監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
離婚調停は、調停委員を通じて、離婚に向けた話し合いを行う手続きです。
調停では、調停を申し立てた人(申立人)と申し立てられた人(相手方)が交互に調停室に入り、離婚の意向や条件について調停委員に説明することになります。
調停委員は、あくまで中立的な立場であり、基本的には当事者一方に肩入れはしません。しかし、自分の発言や行動によっては、相手の味方になってしまうような場合もあります。
本コラムでは、離婚調停中にすると不利になる可能性のある発言や行動を解説しています。離婚調停に臨む際には、ぜひ本コラムをご覧ください。
目次
離婚調停でしてはいけない不利な発言
離婚調停では、裁判所で実際に話し合いをする日(期日)が設けられ、期日の場で、これまでの夫婦生活などの事実関係や、離婚自体や離婚条件に関する意向について、調停委員に説明することになります。
調停委員への説明として調停の席上でする発言の一つ一つが、離婚調停の最終的な合意に影響を及ぼす可能性があります。その中でも、次のような発言は、調停委員から信頼を得られなくなったり、調停員が相手の見方をしたりするきっかけになることがあるため、特に注意が必要です。
①相手の悪口や批判
離婚調停は、当事者本人同士での協議では、離婚自体や離婚条件について合意ができなかった場合に申し立てられることが多いです。そのため、相手に対して不平や不満を抱えているのは、当然のことではあります。
しかし、これまでの事実関係を良く知っている当事者本人と異なり、調停委員は調停までの当事者の様子について正確には分かりません。当事者同士で話が食い違うことも多く、調停委員には何が事実なのかの判断がつかないことも多いです。
そのような状態で感情的に相手の悪口や批判をすると、調停委員としては「この人は、離婚自体や条件の話し合いの席で、感情的に悪口や批判をするような人なのだ」という印象だけが残ってしまうことになります。
相手に対する不平や不満については、悪口や批判ではなく、具体的な事実を話すことを心がけましょう。
②矛盾する発言
離婚調停の場合、問題となる離婚条件などにもよりますが、4~6回程度の期日が開かれることが多いです。そのため、同じ事実や離婚条件について、複数回にわたって説明することもあります。
その際、以前の説明と矛盾する説明をすると、調停委員に、事実と異なることを話していると思われたり、きちんと考えていないと思われたりする可能性があります。どちらの場合でも、調停委員からの信頼を傷つける可能性があります。
調停で説明する際は、事前に事実関係を思い出しておいたり、離婚条件について考えをまとめたりして、発言に矛盾ができないように注意しましょう。また、事実の詳細が分からない場合や、離婚条件について検討中である場合は、そのことを素直に調停委員に伝えるようにしましょう。
③固執しすぎる発言
自分が積極的に離婚を望んでいる場合や、離婚を望んでいるのは相手方であるものの自分も離婚に応じるつもりである場合は、離婚条件に固執しすぎる発言は避けた方が望ましいです。
離婚について話がまとまらない場合、調停は不成立となります。離婚条件に固執しすぎ、互いの主張が平行線の状態が続くと、調停委員が話し合いでの解決はできないと考えて、調停が不成立とさせられるためです。
離婚条件について考える際は、自分にとって一番良い条件だけではなく、どこまで譲歩できるかも一緒に検討しておきましょう。また、同じ条件について譲れないかの確認を何度も受けた場合は、安易に譲れないと回答するのではなく、本当に譲ることができないのかを良く検討した上で回答しましょう。
④譲歩しそうだと思われる発言
一方で、複数の離婚条件について大きく譲歩できるような発言も、望ましくありません。
調停委員としては、離婚訴訟は当事者の負担も大きいことから、どうにか調停でまとめられないかと考えることが多いです。そのため、時として当事者を説得することもあり、あまり譲歩するような姿勢を見せると、調停委員からは「こちらを説得した方がよさそうだ」と思われてしまう可能性があります。
調停のメリットの一つは、調停の外でのパワーバランスを調停の中には持ち込ませず、対等に話し合いができる点です。譲歩しそうだと思われるような発言は、声の大きい方の望んだままの条件での合意につながる可能性があり、せっかく調停を行うメリットを失わせてしまうものです。
離婚条件に付いて譲歩することを伝える際は、発言の内容に注意しましょう。
⑤他の異性との交際などをほのめかす発言
離婚調停が成立するまでは、あくまで当事者は夫婦のままです。そのため、既に別居している場合でも、配偶者以外の異性との交際は、不貞行為にあたる可能性があります。また、実際には、別居後に交際を開始していたとしても、同居中から交際が続いていたのではないかと思われる可能性もあります。
不貞行為にあたれば慰謝料の問題が生じるだけでなく、調停委員からは社会的なルールを守れない人であると思われてしまう可能性もあります。
他の異性との交際については、不貞行為にあたらないから問題ないと自分で判断して話してしまうことがないように気をつけましょう。
⑥相手に直接交渉するといった発言
話し合いが思うように進まない場合に、「本人と話せればもっと上手くいくはずだ」と思うことはめずらしくありません。
しかし、実際に相手に直接交渉すると調停委員に伝えることは避けましょう。
調停委員から「自己中心的な人だ」「相手方に気が気を加えるのではないか」といったマイナスの印象を抱かせてしまう可能性があるためです。
自分で相手に直接交渉するのではなく、離婚条件の伝え方などを調停委員に提案して、調停委員に対応してもらえるようにしましょう。
離婚調停で聞かれること
申立人が聞かれる内容
- 結婚をした経緯
- 離婚を決意した理由
- 調停を申し立てた経緯
- 現在の夫婦関係
- 子供に関する離婚条件(親権、面会交流、養育費)についての意向
- その他の離婚条件(財産分与、慰謝料等)についての意向
- 離婚後の生活の予定
相手方が聞かれる内容
- 離婚の意思の有無
- 結婚してからの状況
- 現在の夫婦関係
- 子供に関する離婚条件(親権、面会交流、養育費)についての意向
- その他の離婚条件(財産分与、慰謝料等)についての意向
離婚調停中にしてはいけない行動
離婚調停が続いている間は、期日上の発言に気をつけるだけではなく、期日外の行動にも注意が必要です。
具体的には、次のような行動を取ると、調停委員からの信頼を傷つけたり、不利な離婚条件で離婚したりすることになる可能性があります。離婚調停の期間中は、このような行動は取らないように気をつけましょう。
①配偶者以外との交際や同棲
不利な発言の部分でも触れたように、離婚調停中の配偶者以外との交際や同棲は、不貞行為と判断される可能性があります。不貞行為にあたる場合は、慰謝料の問題が生じるだけではなく、相手が心情的な理由で離婚に応じなくなることもあるため、離婚が成立しにくくなります。
また、仮に婚姻関係の破綻後に交際や同棲であったとしても、調停委員が不誠実であるとの印象を抱く可能性も否定できません。
離婚調停中は、配偶者以外の異性との交際や同棲は控えましょう。
②相手に直接連絡する
不利な発言の部分でも触れたように、相手に直接連絡する行為は、調停委員にマイナスの印象を与える可能性があります。
また、調停委員には調停外のやり取りは分からないため、調停外のやり取りの内容について当事者間で争いが生じると、調停委員にはどちらが本当のことを言っているのかも分かりません。そうなると、ただ調停を紛糾させるだけで、話し合いは進まないことになってしまいます。
そして、相手が拒否している場合に執拗に連絡をすると、ストーカー規制法違反として警察から警告を受ける可能性もあります。
離婚調停中は、相手に対する直接の連絡は避けましょう。
③離婚調停を欠席する
期日は平日の日中に設けられるため、仕事などの予定の調整が難しいことが度々あります。
特に、裁判所と申立人だけで決定する初回期日は、相手方の方で出席できないことがほとんどです。
しかし、裁判所への連絡なく期日を欠席した場合、話し合いに非協力的であると判断されたり、欠席が続けば調停が不成立となったりする可能性があります。
自身や家族の体調不良、急な仕事などでやむを得ず期日に出席できなくなった場合は、事前に裁判所に連絡をしておきましょう。
④子供を勝手に連れ去る
当事者が別居をしている場合、子供と一緒に居たいあまりに連れ去ってしまう方もいます。
しかし、子供の連れ去りは、子供の生活環境に大きな変化を来たし、子供に精神的に負担を与える行為です。そのため、子供を勝手に連れ去ることは、親権の獲得にあたって大きく不利に働く危険性が高いです。また、調停委員からも、子供のことを考えていないと思われる可能性が高いでしょう。
自分で子供の世話をしたい場合には、監護者指定の審判などの法的手続きを利用するようにしましょう。
離婚調停を有利に進めるためのポイント
離婚調停は、調停委員に取りもってもらい、離婚に向けた話し合いをする手続きです。
そのため、調停委員に悪い印象を持たれたり、自分に不利な離婚条件を提案されたりしないようにすることが重要となります。
調停を進めるにあたっては、自分の発言や行動が、調停委員にどのような印象を与えることになるのかを良く考えておくことが重要です。
調停外で望ましくない行動を避けるだけではなく、話すべき内容を取捨選別して、調停委員に誤解されることがないような方法で伝えることが、離婚調停を有利に進めるためのポイントとなります。
離婚調停で不利な発言をしないようまずは弁護士にご相談ください
多くの方にとって、離婚調停は初めての経験です。また、以前に離婚調停を経験されている方の場合でも、夫婦関係や調停委員の違いによって、対応の方法は異なります。
そのような状況で、調停委員に伝えるべき内容や伝え方を適切に選択することは、どうしても難しい面が多いです。調停委員が当事者の発言を真っ向から否定することは少ないため、自分では適切に説明をできているつもりでも、実は調停委員からの信頼を徐々に失っているという場合もあります。
離婚調停の経験がある弁護士であれば、伝えるべき内容や伝え方について、他のケースと比較しながら選択することができます。本人から伝える内容や方法を事前に相談できるだけではなく、弁護士から調停委員に対して説明することも可能です。
離婚調停の申立てを考えられている方や、申立てをされた方は、まずは一度弁護士にご相談ください。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)