交通事故の弁護士費用の相場はいくら?特約を利用するメリットなど

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交通事故の弁護士費用の相場はいくら?特約を利用するメリットなど

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

交通事故の被害に遭われた際、加害者側との交渉や適正な損害賠償金の獲得のために弁護士への依頼を検討される方は少なくありません。

弁護士が介入することで、賠償額の増額が期待できるなど多くの利点がありますが、同時に「弁護士費用はどれくらいかかるのか」「費用倒れになってしまわないか」といった金銭的なご不安を抱かれるのも事実です。

本稿では、弁護士費用の内訳や相場、費用負担を軽減するための具体的な方法、そして安心して弁護士に依頼するための知識について、専門家の立場から詳しく解説いたします。

交通事故の弁護士費用の内訳と相場

交通事故案件を弁護士に依頼する場合の費用は、かつて日本弁護士連合会による統一的な基準が存在しましたが、現在は廃止され、各法律事務所が自由に料金体系を定めています。

もっとも、その内訳は一般的に「相談料」「着手金」「成功報酬(報酬金)」「実費」「日当」といった項目から構成されており、事務所ごとの大きな違いはありません。

それぞれの費用の意味と相場を正しく理解することが、適切な弁護士選びの第一歩となります。

費用 相場
相談料 30分5000円程度
着手金 10万円~
成功報酬 経済的利益の額によって異なる
実費 交通費・収入印紙代・通信費などで異なる
日当 3~5万円/半日、5万~10万円/1日

相談料

相談料とは、弁護士に事件処理を正式に依頼する前段階で、法律的な助言を求める法律相談の対価として支払う費用です。

多くの法律事務所では、30分あたり5,000円から10,000円程度を相場としていますが、近年、交通事故分野に注力している事務所を中心に「初回相談料無料」のサービスが広く普及しています。

まずは無料相談を活用し、事件の見通しや弁護士との相性を確認することが推奨されます。費用に関する不明点も、この相談の機会に遠慮なく質問すべきです。

着手金

着手金は、弁護士に事件の対応を正式に依頼し、委任契約を締結する際に支払う費用です。

これは、事件の結果(例えば、示談交渉の成否や裁判の勝敗)にかかわらず、弁護士が業務に着手するための対価として支払うものであり、原則として返還されません。

金額は事務所によって様々ですが、近年では依頼者の初期負担を軽減するため、「着手金無料」としている法律事務所も増えています。

ただし、その分、後述する成功報酬の算定率が異なる場合があるため、総額での費用を見極める必要があります。

成功報酬(報酬金)

成功報酬は、委任された事件が解決に至った際に、その成功の度合いに応じて支払う報酬です。

交通事故の案件では、一般的に「弁護士が介入したことで増額した賠償金の額」や「最終的に獲得した賠償金の総額」を「経済的利益」と定義し、これを基準に「経済的利益の〇%+〇万円」といった形で算出されることが多くなっています。

この報酬体系により、依頼者の得た利益が大きくなるほど弁護士の報酬も増えるため、双方の利害が一致しやすいという特徴があります。

実費

実費とは、弁護士の報酬とは別に、事件を処理するために実際に必要となった経費のことを指します。

具体的には、裁判所に納める収入印紙代、訴訟記録の謄写費用、通信費(郵便切手代)、遠方への移動が必要な場合の交通費や宿泊費などがこれに該当します。

これらの費用は、事件の進行に応じて発生するため、あらかじめ一定額を預かり金として事務所に預託し、事件終了時に精算する方式が一般的です。

日当

日当とは、弁護士が事件処理のために事務所を離れて外部で活動(裁判所への出廷、現地調査、遠隔地での示談交渉など)を行った場合に、その拘束時間に対して支払われる費用です。

通常、半日あたり3万円~5万円、1日あたり5万円~10万円程度が相場とされています。

この日当は、交通費や宿泊費といった実費とは別途に発生する費用です。もっとも、近年の民事裁判ではウェブ会議システムの活用が進んでおり、遠方の裁判所への出廷に伴う日当が発生するケースは減少しつつあります。

交通事故の弁護士費用は誰が払う?相手に請求できる?

交通事故の損害賠償請求において、弁護士に依頼した際の費用は、原則として依頼者自身が負担することになります。示談交渉の段階で、加害者側の保険会社に対してこちらの弁護士費用を請求しても、支払いに応じられることはまずありません。

ただし、交渉が決裂し、訴訟を提起した場合には、判決において損害賠償元金の1割程度が弁護士費用相当の損害として認められ、相手方に負担させることができる場合があります。

これは、不法行為(民法第709条)と損害との間に相当因果関係が認められる費用は賠償の対象となるという考え方に基づくものであり、判例上確立された実務です。

しかし、これはあくまで賠償額の1割程度であり、実際に支出した弁護士費用の全額が填補されるわけではない点には注意が必要です。

交通事故を弁護士に依頼すると費用倒れのリスクがある?

費用倒れとは、弁護士に依頼したことで得られた経済的利益(賠償金の増額分など)よりも、支払う弁護士費用の方が高額になってしまい、結果的に依頼者の手元に残る金額が減ってしまう状態を指します。

このリスクは、特に車両の修理費のみを争う物損事故や、通院期間が1ヶ月程度の軽傷事案など、弁護士が介入しても賠償額の大きな増額が見込みにくいケースで高まります。

もっとも、依頼を受ける前の相談段階で費用倒れの可能性を十分に説明しますので、ご依頼される方が知らないうちに損をするという事態は通常起こりにくいと言えます。

弁護士費用を抑えるための4つのポイント

早めのタイミングで相談する

費用倒れのリスクを回避し、かつ、適正な賠償を受けるためには、事故後可及的速やかに弁護士へ相談することが重要です。

事故直後の段階で相談すれば、通院方法、医師への症状の伝え方、証拠の保全方法など、後々の交渉を有利に進めるための的確なアドバイスを受けられます。

自己判断で不適切な対応をしてしまい、後から弁護士に依頼しても覆すことが困難になるケースは少なくありません。

早期の相談は、結果的に不要な紛争の長期化を防ぎ、弁護士費用を抑制することにも繋がります。

見積もりを出してもらう

弁護士への依頼を具体的に検討する際には、必ず費用の見積もりを請求し、その内訳を詳細に確認することが不可欠です。

特に、複数の法律事務所に相談し、それぞれの見積もりを比較検討することが望ましいでしょう。「着手金無料」といった表面的な宣伝文句だけで判断するのではなく、成功報酬の算定基準や実費、日当の有無などを含めた総額でどれくらいの費用が見込まれるのかを把握することが重要です。

着手金無料・成功報酬型の弁護士を選ぶ

初期費用を抑えたい場合には、着手金が無料の法律事務所を選択することが有効な手段となります。これにより、事件を依頼する時点での経済的な負担がなくなり、弁護士へのアクセスが容易になります。

ただし、着手金を無料とする代わりに、成功報酬の算定率を比較的高めに設定している事務所も存在します。

したがって、最終的に獲得できる賠償額の見込みと、総額で支払うことになる弁護士費用を天秤にかけ、自身の事案にとって最も合理的な料金体系の事務所を選択する視点が求められます。

弁護士費用特約が使えるかを確認する

弁護士費用を抑制する最も効果的な方法は、ご自身またはご家族が加入している自動車保険等に「弁護士費用特約」が付帯しているかを確認することです。

この特約を利用すれば、保険会社が弁護士費用を上限額(多くの場合300万円)まで負担してくれるため、実質的な自己負担なく弁護士に依頼することが可能となります。

費用倒れのリスクを完全に払拭できるため、もし特約が利用可能であれば、積極的に活用すべきです。

交通事故で弁護士費用特約を利用するメリット

弁護士費用が300万円まで補償される

弁護士費用特約の多くは、法律相談料の上限を10万円、弁護士報酬や実費などの上限を合計300万円と定めています。死亡事故や重篤な後遺障害が残る事案でない限り、弁護士費用の総額が300万円を超えるケースは稀です。

そのため、この特約を利用することにより、大半の交通事故案件において、被害者は費用負担を一切気にすることなく、賠償請求に関する一切の手続きを弁護士に委任することができます。

これは、被害者が経済的な不安から解放され、治療に専念できるという点で非常に大きなメリットと言えます。

保険の等級は変わらない

自動車保険を利用すると、翌年度のノンフリート等級が下がり、保険料が上がってしまうという懸念をお持ちの方もいらっしゃいます。

しかし、弁護士費用特約のみを利用した場合には、等級に影響はなく、保険料が上がることはありません。したがって、特約の利用を躊躇する必要は全くありません。

ただし、ご自身の車両保険や対人・対物賠償保険などを同時に使用した場合は、当然ながら等級ダウンの対象となりますのでご注意ください。

家族や同乗者でも利用できる

弁護士費用特約の補償対象は、契約者本人に限定されません。

保険契約の内容にもよりますが、一般的に、契約者の配偶者、同居の親族、さらには別居している未婚の子なども対象に含まれることが多くなっています。

また、契約車両に同乗中に事故に遭った友人・知人も利用できる場合があります。ご自身の保険に特約が付いていないと諦める前に、ご家族が加入する保険の内容も確認してみることが重要です。

車を運転中の事故以外でも利用できる

弁護士費用特約の補償範囲は、自動車を運転中の事故に限定されません。歩行中に車にはねられた、自転車で走行中に自動車と接触した、といったケースでも利用できるのが一般的です。

さらに、自動車保険だけでなく、火災保険や傷害保険などにこの特約が付帯している場合もあります。交通事故に遭われた際は、ご自身が加入しているあらゆる保険契約の証券を確認し、特約の有無を調べることが肝要です。

弁護士費用特約なしでも弁護士に依頼した方がいい?

弁護士費用特約が付帯しておらず、費用を自己負担しなければならない場合でも、弁護士に依頼すべき事案は数多く存在します。

特に、後遺障害の等級認定が争点となるケース、死亡事故、被害者の過失割合に大きな争いがあるケースなどでは、弁護士が介入することによる賠償金の増額幅が、弁護士費用を大幅に上回る可能性が高いと言えます。

軽微な物損事故や短期の通院で完治した怪我の場合には費用倒れのリスクも考慮すべきですが、重大な被害を受けたにもかかわらず、費用を懸念して泣き寝入りすることは避けるべきです。

交通事故の弁護士費用でご不安がある場合は、まず無料相談をご利用ください。

ここまで解説してきたとおり、交通事故の弁護士費用には様々な種類と料金体系があります。費用に関するご不安や疑問をお持ちのまま、独りで悩み続けることは得策ではありません。

現在、多くの法律事務所が交通事故に関する初回無料相談を実施していますので、まずは専門家である弁護士に直接ご相談されることをおすすめします。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。