しない限り、お互いの財産を正確に把握することができず、財産分与の協議ができなくなってしまいます。また、下記記載のとおり、裁判所の手続きを介して、預金通帳を開示されてしまう可能性もあります。
通帳開示を拒否された場合
相手方から預金通帳の開示を拒否されてしまう可能性がある場合、同居期間中に相手方の預金通帳も当方で管理している際には、事前にコピーしておくのがよいでしょう。
もっとも、仮に相手方から預金通帳の開示を拒否されてしまった場合でも、以下の2つの方法をとることができます。
弁護士会照会制度
弁護士照会制度とは、弁護士会が官公庁などの団体に対し、必要な情報についての回答を求めることができる制度です。
弁護士会を介して、金融機関に対し、相手方の預貯金情報(口座の有無、取引履歴など)に関する回答を求めることができます。もっとも、不回答に対する罰則規定はなく、金融機関も相手方(名義人)との関係性を壊したくないがために、相手方(名義人)の同意がないという理由で回答を拒否する可能性があります。
調査嘱託制度
調査嘱託制度とは、裁判所が各団体に対して必要な情報の回答を求める制度です。当該制度を利用するためには、調査嘱託の必要があること(例えば、嘱託先に口座が存在するが、相手方が口座の開示を拒否している事情等)を説明しなければならず、その判断には種々の事情が考慮されることになります。調査嘱託に対しては、正当な理由がない限り、その団体が回答を拒否することはできません。もっとも、金融機関のなかには、相手方(名義人)の同意がないとして、回答を留保する場合もあります。
財産分与時の通帳に関するQ&A
別居時に通帳を持ち出され、預貯金を使い込まれてしまいました。財産分与は請求できないのでしょうか?
財産分与請求はできます。
財産分与は、通常、婚姻時から別居時までに協力して形成した財産が対象となります。そのため、別居以降、相手方が預貯金を使い込んでしまったとしても、使い込み後の残高ではなく、別居時の残高を前提に財産分与対象財産の計算をします。
口座があるのは確実なのに、通帳を隠されてしまい残高が分かりません。どうすればよいでしょうか?
口座が確実に存在するのであれば、上記記載の通り弁護士会照会制度や調査嘱託制度を利用するなどして、相手方の預貯金情報を把握することが可能です。
銀行口座を解約されてしまったら、通帳開示できませんよね。諦めるしかないのでしょうか。
銀行口座を解約されてしまった場合でも、上記記載の通り弁護士会照会制度や調査嘱託制度を利用するなどして、相手方の預金残高を把握することは可能です。
宝くじの当選金が口座に入っています。財産分与の対象になりますか?
宝くじの購入原資が、夫婦共有財産から捻出されたものであれば、宝くじの当選金も財産分与の対象となります。もっとも、宝くじの当選は、当選者の運に左右したものであり、その寄与は当選者の方が大きいです。そのため、当選金については、折半ではなく、6:4や7:3で分与するのが通常です。
財産分与で預貯金等を確認することは大切です。弁護士に相談することをお勧めします。
財産分与対象財産のなかで預貯金(通帳)は、大きな比重を占めています。そのため、適正な財産分与を行うためには、預貯金(通帳)を正確に把握する必要があります。
もっとも、対象となる預貯金口座がどの金融機関にあるのか、支店はどこか等を事前に把握しておく必要があります。仮に、把握できなかったとしても、弁護士や裁判所を介した特殊な開示方法を用いることもできます。また、預貯金(通帳)には、お子様の名義預金が財産分与対象財産になるのか、婚姻前に形成した預貯金が財産分与対象財産になるのか等多くの論点があります。
適正な財産分与を行うためにも、まずは別居前後を問わず弁護士にご相談ください。
-
- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)