
監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
会社の備品を持ち帰ってしまった場合に、どのような犯罪になるのでしょうか。
会社の費用で購入した物なので、所有権は会社にあります。これを持ち帰ると刑事責任として窃盗罪または業務上横領罪に該当する可能性があります。また、民事上の責任として損害賠償請求を受けたり、懲戒解雇の対象となる可能性があります。
この場合の示談交渉の進め方について解説します。
会社の備品を横領すると業務上横領や窃盗罪が成立する可能性がある
会社の商品の管理業務を任されている社員が、会社の商品を持ち帰る場合には、他人の物を持ち帰る行為として、業務上横領座または窃盗罪の成立の可能性があります。
この2つの犯罪の違いは、以下で詳しく述べますが、会社の商品に対して「管理権限」があるか否かによって変わります。
業務上横領罪とは
業務上横領罪とは、「業務上」「自己の占有する他人の物」を「横領」した場合に成立する罪です。このうち、「自己の占有する」という点が上記で述べた「管理権限」があるかという部分に関係します。また、「横領」したとは、対象となる財物の所有者がその人を信用して財物の管理を任せたにもかかわらず自分のものにしてしまうことです。最後に「業務上」とは、仕事として反復継続して物の管理を行っていることを意味します。
さらに詳しい解説はこちらをご参照ください。
窃盗罪とは
窃盗罪とは、他人の財物を窃取した場合に成立します。「窃取した」とは、他人の占有する財物を他人の意思に反して自己の占有に移転させることを意味します。具体的には、オーナーが管理している商品をオーナーの知らない間に、従業員が自分の手元に移す場合は、窃盗罪が成立します。
窃盗罪は未遂でも処罰される
業務上横領罪の場合には、備品を持ち帰らなければ成立することはありません。すなわち業務上横領罪には、未遂罪がありません。一方で、窃盗罪の場合には、会社の備品を持ち帰ろうとして、実際には持ち帰らなかった場合でも、成立することがあります。すなわち、窃盗罪の場合には未遂罪があります。
備品を一時的に私的に利用しただけでは業務上横領や窃盗罪は成立しない
会社の備品を一時的に借りた場合にも、業務上横領罪や窃盗罪に該当するのでしょうか。この場合は、業務上横領罪や窃盗罪は成立しないと考えられるのが一般的となります。
会社の備品を一時的に借りる場合には、これを自分の物にして、所有者である会社の占有を排除する意図がないと考えられるため、窃盗罪や業務上横領罪は成立しません。また、一時使用である場合には、会社の物品に対する会社の所有権の侵害の程度も軽微であるため、わざわざ刑事処分の対象として扱われないことが多いです。
業務上横領罪と窃盗罪の違いは「占有」しているかどうか
業務上横領罪と窃盗罪の違いは、財物に対する「占有」があるか否かにあります。業務上横領罪は、「自己の」占有する他人の物を対象とし、窃盗罪は、「他人の」占有する物を対象とします。例えば、会社の備品管理を担当している社員が、当該備品を自宅に持ち帰った場合には、業務上横領罪となります。一方で、備品の管理を担当していない別の社員が、倉庫から備品を持ち帰った場合には、窃盗罪となります。
「占有」とはどういう状態のことをいうのか
窃盗罪と業務上横領罪の判断を分ける「占有」の概念について解説します。
「占有」とは、物に対する事実的支配があるか否かによって判断されます。例えば、備品を実際手に持って管理していることまでは必要ありません。事実的支配が及んでいるか否かは、客観的な支配の事実と主観的に支配の意思があるかによって判断します。
例えば、会社の経理担当の方が、自分の机の後ろの金庫でお金を管理していたとします。この場合、経理担当の方が支配する領域の中で、お金を管理するという客観的支配の事実があります。また、経理担当の方も自身が机に座ることで金庫の中のお金を管理していると通常、意識することになります。これが主観的に支配の意思があるということになります。
会社が破棄する予定の備品を持ち帰った場合
「占有」には、客観的な支配の事実と主観的な支配の意思が必要であると解説しました。例えば、会社内に放置され、使用しなくなった備品については、既に主観的な支配の意思が失われ、窃盗罪または業務上横領罪が成立しない可能性が高いです。
もっとも、会社の「占有」を離れたとしても、遺失物等横領罪(刑法254条)が成立する可能性があります。「占有」を離れたとしも、「他人の物」であることには変わりがないため、備品を無断で持ち帰る場合には犯罪が成立する可能性があります。
備品の横領、窃盗のケース
会社の備品といっても様々なものがあります。以下では、備品の種類に分けて業務上横領罪が成立するのか、窃盗罪が成立するのか解説します。
ボールペン、ノート、コピー用紙などの備品
まず、ボールペンやノートなどの文房具については、社員それぞれに既に支給されているものであれば、「自己の占有する他人の物」であるとして、これを持ち帰ることになれば、業務上横領罪が成立する可能性があります。
一方で、倉庫に保管されているコピー用紙については、その管理をしていない社員が倉庫に入って持ち出した場合には、当該社員にはコピー用紙を管理する権限がないため、「他人の」占有する物を持ち帰ったことになり、窃盗罪が成立する可能性があります。
自社の商品や取引先への納品物
自社の商品や取引先への納品物については、その物への管理権限が与えられているのか否かによって、成立する犯罪が異なります。例えば、商品の開発をする部署の社員が社内で保管している自社の商品を持ち帰った場合には、「自己の占有する他人の物」を持ち帰ったとして、業務上横領罪が成立する可能性があります。
一方で、人事等担当する部署の社員が自社の商品の保管されている倉庫に入り、商品を持ち帰った場合には、「他人」占有する物を持ち帰ったとして、窃盗罪が成立する可能性があります。
自分のスマホや電子機器を会社で充電
「他人の物」とは、原則としては、物理的に存在する物と考えられています。例外的に、電気については、目に見えず、物理的に存在していないとしても、財物と扱われています。そのため、会社が供給している電源から私用のスマホ等の充電を行うと窃盗罪が成立する可能性があります。
会社内で電気の使用について、ルールを定めている場合もありますので、就業規則などで確認してから私用するようにしましょう。
社用車を私的に使用
社用車などの高価な備品は、会社から会社のために使用するために、占有することが認められたものであり、「自己の占有する他人の物」となります。これを会社の業務のために使用するのではなく、私的な旅行などのために使用することは、「自己の占有する他人の物」を占有している目的に反して使用したことになり、業務上横領罪が成立する可能性があります。
どのような責任を負うことになるの?
会社の備品を横領することは、以上のとおり、犯罪行為に該当し、刑事上の責任が問われることになります。他方で、会社の備品を横領することで会社に損害を与えたとして、不法行為に基づく損害賠償請求がされ、民事上の責任を負う可能性もあります。
民事上の責任
不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)とは、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」ことをいいます。
不法行為に基づく損害賠償責任が成立するためには、①故意又は過失によること②他人の権利又は法律上保護された利益に対する侵害であること③損害が生じていること④侵害と損害との間に因果関係があることが必要となります。
会社の備品を持ち帰る場合には、当該社員は、備品が自身の物でないことを知っているか、知ろうと思えば知ることができ、持ち帰らずに済んだといえるので、「故意又は過失」があります。持ち帰ってしまった備品は会社の物なので、「他人の」所有権を侵害することになります(②)。社員が備品を持ち帰ることで備品が減ることになり、会社に損害が生じます(③)。そして、会社への損害は、社員が備品を持ち帰ったことによるものなので、侵害と損害との間の因果関係も認められます(④)。
したがって、備品を持ち帰ると、会社から不法行為に基づく損害賠償請求を受ける可能性があります。
刑事上の責任
会社の備品を持ち帰り、窃盗罪が成立する場合には、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります。一方で、業務上横領罪が成立する場合には、10年以下の懲役となります。業務上横領罪の方が、当該物に対する「占有」があったことを利用して損害を発生させた点を捉えて、法定刑が重くなっています。
備品の横領は会社に発覚する?
当初少量の備品の横領を行った場合には、会社に発覚することは多くありません。しかし、少量の持ち帰りだとしても、長期間に及ぶことで在庫管理等の際に個数等が合わず会社側が不審に思うことがあります。少量の持ち帰りだからばれないだろうと考えたとしても、会社側には既に発覚している可能性も十分に考えられます。会社に発覚する経緯は様々なので、少量だからバレないだろうと考えることなく、持ち帰ることは止めるようにしましょう。
会社が社員の所持品検査をすることはある?
会社は備品の持ち出しを防ぐための処置を講じることがあります。その一つとして、所持品検査を行うことがあります。ただし、所持品検査を行うとしても社員のプライバシーに配慮するため、一定の限界があります。以下の条件を満たした場合でなければ所持品検査を実施することはできません。
- 検査を行うことについて合理的な理由があること
- 検査の方法が妥当なものであること
- 検査の実施が画一的なものであること
- 所持品検査を行うことが就業規則などで事前に周知されていること
備品を持ち帰ってしまった際の対応方法
会社の備品を転売する目的で持ち帰ってしまった場合、会社に対する重大な背信行為となりますので、懲戒解雇の可能性も十分考えられます。
備品を持ち帰ってしまった場合には、上記のように隠し通せるとは限りません。そのため、持ち帰ってしまった場合には、会社に返還する等の適切な対応をとり、まずは被害の回復に努めることが優先です。
高価な備品、横領した額が大きい場合は弁護士が示談交渉します
備品の持ち帰りをしてしまってすぐに返還するなどの対応した場合には、スムーズに示談交渉が進むことが多いです。しかし、長期間に渡り備品の持ち帰りを行ってしまった場合など、被害額が大きくなっているケースでは、単に会社に返還するだけでは被害の回復ができない可能性があります。
その場合には、当事者間での話し合いでは解決することが困難となります。第三者である弁護士が介入することで、被害金額の分割払いの交渉等の解決策を提示し、示談交渉をスムーズに進めることが可能になります。
弁護士に示談交渉を依頼するメリット
社内の備品を横領した場合、会社と交渉することが不可欠です。特に刑事事件になる前に会社との示談を進める必要があります。会社との示談交渉の際は、被害弁償のみならず刑事事件となった場合に備えて、証拠をどのように揃えるかなどの対応も必要となります。
その点、弁護士は、横領罪に該当するケースについて、把握しており対応の仕方について事前にアドバイスすることができますのでその点がメリットになると思われます。
会社の備品を横領してしまったらお早めに弁護士にご相談ください
以上のご説明のとおり、会社の備品を持ち出してしまった場合には、会社との関係で損害賠償請求がされるだけではなく、横領罪又は窃盗罪などの刑事上の責任を問われる可能性があります。備品の持ち出しが長期化すればするほど、早期解決は難しくなります。
軽い気持ちで持ち出してしまった場合には、早めに弁護士に相談いただき、示談交渉等を開始することをお勧めします。お困りの際は、弊所までご相談ください。
会社の経費などを横領してしまうケースは、世の中に無数に存在します。今回は、会社役員や取締役が横領してしまったケースについて解説します。
会社役員や取締役による横領は業務上横領罪が成立する可能性がある
会社役員や取締役が会社のお金を使いこんでしまった場合、成立し得る犯罪の一つが、業務上横領罪です。まずは業務上横領罪がどのような犯罪なのか、ご説明します。
業務上横領罪とは
業務上横領罪とは、「業務上自己の占有する他人の物を横領」することによって成立する犯罪です。業務のために会社の物を預かることは、多くの人が経験しているのではないでしょうか。
そのような際に、預かった物を自分の物にしてしまうケースでは、業務上横領罪が成立します。
たとえば、取引先に支払うために預かったお金を自分の趣味のために使ってしまうケースなどが業務上横領罪に該当します。業務上横領罪についてはこちらの記事で詳しく説明していますので、ご覧ください。
業務上横領は必ず逮捕される?横領額と刑の重さは関係あるのか会社役員や取締役による横領事件は多い
会社役員や取締役は高度な責任を負う立場です。会社役員や取締役は会社から信頼されるので、監査などのチェックは緩いものになりがちです。
そのため、会社役員や取締役が「横領できる環境」にいることは多く、会社役員や取締役による横領は少なくありません。
会社役員や取締役の地位を利用して横領することは量刑に影響するのか
業務上横領罪は、通常の横領罪よりも重い処分が定められています。これは、業務のために物を預かるという行為は、会社からの信頼を基礎としたものといえるので、会社からの信頼を裏切る行為は悪質であると評価されることが理由となっています。
会社役員や取締役は、通常の社員よりも更に会社から信頼される立場だといえるでしょう。
そのため、会社役員や取締役の地位を利用して横領することは、通常の社員が横領した場合に比べ、量刑が重くなる可能性があります。
会社役員や取締役による業務上横領の事例
会社役員や取締役による業務上横領の事例として、以下のようなものが考えられます。
- ・会社の金庫の管理を任されている役員が、こっそりお金を抜いて自分の借金返済のために使用してしまった
- ・会社の通帳を預けられている役員が、銀行からお金を引き出し、自分の趣味のために使用してしまった。
- ・社用の車を貸与されている取締役が、お金に困って車を売却し、得た金額を生活費のために使用してしまった。
特別背任罪と業務上横領罪の違い
会社役員や取締役が会社の財産を自分のために使用してしまった場合、業務上横領罪のほかに、特別背任罪が成立する可能性があります。
特別背任罪は、「会社の物を自分の物にする」ケース以外に、「会社の物を他人の物にする」ケースなどでも成立します。
特別背任罪とは
特別背任罪は、役員等が、自分や第三者に利益をもたらすことや、会社に損害を与えることを目的として、任務に背く行為をした場合に成立し得る犯罪です。
「任務に背く行為」には、会社の物を自分の物にしてしまうような行為も含まれます。また、会社のものとなるはずの利益を、他者に譲ってしまうような場合も含まれます。
特別背任罪の事例
特別背任罪が成立するようなケースとして、以下のようなものが挙げられます。
- ・自分の取引で損失が出てしまった際に、その取引は元々会社の取引だったことにした
- ・仲の良い友人のために、原価割れの安い価格で取引をした
- ・自分のミスを隠すため、借金を返す余裕がなさそうな法人に対し、会社のお金を融資した
横領を行った役員・取締役の責任
会社の物を横領し業務上横領罪が成立した場合、その行為を行ってしまった人は、どのような責任を追及させられるのでしょうか。追及され得る責任は、1つだけではありません。
刑事上の責任
業務上横領罪は、刑罰の定めがある犯罪です。業務上横領罪が成立した場合、10年以下の懲役が言い渡される可能性があります。
なお、特別背任罪が成立する場合は、10年以下の懲役の代わりに、1000万円以下の罰金が科されることや、懲役と罰金の両方を科されることがあります。
民事上の責任
会社の物を横領してしまったことが判明した場合、会社は、損害の補填を求めてくるでしょう。任意での支払いに応じないでいると、裁判などを起こされる可能性もあります。
懲戒解雇の可能性
会社の物を横領することは、業務上の不正行為ですから、懲戒される可能性が高いでしょう。懲戒処分には、戒告やけん責といった比較的軽いものから、懲戒解雇という重いものまでが含まれます。
会社に与えた損害の額次第では、懲戒解雇されてしまう可能性も否定できません。
横領をしてしまった場合にできること
横領してしまったような場合、どのような対応が可能でしょうか。横領をしないのが一番ですが、してしまった後にもできることがあります。
- ・これ以上の横領を行わないようにする
- ・横領について会社に素直に報告する
- ・会社に与えた損害の分を補填する
事件化させないためにも弁護士にご相談ください
横領事件は、被害者からの申告がないままであれば、警察が動かないことも多いです。そのため、会社が警察や検察に報告しないよう、交渉を行うことが有効です。
警察や検察が動かなければ、起訴をされることもなく、前科がつくこともありません。そのため、警察や検察が動く前に示談交渉を行うことは、有効だといえるでしょう。
会社との示談交渉を弁護士に依頼するメリット
会社との示談交渉を弁護士に依頼する場合、弁護士から、法的な説明を受けることが可能でしょう。
会社が要求してくることの中には、法律上の根拠がなく、「ただ会社が要求しているだけ」といったことも含まれます。そのような場合、要求に応じないということも選択肢に入ります。
交渉の様々な場面で法的な意味を確認できることは、弁護士に依頼することによって発生する大きなメリットです。
事件化した際も減刑にむけてサポートします
警察が横領の捜査を始めてしまうケースもあります。そのような場合でも、弁護士であれば、刑事的な対応を行うことが可能です。
弁護士が携わる専門分野には刑事事件も含まれますので、安心して依頼を行うことができるでしょう。
横領したお金を返済する際に分割払いは可能なのか
横領したお金を会社に返したいが、手元に現金がない、といった場合もあり得ます。そのような場合、「分割払いで返済したい」というニーズが発生するでしょう。
分割払いによるお金の返済が可能かどうかは、相手の会社の対応次第で変わります。ご依頼者様が分割払いをご希望されている場合、弁護士は、支払い方法についても交渉します。
会社のお金を横領してしまったらお早めに弁護士にご相談ください
業務上横領罪や特別背任罪は、懲役10年を言い渡される可能性もある、重い犯罪です。警察や検察がどのような対応を行うかは、被害者である会社の意向も大きく影響してきます。
そのため、会社のお金を横領してしまった際には、なるべく早く弁護士にご相談ください。
会社のお金を管理する立場にいる人だけが業務上横領罪になるのか、どのくらいの金額を横領したら罪に問われるのか、逮捕される可能性や懲戒処分の対象になる可能性等詳しく知らない方が多いと思います。以下ではそれらを詳しく解説します。
少額でも会社のお金を横領すると横領罪は成立する
業務上横領罪の対象は、「業務上自己の占有する他人の物を横領した者」(刑法253条)と記載されており、「他人の物」を横領したか否かが基準です。たとえ、1円であったとしても、自分が占有している他人の物を横領すると、業務上横領罪に問われる可能性があります。
業務上横領罪とは
業務上横領罪とは、「業務上自己の占有する他人の物を横領した」場合に成立します。
「業務上」とは、社会生活上の地位に基づいて、反復継続して行う事務のことを指します。また、「他人の物を横領した」とは、委託信任関係に基づいて預かっている他人の所有物を自分の物にしたり、勝手に処分する行為を指します。
業務上横領罪ついては以下の記事で詳しく解説しております。併せてご確認ください。
業務上横領は必ず逮捕される?横領額と刑の重さは関係あるのか少額横領のケース
- ・会社で集金業務あたっている者が、集金したお金を会社に未収金として報告し、自分の物とするケース
- ・店舗の責任者などが、売上金を少なく申告し、差額を自分のものにするケース
- ・会社の経理担当者が、郵便切手を使用済みであると偽って、自分の物にするケース
少額横領でも逮捕されるのか
以上で解説したとおり、被害金額が少額であったとしても、会社のお金を横領すれば業務上横領罪が成立することになります。もっとも、この場合に、ただちに逮捕に至るケースは多くありません。1~5万円など少額のケースでは、会社と話し合って全額を被害弁償できれば、刑事事件にまで発展しない可能性が高いです。では、どのような場合が刑事事件となり、逮捕及び起訴されるのででしょうか。以下で詳しく解説します。
被害者からの被害申告(告訴)があって事件化するケースが多い
業務上横領は、被害者からの申告がなければほぼ事件として扱われることがありません。事件が複雑化することが多く、第三者からの通報では事実関係を把握することが困難な場合がほとんどです。まず、被害者が警察に被害を相談し、その後、警察が被害申告(刑事告訴)を受理して、はじめて事件として扱われることが多いです。
少額の場合は会社と示談交渉し逮捕されないケースもある
被害額が少額であるケースでは、会社側と示談交渉し、被害金額が全額弁済することで会社側が事件化させないことが多いです。業務上横領罪が発覚した場合に刑事事件にするには、以上のとおり、警察に被害申告をする必要があり、すべてが事件として扱われるわけではありません。そのため、会社としても被害弁償が済めば大事にしないケースが多いと言えます。
会社との示談交渉は弁護士にお任せください
前述のとおり、横領事件を穏便に解決できるもっとも有効な方法は、会社との示談交渉です。謝罪のうえ、横領した金銭の全額を返済するか、あるいは分割でも返済する約束を取り付けることができれば、警察への届け出を回避できる可能性があります。
横領事件の場合、被害金額について会社側の認識している金額と被疑者側が認識している金額が異なることが多いです。そのような場合についても、弁護士であれば、客観的資料に基づき被害金額についての交渉をすすめやすくなります。
そのため、会社との示談交渉は、弁護士に任せることが賢明です。弁護士が代理人として交渉の場に立つことで、会社側も穏便な解決に前向きな姿勢を示す可能性が高まります。
横領した額と刑の重さは関係あるのか
横領した金額が少額の場合には、刑の重さが軽くなるケースが多いです。これは、被害金額が少ないことが理由となります。もっとも、刑の重さは、必ずしも被害金額のみで決まるわけではありません。行為態様や常習性などの要素を加味して判断されることになるため、少額の場合でも刑が重くなる場合もあります。
少額の場合は会社にバレない?発覚の可能性
少額横領の場合には、会社側に発覚しないと思い込みさらに使い込みを行うケースが多いです。しかし、会社は、お金の流れを正確に把握しようとします。また、少額横領を繰り返すことで不自然なお金の流れとなり、発覚することが考えられます。
したがって、少額のため発覚しないということはなく、隠し通すことは困難です。
はじめは少額でも長期間に渡り横領を続けてしまうことも
最初は少額であっても、繰り返しているうちに被害金額が大きくなっているケースが多いです。
横領の多くは、最初は「バレないだろう」「このぐらいいいか」といった軽い気持ちで始まります。実際に気がつかれないと「もっとやっても大丈夫」と気が大きくなり、次第に行動がエスカレートしていきます。何度も繰り返しているうちに、被害金額が膨らんでいくのです。
被害金額が大きくなればなるほど逮捕の可能性も高まり、示談交渉でも解決が困難になる可能性が高くなります。
少額でも会社のお金を横領したら懲戒解雇になるのか
業務上横領罪が成立し、刑事事件として処罰を受けるかどうかと、会社から懲戒解雇されるか否かは必ずしも一致しておらず、以下では少額横領の場合でも懲戒解雇を有効とした例を解説します。
1万円を横領について懲戒解雇を有効とした判例(前橋信用金庫事件)
信用金庫の業務推進部に所属する調査役が、顧客から集金した金員の一部(1万円)を着服したため、懲戒解雇したという事案です(前橋信用金庫事件 東京高判平成元年3月16日)。
「控訴人が被控訴人には金員着服行為があるものと認定し、右は就業規則四九条一号、三号及び四号(証拠略)に該当するとして被控訴人を解雇処分に付したことについては、その原因があり、かつ信用に立脚する金融機関の性格上やむを得ないもので、もとより有効といわなければならない。」として、懲戒解雇を有効と判断しました。
1万円という金額は、多額とまではいえないため、懲戒解雇までは相当ではないと判断されることも考えられます。しかしながら、金融機関の性格を考慮し、1万円であったとしても、信用のために解雇を持って臨むのは有効であると裁判所は判断しました。
都営バスの乗務員が運賃を横領した行為について懲戒解雇を有効とした判例(東京都公営企業管理者交通局事件)
都営バスの乗務員が、乗務中に運賃を乗客から直接手で受け取り、不正に横領したことが乗客からの通報で発覚した事案。乗務員が不正に乗客から得たお金は1,100円であった。東京都は乗務員を懲戒免職とした。これに対して、乗務員が懲戒免職は不当な処分であるとして裁判を起こしました。
裁判所は、バスの乗務員として、運賃の不正取得は極めて悪質であり、職務上、許されない行為である。運賃の不正取得の額の大小に関わらず懲戒解雇は有効としました。
領収書を改ざんし10万円を不正請求したことについて懲戒解雇を有効とした判例(ダイエー事件)
慰労会の飲食代金16万4368円(二〇人分)を仮払いし、領収書の10万の位を2に改竄し、飲食代金を26万4368円に見せかけ、仮払金の清算手続で差額の10万円を着服した事案です。
裁判所は、周到に計画された犯行であるとまではいえないとしつつも、意図的なもので、その性質上、会社に対する重大な背信行為であり、依願退職の申出を繰り返し勧めたにもかかわらずこれが拒否されていることを考慮し、懲戒解雇は有効としました。
業務上横領罪が成立したら刑事上の責任と民事上の責任を負うことになる
業務上横領罪が成立する場合、上記のように、刑事上の責任だけではなく、民事上の損害賠償請求もされる可能性があります。
刑事上の責任
業務上横領罪が成立する場合には、「10年以下の懲役」となります。
民事上の責任
業務上横領をしてしまった場合には、上記の刑事上の責任だけではなく、民事上の責任として、不法行為に基づく損害賠償責任が発生します。
少額横領してしまったら
少額横領の場合には、ばれないと勘違いをして、行為がエスカレートする危険性があります。気づかないうちに被害金額が高額になり、被害弁償では取り返しのつかないことになる可能性があります。少額横領をしてしまった場合には、行為が常態化する前に会社に報告し、被害弁償をし、示談交渉を開始する必要があります。
会社のお金を横領してしまったら弁護士にご相談ください
業務上横領罪は、犯行に一度手を染めると発覚するまで際限なく横領を繰り返してしまう傾向にある犯罪類型です。被害金額が高額になってしまってからでは、被害弁償も困難でしょうし、事件化される可能性はもちろんのこと、量刑面も厳しい判断となる可能性を高めてしまいます。すでに発覚してしまった、という方はもちろんのこと、まだばれていないという方も、なるべく早い段階で自身の行為を清算する覚悟を決めて、弁護士に被害弁償や示談交渉などを依頼することをお勧めします。
交通事故にあわれた場合、加害者やその加入先の保険会社から適切な賠償金を支払ってもらう必要があります。この際、裁判手続外で、加害者や加入先の相手方保険会社と賠償額の交渉をすることを示談交渉と呼んだりします。交通事故の示談交渉では、被害者が被った損害額はいくらか、交通事故について一方又は双方に過失があるのか、あるとしてもその割合はどれくらいかなどについて交渉することになります。
以下では、こうした示談交渉をご自身でされる場合の注意点等について、解説していきます。
自分で交通事故の示談交渉をするメリットとデメリット
メリット
示談交渉を行う場合、通常は、専門家である弁護士に依頼する人が多いでしょう。しかし、交通事故の示談交渉を弁護士に依頼すると、弁護士費用が必要になります(ただし、弁護士費用特約付きの保険に加入されている場合には、少なくとも弁護士費用を手出しで負担することは少ないと言えます。)。このため、仮に、賠償金を得られたとしても、そのうちの一部は、弁護士費用に費消されてしまいます。
示談交渉を自分で行えば、こうした弁護士費用はかかりませんので、これが自分で交通事故の示談交渉をするメリットといえます。
デメリット
もっとも、自分で示談交渉を行うことには当然のことながらデメリットもあります。交通事故の賠償金を適切に請求するためには、非常に多くの、かつ細かな法的知識が必要になることがあります。また、弁護士は、示談交渉に慣れていますので、一般の方と比べ、戦略をもって適切な交渉を行い得ることが多いと言えます。このため、弁護士に依頼して示談交渉を進めた方が、有利な交渉を行うことができる可能性があります。
自力で示談交渉したい場合のポイントと注意点
ご自身で示談交渉をする場合、上述したとおり、示談交渉が不利な方向に進められる可能性があります。なぜならば、示談交渉の相手となることが多い保険会社の担当者は、日々、大量に示談交渉を処理しているため、示談交渉についての知見を有しているからです。このため、相手方保険会社が提示する内容の不備を指摘することができず、不利な内容で示談が成立してしまう可能性があります。
保険会社の示談交渉サービスはどうなの?
自分で示談交渉をすることが不安な場合、保険会社の担当者が代わって交渉を行ってくれるサービスがあります。ただし、これは、あくまでも加害者側の立場になった場合に利用できるサービスです。このため、こうした保険会社による示談交渉サービスは、交通事故の被害者側の立場になった場合しか使えないという点には注意する必要があります。
示談交渉を弁護士に依頼すると費用はどれくらいかかる?
示談交渉を弁護士に依頼する場合には、弁護士費用がかかります。
弁護士費用は、大きく着手金と成功報酬に分けられます。前者の着手金は20万円から30万円程であることが多いと言えるでしょう。また、後者の成功報酬は、着手金と同程度の額に、依頼者が受けた経済的利益の約10%~約20%程度であることが一般的です。
もっとも、弁護士費用特約付きの保険に加入している場合には、上限額の範囲で、保険会社が補償してもらえます。
弁護士に示談交渉を代わってもらうメリット
弁護士に示談交渉を依頼すれば、専門的な知見に基づいて適切な交渉をおこなってもらえ、有利な示談交渉を進めることができる可能性があります。また、相手方保険会社との煩雑なやり取りを全て弁護士に任せることができるというのも、大きなメリットの1つと言えます。
示談交渉は弁護士にお任せください
以上のとおり、交通事故の示談交渉は自分でやることも可能ですが、メリット・デメリットを考えると、専門家である弁護士にご依頼されることをおすすめします。
現在、国内で生命保険を加入されている方は非常に多くいらっしゃいます。
実際に公益財団法人生命保険文化センターの調査では、生命保険の世帯加入率が2人以上世帯では89.2%という調査結果も出ています。このような加入状況からすると、生命保険と相続との関係については、意外と身近なものとなっています。
本記事では、生命保険と相続との関係について解説します。
生命保険金は相続の対象になる?
ご存じのとおり、生命保険金は、被相続人である保険契約者が死亡することによって発生し、受取が可能となるものです。この保険金は遺産分割の対象となる相続財産に含まれるのでしょうか。
これは、生命保険金の受取人が指定されている場合と、受取人が指定されていない場合とで結論が異なります。
生命保険金を請求できるのは「受取人」として指定されている人
原則として、生命保険金を受け取ることができるのは、保険受取人(保険法2条5号)として指定された者です。
そのため、保険契約者たる被相続人が自身を被保険者とし、特定の者を、生命保険金を請求できる「受取人」として指定した場合は、指定された受取人が保険金請求権を固有の権利として取得する以上、相続の対象にはなりません。
受取人が既に亡くなっている場合
以上のように受取人が指定されている場合であっても、被相続人が死亡する前に同受取人が死亡する場合もあります。
この場合、当該受取人の法定相続人全員が生命保険金を受け取ることになります(保険法46条)。
他方、受取人にも被保険者たる被相続人にも法定相続人がいない場合は、当該生命保険金は国庫に帰属することになります。
受取人が指定なしの場合
なかには受取人の指定をされない方もいらっしゃいます。この場合、生命保険金が相続財産に含まれるか否かは、保険契約の内容によります。
保険契約者が自己を被保険者とし、保険金受取人を単に「被保険者又はその死亡の場合はその相続人」と約定し、被保険者死亡の場合の受取人を特定の氏名を挙げることなく抽象的にしている場合において、判例は、保険金請求権は保険契約の効力発生と同時に相続人の固有の財産になり相続財産にならないとしました。
他方、被相続人に生命保険金を支払う旨の保険契約になっている場合においては、判例は、生命保険金は相続財産に含まれることになるとしました。
生命保険金の請求に必要な書類
生命保険金の請求に必要な書類として、代表的なものは以下のとおりです。
- 死亡保険金請求書(保険会社ごとに記載事項などが異なることがあります。)
- 保険証券
- 被保険者の死亡診断書(または死体検案書)
- マイナンバーカードなどの確認書類
- 被保険者の住民票
- 受取人の戸籍抄本
- (交通事故の場合には)交通事故証明書
生命保険金を受け取るための手続き
生命保険金を受け取るためには、まずは、受取人から当該生命保険会社に連絡をする必要があります。その後、保険会社から指定された必要書類を用意、提出します。
保険会社が保険金を支払う対象になるかを検討した後、保険金が指定の口座に入金されます。以下、詳しく解説します。
生命保険会社に連絡を取る
生命保険金を請求するためには、受取人から生命保険会社に対する連絡が必要不可欠です。連絡先は、保険証券や保険会社のウェブサイト等で確認できます。
保険会社に連絡をした際、担当者から証券番号や被保険者の氏などを尋ねられますので、保険証券や契約内容が確認できる書類を手元に置いておきましょう。
また、被保険者の死亡日や原因、受取人の氏名や連絡先も尋ねられることもありますので、これらの事項を答えられるようにしておきましょう。
請求手続をする
生命保険会社へ連絡をした場合、保険会社から、今後の手続の流れ、必要な書類等が案内されます。同案内に従って準備を進めましょう。
必要書類は上記に代表例を記載しましたが、中には保険会社から送付される書類もありますので、保険会社からの案内はメモを取る等して正確に対応をしましょう。
不明な点があれば、なんとなくで進めるのではなく、しっかりと保険会社に問い合わせましょう。
生命保険会社の審査
必要書類の提出が終わり次第、保険会社にて提出資料を基に、保険契約における保険金支払事由に該当するか等の審査を開始します。この審査を通過しなければ、保険金は一切支払われません。
生命保険金の受け取り
保険会社の審査を通過すれば、指定した口座に保険金が支払われます。その語、保険会社から指定の住所宛に明細書などが送付されますので、入金額や内容に誤りがないかどうか確認しましょう。
生命保険金は3年以内に請求しましょう
生命保険金の請求権は「行使することができる時」から3年間で時効により消滅します(保険法95条1項。なお、中にはかんぽ生命保険のように5年が時効とされている保険もあります。)。
そのため、生命保険金の請求は被保険者が死亡してからなるべく早めに手続を行いましょう。
生命保険金は相続放棄しても受け取れる
「相続放棄」とは、相続人が相続による包括承継の効果を全面的に否定する意思をいいます。つまり、「被相続人の相続財産を相続しませんよ」という意思表示のことです。
この相続放棄の手続を行った場合、相続財産を受け取ることはできません。もっとも、相続放棄しても生命保険金を受け取ることができます。
これは、上記のとおり、特定の者を、生命保険金を請求できる「受取人」として指定した場合は、生命保険金は指定された受取人の固有の財産であり、相続財産の対象にはならないからです。
生命保険金の受け取りに税金はかかる?
原則として、生命保険金を受け取った場合、相続税、贈与税、所得税等を納税する必要があります。これは保険料の負担者や受取人が誰であるかにより変わります。
契約者と被保険者が同じ人で、受取人は相続人
この場合には、相続税が課税されることになります(相続税法3条1項)。これは、相続によって生命保険金を受け取ったとみなされるためです。
なお、受取人が相続人でない場合は、遺贈により受け取ったものとみなされ(相続税法4条)、このときも相続税が課税されます。
契約者が受取人
この場合、生命保険金の受け取り方によって、一時所得又は雑所得として取り扱われ、所得税や住民税が課税されます(所得税法34条1項)。
- 一括で保険金を受け取った場合→一時所得
- 年金で数年にわたり毎年保険金を受けった場合→雑所得
契約者と被保険者と受取人がすべて違う人
この場合には、贈与税が課税されます(相続税法5条)。
これは、保険料の負担者が支払ってきた保険料によって発生した利益が契約者の生前に受取人に対して贈与されたと考えられるためです。
また、生命保険金を年金として受け取った場合には、当該年金を受け取る権利について贈与税が課税されることになります。
相続の手続でお困りなら、弁護士への相談がおすすめ
生命保険金を受け取る場合、生命保険金以外の財産の調査・検討が不可欠なことが多いです。
また、生命保険金の発生原因となる保険契約の内容を吟味しなければ相続の対象になるかどうかも判断できません。場合によっては、遺産分割協議が難航する場合もあるでしょう。
そこで、生命保険金の受取等でお悩みの方は、なるべく早めに弁護士に相談してみることをお勧めします。
自身が不倫(以下では「不貞」といいます。)をした場合には、不貞相手の配偶者から不貞慰謝料請求をされることがあります。
電話やメール、内容証明郵便など様々な方法で請求がされますが、突然の要求に困惑されるものと思います。
本記事では、不貞をしてしまい、不貞慰謝料を請求された、という場合にどのように対処すべきかなどについて解説していきます。
不倫慰謝料を請求されたら確認すること
不貞慰謝料を請求された際に確認すべきことは、主に以下の5つです。
- そもそも不貞行為を行ったか
- いつ不貞行為をしたか、それがいつ発覚したか
- 不貞相手が既婚者であることを知っていたか
- 不貞相手の夫婦関係は破綻していたか、破綻していると思っていたか
- 自らの意思で肉体関係を持ったか
慰謝料の支払いが必要ないケース
不貞慰謝料の請求をされた場合、上記①~⑤を確認したうえで、そもそも慰謝料を支払うべきかどうかを検討していくことになりますが、そもそも不貞慰謝料の支払いが必要ないケースを以下で解説していきます。
不倫の事実がない
不貞行為とは、婚姻している人と肉体関係を持つことをいいます。そもそも不貞の事実がないのであれば、慰謝料を支払う必要はありません。
ただし、2人だけでデートをしていたり、キスやハグをしていたり、好意を伝えたメールやメッセージを頻繁にしている場合などは、不貞行為を推測させるだけでなく、その行為自体で平穏な夫婦関係を侵害した主張され、慰謝料請求が認められる可能性もありますので注意が必要です。
夫婦関係が破綻していた
次に、不倫相手の夫婦関係が破綻していた場合も慰謝料を支払うべきではありません。
不貞行為によって夫婦関係を破綻させたことゆえに不貞慰謝料が発生するものですから、そもそも夫婦関係が破綻していた場合はあなたの不貞行為によって破綻させたとはいえないからです。
夫婦関係の破綻の判断は一概には言えませんが、例えば、不貞行為の時に既に夫婦が別居して数年経過していた場合や互いに離婚を前提として離婚協議中であった場合などは、不貞行為時に夫婦関係が破綻していたと認められやすいでしょう。一方で、単に夫婦仲が悪い程度では夫婦関係の破綻が認められる可能性は低いため、注意が必要です。
慰謝料請求の時効を過ぎている
不貞慰謝料請求の時効が完成している場合にも慰謝料を支払う必要がありません。
不貞慰謝料の請求権は、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求権ですから、被害者が加害行為と加害者を知ったときから3年を過ぎると加害者が時効を援用することでその権利が消滅します。不倫の事実が被害者に発覚してから3年以上経過した場合には、不貞相手の配偶者から不貞慰謝料請求を受けたとしても、時効を主張して慰謝料請求を拒むことが可能です。
相手が既婚者だと知らなかった
相手が既婚者だと知らなかった場合も慰謝料を支払う必要はありません。先ほど不貞行為の請求の根拠は民法の不法行為(民法709条)と説明しましたが、不法行為が成立する要件として故意または過失が必要になります。
不貞慰謝料請求の場合、不貞相手が既婚者だと知っていた(故意がある。)、または、注意すれば既婚者だと気付けた(過失がある。)ことが必要となります。
あなたが不貞相手が既婚者だと知らなかった場合または注意しても既婚者だと気付けなかった場合は故意または過失がないため、不貞行為の責任を負わないのです。
不倫慰謝料を請求された際にやってはいけないこと
請求を無視する
不貞慰謝料の請求を無視することはやめましょう。あなたが無視し続けた場合、請求した人は、あなたが話し合う気がないと考えて裁判を起こしてくる可能性が高いからです。
裁判を起こされれば解決までさらに時間がかかり心身ともに負担が大きくなります。可能であれば早期に話し合いで解決できるよう、請求を無視せずにあなたの言い分を相手に伝えるようにしましょう。
開き直る・逆切れする
開き直ったり逆切れすることはやめましょう。
請求する側は、あなたの行為が民法上の不法行為に該当するとして主張されるものですので、開き直ったり逆切れをすれば、請求した方と感情的に対立し合う関係になり、話し合いによる解決は難しくなってしまいます。また、解決に向けた話し合いや裁判の際に、開き直りや逆切れをして反省の態度が見られなかったと主張されてしまい、慰謝料の増額理由になる可能性も否定できません。あくまでも冷静に対処しつつ、主張すべき事情があればそれを請求者側に伝えるべきです。
不倫慰謝料が高くなるのはどんな時?
自分から誘った場合
自身が不貞行為をするように誘った場合、慰謝料額が高くなるおそれがあります。なぜなら、不倫相手の夫婦の婚姻関係が破綻するきっかけをあなたが積極的に作ったとされ、その悪質性が評価されるからです。
反省していない場合
反省していない場合も増額理由になると言われます。なぜなら、不倫相手の夫婦の婚姻関係を破綻させて何も反省していないという点に悪質性があると評価されるからです。
それまで夫婦円満だった場合
不倫相手の夫婦が不貞行為がなされる前まで円満だった場合も慰謝料が高額になる可能性があります。
不貞行為によって夫婦関係を破綻させたかどうかという点が着目されるため、既に壊れかけている夫婦関係よりも円満だった夫婦関係を壊した方が、その悪質性がより高く評価されるためです。
妊娠・出産した場合
不貞行為によって不貞相手が妊娠や出産した場合も慰謝料が高額になる可能性があります。不貞行為による妊娠や出産は、夫婦関係を破綻させることと明らかにつながりやすく、その悪質性が評価されるためです。
不倫が原因で離婚した場合
不貞行為が原因で離婚した場合も慰謝料が高額になる可能性があります。不貞行為によって離婚することになった場合、まさに不貞行為によって夫婦関係を破綻させたといえるからです。
請求された金額が払えない場合の対処法
実際に不貞慰謝料を請求された場合に、請求された金額が支払えない場合はどうすべきでしょうか。以下ではその対処法を2点紹介します。
減額交渉する
まずは、請求された金額からの減額を求めて交渉をする方法が考えられます。不貞慰謝料では300万円~500万円程度が請求されることが一般的です。
もっとも、請求額がそのまま支払われるケースは少ないですし、裁判でも請求額がそのまま認められるケースも多くないでしょう。
請求した側としても減額交渉されると思っているケースは多いと思いますから、請求された額を支払えない場合は、減額の交渉をしてみるとよいでしょう。
分割払いの交渉をする
次に、分割払いの交渉をするという方法です。請求額から減額ができたとしても一括で支払うことが難しいケースもあるでしょうから、分割払いの交渉をすることは有効といえます。現実的に支払うことができる金額や分割の回数について交渉するとよいでしょう。
請求された不倫慰謝料の減額事例
弊所では、不貞慰謝料請求をされた方からのご依頼で、減額が実現した実績が多数あります。
例えば、300万円の慰謝料請求をされたケースでも、適切な反論や謝罪文を差し入れるなどをして、50万円まで減額したケースもあります。
減額できるかどうか、どのような反論が可能か、裁判を見越した場合の慰謝料金額など、不貞慰謝料請求事件はケースバイケースですから、いち早く多数の実績がある弊所所属の弁護士までご相談ください。
不倫慰謝料を請求されたら弁護士にご相談ください
これまで不貞慰謝料を請求された場合の対処法などを解説してきました。
突然不倫の事実を突きつけられて多額の慰謝料を請求された場合、有効な反論もできないままご自身に不利な条件で示談を迫られるなど、冷静な判断ができないことが多いと思います。
どのような反論ができるか、請求された金額が不当ではないかなど、不安に思ったことはすぐに弁護士に相談するようにしましょう。
埼玉法律事務所では、相談を担当した弁護士が親身になって相談に乗り、あなたの利益を第一に考えて今後の見通しをたててくれるでしょう。弊所所属の弁護士は、これまで多数の男女問題や離婚問題を解決してきた実績と経験がありますので、不貞慰謝料を請求された場合は是非弊所にご相談ください。
配偶者が不倫していたのを見つけてしまった時、採り得る法的な手段としては、慰謝料の請求があります。
急に不倫を知った場合、どのように慰謝料を請求することができるのか、悩む方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、どのような場合に慰謝料の請求ができるのか、どのように請求すれば良いのかを解説いたします。
不倫相手に慰謝料請求できる条件
一般的に言う「不倫」の全てが法的に慰謝料請求の対象となるわけではありません。まずは、配偶者の不倫相手に慰謝料を請求して払ってもらえる条件をご説明します。
肉体関係があった
どのような行為があった時に「不倫」があったと言うのか、その基準は人によって異なるでしょう。しかし、慰謝料請求ができる不倫は、基本的には肉体関係、つまり性交渉があるものを指します。
弁護士は、夫婦の一方が配偶者でない人と行った性交渉のことを「不貞行為」といいます。
二人が不貞行為をしていない場合、たとえば「二人きりでご飯に行った」「二人きりで映画を見に行った」「手を繋いでいた」などに留まる場合、残念ですが、法的な慰謝料を請求をすることは困難です。
客観的な証拠がある
ただ「慰謝料を払ってください」と言われたというだけで支払いに応じる人はあまりいません。
しかし、相手が証拠を持っていることを知っていたり、証拠を持っていそうだと思えば、話は変わってきます。
証拠が存在する場合、不貞相手は「もし裁判になったら慰謝料を払わなければいけないのではないか」と思いますので、支払いに応じやすくなります。
時効が過ぎていない
慰謝料請求権には、時効があります。具体的には、配偶者と不貞相手との間に不貞行為があったことを知り、不貞相手が誰なのかを知った時から3年経過すると、時効が成立することとなります。
また、不貞行為があったことや不貞相手が誰なのかを知らなくとも、不貞行為の時から20年が経過すると、時効が成立します。
故意・過失がある
不貞行為を理由として不貞相手に慰謝料を請求するには、不貞相手に故意もしくは過失があることが必要です。
故意がある場合とは、「相手が既婚者であることを知りながら」「性交渉を行った」場合です。
故意がない場合とは「相手が既婚者であることを知らなかった」場合や、「レイプなど、無理矢理性交渉をさせられた」場合です。
過失がある場合とは、「相手が既婚者であると気付けるような場合だったのに気づかなかった」場合です。
不倫相手に慰謝料請求できないケース
不倫相手に慰謝料の請求ができないケースは、以下のようなケースです。
- 肉体関係がない場合
- 配偶者が不倫相手に対し、既婚者であることを巧妙に隠していた場合
- 配偶者が不倫相手を酔わせて無理矢理性交渉を行ったような場合
離婚しない場合、不倫相手だけに慰謝料請求できる?
夫婦が離婚しない場合でも、不倫相手だけに対して慰謝料を請求することは可能です。離婚する場合に比べると、得られる慰謝料の金額は低額になる傾向にあります。
また、不倫されてしまった人が不倫相手にだけ慰謝料を請求することが可能ではあるのですが、その後に、不倫相手から配偶者に対して、慰謝料の一部を負担するように請求することも可能となっています。
不倫相手に請求する慰謝料の相場は?
不倫相手に請求できる慰謝料の相場は、以下のような金額です。
離婚していない場合:30万円~100万円
離婚した場合:80万円~200万円
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不倫相手に慰謝料請求する際に必要なもの
不倫の証拠
不倫相手に慰謝料を請求する場合には、不貞の証拠を持っていることが望ましいです。
証拠を集められていない場合、「不貞行為をしていません」と言い逃れされてしまい、慰謝料の支払いを受けられない可能性が高いでしょう。
相手の氏名、住所または勤務先
慰謝料を請求する相手の氏名、住所または勤務先を知らない場合には、慰謝料を請求することは難しいです。
仮にLINEのアカウントが分かったとしても、ブロックされてしまうと本人に連絡をとることは非常に困難です。
不倫相手に慰謝料を請求する方法
相手と直接交渉する
裁判を起こす前に、まずは交渉で請求するケースが多いです。
裁判は、基本的には「支払いを拒否している相手に無理矢理支払わせる」ための手段です。
不倫相手が素直に慰謝料を支払うのであれば、裁判を起こさずに直接請求して支払う方が早く解決することになります。
内容証明郵便で請求する
交渉で直接慰謝料を請求する時のツールの1つに、内容証明郵便というものがあります。
内容証明郵便とは、送付された文書の内容がどのようなものだったのか、郵便局が証拠に残してくれるサービスです。
内容証明郵便は、裁判を起こすことを前提とした交渉で使われるイメージがありますので、心理的な圧力が強いです。
調停・裁判で請求する
不倫相手に慰謝料を請求する場合、簡易裁判所に対して民事調停を申立てることができます。
民事調停では、裁判所において、調停委員という専門家を介在させた話し合いを行い、慰謝料を支払うよう要求することができます。
しかし、民事調停において不倫相手が支払いを拒絶する場合、支払いを強制することはできません。そのため、民事調停はあまり使い勝手が良いとはいえないでしょう。
交渉以外で不倫相手に慰謝料を請求する方法として、最もよく使われる方法は裁判です。
裁判であれば、不貞行為があったことなど、必要な事実を証明することができれば、裁判所から不倫相手に対し、慰謝料の支払いを命じてもらうことができます。
不倫相手に慰謝料請求する場合の注意点
不倫相手から「求償権」を行使される可能性がある
不貞行為の加害者は、不倫相手のみではありません。不貞をした配偶者も加害者となります。そのため、不倫相手と不貞をした配偶者は、双方が慰謝料の支払い義務を負うことになります。
片方だけが慰謝料を全額支払ったような場合、もう片方に対して慰謝料の一部負担を求めることができます。
このような権利を求償権といいます。そのため、不貞をされた人が不倫相手にだけ慰謝料を請求をすることはできるのですが、その場合でも、不倫相手から不貞をした配偶者に対して求償権の行使がされ得ることになります。
つまり、不貞をした配偶者が実質的に慰謝料の一部を負担する、ということがあり得るのです。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
不倫相手が慰謝料を払わない場合の対処法
交渉において不倫相手が慰謝料を支払おうとしない場合には、やはり裁判を起こすことになるでしょう。
裁判で勝った後にも慰謝料が支払われないような場合、預貯金などの財産を差し押さえて、強制執行することが可能です。
不倫相手に対してやってはいけない事
不倫相手に対してやってはいけない事には、以下のようなものがあります。
- 不倫相手に暴行を加える
- 不倫相手に対して刃物をつきつけ、慰謝料を支払わせる
- 不倫相手の職場の同僚などに連絡を行い、不倫相手が不貞を行ったことをばらす
不倫相手に対する行為であっても、暴行や恐喝、名誉棄損などの犯罪は成立します。
不倫相手に対する怒りの感情が大きいとしても、このような行為を行うべきではないといえます。
不倫相手への慰謝料請求に関するQ&A
不倫相手が複数いた場合、全員に慰謝料請求することは可能でしょうか?
不倫相手が複数存在し、全員について不貞行為を証明する証拠が存在するような場合、全員に対して慰謝料を請求することは可能な場合が多いでしょう。
しかし、不貞相手5人存在する場合でも、得られる慰謝料の額が5倍になるわけではありません。
たとえば、誰かから不貞行為の慰謝料全額にあたるような金銭の支払いを受けた場合には、他の人にはそれ以上請求することができなくなります。
離婚した後でも不倫相手に慰謝料を請求することはできますか?
離婚した後でも、婚姻中に不貞行為があってその行為によって離婚したような場合には、不倫相手に慰謝料を請求することが可能です。
離婚という重大な結果が発生していますので、離婚しなかったような場合よりも慰謝料の金額が高くなりやすいです。
不倫相手への慰謝料請求をお考えなら弁護士にご相談ください
不倫だと思えるような場合であっても、慰謝料を請求できる不貞行為は存在しない場合があります。また、不貞行為に対する慰謝料請求には、時効があります。
更に、慰謝料を請求するために採る手段によっては、その手段を採ったことが違法なものだとされてしまい、逆に慰謝料を請求されてしまうようなこともあります。
このような事柄について、弁護士であれば、アドバイスをすることが可能です。
不倫相手へ慰謝料を請求する際には、不貞慰謝料の請求を数多く経験している弁護士に依頼するのが最も適切な手段といえるでしょう。
不倫相手への慰謝料請求をお考えの方は、ぜひ一度弁護士へご相談ください。
土地や建物などの不動産に関する相続放棄について解説します。
土地や建物などの不動産は相続放棄できるのか?
相続財産に不動産が含まれている場合にも当然相続放棄することができます。
相続放棄をすれば、はじめから相続人ではなかったとみなされるため、固定資産税を支払う必要はなくなります。また、基本的には、不動産を管理する責任からも免れることができます。
相続放棄せずに土地を所有し続けるリスクとは?
相続放棄せずに、土地を所有することとなった場合には以下のようなリスクがあります。
固定資産税を支払わなければならない
固定資産税は土地の所有者に課されるものですから、土地を相続した場合には、その土地の固定資産税を納付する義務を負います。
空き家問題と固定資産税について
相続した不動産が、空家等対策特別措置法における「特定空家等」に該当する場合には、高額な固定資産税の納付義務を負うリスクがあります。空家等対策特別措置法では、倒壊の危険がある又は衛生上有害であるような空き家等を「特定空家等」と定義しています。
共有名義にするとトラブルに発展することも
不動産を共同相続人と共有することとなった場合、売却等の処分行為をするときには共有者全員の合意が必要となりますし、管理行為をするときには過半数の同意が必要となります。
また、管理費用や固定資産税の負担を巡って、トラブルになることも容易に想定されます。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
土地を相続放棄する際の注意点
土地を相続放棄するときには以下のようなことに注意するべきです。
土地だけ相続放棄することはできない
これは、他の相続財産についても同様ですが、相続財産のうち土地だけを相続放棄するというようなことはできません。相続財産全体の時価、債務の金額等を考慮して、相続放棄するか否かを判断することになります。
相続放棄しても土地の管理義務は残る
土地を相続放棄した場合において、相続放棄したことから直ちにその管理義務から解放されるということにはなりません。
土地が、他の相続人又は清算人に引き渡すまでの間、自己の財産に対するものと同一の注意をもって、その財産を管理しなければなりません(民法940条1項)。
土地の名義変更を行うと相続放棄できなくなる
相続放棄をする前に、土地の名義変更を行った場合には、単純承認となり(民法921条第1号)。
相続放棄には3ヶ月の期限がある
相続放棄には、相続人となったのを知った時から、3か月以内に相続放棄の申述をしなければならないという期限があります。
相続放棄した土地はどうなるのか?
法定相続人の全員が相続放棄した場合には、相続財産清算人が債務の清算等行った後、国庫に帰属するということが想定されています。しかし、相続財産清算人の選任申立てには、相当の負担があります。
そのため、令和5年4月27日から相続土地国庫帰属法が施行され、一定の場合には、土地を相続放棄することにより、国庫に帰属させることができるようになりました。
土地を相続放棄する手続きの流れ
一般的な相続放棄と同様の手続きで相続放棄を行うことができます。
相続放棄以外で土地を手放す方法はある?
相続放棄をせずに、土地を手放す方法には以下のものが考えられます。
売却する
最も一般的な方法は土地を売却することです。
寄付する
土地を寄付するという方法もあります。寄付の相手としては、自治体、個人、法人が挙げられます。
個人や法人に寄付する場合には、土地を贈与したとみなされて、寄付をした者に贈与税が課されることには注意が必要です。
土地活用を行う
土地を賃貸する等、土地活用を行うことも考えられます。
土地を相続放棄するかどうかで迷ったら、一度弁護士にご相談ください。
土地の相続放棄については弁護士に相談されることをおすすめします。
微罪処分とは、警察の捜査段階で、送致することなく事件を終了させることをいいます。どのような場合に微罪処分となるのか、また微罪処分のメリット等について解説していきます。
微罪処分とは
微罪処分とは、警察の捜査段階、すなわち検察に送致する前の段階で事件を終了させることをいいます。ただし、刑事事件では、全件送致の原則がとられているため、微罪処分とするのは一定の要件を満たす例外的なものに限られています。
不起訴との違い
不起訴とは、嫌疑不十分等の様々な理由により、検察官が起訴しない処分を下すことをいいます。これに対して、微罪処分は、そもそも検察へ送致しておらず、警察段階で事件を終了させるという点で、不起訴処分とは異なります。
不起訴とはどんなケースが多いか
微罪処分にできるのは、基本的に軽微な犯罪に限られます。例えば、窃盗罪、暴行罪、詐欺罪、占有物離脱横領罪などがこれに該当します。
微罪処分の影響
検察庁へ送致されたり、検察官から起訴されたりするなどの刑事手続を受けると、被疑者となった人の日常生活には必然的に影響が生じてしまいます。では、微罪処分の場合はどうでしょうか。
その後の生活への影響
微罪処分は、検察庁へ送致されたり、検察官から起訴されたりした場合と比べて、日常生活への影響が比較的軽くて済むというメリットがあります。
会社や学校への影響
微罪処分になるような事件の場合、逮捕・勾留などの身体的な拘束を受けないことが多いでしょう。また、警察段階で事件が終了するため、通常の刑事手続に比べて事件が早期に終了する可能性が高いと言えます。このため会社や学校にいけなくなるなどの不都合をきたすことが少ないと言えます。
就職への影響
微罪処分となった場合、前歴はつきますが、前科はつきません。就職の際の賞罰欄などは、基本的に前科の報告義務を課すものが多いでしょうから、前歴にとどまる場合には、報告しなくて済むことがあります。この点も微罪処分のメリットと言えるでしょう。
海外旅行への影響
また、前歴を理由に海外旅行が法的に制限を受けることは、基本的にありません。このため、前歴がついたからといって、海外へ出向くことが出来なくなるという支障は生じにくいでしょう。
前科・前歴との関係
微罪処分の場合には、前科はつきませんが、前歴はつきます。
この前歴というのは、以前に、警察等の捜査機関から特定の犯罪について捜査対象となったことがあるという意味を持ちます。前歴は、比較的広い概念ですので、微罪処分でもあっても付いてしまう点には注意が必要です。
もっとも、前述したとおり、前科と比べると日常生活への影響は少ないと言えます。
前歴とは?前歴は消せるのか、回避するには微罪処分は生活にほぼ影響ありません。だからこそ弁護士への依頼で確実に獲得しましょう
以上で述べてきたとおり、微罪処分が下されれば、日常生活への影響を少なくできます。このため、被疑者となった場合には、出来る限り微罪処分となるよう動いていく必要があります。まずは、専門家である弁護士にご依頼されることをおすすめします。
微罪処分の手続き流れ
微罪処分となる要件
微罪処分とされるためには、一定の要件を満たしている必要があります。
処分の性質上、明確な基準があるわけではありませんが、基本的には、①犯罪の軽微性、②犯情の軽微性、③親権者や雇用主等の監督者の有無、④被害者の宥恕の有無、⑤被害弁済の有無、⑥被疑者の前科・前歴等の有無などが考慮されるとされています。
手続きの流れ
微罪処分は、概ね、①警察署での取り調べ、②親権者等の身元保証人の呼び出しや、同引受書への記入、③釈放といった流れで進められることが多いでしょう。
また、微罪処分になった場合には、微罪処分手続書という書類が作成されます。
微罪処分を受けたが余罪がある場合
微罪処分を受けた後に、新たに別の犯罪事実が発覚する場合があります。その場合には、その犯罪について別途捜査が行われ、送致される可能性はあります。微罪処分がなされたからといって、別の犯罪事実でも同じ処分が下されることになるとは限りません。
微罪処分を受けるためには
反省の意を示すこと
微罪処分を受けるために重要なことのひとつとして、反省の意を示すことが挙げられます。軽微な犯罪だからといって、過度に反抗的で横柄な態度をとっていると、微罪処分にならない可能性がでてきます。
被害者がいる場合、示談をする
また、被害者と示談交渉を行い、被害届の取り下げをしてもらうことも、微罪処分を得るために重要といえるでしょう。示談交渉のなかでは、慰謝料などを支払い、被害者に許してもらう必要があります。
被害弁償をおこなう
万引きや器物破損などの犯罪の場合には、被害弁償も行うことが大事になります。また、こうした場合にも、被害弁償とは別に慰謝料を支払うケースが多いといえるでしょう。
監督者がおり、素行にも問題がない事を主張する
被疑者に監督者がいることや、前科前歴等がなく素行に問題がないことも主張すべきでしょう。前にも述べたように、これらの事情は、微罪処分の判断を下す際の重要な考慮要素の1つになるからです。
弁護士が早期解決に向け、警察や被害者へ働きかけることが可能です。
微罪処分は、警察段階でしかできないものですので、早めの対応が求められます。専門家である弁護士に依頼し、早期に、警察や被害者に働きかけることが重要です。
微罪処分の注意点
被害者がいる場合、きちんと誠意を見せる
被害者がいる犯罪の場合には、当然ですが、誠意をみせることが重要になります。謝罪文を作成したり、金額面で誠意を伝えたりするなど、やり方は様々考えられます。
警察からの呼び出しがある場合も
微罪処分であっても、警察から呼び出されることはあります。単に、微罪処分を行う犯罪について事情聴取のために呼び出されることもあります。
他方で、新たな犯罪事実が発覚した場合に、そのことについて呼び出されるケースもあるので注意が必要です。
示談でトラブルが起こる可能性がある
示談の際にトラブルが生じてしまうこともあります。よくあるのが賠償額でのトラブルです。
スムーズに示談交渉を行うためには、ある程度のお金を用意する必要があるでしょうし、係留効果を意識するなど、交渉のやり方にも工夫が必要になります。
弁護士への依頼で回避できること
犯罪の性質によっては、被疑者本人が被害者と直接連絡をとることが適切ではないケースがあります。たとえば、詐欺や性犯罪などが挙げられます。
これらのケースでは、弁護士に依頼することで、直接接触することで生じる被害者とのトラブルを防ぐことができるでしょう。
微罪処分後の応対を誤り、起訴されてしまう場合もあります。個人で解決せず弁護士を頼りましょう
微罪処分獲得に向けた対応や、微罪処分が出された後の対応を誤ると、起訴されてしまう可能性もあります。
ひとりで悩まれるのではなく、まずは専門家である弁護士にご相談されることをおすすめします。
微罪処分でよくある質問
以前に一度微罪処分を受けています。2回目の微罪処分を受けることはできるのでしょうか。
一度、微罪処分を受けているということは、前歴がついているということです。
前にも述べたとおり、前歴があることは、微罪処分を得るうえで、消極的な要素となります。
1回目の微罪処分を加味したとしても、犯罪や犯情が軽微であるとして2回目について微罪処分を受けることができる可能性もゼロではありません。
弁護士とご相談のうえ、しっかり準備・検討されることが大事でしょう。
相手から被害届が出ている場合でも微罪処分となりますか?
被害者が許しているかどうか、被害届を取り下げているかどうかは、微罪処分の判断がなされるうえでとても重要な要素になります。被害届が出ている状態での微罪処分が絶対にあり得ないというわけではありませんが、基本的には、被害者との間で示談が成立し、被害届を取り下げされていることが多いといえるでしょう。
示談書を書いて貰ったのに被害届を取り下げて貰えないのですが…
示談書に被害届を取り下げる旨の記載があれば、基本的には、実際の取り下げの有無にかかわらず、微罪処分に有利な影響を及ぼし得ると考えてよいでしょう。
その意味で、示談書の内容は重要になりますので、弁護士にご相談されたほうが良いでしょう。
身元引受人となる人がいないのですが、微罪処分になりませんか。
身元引受人がいないからといって必ず微罪処分にならないというわけではありません。
しかし、前にも述べたとおり、身元引受人の有無は、微罪処分の判断における重要な要素の1つです。
事件の性質や被疑者の年齢等によっては、身元引受人がいないことが、大きくマイナスの影響を及ぼす可能性もあります。
微罪処分を受けられない場合どうなるのでしょうか。
微罪処分を受けられないとなると、基本的には、警察から検察庁へ送致されることになります。送検後は、検察官が処分を決めることになり、場合によっては、起訴される可能性も出てきます。
微罪処分にて納めたい場合、穏便に済ませるなら弁護士への依頼が一番です。
微罪処分を得ることができるかどうかは、初動の動きや、細かな対応の工夫次第で変わり得ます。ご自身で悩まれるのではなく、まずは専門家である弁護士にご相談されることをおすすめします。
交通事故に遭うと予想外の衝撃が加わり、頚椎捻挫、腰椎捻挫といったいわゆるむちうちになることがよくあります。その場合には、いくら慰謝料を請求することができるのでしょうか。
保険会社から低い金額が提示されることがありますが、当該提示案で示談してしまうと、大きく損をすることがあります。以下では、むちうちの場合の慰謝料についてみていきましょう。
むちうちで請求できる慰謝料は2種類ある
むちうちで請求できる慰謝料には、2つの種類があります。1つ目は、入通院慰謝料です。
入通院慰謝料は、入通院しなければならないことによって受けた精神的苦痛を賠償するための金銭をいいます。
後遺障害慰謝料は、後遺障害等級が認められることにより、後遺障害が残存したことによって受けた精神的苦痛を賠償するための金銭をいいます。
むちうちの慰謝料相場
慰謝料の相場は、通院した期間や算定する際に用いる基準によって異なることになります。また、計算方法はおおむね定まっているため、相場を理解しておくと示談交渉の際に不利な立場におかれることは少なくなります。
では、以下で、具体的な計算方法をみていきましょう。
通院のみの場合の慰謝料相場
慰謝料の金額は自賠責基準(被害者を最低限補償するための基準)、弁護士基準(裁判所の判断をもとにした弁護士が用いる基準)で大きく異なります。
各保険会社がそれぞれ定めている基準もありますが、これは具体的な基準があるわけではないので、説明を省略しています。
以下の表から明らかなとおり、自賠責基準よりも弁護士基準の方がはるかに高額といえます。
月10日通院した場合の慰謝料相場
通院期間 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1ヶ月 | 8万6000円 | 28万円/19万円 |
2ヶ月 | 17万2000円 | 52万円/36万円 |
3ヶ月 | 25万8000円 | 73万円/53万円 |
4ヶ月 | 34万4000円 | 90万円/67万円 |
5ヶ月 | 43万円 | 105万円/79万円 |
6ヶ月 | 51万6000円 | 116万円/89万円 |
入院した場合は金額が上がる
入院を要する場合の方が通院だけの場合よりも精神的苦痛は大きいと考えられているため、慰謝料の金額は高額になります。対象となる期間には、通院期間だけでなく、入院期間も含まれることになります。
後遺障害が残った場合の慰謝料相場
むちうちの場合に、認定される可能性がある後遺障害等級は12級3号と14級9号になります。等級の数が少ない方が重い後遺障害と理解されており、それだけ金額が高額になっています。以下の表からも明らかなように弁護士基準の方が、自賠責基準よりも3倍近く高いです。
後遺障害が認定された場合の慰謝料相場
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
まずは交通事故事件専属のスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
むちうちの入通院慰謝料を計算する方法
自賠責基準
自賠責基準では、1日あたり4300円の入通院慰謝料が認められています。そのため、4300円×対象日数という計算により、入通院慰謝料を計算することができます。
なお、対象期間は、実際に入通院した日数の2倍と入通院期間のいずれか少ない日数になります。
弁護士基準
弁護士基準では、「民事交通事故訴訟損害賠償算定基準」(赤い本と呼ばれています。)の「算定表」に基づいて入通院慰謝料を計算することになります。なお、他覚所見がないむちうちの場合には、別表Ⅱを用いて計算することになります。
主婦の場合でも慰謝料は受け取れる?相場に違いはある?
入通院による精神的苦痛や後遺障害による精神的苦痛は、主婦であるいか会社員であるかといった職業や年齢によって左右されないと考えられているため、全員同じ計算方法で算出することができます。
適正な入通院慰謝料には適切な通院が重要
慰謝料は、通院すればするほど右肩上がりに増額されるといったものではありません。入通院慰謝料を計算するにあたっては、適切な通院頻度にて通院をする必要があります。
また、通院期間が長期にわたる場合には、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3倍程度を入通院慰謝料算定のための通院期間の目安と考えることもあります。
弁護士の交渉によりむちうちの慰謝料などを大幅に増額できた事例
【事案の概要】
依頼者が信号待ちで停止していたところ、後続の自動車が信号待ちをしている依頼者の自動車に衝突させたという追突事故が発生しました。
追突した車に100%の過失があると判断され、依頼者は上記事故によりむちうちになりました。依頼者は6か月間の通院を行い完治しました。
【結果】
交渉の結果、入通院慰謝料(通院40日)について、弁護士基準の90%に相当する80万1000円を獲得することができました。
交通事故によるむちうちの慰謝料請求は弁護士にお任せください
相手保険会社は、事故に遭われた被害者の方に対して、弁護士基準よりも低廉な慰謝料の金額を提案することが多いといえます。その際に、慰謝料の算定基準や相場を知らないでいると、大幅に損をすることがあります。
しかし、弁護士が相手方保険会社との交渉を代わりに行うことで、より高額な慰謝料を獲得することが多いといえます。交通事故の交渉には、高度な専門知識が必要となりますので、むちうちの慰謝料にお悩みの場合にはぜひ一度、ご相談下さい。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)