監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
「弁護士特約」という単語はメジャーなものになってきていますから、本記事をお読みの方もお聞きになったことがあるのではないでしょうか。
お客様を代理して裁判手続きを行える存在は原則的に弁護士のみですから、事件や事故によって被害に遭ってしまい、加害者に対して徹底的に責任追及をしたいと思う方は、弁護士に依頼するのが一番です。
しかし、弁護士費用は高額になりがちなものですから、何か被害を被った際に弁護士への依頼を躊躇われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、「弁護士特約」付きの保険に加入していれば、弁護士に依頼するハードルが大きく下がります。本記事では、弁護士費用特約について解説いたします。
目次
弁護士費用特約とは
弁護士費用特約とは、損害保険で設定されることの多い特約の一つです。事件や事故に遭ってしまった際、加害者に対して、損害の賠償を行うよう請求したいですね。
しかし、裁判を自分で起こしたり、膨大な資料を読み込んでご自分で交渉を行うことは、とても労力がかかります。
労力がかかるだけではありません。加害者の中には、相手が素人なのを良いことに、相場よりも自らに有利な条件で合意を得ようとする者もいます。そのような不利な状況を避けるためには、弁護士にご依頼いただくのが一番です。
事件や事故に遭って弁護士にご依頼いただく際に、弁護士費用の一部から全部をお客様の代わりに負担してくれるのが、弁護士費用特約付きの損害保険なのです。この後のご説明では、基本的に、自動車保険に関する弁護士費用特約についてご説明いたします。
法律相談費用は10万円まで補償
弁護士に依頼をする際には、まず弁護士と対面やお電話で面談を行うのが通常です。多くの法律事務所において、相談料は相談時間に応じてかかるようになっています。30分につき数千円から1万円ほどの費用をとる事務所が多いです。
多くの弁護士費用特約では、法律相談費用は10万円まで補償されます。多数の法律事務所を訪れて相談を繰り返さない限り、法律相談費用が10万円を超えてしまうことはないでしょう。自動車保険に弁護士費用特約がついていれば、初回相談の段階から、安心して弁護士にご相談いただけます。
弁護士費用は最大300万円まで補償
多くの弁護士費用特約では、弁護士費用を最大300万円まで補償しています。弁護士に依頼した後、発生する弁護士費用には以下のようなものがあります。
- 着手金
- 諸経費
- 成功報酬
弁護士に依頼を行う際にまず支払うのが着手金と諸経費、事件が解決した後に支払うのが成功報酬です。
これらを合計した額が300万円を超える場合には、弁護士費用特約を使っても弁護士費用を全て支払うことができないこととなります。しかし、そのようなケースはごくまれです。
300万円を超えるケースってどんな事故?
弁護士費用のうちの成功報酬は、お客様が得た金額の○○%、といったように決められていることが多いです。
そのため、お客様が得る金額が多いような事故、つまり重篤な後遺症が残ってしまったり、被害者が亡くなってしまったような事故では、弁護士費用が高額になることがあります。
一般的に件数の多い、むち打ちによる痛みやしびれのみが残る事故の場合は、弁護士費用が300万円を超えることはほぼないでしょう。
あなたも加入しているかも?弁護士費用特約は加入率が高い
「自動車保険に加入しているかどうか」分からない人はあまりいませんが、「弁護士費用特約付きの自動車保険に加入しているかどうか」についてはあまり意識されていない方が多いと思います。
しかし、意識していなくても、契約の際に弁護士費用特約付きのプランを選んでらっしゃる方は多いのです。
保険の担当者に勧められて何となく選んでいた、親が契約していた保険が手厚いもので自動車保険特約も含まれていた、など、様々な理由で弁護士費用特約に加入している方がいらっしゃいます。
クレジットカードなど、自動車保険以外で加入しているケースもある
また、加入されている自動車保険に弁護士費用特約がついていなくても、クレジットカードなどに弁護士費用特約が附帯していてお客様が使用できるケースがあります。
クレジットカードに附帯している特約については忘れてらっしゃる方が多いのですが、弁護士費用特約に入っているのに使わないのはとても勿体ないです。
事故に遭ってしまった際には、ご自身のクレジットカードなど、自動車保険以外に弁護士費用特約がついていないか、確認してみましょう。
弁護士費用特約の適用範囲
契約者の方はもちろん、その配偶者やお子さんなど、自動車保険の対象となっている人は、弁護士費用特約の適用を受けられる可能性が高いです。もっとも、弁護士費用特約の適用範囲は、保険契約によって異なることがあります。
事故に遭ってしまった後に契約書を探すのは大変ですから、もし現在事故に遭っていない方は今のうちに適用範囲を確認しておきましょう。
既に事故に遭ってしまった方は、保険会社に電話し、「自分や家族が弁護士費用特約の適用対象なのか」お尋ねになってみてください。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
弁護士特約を使って弁護士に依頼するメリット
弁護士費用を気にせず依頼できる
弁護士費用をご自分で全て出そうとすると、依頼の時点で少なくとも数十万円はかかってしまいます。
しかし、弁護士費用特約に入っていれば、保険会社が直接弁護士へ支払いを行います。お客様の負担が大きく減りますから、費用を気にせず弁護士に依頼することができます。
弁護士費用特約を使えば、お金がないから弁護士に依頼できないといった、不自由な思いをせずに済むのです。
慰謝料を含む損害賠償金額が大幅にアップする
損害保険会社は、一般の方を相手にする場合には、任意保険基準という低い基準で賠償金の提示を行います。しかし、弁護士や裁判所が判断を行う場合には、弁護士基準という過去の裁判例をもとにした基準を使って賠償額を算出します。
残念ながら、一般の方が直接保険会社に交渉しても、弁護士基準算出した金額の支払いに応じてもらえることはほぼありません。そのため、弁護士に委任を行うことで、お客様の獲得できる損害賠償金額は大幅に増えます。
保険の等級は変わらない
弁護士費用特約のみを使った場合には、保険の等級が下がらない保険会社が多いです。もちろん、人身や物損などで保険を使った場合には保険の等級への影響は否めないでしょう。
しかし、たとえばお客様の過失がない事故で弁護士費用特約のみを使い、加害者から十分な金額を得て車の修理などを行った場合など、保険会社に請求をしなかった場合には、基本的には保険の等級に対する影響はありません。
弁護士費用特約の使い方
交通事故が得意な弁護士を探す
まずは交通事故が得意な弁護士や、法律事務所を探しましょう。交通事故には特有の基準がありますから、交通事故の経験が豊富でノウハウのある事務所に依頼するのが良いでしょう。
Webサイトを見に行くと、その事務所がこれまで解決した事例などが載っているケースもあります。
交通事故を安心して任せられそうな事務所を探してみてください。
保険会社に連絡し、弁護士費用特約利用の同意を得る
ご契約している保険会社に連絡し、弁護士費用特約を使いたいとおっしゃってください。弁護士費用特約を使って弁護士に依頼をする場合、弁護士と保険会社が連携して対応していく必要があります。
保険会社から、弁護士に依頼をする際に伝えて欲しいことなどを教えていただけるかもしれません。まずは保険会社の方にご連絡してみてください。
弁護士に弁護士費用特約を使いたいと伝える
弁護士や法律事務所に電話し、弁護士費用特約を使って依頼したいと伝えてください。弁護士費用特約があるかどうかで、弁護士が行うやりとりが大きく変わってきますので、なるべく早い段階で伝えた方がスムーズに進むでしょう。
その後は初回相談の日程を決め、対面やお電話などで弁護士に事情をお話しいただく流れになります。
弁護士を変更したくなった場合
依頼した弁護士に納得できない場合には、弁護士費用特約を使っている場合でも、弁護士を変更することができます。しかし、弁護士費用特約で補償される金額には上限がありますから、上限に達しないように気を付ける必要はあるかもしれません。
弁護士を変更したいと思ったら、まずは保険会社に相談するのがお勧めです。新しい弁護士にご相談される場合には、また1から状況を説明する必要がありますので、事件の解決まで少し余分に時間がかかってしまう可能性があります。
なるべく依頼する段階で、信頼できる弁護士を選ぶことをお勧めします。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
弁護士費用特約が特に効果的なケース
被害者に過失がないケース
保険会社は、お客様が保険金を請求されたときにお金を払わなければならない立場にあります。そのため、お客様に過失があるケースでは、保険会社の支払金額を減らすために、保険会社が頑張って交渉してくれることがあります。
しかし、被害者に過失がないケースでは、法律上の定めにより、保険会社は交渉を行えないのです。そのため、被害者に過失がないケースでは、被害に遭ったご本人が自ら行動しなければなりません。
その場合、弁護士に依頼しなければ、被害に遭ったご本人が、保険会社という圧倒的なノウハウを持った専門家と渡り合わなければならなくなってしまいます。そのようなケースでは、弁護士に依頼すべきですから、弁護士費用特約が特に効果的です。
後遺症が残りそうなケース
後遺症が残ってしまった場合にいくら支払われるかは、残ってしまった後遺症が、後遺障害等級のいずれに該当するかによって大きく変わります。加害者の保険会社は、被害者の後遺症はなるべく低い等級にあたることにしたいと考えています。
被害者に残っている症状は後遺障害等級に該当しないのだと主張することもよくあります。そのため、後遺症が残りそうなケースでは、弁護士が後遺障害等級について反論し、弁護士基準での支払いを求めることで、損害賠償金額を大幅に上げられることが多いのです。
後遺症が残りそうなケースは、弁護士に依頼するメリットが大きいですから、弁護士費用特約の効果を感じやすいでしょう。
加害者が無保険のケース
加害者が保険に加入している場合、弁護士が介入せずとも、加害者が加入している保険会社が多少の損害賠償金を支払ってくれるでしょう。しかし、加害者が無保険の場合、一切支払いを行ってくれないことがあります。
そのような場合、弁護士であれば、加害者を訴えて強制執行の手続きまで行うことが出来ます。また、弁護士は法的な交渉の専門家ですから、加害者を説得することに慣れています。
弁護士に依頼することで、交渉をスムーズに進めやすくなります。そのため、加害者が無保険のケースでは、弁護士に依頼する必要性が高いので、弁護士費用特約が特に効果的です。
請求できる損害賠償金額が小さい事故のケース
請求できる損害賠償金額が小さい事故の場合、弁護士費用の方が加害者から得られる金額よりも高くなってしまうことがあります。しかし、弁護士費用特約に加入していれば、弁護士費用は基本的に保険会社が負担しますので、費用倒れしづらいです。
そのため、請求できる損害賠償金額が小さいケースは、弁護士費用特約の効果を感じやすいでしょう。
弁護士費用特約に関するQ&A
保険会社が弁護士特約の利用を嫌がります。諦めるしかないでしょうか?
弁護士費用特約のついた損害保険を契約しているのですから、保険会社に嫌がられたからといって諦める必要はありません。もしどうしても保険会社が弁護士費用特約の使用を認めてくれない場合には、弁護士にご相談ください。保険会社に対し、弁護士費用特約の使用を認めない理由を聞いて対応を行います。
弁護士特約のデメリットはありますか?
弁護士費用特約付きの保険契約は、弁護士費用特約がないものに比べ、保険契約にある程度の金額が上乗せされてしまいますので、日々のお支払いが少し増えてしまうというデメリットがあります。しかし、いざという時にカバーされる金額を考えると、上乗せされる金額はそこまで大きくないものといえるのではないでしょうか。
弁護士特約を使うタイミングはいつがいいですか?
事故の後、急を要する治療などを終えてからなるべく早く弁護士にご相談いただくのが良いです。弁護士特約を早い段階から使うことにデメリットはない一方、早い段階から弁護士のアドバイスを受けて行動していただけるというメリットがあります。事故からある程度の期間が経過した後でも依頼をお引き受けすることはできるのですが、なるべくご依頼者様に後悔がないように、早い段階からご相談いただくことをおすすめします。
事故後に加入しても弁護士費用特約を使えますか?
残念ながら、事故後に弁護士費用特約に加入した場合には、弁護士費用特約をご使用いただくことができません。保険は、日々の支払いがあることを前提に、いざという時に補償がなされるものですので、事故が起きる前から弁護士費用特約付きの損害保険を契約されることをおすすめします。
1事故1名当たりの補償ということは、1事故2名なら補償も2倍になるのですか?
300万円というのは、1事故1名当たりの補償ですから、被害者が2名いらっしゃってどちらも弁護士費用特約の対象である場合には、2倍の600万円の補償が受けられることになります。被害者が複数名いる事故の場合は、初回相談前に保険会社にお電話いただく際、被害者のうち誰が弁護士費用特約の対象なのかお聞きいただくとスムーズです。
まずは弁護士にご相談ください
交通事故に遭ってしまった場合には、弁護士にご依頼いただくことで、より多額の賠償金額を獲得しやすくなります。
もちろん、弁護士費用特約がない場合でも弁護士に依頼する方が得な場合もありますが、弁護士費用特約がある場合には特に、迷わず弁護士にご相談されるのがよろしいでしょう。
弁護士費用特約は、弁護士であっても入るような便利な特約ですから、現在弁護士費用特約付きの保険に加入されていない方は、保険の見直しをおすすめします。
弁護士法人ALGは、弁護士費用特約を使用される方のご依頼を受けた実績が多数あります。お客様のご契約されている保険会社と連携し、加害者に対して、弁護士基準を用いてしっかりと交渉させていただきます。
交通事故に遭ってしまった際には、弁護士法人ALG埼玉法律事務所の弁護士にぜひご相談ください。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)