監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
交通事故に遭ったとき、自身が加害者であった場合、被害者であった場合いずれであっても、相手方と交渉をする必要があります。
その交渉の際に、当事者同士の交渉では、落としどころが見つからず、交渉が決裂してしまうことがよくあります。
以下では、交通事故紛争処理センターを利用するメリット・デメリットを紹介し紛争解決の一つの選択肢をご紹介します。
目次
交通事故紛争処理センターとは
交通事故紛争処理センターとは、自動車事故の損害賠償について、弁護士が和解のあっせんを行う公益財団法人です。
交通事故における損害賠償について知識があり、公平中立な弁護士が和解あっせん等を担当してくれることとなります。
また、和解のあっせんによる和解が成立しなかった場合、審査会による審査を受けることもできます。
交通事故紛争処理センター(ADR)でできること
和解あっせん
交通事故では、よく「示談」が成立すると表現されることがあります。この「示談」は、正式には当事者双方が主張を譲り合い合意する「和解」のことをいいます。
交通事故紛争処理センターでは、担当弁護士が当事者双方の意見を聞き、公正中立な立場から和解案を提示して和解(示談)の成立を手助けします。
審査
上記の和解あっせんを行ったとしても、合意に至らない場合(あっ旋不調)も考えられます。この場合に当事者に、あっ旋不調になった旨が通知されます。この通知を受けてから14日以内に限り不服申立てを行うことができます。これを審査の申立てといいます。
審査は、3人の審査員から成る審査会が行います。審査員は法律の専門家が選出され、公正中立な立場から再度事実や主張の聞き取りを行います。
この聞き取りをもとに審査会が裁定を行います。裁定とは、審査会による解決方法についての決定をいいます。
弁護士の無料紹介
交通事故紛争処理センターの利用を申し込むと、和解あっせんの際に、相談担当弁護士を1名紹介されます。この相談担当弁護士は、交通事故紛争処理センターから委嘱された弁護士です。
交通事故紛争処理センターを利用して相談等をするには、弁護士費用等がかかることはありません。
ただし、相談担当弁護士は、和解あっせん終了まで同じ弁護士が担当します。途中で変更をすることはできません。
交通事故の示談交渉についての無料相談
交通事故紛争処理センターは、すべて無料で利用することができます。
相談担当弁護士が、相談内容が和解あっせんに適切な事案かどうかを被害者の方の話を詳しく聞き判断していきます。
ただし、すべての事案を対象に相談を行っているわけではありません。交通事故紛争処理センターでの法律相談の対象は、示談交渉の段階に至っている事案に限られます。
交通事故紛争処理センター利用のメリット・デメリット
交通事故紛争処理センターを利用することのメリット・デメリットは様々存在します。
以下で、詳しくご説明します。
メリット
● 申立費用が無料
交通事故紛争処理センターを利用して、和解あっせん等を行う場合には申立費用等はかかりません。 相談担当弁護士への弁護士費用等もかかりません。
経済的に利用しやすく大きなメリットであるといえます。
● 期間が短い
紛争解決の手段一つとして、訴訟を選択することが考えられます。その場合には解決までに1年近くかかることも考えられます。
交通事故紛争処理センターを利用して、和解あっせん等を行う場合には、多くの場合、3回から5回程度の回数で解決することが多く、期間としても3か月から5か月程で終了することになります。
訴訟による解決を図る場合に比べて短い期間で終了することが多いといえます。
● 公平公正な機関で信頼性が高い
交通事故紛争処理センターは、公益財団法人であり、公平公正な組織です。 相談担当弁護士は、公平中立な立場から和解案を提示して和解あっせん等を行います。
また、審査に移行した場合に、担当となる審査会を構成する審査員は、弁護士に加え、法律に詳しい法学者や裁判官経験者等で構成されています。
● 弁護士基準ベースの高額の賠償額が見込める
相談担当弁護士は、当事者双方の話を聞き、和解案を提示します。この和解案はいわゆる弁護士基準と呼ばれる基準をもとに作成されます。
当事者同士での交渉の和解案よりも、比較的高額な金額での和解案が提示されるため、交通事故紛争処理センターを利用することで賠償額の増額も見込めます。
デメリット
● 依頼できるケースが限られる
交通事故紛争処理センターを利用できるのは、前述のとおり示談交渉に入っている事案に限られます。 また、加害者が自動車以外の場合には、利用することができません。
他にも、交通事故により病院に通院され、怪我の治療中である場合や、加害者が任意保険に加入していない場合には、利用することができない等、センターを利用できるケースが限られている点はデメリットといえます。
● 遅延損害金を請求できない
訴訟で損害賠償を請求した場合、事故日からの遅延損害金を請求することができます。しかし、センターを利用する場合、基本的には遅延損害金が考慮されることはありません。
そのため、訴訟での解決の場合に比べて交通事故紛争処理センターを利用する場合には遅延損害金の分だけ賠償額が低くなります。
● 弁護士を変えることができない
相談担当弁護士は、相談開始から事案の終了まで原則として変更することはできません。
また、あくまで公平中立な立場で和解案の提示等を行うため、必ずしも被害者の方に寄り添った解決方法が提示されるとは限りません。
● 何回も出向く必要がある
交通事故紛争処理センターを利用するには、当事者の方が出向いて相談担当弁護士と話をする必要があります。
交通事故紛争処理センターは全国11か所のみに設置されており、ご自宅の近くにない場合には、利用しづらいことが考えられます。
4交通事故紛争処理センターを利用した解決までの流れ
大まかな流れとしては以下の流れになります。
- 利用申し込み
- 担当弁護士による法律相談
- 和解あっせん案の提示
- 合意又は不調
- 審査の申立て
- 審査会の裁定
➀示談あっせんの申込書提出
まずは、交通事故紛争処理センターに電話で利用申し込みの電話をします。そこで、利用する日時の予約をします。その後送られてくる利用申込書を記入し、初回の相談の際に持参して提出します。
➁初回相談
初回相談では、持参した資料の提出を行い、これらをもとに相談担当弁護士が事情を聞いていきます。 その後、相談担当弁護士が和解あっせんの必要があると判断すると次回期日の設定をします。
次回期日からは加害者側の保険会社等も出席して行われます。
➂相談担当弁護士による和解あっせん
相談担当弁護士は、当事者双方の話をもとに本件事案の争点は何かを整理し、和解案の提案をします。この和解案は過去の裁判所の判例、センターでの裁定例等を参考にして作成されます。
➃あっせん案合意
和解案に合意することができれば和解が成立します。和解が成立するとその内容を記載した書面を当事者双方で取り交わし、合意内容に応じた解決を進めていくことになります。
あっせんが不合意になった場合は審査申立
もっとも、和解は当事者双方の譲歩があって成り立つものになります。そのため、被害者の方の納得のいかない部分が和解案にあるかもしれません。提示された和解案に応じないという選択肢も考えられます。
その場合には、センターを利用しての解決を終了し訴訟等の別の手段を取るか、同センターの審査会による審査を受けるか判断することになります。
審査会による審査
審査を申し立てた場合、審査会による裁定が出されることになります。その上で、被害者である申立人は、この裁定として出された和解案に同意するかどうかを選択することとなります。
相手方である保険会社にはこの裁定について同意するかを選択する権利がなく、被害者の選択が尊重されることになります。
裁定でも決まらない場合は
このような審査会による審査によって出された裁定によっても和解を成立させることができない場合、交通事故紛争処理センターによる手続きは終了し、訴訟等による事件の解決を図ることとなります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
物損事故の場合にも交通事故紛争処理センター(ADR)は使えるのか?
物損事故の場合でも、交通事故紛争処理センターの利用は可能です。
物損事故のみの場合、早期解決のため、原則として初回から和解あっせんを行う取扱いがなされるなど物損についての特別なルールがあります。
紛争処理センターを利用し、過失割合や賠償額共に有利にすすめられた解決事例・判例
ここで、弁護士法人ALGがご依頼を受け、紛争処理センターを活用して有利な結果へと導くことができた実際の事例をご紹介します。
依頼者は自動車で優先道路を走行していました。そこへ加害者の自動車が一時停止をせずに交差道路から進入し、依頼者の車両に衝突したという事案です。
この事故により依頼者は車両ごと横転し左手首の関節に後遺障害が残ってしまいました。
しかし、過失割合や賠償金額について保険会社との交渉が難航し、担当弁護士は紛争処理センターを利用することにしました。
当初、保険会社は依頼者に不利な過失割合を主張していました。そこで、弊所は現地調査や刑事記録の精査を重ね、各種の証拠を集めました。
これらを交通事故紛争処理センターに提出し、適切な過失割合となるように主張していきました。
結果としては、過失割合は当初「2対8」であったところ、「1対9」に修正することができました。
また、賠償金額についても相手方保険会社は争っていましたが、和解あっせんを利用することで725万円もの増額に成功しました。
交通事故紛争処理センターを利用するという選択とともに、担当弁護士による粘り強い調査や主張がこのような結果をもたらした事例です。
交通事故紛争処理センターを利用するときでも弁護士にご相談ください
これまで見てきたとおり交通事故紛争処理センターを利用する際には、相談担当弁護士が入り被害者の主張を聞き和解案を作成してくれます。
しかし、あくまで公平中立な立場で紛争解決を図る立場にあります。
そこで、交通事故紛争処理センターを利用する場合でも、被害者の立場で活動する代理人の弁護士をつけることが選択しとして考えられます。
代理人の弁護士をつけることによって、弁護士から事案の内容や当方の主張を、より正確にセンターの担当弁護士に伝えることができます。また必要な資料の用意を弁護士に任せることもできます。
これらのことはより有利な和解案を勝ち取ることにもつながるため、交通事故紛争処理センターを利用する場合にも弁護士にご相談ください。
-
- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)