監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
「相手方が離婚に応じてくれない。」「お互い子どもの親権を譲らず、話合いがまとまらなかった。」という場合には、最終的には、離婚裁判で決着をつけることになります。今回は離婚裁判について、詳しく解説していきたいと思います。
目次
離婚裁判とは
離婚裁判とは、判決による離婚を求める手続をいいます。以下で解説するとおり、離婚の方法には、協議離婚、調停離婚、審判離婚及び裁判離婚の4つの方法があります。そのうち、離婚を希望する人が裁判離婚をするために、訴えを提起してから判決をもらうまでの一連の手続を、俗に離婚裁判といいます。
離婚裁判を提起する前に、調停にて話合いをすることが必要です(家事事件手続法257条1項)。離婚裁判は、裁判所が法律に基づいて強制的に当事者を離婚させる(又はさせない)手続ですので、いきなり裁判をすることは望ましくないと考えられております。まずは話合いを試みて、話合いがまとまらなかった場合にのみ裁判をするというのが現在の法律となっております。
離婚裁判以外の離婚方法
- 協議離婚・・・夫婦が話合いによって離婚をする方法です。夫婦がそれぞれ離婚届にサインをして、役所に届け出ることによって成立するという最もポピュラーで簡単な離婚の方法です。日本の離婚のほとんどは協議離婚です。
- 調停離婚・・・家庭裁判所において、調停委員という裁判所の非常勤職員を通じて夫婦が話し合い、話合いがまとまった場合に成立する離婚の方法です。調停で話合いがまとまることを「調停が成立する」といい、逆に話合いがまとまらずに調停が終了することを「調停が不成立になる」といいます。
- 審判離婚・・・調停が成立しない場合でも、家庭裁判所は諸事情を考慮して、職権で夫婦に離婚を命じることができます。この離婚を命じる判断のことを審判といい、審判によって成立する離婚を審判離婚といいます。審判離婚は、夫婦のどちらから異議が出た場合にはその効力を失うとされております。
離婚裁判で争われること
- 離婚原因・・・離婚裁判で離婚が認められるために必要な理由
- 親権・・・子どもを監護、教育し、子どもの財産を管理する権利
- 養育費・・・親権者とならない親が親権者となる親に対して負担する子の監護に関する費用
- 財産分与・・・離婚する際に、夫婦の一方が他方に対して財産を分与すること。
- 慰謝料・・・夫婦の一方の有責行為等によって離婚となる場合に、夫婦の他方が被った精神的苦痛を慰謝するために支払う金員
- 年金分割・・・厚生年金保険等の年金額の算定の基礎となる標準報酬等の改定等を行う制度
裁判で離婚が認められる条件
離婚裁判で離婚が認められるためには、離婚原因と呼ばれる法律上の事由が存在することが必要です(民法770条1項)。例えば、民法770条1項1号には、「配偶者に不貞な行為があったとき。」と規定されておりますので、裁判で配偶者の不貞行為を証拠によって証明することができた場合には、離婚が認められることになります。
離婚裁判の流れ
①裁判所に訴状を提出する。
②訴訟において当事者双方が離婚原因などの主張・立証をする。
③和解又は判決により離婚が成立(又は不成立)となり、離婚裁判が終了する。
離婚裁判にかかる費用について
離婚裁判には収入印紙代、郵便切手代、弁護士費用がかかります。
収入印紙代は、訴えを提起する場合に必ず必要な費用です。収入印紙代は、訴えの内容によって金額が異なりますが、離婚のみを求める場合は1万3000円となります。
郵便切手代は、離婚裁判を提起する場合には、裁判所に一定の郵便切手を予納しなければならないため、切手を購入する際に必要な費用となります。各裁判所によって必要となる切手の金額や組合せが異なりますので、事前に各裁判所に問い合わせる必要があります。なお、切手代は概ね6000円程度のところが多いようです。
弁護士費用は、弁護士に依頼した場合にのみかかります。金額は各法律事務所によって様々ですが、着手金は概ね30万円から60万円程度のところが多いようです。成功報酬は裁判によって得られた経済的利益によって大きく異なりますが、着手金と同額以上となることがほとんどです。
費用はどちらが負担するのか
収入印紙代と郵便切手代は、原告(訴えを提起する側)が負担することになります。ただし、離婚裁判で勝訴した場合には、これらの費用を相手方に負担させることができます。
弁護士費用については、勝訴した場合も敗訴した場合も、その弁護士を依頼した本人が負担することになり、相手方にその負担を求めることはできません。
離婚裁判に要する期間
離婚裁判は、訴えを提起してから判決又は和解によって終了するまでに、6か月から2年程度かかることが多いです。もちろん、6か月以内に終わることもあれば、3年以上かかることもあります。
ただし、これらは第一審の期間ですので、控訴や上告がされた場合には、さらに期間を要することになります。
最短で終わらせるためにできること
離婚裁判で期間を要する原因の1つとして、資料の収集に時間がかかるということが挙げられます。
例えば、財産分与を請求する場合には、当事者双方が各自の財産資料(通帳のコピー等)を提出することになりますが、通帳を紛失してしまった場合などには金融機関に残高証明書を発行してもらう必要があります。このように金融機関に資料を発行してもらわなければならないこともありますので、あらかじめ提出することが予想される資料については、事前に集めておくと一定程度期間を短縮することができます。
長引くケース
離婚裁判は、争点が多いほど長引くことになります。親権、養育費、財産分与等多くの点で対立している場合には、長引く可能性が高いです。特に、親権に争いがある場合で、家庭裁判所調査官という子どもの専門家が様々な調査をするときや、財産分与に争いがある場合などで、当事者の一方が財産資料の開示に応じないため、裁判所が金融機関に対して調査嘱託や文書提出命令を行う場合には、長引く傾向にあるといえます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚裁判で認められる別居期間
離婚裁判で離婚原因として多く主張されるのが、別居期間です。夫婦が長期間別居をしている場合には、婚姻関係が破綻したものとして民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとされております。
それでは、どの程度別居期間が必要かというと、婚姻関係の破綻は様々な事情の総合考慮であることから、一概にこれくらいの別居があれば離婚が認められるとはいえません。ですが、一般的には、口頭弁論終結時に別居から3年程度経過していれば離婚が認められる可能性が高いとされております。
なお、ここでいう別居には家庭内別居は含まれません。家庭内別居では婚姻関係の破綻は認められない可能性が高いです。また、夫婦が現実に別々に暮らしていたとしても、それが単身赴任をきっかけに始まった場合には、ここでいうところの別居に含まれません。単身赴任をきっかけに3年以上別々に暮らしていたとしても、婚姻関係が破綻するわけではありません。
離婚裁判の欠席について
離婚裁判は、当事者双方が主張、反論をして、最終的に裁判官が結論(判決)を出すという流れになりますので、当事者の一方が欠席した場合には、欠席した側の主張がないまま判決を出すことになってしまいます。
原告が何の理由もなく欠席を繰り返した場合には、訴えが棄却され、また、被告が何の理由もなく欠席を繰り返した場合には、原告の請求が認められる可能性が高いです。
離婚裁判で負けた場合
離婚裁判で敗訴してしまった場合には、敗訴してしまった当事者は、高等裁判所に家庭裁判所の判決について不服を申し立てることができます(これを「控訴」といいます。)。離婚裁判で敗訴した当事者は、高等裁判所において、家庭裁判所の判決が誤っていると主張して争うことができます。
また、高等裁判所の判決に不服がある場合には、最高裁判所に不服を申し立てることができます(これを「上告」といいます。)が、最高裁判所への不服申立てをすることができる理由は厳しく制限されておりますので、上告することはほとんどないといってよいでしょう。
離婚裁判で敗訴した場合に、控訴・上告するかどうかは弁護士とよく相談して決めましょう。
離婚裁判のメリット、デメリット
メリット
離婚裁判の最大のメリットは、相手がどうしても離婚に応じない場合等においても、客観的に婚姻関係が破綻していると証明することができれば強制的に離婚をすることができる点です。
デメリット
他方、デメリットとしては、時間的・経済的負担が大きいところでしょう。すでに解説したとおり、期間については概ね6か月から2年程度、費用については弁護士費用を含めると数十万円かかります。
離婚裁判についてQ&A
裁判を拒否することは可能なのでしょうか?
原告から離婚裁判を提起された場合、被告は裁判を拒否することはできません。被告は訴えられてしまった以上、裁判に出頭し、自らの主張をする必要があります。仮に、裁判に出頭せずに放置していると、原告の言い分が全面的に認められてしまう可能性もあります。
ですので、離婚裁判を起こされてしまった場合には、必ず無視しないようにしましょう。
他人が離婚裁判を傍聴することはできますか?
離婚裁判のうち法廷で行われる口頭弁論期日は、通常の民事裁判と同じで、誰でも自由に傍聴することができます。他方、法廷ではなく、裁判所の一室で行われる弁論準備手続期日などは非公開となっておりますので、傍聴することはできません。
配偶者が行方不明でも離婚裁判を行うことはできますか?
配偶者が行方不明な場合でも、離婚裁判によって離婚をすることができます。民法770条1項3号には、「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。」に離婚の訴えが認められると規定されており、このように配偶者が失踪しているような場合を想定した規定も存在します。
離婚後すぐに再婚することはできるのか?
離婚後すぐに再婚をすることができるかどうかについては、男性側と女性側とで法律が異なっております。
まず、男性側は、特に再婚を制約する規定はありませんので、離婚後すぐに再婚をすることができます。
他方、女性については、原則として、離婚の日から100日を経過するまでは再婚をすることはできません(民法733条1項)。ただし、離婚の時点で子を懐胎していなかった場合と離婚後100日以内に出産をした場合には、離婚から100日を待たなくても再婚をすることができます。
この再婚禁止の規定は、簡単にいうと、女性が離婚後に生んだ子どもが前の夫の子なのか再婚相手の子なのかがわからなくなってしまうことを防ぐために設けられたものです。
相手が離婚を拒否し続けたら裁判でも離婚することはできない?
協議離婚や調停離婚については、いずれも話合いで離婚の合意ができなければ離婚は成立しないので、相手方が離婚を拒否し続けた場合には、協議離婚も調停離婚もできません。また、審判離婚についても、相手方が家庭裁判所の審判に異議を出した場合には、審判の効力が失われてしまうため、離婚をすることができません。
しかし、離婚裁判では、相手が離婚を拒否し続けた場合であっても、離婚原因が存在することを客観的に証明することができたときは、判決で強制的に離婚をすることができます。
離婚裁判を考えている場合は弁護士にご相談ください
以上、離婚裁判について解説をしてきました。
離婚裁判は離婚協議や離婚調停とは異なり、相手方との話合いではありません。法律に定める離婚原因の有無や養育費、財産分与等について、法的な主張をし、その主張を証拠によって証明しなければなりません。このようなことは一般の方が自ら行うのは相当困難でしょう。
ALGでは離婚裁判の案件を多く扱っておりますので、離婚裁判を提起する場合や相手方から提起された場合にどのような対応をすればよいのか等について、一度ALGの弁護士にご相談ください。
-
- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)