過失運転致死傷罪とは?交通事故の刑事処分と対処法

過失運転致死傷罪とは?交通事故の刑事処分と対処法

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

過失運転致死傷罪とは、自動車の運転上必要な注意を怠って、過失により人を死傷させる行為を処罰する罪です。もともとは刑法で規定されていましたが、罰則の見直しが求められていた状況が踏まえられて平成25年11月20日に、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下、「自動車運転死傷処罰法」といいます。)が成立し、同法第5条が規定されました。

過失運転致死傷罪とは

過失運転致死傷罪とは、従前は刑法で規定されていた自動車運転過失致死傷罪を抜き出して、自動車運転死傷処罰法5条に移設されたものです。自動車運転死傷処罰法第5条「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させ」る行為がこれに該当します。
過失運転致死傷罪の「過失」とは運転上必要な注意を怠ることをいいます。

自動車運転死傷処罰法

自動車運転死傷処罰法は以下のような経緯があり、制定されることになりました。

「自動車運転による死傷事犯数は減少傾向にあるが,依然として,飲酒運転や無免許運転など悪質・危険な運転行為による死傷事犯が少なからず発生しており,このような悪質・危険な運転行為による死傷事犯であっても,現行の危険運転致死傷罪に該当せず自動車運転過失致死傷罪が適用された事件などを契機として,これらの罰則の見直しを求める意見が見られるようになった。そのような状況を踏まえ,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(平25法86)が,平成25年11月20日に成立し,26年5月20日から施行されている。

平成26年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況(内閣府HP)

過失運転致死傷罪の罰則

過失運転致死傷罪の罰則については、「七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。」と規定されています。

無免許運転による加重

過失運転致死傷罪を犯した時に無免許であったときには、以下のとおり加重した法定刑とされることになっています。

人を死傷させる罪 無免許運転による加重
15年以下の懲役 6月以上20年以下の懲役
12年以下の懲役 15年以下の懲役
7年以下の懲役 10年以下の懲役

飲酒運転との併合罪

過失運転致死傷罪を犯した時に飲酒していた場合には、道路交通法違反(酒気帯び運転又は酒酔い運転)と過失運転致死傷罪の併合罪となります。
この場合、一般的に懲役刑が選択され、10年6月以下の懲役に処せられます。

危険運転致死傷罪との違い

危険運転致死傷罪とは自動車運転死傷処罰法第2条、第3条に規定されている刑罰です。同法第2条又は3条に規定されている行為を行い、人を死傷させた場合に成立します。
危険運転致死傷罪は、過失運転致死傷罪とは異なり、故意に危険な運転を行い、人を死傷させた場合に成立する犯罪です。

過失運転致死傷罪は、故意によることは要しません。必要な注意を怠って事故を交通事故を起こし、人を死傷させた場合に広く成立する犯罪です。

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪

アルコール等の影響により、その走行に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転し、その運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させ、その運転のときのアルコール・薬物の影響の有無又はその程度が発覚することを免れる目的で、追い飲み等をする行為が、自動車運転死傷処罰法第4条に規定されている過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪に該当します。

逮捕後の流れ

過失運転致死傷罪の大多数は、よくある交通事故でから、逮捕等、身柄拘束されることは少ないです。ただし、ひき逃げ等の場合には、罪証隠滅又は逃亡のおそれがあることから、身柄拘束される可能性が高くなります。

逮捕後の対処法

無罪を主張する場合

過失運転致死の事件など起こしていないにもかかわらず、過失運転致死の罪を起こした嫌疑がかけられてしまっているというような場合には、無罪を主張するべきでしょう。
弁護士に相談して、運転上必要な注意をしていたということを主張立証することにより、無罪の主張をしていくことになるかと思います。

事実関係に争いがない場合

事実関係に争いがない場合には、被害者への謝罪と示談の成立が不起訴・減刑につながります。
過失運転致傷罪であれば、特に不起訴率が高い類型の事案といえますから、示談が成立すれば、起訴されない可能性はかなり高まります。

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交通事故で死傷させてしまった場合は、弁護士に相談を

過失運転致傷罪は、自動車を運転することがある方であれば、誰しもが犯し得る犯罪です。
場合によっては、捜査機関により身柄が拘束され、日常生活に大きな影響が出ることも十分に考えられます。

そのような事態を避けるためにも、なるべく早い段階で弁護士に相談されることをおすすめします。

児童買春・児童ポルノに関するニュースを耳にしたことがある方も少なくないと思われます。児童買春・児童ポルノは罰則が重いだけではなく、児童買春・児童ポルノの被疑者・被告人になった者のご家族にとっては、非常に精神的ショックが大きい犯罪といえます。

本稿では、主に、児童買春・児童ポルノ禁止法について解説します。

児童ポルノとは

「児童ポルノ」とは、写真、磁気的記録にかかる記録媒体その他のもので、児童の性交や性交類似行為、衣服の全部又は一部を着けない児童の容態で特に性器などが露出され、性欲を興奮刺激させるもののことをいいます。

ここで、児童ポルノの対象となる「児童」とは、十八歳に満たない者をいいます。そのため、アニメや漫画に描写されたものは、原則として、児童ポルノには該当しません。

ただし、実在した児童を基に作成された写真から、CGにより描写されたものに関して、児童ポルノに該当すると判断した最高裁判例があることに注意が必要です(最高裁判所令和2年1月27日 第一小法廷決定)。CG等の場合でも、一切児童ポルノに当たらないわけではありません。

児童ポルノに関する法令

児童買春・児童ポルノ禁止法

児童買春・児童ポルノ禁止法は、18歳未満の未成年者を性犯罪から保護し、未成年者を健全に育成させるための法律で、児童ポルノの要件や罰則などが規定されています。
平成26年の法改正により、児童ポルノを自己の性的好奇心を満たす目的で所持・保管していた場合にも処罰されることとなりました。

自治体の青少年健全育成条例

児童買春・児童ポルノに関しては、自治体の青少年健全育成条例でも規制されています。
罰則や条文の規定ぶりについては各自治体によって異なりますが、児童との性交、性交類似行為、その他わいせつな行為を行うことを処罰の対象としていることが多いです。

児童ポルノの禁止行為と罰則

単純所持

単純所持は、以前は刑罰の対象となっていませんでした。しかし、これを禁止しなければ児童ポルノの拡散が止まらないと考えられたことなどから、平成26年の改正により、自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持・保管していた場合には、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されることとなりました(児童買春・児童ポルノ禁止法7条1項)。

例えば、自己のパソコンに児童ポルノに関する映像等を保管していた場合等です。

製造・提供

児童ポルノを製造・提供した場合には、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処されることとなります(児童買春・児童ポルノ禁止法7条2項ないし4項)。
例えば、動画撮影等の方法により、児童ポルノを製造したり、第三者に提供した場合等です。

不特定多数への提供・公然と陳列

児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した場合には、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処されることになります(児童買春・児童ポルノ禁止法7条6項ないし8項)。

例えば、インターネットに児童ポルノをアップロードし、第三者がダウンロードすることを可能にする状態にした場合等です。

こちらは他の行為態様と比べて比較的重いものとなっています。これは、児童ポルノを拡散させることで、児童の被害を拡大させることから重く処罰されているものと解されます。

児童ポルノの製造目的の買春

児童ポルノを製造する目的で、児童と買春行為をした場合、1年以上10年以下の懲役に処せられることになります(児童買春・児童ポルノ禁止法8条)。罰金刑がないという点において、児童買春罪(5年以下の懲役又は300万円以下の罰金)よりも重い罪となっています。

児童ポルノの製造目的の盗撮

児童ポルノを製造する目的で、児童の裸等を盗撮した場合には、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処されることとなります(児童買春・児童ポルノ禁止法7条5項、2項)。 この犯罪が成立するためには、対象児童に知られることなく撮影していることが要件となります。

児童ポルノ事件の時効

刑事訴訟法上、時効の期間を過ぎると検察官が公訴を提起することができなくなります。

具体的には、

  • 自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持・保管、他人に製造・提供する行為は3年
  • 不特定若しくは多数の者に児童ポルノを提供し、又は公然と陳列した行為は5年

となります。

児童ポルノ事件の捜査

児童ポルノ所持の容疑で捜査が行われる場合、自宅に家宅捜索が行われる可能性が高いといえます。なぜなら、一般的にパソコンやスマートフォン等の電子媒体に児童ポルノを保存している可能性が高いと予測されているからです。

家宅捜索によりパソコン等が押収され、捜査された結果、余罪が判明することも少なくありません。

家宅捜査について詳しく見る

逮捕後の流れ

児童ポルノを単純に所持しているだけであっても検挙される場合があります。これは多くの場合、児童ポルノを販売・公開している業者やサイトが捜査機関により摘発されることにより、芋づる式で購入者等まで特定することができるからです。

逮捕後の流れについて詳しく見る

児童ポルノで逮捕された場合の弁護活動について

一般的に、逮捕された場合には、まず勾留回避を目指す弁護活動(検察官や裁判官に対する意見書の提出等)をします。

次に、勾留を回避できなかったとしても、身柄の早期解放を働きかける弁護活動(勾留を認めた判断は誤りであると主張する書面の提出、被害者との示談交渉等)をします。
いずれにしても、早期に弁護人を選任することが望ましいといえます。

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児童ポルノの禁止行為をしてしまったら、早期に弁護士へ相談を

児童ポルノの禁止行為については、逮捕段階であれば勾留阻止に向けた弁護活動、勾留されてしまった場合には不起訴処分に向けた弁護活動をすることが必要です。

また、警察・検察の捜査を受ける前でも、児童買春・児童ポルノの犯罪に心当たりがある場合には、自首等をしておくことが望ましいこともあります。
決してお一人で抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。

傷害罪(刑法204条)とは、暴行などにより人の身体に障害を生じさせることで成立する犯罪です。 例えば、酔っぱらって人を殴って怪我をさせてしまった場合や、夫婦喧嘩で配偶者に怪我をさせてしまった場合には、傷害罪が成立する可能性があります。

人を殴って怪我をさせると、警察に逮捕される可能性も十分にありえます。 そこで、今回は、傷害罪とはどういった犯罪であるか、傷害罪で逮捕された場合の対処法などについて解説をします。

傷害罪とは

傷害罪とは、文字どおり人に「傷害」を負わせる犯罪のことをいいます。 ここにいう「傷害」とは、人の生理的機能に障害を与えることなどと定義され、外傷を与えることはもちろんのこと、心的外傷後ストレスなどの精神的な苦痛を与えることも「傷害」に含まれるものと考えられています。

また、故意に人の身体の生理的機能に障害を与えない限り、傷害罪は成立しません。 さらに、傷害罪は、親告罪ではないため、被害者の告訴が無い場合であっても、検察官が起訴をすることができます。

これに対して、過失行為によって人の生理的機能に障害を与えた場合には、傷害罪ではなく過失傷害罪(刑法209条1項)が成立します。 過失傷害罪は、傷害罪と異なり親告罪であるため、被害者などから告訴が無い限り、検察官が起訴することはできません。

傷害罪の刑罰

傷害罪の刑罰は、刑法上「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められています。

傷害罪の成立要件

傷害罪が成立するためには、①傷害罪の実行行為があること、②傷害という結果が生じたこと、③実行行為と傷害結果との因果関係があること、④傷害罪の故意があることという4つの要件をすべて満たす必要があります。

傷害罪の実行行為があるか

傷害罪における実行行為とは、人の身体に対する有形力の行使などと定義されます。 ここにいう有形力の行使とは、人を拳や武器を使って殴る行為だけでなく、性病にり患している者が性交渉により性病を感染させる行為なども含まれるものと考えられています。

傷害という結果が生じた

「傷害」とは、人の生理的機能に障害を与えることなどと定義され、外傷を与えることはもちろんのこと、心的外傷後ストレスなどの精神的な苦痛を与えることも「傷害」に含まれるものと考えられています。

判例上も、ラジオ等の騒音により精神的ストレスを与えて睡眠障害等に陥れた場合であっても「傷害」にあたると考えられています。

実行行為と結果との因果関係があるか

傷害罪が成立するためには、傷害罪の実行行為と傷害結果との間に法的な因果関係がなければなりません。法的な因果関係とは、条件関係の存在を前提として、我々の社会生活上の経験に照らして、通常その行為からその結果が発生することが相当と認められる場合のことをいうと考えられています。

具体的には、人を殴ってその人が怪我をした場合はもちろんのこと、人を追いかけ回してその人が転倒して怪我をした場合なども、追いかけ回さなければその人が怪我をすることはなかったと評価することができるため、法的な因果関係があると考えられています。

故意が認められるか

傷害罪における「故意」とは、行為者が傷害結果を認識・認容している場合に認められます。 行為者が、人に怪我をさせようと考えている場合はもちろんのこと、単に人を殴ろうとだけ考え、怪我をさせようとまでは考えていなかった場合(暴行の故意)であっても、傷害罪における「故意」が認められると考えられています。

傷害罪の時効

傷害罪の時効は10年です。 人を殴って怪我をさせた後、10年間、検察官から起訴されなければ、その後に検察官が当該行為について起訴をすることができなくなります。

検察官が起訴をしなければ、裁判所において犯罪と認定されることはないため、行為者は当該行為について刑事上の責任を負うことがなくなります。

外傷のない場合でも傷害罪になりうる

上記解説のとおり、「傷害」とは、人の生理的機能に障害を与えることなどと定義され、外傷を与えることはもちろんのこと、心的外傷後ストレスなどの精神的な苦痛を与えることも「傷害」に含まれるものと考えられています。

判例上も、ラジオ等の騒音により精神的ストレスを与えて睡眠障害等に陥れた場合であっても「傷害」にあたると考えられています。

傷害罪で逮捕されたときの対処法

傷害罪で逮捕されてしまったとしても、被害者に対し深く反省している姿勢を示し、被害者との間で示談を成立させることができれば、不起訴処分または減刑される可能性が高くなります。

逮捕されている場合には、被害者に直接反省の姿勢を示すことはできません。また、逮捕されていない場合であっても、通常、被害者は加害者に会いたいとは思わないため、直接反省の示すことは難しいといえます。

弁護士であれば被害者に直接会える可能性が高いため、弁護士を通じて直筆の謝罪文などを渡し、反省の姿勢を示して示談交渉を進めていくことが有用であるといえます。

傷害罪の示談・被害弁償について

示談金や被害弁償については、被害者の傷害の程度によって大きく異なるため、一概にいくらということを示すことはできませんが、傷害罪の罰金額(50万円)は示談金の一応の目安になると考えられています。

また、加害者の反省も示談金の額に大きな影響を与えます。 したがって、まずは真摯に反省し、その態度を被害者に示すことが、示談金や被害弁償の総額を下げることにつながるといえます。

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傷害事件を起こしてしまったら、弁護士へご相談ください

傷害事件を起こしてしまったら、早期に弁護士に相談されることをお勧めします。 上記解説のとおり、被害者に対して反省の姿勢を示し、示談を成立させることによって、不起訴処分または減刑が見込まれるのはもちろんのこと、被害者の立場から見ても、加害者が早期に対応することにより、怒りの感情が和らぐ可能性が高いためです。

自分では大したことはないと考えていても、被害者の感情によって処分に大きな差がでる可能性も十分にあるため、傷害事件を起こしてしまったら、まずは弁護士にご相談ください。

従来の制度では、被相続人が生前している期間に、献身的に介護し続けた者がいたとしても、その者が被相続人の相続人でなければ1円ももらうことはできませんでした。

しかし、近年、相続人でなくても、親族でさえあればこのような貢献をした者が、一定の金額を相続人に請求できる制度が創設されました。
この制度自体は令和元年7月1日以降に開始した相続に適用されます。

しかし。どのような制度なのかについて理解していなければ、せっかく創設された制度を活用することができません。
そこで本ページでは同制度の内容等について具体的に解説していきます。

特別寄与料とは

そもそも「特別寄与料」とは、被相続人の生前、親族が被相続人の療養看護やその他の労務提供を無償で行ったことにより、被相続人の財産が維持または増加した場合、その親族が相続人に対し、一定の割合で寄与料を請求できるという制度です(民法1050条)。この制度は2018年の民法改正により新設された比較的新しい制度です。

相続人でない親族であっても、自らの生活を捧げながら献身的に介護をすることは実際によくあるケースです。

従来の制度では、親族がそのような貢献をし続けたにもかかわらず、相続人でないというだけで貢献が評価されず、相続人だけが相続できました。しかし、これでは不公平ではないかという理由から、特別寄与料という制度が創設されました。

特別寄与料の範囲は?請求できるのは誰?

特別寄与料を請求できるのは、相続人以外の「被相続人の親族」に限られます(民法1050条)。そして「親族」とは、六親等内の血族・配偶者・三親等内の姻族を指します(民法725条)。

なお、「親族」の立場にあったとしても、その者が相続放棄をした場合や、相続欠格や排除により相続人でなくなった場合には特別寄与料を請求することはできません。

特別寄与料が認められる要件は?

特別寄与料が認められるためには、
①被相続人に対して療養看護その他の労務の提供をしたこと
②①の労務の提供が無償で行われたこと
③相続財産の維持又は増加について特別の寄与をしたこと
という3つの要件が必要となります。

①について、対象となるのはあくまで「労務の提供」です。財産の提供等はこれに含まれません。
②について、「労務の提供」は無償で行われる必要があります。仮に対価を受け取っていた場合には、請求の要件を満たしません。

➂について、労務の提供によっても相続財産が維持・増加していなければ、特別寄与料を認めることによって却って不公平となります。そこで、例えば、介護サービスを利用せず、被相続人がその料金を支払わずに済んだといったように、相続財産の維持又は増加について特別の寄与をしたことが必要となります。

いつまで請求できる?時効はあるの?

特別寄与料については消滅時効(特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月間)があります(民法1050条第2項)。仮に、6か月を超えて請求した場合に、相続人が「援用」という形で消滅時効を主張すると、請求すること自体ができなくなります。

また、相続開始の時から1年経過すると、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知っているかどうかにかかわらず、その請求を行うことができなくなるという除斥期間も定められています。

これらのケースを避けるため、相続が開始されたら、すみやかに請求の手続きを進めることを心がけましょう。

遺産分割終了後でも請求できる?

遺産分割協議が終了した後には、特別寄与料の請求をすることが難しいケースが多いです。

これは、すでに各相続人の取り分が決まった状態であるため、その後に特別寄与料の請求をされると、相続人の地位が不安定な状態になってしまうためです。

遺産分割協議自体を、脅迫や錯誤等を理由にやり直すような場合には、遺産分割協議後であっても特別寄与料の請求は可能ですが、このようなケースは限られています。

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特別寄与料の相場はどれくらい?計算方法は?

特別寄与料には、一般論としての相場や明確な計算方法がありません。そのため、基本的には相続人との合意によって決定することになります。

もっとも、家庭裁判所が決める場合には、計算方法に一定の基準があり、「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して金額を算定する」とされています(民法1030条5項)。

なお、特別寄与料を判断するにあたっては、以下のように、療養看護型と家事従事型の2パターンに計算方法を分けるのが一般的とされています。

介護した場合(療養看護型)

療養監護型では、職業看護者の費用(介護報酬基準額等を参照します。)を参考に決定するケースが多いです。

一般的には、職業監護者の日当額に、介護日数を乗じ、さらに裁量割合(介護者が専門家でないことを考慮するためです。)として0.5~0.8の数字を乗じるとされています。

当然、遺産の額を超えるケースは想定されていないため、実際の請求の場面では調整がなされることになります。

【計算式】
職業監護者の日当額×総介護日数×裁量割合

事業を手伝った場合(事業従事型)

事業従事型では、特別寄与者が当該事業を手伝わずに別の事業を行っていれば得られたであろう金額(賃金センサスと呼ばれる年齢、性別、学歴ごとの平均収入の統計資料等を参照します。)を参考に決定するケースが多いです。

一般的には、この金額から、生活費割合に相当する額を控除し、介護日数を乗じるとされています。

生活費割合に相当する額を控除する理由は、被相続人の財産から特別寄与者の生活費がある程度賄われていることが想定されている点にあります。

【計算式】
特別寄与者が通常得られたであろう給与額×(1-生活費控除割合)×総介護日数

特別寄与料の請求先は?誰が払うの?

特別寄与料の請求先

特別寄与料を請求する先は、相続人です。全員に対して請求しても、相続人の一部にのみ請求しても問題ありません。
各相続人は各自の法定相続分又は遺言によって指定されている相続分に応じた割合で特別寄与料を負担することになります。

このように、相続人に対しての一種の請求権として、特別寄与料は位置づけられています。
なお、特別寄与者は、各相続人に対しその特別寄与料全額を請求することはできず、各相続人の負担割合部分のみを請求できます。

特別寄与料請求の流れ

特別寄与料を請求する際には、まずは相続人と交渉をして合意することを目指します。交渉が難航するような場合には、「特別の寄与に関する処分」調停や審判を家庭裁判所に申し立てることが考えられます。

もっとも、話し合いによる解決がスムーズにいかない可能性は大いにあり、他方で、時効や除斥期間の短さを考えると、話し合いから調停・審判の申立てに移行するタイミングは早い方が安全です。

特別寄与料の受け取りに税金はかかる?

特別寄与料として支払われるべき金額が確定した場合には、被相続人から遺贈によって取得したものとみなされて、相続税が課税されます(相続税法第4条第2項)。

この場合、特別寄与者は被相続人の1親等の血族ではないため、算出された相続税額に2割加算して納税する必要があることに注意が必要です(相続税法第18条)。

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特別寄与料請求をお考えの方は弁護士にご相談ください

特別寄与料の請求は非常に短い期間制限があり、その間に要件充足性や金額の算定等の検討、それらを立証するための資料収集等を、迅速かつ適切にしなければなりません。また、相続人が特別寄与料について早期に納得するケースも稀であるため、相続人を説得できるだけの交渉力も必要といえます。

そこで、特別寄与料の請求をご検討される際には、早めに弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

養育費とは、離婚後の「子の監護に要する費用」のことです。お子さんの成長に欠かせないお金ですが、実際には支払われないことや支払いが滞ってしまうこともあります。その場合に、「強制執行」を行うことで養育費の支払いを受けることができるかもしれません。離婚後のお子さんとの生活の不安を解消するためにも、養育費の強制執行における流れや注意点を見ていきましょう。

養育費の強制執行で差し押さえることができるもの

養育費の強制執行では、債権・不動産・動産など様々なものを差し押さえることがでます。
債権としては給与や預貯金、不動産としては土地や建物、動産としては貴金属や現金などが挙げられます。

ただ、強制執行を行うためには「執行力のある債務名義」が必要となります。
「執行力のある債務名義」には、家事調停における調停調書、審判、判決、公正証書のうち執行力のあるものなどが挙げられます。

差し押さえることができる金額

原則として差し押さえることができる金額に上限はありません。
他方、給料・賃金・俸給・退職年金・賞与等は扱いが異なります。これらの債権は、養育費を支払うべき親の生計を維持するためにも必要といえるので、全額を差し押さえることはできません。それでも給与等の2分の1まで差し押さえることができます。

通常の強制執行の場合には、給与等の4分の1までしか差し押さえることができませんので、そのことを考えると養育費は特に保護されているといえます。

将来の養育費も自動で天引きできる

養育費は、その一部に不払いがある場合には、まだ支払うべき時期の来ていない将来の養育費についても強制執行を開始することができます。
そのため、毎月の給与から自動的に一定額が天引きされるような形になります。

ただ、養育費を支払うべき親が転職したような場合には、別途手続をとる必要がありますので、その点には注意が必要となります。

強制執行の手続きをするには相手の勤務先や住所などの情報が必要

実効的に強制執行を行うためには、養育費を支払うべき親の財産に関する情報を特定している必要があります。給与等を差し押さえるのであれば勤務先、預貯金を差し押さえるのであれば口座情報などです。また、裁判所の手続を利用する以上、裁判所から通知等を送るため、相手の住所を把握しておく必要があります。

「執行力のある債務名義」を取得しているのであれば、情報取得手続といった手段で相手の情報を取得できる場合がありますので利用してもよいと思います。

会社に拒否されてしまったら、どうすればいい?

給与等を差し押さえた場合には、その給与等を自らに支払うよう求めることができますが、勤務先が相手と親しい間柄にあるような場合には任意の支払いを拒否することがあります。その場合には、まずは任意に支払うよう交渉することになりますが、それでも支払わない場合には取り立訴訟を提起することも検討すべきといえます。

取立訴訟は、差し押さえた給与等の支払いを勤務先に求める訴訟のことです。

相手の住所がわからない場合

戸籍の附票を取り寄せることによって養育費を支払うべき親の住所を調べることが可能です。弁護士に依頼した場合にも、弁護士が代わりに取り寄せることができます。

養育費を強制執行する方法

養育費を強制執行する場合に必要となる書類や具体的な手続の流れなどを見ていきましょう。

養育費の強制執行にかかる費用

裁判所に申立てをする手数料として、4000円分の収入印紙が必要になります。
(債務名義1通・債権者1名・債務者1名の場合)

債務名義、債務者、債権者の数が複数になる場合には、金額が増加しますので、裁判所に確認してみると良いと思います。
裁判所によって異なりますが、郵便切手も必要となります。

必要な書類

裁判所に強制執行の申立てをする際に必要な書類は以下のようなものが挙げられます。

  • 表紙・当事者目録・請求債権目録・差押債権目録で1セットの申立書
  • 債務名義の正本(調停調書、審判書、判決等が債務名義にあたります)
  • 送達証明書(債務名義の正本等が相手に送られていることを証明する書類です)
  • 戸籍謄本、住民票、戸籍の附票等(債務名義記載の氏名や住所が変更されている場合に必要です)
  • 法人の資格証明書(給与等を差し押さえる場合には差し押さえる先の勤務先の情報として必要です)

強制執行の手続きの流れ

申立てに必要な書類を準備いただき、次の1~4の流れで手続を進めていくことになります。
実務上よくある給与の差押えのケースで手続の流れを見ていきましょう。

1. 裁判所に対する強制執行の申立て
2. 差押命令
3. 取り立て
4. 裁判所への報告

1. 申立て
債権の差押えをするような場合には基本的に相手の住所を管轄する裁判所に申立てを行うことになります。

2. 差押命令
提出した書類等に問題がなければ裁判所が差押命令を出すことになります。

3. 取り立て
出された差押命令が勤務先や相手に送達された後に1週間経過すると、取立てができるようになります。直接勤務先等に連絡して、支払ってもらう方法を伝え、相手の給与から天引きされることになります。

4. 裁判所への報告
取り立てを行ったら、裁判所に「取立届」を提出して回収した金額を報告する必要があります。
差し押さえた分の全額を回収することができた場合には、「取立完了届」を提出します。

養育費の強制執行でお金がとれなかった場合

強制執行をしてもお金をとれなかった場合、養育費を回収することはできません。その場合には一度、強制執行を取り下げて、相手方の財産が増えるタイミング(給料日直後など)に再度、強制執行の手続をして差押えをしていくことが可能です。

相手が退職・転職した場合、強制執行の効果はどうなるのか

勤務先に強制執行をしていたが、相手が勤務先を退職または転職してしまったような場合には、その後の取り立てをどのようにすればよいのか、具体的に見ていきましょう。

給与を差し押さえていたけれど退職した場合

相手方が退職してしまった場合は元の勤務先から給与を回収することができなくなります。
ただ、退職金を差し押えることもできますので、多くの金額を回収できる可能性もあります。

転職した場合は再度強制執行手続きが必要になるのか

差押えを継続したい場合は、転職先の給与に対して強制執行の申し立てをする必要があります。
相手方が転職先に強制執行を知られたくないと考えているようであれば、相手方が任意に支払う可能性がありますので交渉してみると良いかもしれません。

養育費の強制執行に関するQ&A

相手が自営業だと養育費の強制執行ができないというのは本当ですか?

相手が自営業者でも強制執行は可能です。自営業者であるために給与の差押えはできませんが、役員報酬を受け取っていればそれを差し押さえることができます。また、預貯金やその他の財産の特定ができれば、その財産の差し押さえも可能です。

養育費を差し押さえられたら生活できないと言われてしまいました。強制執行できないのでしょうか?

養育費の支払い義務者が生活できるか否かと強制執行ができるかどうかは関係がありません。法律で定められた差押えの要件を満たせば相手の財産の差押えは可能です。

強制執行のデメリットはありますか?

財産調査に手間と時間がかかる点が考えられます。また、強制執行の手続が進められても、未払額全額が回収できない点も挙げられます。

養育費の強制執行から逃げられてしまう可能性はありますか?

相手方が差押えを免れようとして、自らの財産を隠すようなこともあります。財産がわからないと強制執行から逃れられてしまいます。
その場合には、財産開示手続などの相手方の財産を明らかにするための手段もありますので、ご検討いただいても良いと思います。

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養育費の強制執行についてお困りのことがあったら弁護士にご相談ください

以上で説明しましたとおり、養育費の強制執行の手続きを行うにあたっては、準備が必要ですし、差押えの対象となる相手の財産を調べることなどをしなければなりません。
弁護士に依頼すれば、裁判所への提出書類の作成、財産調査のための手続、強制執行の申立て手続を代わりに行ってもらうことができます。

お子様の生活の糧となる養育費の不払いが発生した場合、まずは弁護士にご相談ください。
弁護士が早期に問題を解決できるよう、懸命にサポートいたします。

交通事故のご相談の際、よくご質問される内容の一つが「仕事をお休みして減った収入について、加害者に請求できますか?」というものです。
このような収入の減少は「休業損害」と呼ばれ、損害賠償の対象となります。そのため、加害者に対して請求が可能です。

もっとも、会社員の方の収入には、基本給、通勤手当、残業代、賞与(ボーナス)など様々な種類があり、すべての収入について常に損害賠償の対象になるとは限りません。
本記事では、特に残業代に焦点を当てて解説していきます。残業代の休業損害でお困りの方は、本記事をご覧ください。

休業損害に残業代は含まれる?

一般的に、休業損害の計算にあたっては、残業代も考慮されることになります。
会社員の方が休業損害を請求する場合、通常は「休業損害証明書」を勤務先に作成してもらうことになります。休業損害証明書は、交通事故に遭う前の3か月の収入状況や稼働状況が記載された書面です。

弁護士が休業損害を計算する際、休業損害証明書を参考に、次のように算出します。
 (基本給+付加給(残業代を含む))÷稼働日数=休業日額
  休業日額×休業日数=休業損害

このように、交通事故に遭う前の3か月の間の残業代は、休業日額の計算の際に考慮されています。そのため、交通事故前と同額分の残業代については、休業損害に含まれていることになります。

付加給とは

付加給とは、残業代や通勤手当、皆勤手当、住宅手当など、基本給とは別途に支払われ、支払いの有無や金額が月ごとに変動する可能性がある各種手当のことをいいます。

法律で支払いが義務付けられている残業代などを除いて、手当の内容や金額は会社側が決定できます。そのため、会社次第で手当の名称や内容が異なりますので、休業損害の請求にあたっては、手当の名称や、過去の支払実績から各手当の性質を把握しておきましょう。

残業代を請求するためには証明が必要

通院や、交通事故によるケガの痛みのせいで残業ができなかった場合、交通事故に遭っていなければできていたはずの残業に相当する分の残業代を、休業損害として請求したいと考えるのは自然なことです。
他方で、残業ができない原因としては、そもそもの業務が減少することなどもあり得ます。

そのため、残業代が減少したとしても、その原因が交通事故なのかどうかは、裁判所などの第三者からはすぐには分かりません。
そのため、交通事故が原因で残業代が得られていないこと(交通事故に遭わなければ残業代が得られるはずだったこと)を証明する必要があります。

具体的には、次のポイントを意識して主張や立証をする必要があります。

  • 日常的に残業する職場環境にあり、交通事故に遭う前は被害者も残業していたこと
  • 交通事故後の減収の原因が、明らかに残業代の減少にあること
  • 減少した残業代の金額が明確なこと
  • 交通事故によるケガの治療のため、実際に残業ができなかったこと

休業損害証明書で証明する方法

先ほど触れた「休業損害証明書」は、第三者である勤務先が作成するため、休業損害の存在を証明する有力な証拠になります。

休業損害証明書には、交通事故以前の収入状況や稼働状況のほかにも、仕事を休んだ、休業期間に支払われた給与、社会保険や労災保険からの給付金の有無などが記載され、休業損害の有無や金額を判断するための重要な資料となります。

休業損害証明書は、加害者側の保険会社からフォーマットを受け取り、勤務先に必要事項を記載してもらって作成することが多いです。残業代についても請求する場合には、勤務先に休んだ期間に支払われた給与の欄や補足事項に、交通事故が原因で得られなかった残業代の金額や内訳、計算の根拠を記載してもらえるとベターです。

休業損害証明書は自分で記入してもいい?

休業損害証明書は、勤務先の方で記載してもらう書面ですので、被害者ご本人で記入してはいけません。

被害者が作成したことが発覚した場合、相手方保険会社から休業損害の支払いを受けられなかったり、最悪の場合、示談交渉自体が行えなくなったりする可能性があります。
頼みにくかったり、記入を断られてしまったりという場合でも、弁護士から勤務先の方にお話しできることもあるので、まずは弁護士に相談してみましょう。

繁忙期は考慮される?

原則的には、交通事故前の3か月の収入をベースとして、休業日額を計算することになります。
もっとも、繁忙期と閑散期がある職種の場合、閑散期の終わりに交通事故に遭い、繁忙期に休業したような時は、原則どおりに計算をすると賠償額が少額となってしまうことになります。

そこで、次のような方法で、繁忙期の相当な休業損害を機瑛さんして請求することが考えられます。
①前年度や前々年度の状況を参考に、今年度に想定される残業時間を算出する
②①で算出した残業時間に相当する残業代を含めて、休業損害を請求する

通院のために残業できなかった場合でも休業損害は請求できる?

ケガの痛みが原因ではなく、通院するために残業できなかったケースでも、休業損害として残業代を請求できる可能性があります。
例えば、通院のために半休の取得や早退をしたり、定時で上がったりしたケースでは、残業代を請求できる場合があります。

この場合も、交通事故に遭わなければ残業代が得られるはずだったという事実を証明する必要があり、次のような点がポイントになります。

  • 就業時間内または時間外に通院治療を行う必要性があったこと
  • 交通事故に遭う前から残業が日常的に行われていたこと
  • 交通事故により実際に減少した残業代の金額

残業代と休業損害についての裁判例

ここで、残業代が交通事故による減収分として認められ、休業損害を受け取ることができた裁判例を2つご紹介します。

■大阪地方裁判所 平成27年2月17日判決

<事案の概要>
Aの運転する普通乗用自動車がセンターラインを越えて対向車線に侵入した結果、対向車線を走行していたBの運転する普通乗用自動車に衝突しました。この事故により、Aは死亡し、Bの運転する車両に同乗していた原告らも負傷しました。
そこで原告らは、Aの相続人らを被告として損害賠償請求を行いました。

<裁判所の判断>
裁判所は、残業代は年度や勤務場所によって変動するほか、前年に得た残業代と同じ金額を得られるとは限らないとしつつも、原告の残業代が減少した時期から考えると、残業代が減少した原因のひとつに事故による怪我の治療があることが明らかだと判断しました。
そして、事故前の残業時間や残業代を考慮すると、事故から症状固定に至るまでの28か月間に、少なくとも1か月につき平均1万5000円の残業代が減少したとして、総額42万円の残業代を休業損害として認めました。

そして、事故前の残業時間や残業代を考慮すると、事故から症状固定に至るまでの28か月間に、少なくとも1か月につき平均1万5000円の残業代が減少したとして、総額42万円の残業代を休業損害として認めました。

そして、その他の減収(欠勤による損害、有給休暇の取得による損害、遅刻による減給、賞与の減額分)も加えて、合計197万2280円の休業損害を認めました。

■東京地方裁判所 平成17年6月21日判決

<事案の概要>
自動二輪車を運転していた原告が信号のある交差点を直進しようとしたところ、右折してきた被告の運転するタクシーに衝突されて怪我を負ったため、損害賠償を請求した事案です。

<裁判所の判断>
原告は、事故の前後6か月間で1日あたり平均905円の残業代をもらっていました。
そこで裁判所は、休業していなければ1日あたり905円の残業代が得られたはずだと考え、これに休業した日数である236日をかけた金額(21万3580円)を休業損害として認めました。

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残業代を休業損害として請求するためにも弁護士にご相談ください

休業損害は、計算方法が複数あることなどから、相手方保険会社との間で争いになりやすい項目です。特に残業代については、個別に賠償しないことも多いため、相手方保険会社から拒否されることが少なくありません。

何とか残業代を休業損害として認めてもらおうとご本人で交渉を行っていただいても、相手方保険会社はなかなか意見を変えないことも多いです。

弁護士であれば、細かな事実関係を把握した上で、必要となる証拠を収集したり、主張を組み立てたりすることができます。このような弁護士の対応は、相手方保険会社から譲歩を引き出すことにつながります。また、仮に相手方保険会社が譲歩しない場合でも、裁判所や交通事故紛争処理センターなどの第三者機関を利用する手続きにスムーズに移行することが可能です。

交通事故後の残業代についてお困りの方は、まずは一度、弁護士にご相談ください。

配偶者がアルコール依存症であった場合に、アルコール依存症を理由として離婚を求めることができるのか、また、アルコール依存症の配偶者と離婚する場合に、慰謝料を請求することができるのか等、アルコール依存症の配偶者と離婚する場合に知っておいて欲しいことをお伝えします。

アルコール依存症を理由に離婚できるのか

合意できればもちろん離婚できる

いわゆる性格の不一致を理由として離婚する場合と同じく、アルコール依存症である配偶者が離婚に応じるのであれば、当然、離婚することは可能です。

合意できず裁判まで発展した場合は…

協議離婚が成立せず、調停手続きにおいても調停が不成立となり離婚することができなかった場合には、離婚訴訟を提起して、アルコール依存症の配偶者に対し、離婚を求めていくことになります。

離婚の同意が得られなければ別居してみる

配偶者がアルコール依存症であるという事情のみでは、離婚が認められる法定離婚事由に該当しません。
つまり、婚姻関係を継続し難い事由があるとまでは認められず、離婚ができないことを意味します。そこで、婚姻関係を継続し難い事由があることを証明するために、別居の期間を長期間にして、離婚を目指すことになります。
そのため、配偶者から離婚の同意が得られないときには、別居をすることをお勧めします。

アルコール依存症を理由にした離婚で慰謝料請求できる?

アルコール依存症というだけでは慰謝料は認められにくい

アルコール依存症のみで慰謝料を請求しても、認められることは難しいです。
アルコール依存症がもとで、暴力を振るわれて傷害を負ったという事実、仕事をしてくれないので、家計が困窮した事実等があれば、慰謝料は認められやすくなります。

モラハラやDVを受けているなら請求できるけど証拠が必要

アルコール依存症であることの一事をもって慰謝料を請求するのではなく、モラハラを受けている事実やDVを受けている事実等の証拠を併せて請求することが望ましいです。

アルコール依存症の配偶者に離婚慰謝料を請求する流れ

アルコール依存症の配偶者に離婚慰謝料を請求するには、まずは、離婚の交渉の中で、請求していくことになります。
しかしながら、相手方が任意の支払いに応じない場合には、訴訟を提起して、請求していくことになります。

アルコール依存症が理由の離婚に関するQ&A

アルコール依存症の妻でも、離婚時に親権を獲得する可能性はありますか?

アルコール依存症であったとしても、親権を獲得することは可能です。アルコール依存症であったとしても、子どもの監護を怠っていないのであれば特に問題はありません。

しかし、夕食の準備をしなかったり、夜、寝かしつけやお風呂に入れなかったり、朝、起床しないため、子どもの朝食の準備をしなかったり等の子どもの監護に現に支障が生じている場合には、親権者として相応しくないと判断されることになります。

アルコール依存症の配偶者からの暴力で離婚し、慰謝料を請求しましたが支払ってもらえません。義両親に支払ってもらうことはできますか?

慰謝料を請求できる相手はあくまで配偶者であり、義両親に支払ってもらうことはできません。

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アルコール依存症の配偶者とスムーズに離婚するためには、弁護士にご相談ください

アルコール依存症の配偶者が離婚に応じない場合に、早期に離婚することをご希望される場合には、是非一度、弁護士にご相談ください。

交通事故にあった場合に、事故により被った損害を加害者側に請求しないで、放置していると時効にかかって請求が認められなくなってしまうことがあります。
そこで、以下では、交通事故についての時効を詳しく説明していきます。

交通事故の損害賠償請求は3年または5年で時効となる

交通事故の損害賠償請求権の時効期間は、物損(お車に関する損害)については3年間、人損(お体に関する損害)については5年間になります。
そのため、各期間が過ぎると損害賠償請求権は時効により消滅することになります。

時効のスタートはいつから?

交通事故の時効の開始時期は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から開始するとされています。そして、民法上、初日不算入という概念があるため、事故発生の翌日を1日目とします。
通常は、事故が発生した日に上記事項が明らかになるため、事故が発生した日の翌日を起算点としています。ただ、加害者が分からない場合(ひき逃げの場合など)には、事故が発生した日の翌日を時効の起算日とします。

事故の種類 時効
物損事故 事故が発生した日の翌日から3年
人身事故 事故が発生した日の翌日から5年
死亡事故 死亡した日の翌日から5年
当て逃げ・ひき逃げ 事故が発生した日の翌日から20年

交通事故示談で時効が近い場合の注意点

交通事故による損害賠償請求の上記各時効が迫ってきた場合には、請求が認められなくなってしまう焦りから、相手方保険会社と妥協した内容で示談をしてしまうことがあります。
しかし、一旦示談をしてしまうとその内容を覆すことは容易ではないので、時効期間を延長する等の手段を講じるべきであるといえます。

交通事故の時効を延長する方法は?

被害者が時効を延長する手段としては、時効の完成猶予と時効の更新という制度を用いることが挙げられます。時効の完成猶予とは、時効の完成を先延ばしにする制度です。
具体的には、訴訟の提起や催告等が挙げられます。時効の更新とは、時効期間がリセットされて新しくカウントし始める制度です。具体的には、加害者側に債務を承認させることなどが挙げられます。

請求書を送付する(催告)

事故に遭われた被害者の方が、事故を起こした加害者に対して、債務を履行するように請求をすることを催告といいます(時効の完成猶予)。
すなわち、裁判外での被害者から加害者に対して損害賠償請求をすることを意味します。 通常は、内容証明郵便等を利用して損害賠償請求書を送付します。
これにより、時効期間を6か月間延長することができます。
なお、催告は1度しか行うことができないので、6か月の猶予期間に訴訟等の別の手段を準備する必要があります。

加害者に債務を認めてもらう

加害者が損害賠償金の支払義務があることを認めた場合(債務の承認といいます)には、時効期間がリセットされます(時効の更新)。
加害者が損害賠償金の支払義務を認める旨の署名・押印等をしてくれれば良いのですが、必ずしも加害者が自らに不利なことを行うとは限りません。
ただ、加害者が損害賠償金の支払義務があることを前提とした行動をとった場合には、債務の承認とみなされることがあります。具体的には、加害者が治療費や休業損害等の支払いがあった場合には、それらを受けた日から時効期間がリセットされます。

裁判を起こす

訴訟を提起すると訴訟が終了するまでは時効が完成しなくなります。その訴訟の判決等で損害賠償請求権の存在を認めるような判決がでれば、新しく10年間の時効期間が設けられます。
訴訟が取り下げられたような場合や訴訟が受理されなかったような場合には、上記取扱いがされませんのでご注意ください。

示談が進まない場合の対処法

示談手続が難航している場合には、第三者の介入を求めることがよい場合もあります。 第三者としては、交通事故を取り扱う紛争処理センターや交通事故相談センターなどが挙げられます。
いずれも中立、公正な立場で被害者と加害者間の紛争の解決に向けてサポートを行ってくれますので、示談交渉をスムーズに進めることができる可能性があります。

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交通事故で時効が気になる場合は弁護士にご相談ください

これまで、交通事故の時効について説明を行ってきましたが、時効が間近に迫っているとどうしても焦ってしまい、示談を急いでしまうようなことがあると思います。また、時効期間を経過してしまうと請求が認められなくなってしまようなこともあります。

その上、弁護士が入っていない場合には、相手方保険会社から被害者に対して、慰謝料請求等の面でも適正な金額よりも減額された金額での示談を求めるようなことがあります。
交通事故に関する時効期間その他の交通事故に関してお悩みの方は、早めに弁護士に相談されることをお勧めします。

在宅起訴となり得る条件や在宅起訴された場合にどのような流れで事件が進行するのかについて、以下、解説します。

在宅起訴とは

在宅起訴とは、身体拘束を受けないまま、検察官によって起訴されることをいいます。 通常は、捜査機関が逮捕、勾留等によって被疑者の身体を拘束したまま、検察官が起訴することになります。
在宅起訴の場合は、身体拘束を受けないまま、起訴されることになるので、自宅で普段と変わらない生活を送り続けることができます。日常生活への影響は、逮捕、勾留等を受ける場合に比して格段に小さいといえるでしょう。

逮捕について詳しく見る 起訴について詳しく見る

在宅事件のデメリット

逮捕、勾留等される場合に比して日常生活への影響が小さいことは在宅事件のメリットといえますが、在宅事件にもデメリットはあります。
それは捜査が長期化する傾向がある点です。逮捕勾留には、刑事訴訟法で厳格な期間制限が設けられています。
しかし、在宅事件については、期間制限がないため、捜査機関としては在宅事件の捜査を後回しにする傾向があります。以上の理由から在宅事件の捜査は長期化する傾向があり、この点は在宅事件のデメリットであるといえます。

在宅起訴になる条件

軽微な事件

在宅起訴となりやすい条件の一つに被疑事実が軽微な事件であることが挙げられます。ただし、当然ですが、軽微な事件であっても逃亡・証拠隠滅のおそれがある場合には、身柄拘束の必要があると判断されることもあり得ます。
逆に殺人、強盗等の重大な事件であっても、逃亡・証拠隠滅のおそれがなく、身柄拘束の必要がない場合には、在宅のまま捜査が進むことになります。

逃亡・証拠隠滅のおそれがない

逃亡・証拠隠滅のおそれがない場合には、在宅事件となります。
逃亡・罪証隠滅のおそれがないことは、事案の重大性、被害者と被疑者の関係、共犯者の有無、被疑事実を認めているか、前科前歴の有無、職業等、様々な事情が考慮されて判断されることになります。

身体拘束による影響が大きい

身体拘束されることによる影響が大きいことは、逮捕勾留の必要性の判断に影響を与える事情です。
例えば被疑者が重い病気を抱えている場合には、そのような状態にあるものを逮捕勾留することで身体に重大な悪影響を及ぼす可能性があるため、逮捕勾留の必要性が認められず、在宅起訴となる可能性があります。

在宅起訴されるまでの流れ

在宅起訴とは身柄拘束されていない状態で起訴されることをいいます。事件発覚から起訴されるまで、身柄拘束を1度もされずに起訴される場合と、身体拘束はされたが、何らかの事情で釈放され、その後起訴される場合があります。
どちらの場合でも、捜査機関は、実況見分、被疑者の取調べ等の捜査を行い、一定の捜査を終えると、捜査機関のうち警察は、検察に事件を送致します。その後検察が当該事件を起訴するか、略式起訴するか、それとも不起訴にするのかの終局処分についての判断をすることになります。

書類送検

在宅事件において、警察が検察に送致することを書類送検と呼ぶことがあります。

在宅起訴された後の流れ

起訴には正式起訴と略式起訴の2つがありますから、以下正式起訴と略式起訴について解説します。

正式起訴の場合

正式起訴された場合、まず、裁判所から起訴状が送られてくることになります。
そして第1回の公判期日が指定され、公判期日に出廷することになります。
公判期日では、証拠の取調べ、被告人質問等が行われ、判決が言い渡されることになります。

略式起訴の場合

略式起訴については、正式起訴の場合と異なり、裁判所が書面のみを確認して審理を行うため、公判期日は指定されません。
その後、裁判所から略式命令の謄本が送られてくることになりますが、略式命令による刑罰は罰金又は科料に限定されています。

在宅起訴でも前科はつくのか

有罪とばれば、在宅起訴の場合でも前科がつきます。これは略式起訴の場合でも同じです。

前科について詳しく見る

在宅事件の弁護活動について

在宅事件における弁護活動としては、主に被害者との示談を行うことが挙げられます。
被害者との示談が成立すれば、不起訴となる可能性が高まります。

弁護士に依頼するタイミング

在宅事件の場合には、身柄拘束を受けていないことから、弁護士への相談、依頼が遅れてしまいがちですが、適切な対応ができないまま起訴される等、弁護士への相談、依頼が遅れたことで大きな不利益を被ることは十分に考えられます。
なるべく早いタイミングで弁護士への相談、依頼をすることをおすすめします。

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在宅起訴される前に、早期に弁護士へ相談を

在宅起訴されてしまう前に、早い段階で弁護士に相談されることをおすすめします。

よくニュース等で【家宅捜索】という言葉をお聞きになったことがある方も多いかと思われます。
とはいえ、この家宅捜索が、どのような場合に、どのような条件のもと、いつ行われるのか、万が一、ご自身が家宅捜索をされた場合にどのように対応すべきか等についてご存じの方は少ないのではないでしょうか。本記事ではこれらの事項について解説していきます。

家宅捜索とは

そもそも【家宅捜索】とは、法律に規定されている言葉ではありませんが、一般的に警察等の捜査機関が、犯罪の証拠を収集することを目的として、被疑者やその他関係者の自宅等(場合によっては、会社等も対象となります。)を探す捜査手続のことをいいます。
自宅等を捜査する理由としては、特定の犯罪事実に深く関与していると思われる人物の自宅等にはその犯罪の証拠(凶器、被害品、犯行時に着用していた衣服、犯行に使用した携帯電話やパソコン等)が存在する可能性が高いと考えられるためです。

家宅捜索は拒否できない

家宅捜索は裁判所が発付する捜索差押許可状に基づく強制処分(捜査機関が対象者の意思に関わらず強制的に行う捜査)であるため、これを拒否することはできません。
たとえ自宅へ立ち入られたくない、自分の物を押収されたくない等と思っていても、変わりません。
仮に、家宅捜索を妨害しようとして、警察官に抵抗すると、公務執行妨害罪で現行犯逮捕される可能性もありますので、注意が必要です。

家宅捜索の条件

家宅捜索を行うには、裁判所が発付する捜索差押許可状を家宅捜索の対象者に示す必要があります(刑事訴訟法222条1項、同110条)。
この捜索差押許可状は、家宅捜索の対象となる住居等に犯罪の証拠が存在する可能性があるか、そこで捜索・差押えを行うことについて問題がないか等を裁判所が事前に審査をして、初めて発付されるものです。
また、「住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者」の立会いも必要です(刑事訴訟法222条1項、114条2項)。

警察の捜査が始まるきっかけ

捜査機関が捜査を始めるきっかけのことを【捜査の端緒】といいます。
捜査機関も何の理由もなく捜査をするわけではなく、あくまでも何かしらのきっかけがあって初めて捜査をするかどうかの検討をします。

被害届が提出された

被害者が警察署等に被害届を提出したケースが捜査の端緒の典型例といえます。
この被害届をもとに、捜査機関において家宅捜索の必要性等を検討し、裁判所に対して捜索差押令状の発布を請求します。

通報された

被害者や目撃者等による110番通報も捜査の端緒の1つでといえます。
例えば、ひったくり被害に遭った被害者が通報する場合、その現場を目撃した目撃者が通報する場合などが考えられます。

告訴・告発された

被害届の提出と似て非なるものとして、告訴・告発という手続が存在します。
この告訴・告発について、刑事訴訟法242条は、「司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。」と規定しています。
被害届はあくまでも被害の申告にすぎませんが、告訴・告発の場合には、このように法律で書類送検が義務付けられており、念入りな捜査が行われることが予想されます。

職務質問を受けた

その他、捜査機関から職務質問を受けた結果、家宅捜索に発展する場合もあります。
職務質問はあくまで任意であり(警察官職務執行法2条1項)、本来なら応じる義務はありません。
しかし、事実上職務質問を拒否することは困難です。抵抗すると公務執行妨害罪となり、現行犯逮捕をされる可能性もあるので、素直に応じるのが無難な対応といえます。

家宅捜索のタイミング

捜査機関が家宅捜査を行える時期について、法律は特段制限しておらず、起訴・不起訴の処分(【終局処分】ともいいます。)の前後いずれにおいても(公判段階であっても)家宅捜索をすることができるとされています。
しかし、通常、事件の捜査は終局処分の前に完了するため、実際に家宅捜査が行われるのは、捜査機関が犯罪事実を知ってから、終局処分がされるまでの間が大半となります。
なお、捜査対象者による証拠隠滅を防ぐため、家宅捜査は通常、捜査対象者への予告なしに突然行われます。そのため、家宅捜索を予期することは困難といえます。

家宅捜索の対象

家宅捜索をするにあたっては、不当・過剰な捜索を防止し、対象者の被侵害利益を最小限にするため、家宅捜索の対象について裁判所が事前に審査します。
その審査結果によって、捜索できる場所、差押えができる物、令状の有効期限(刑事訴訟法219条1項)等が記載された捜索差押許可状が発付されます。
同許可状に記載されていない(=裁判所が許可した範囲を超える)捜索・差押えについては、行うことはできず、仮に行った場合には違法な捜索・差押えとなります。

捜索差押許可状の内容の確認

前述のとおり、捜索差押許可状には裁判所が認めた捜索・差押えの範囲が記載されています。そして、捜査開始前に、捜査機関がその内容を読み上げることになっています。
そのため、これから家宅捜索をされるとなった場合には、その内容の読み上げを聞く、録音する、実際に捜索差押許可状を見せてもらう等して、必ず同許可状の内容を確認しましょう。
また、捜索開始後は、同許可状に記載されていない場所、物まで捜索・差押えされていないか、捜査機関の動きをしっかり確認しましょう。

差し押さえられたものの返却について

証拠品として差し押さえられた物のうち、すでに警察や検察が精査し、証拠として押さえておく必要が無くなった物については、事件が終了する前(終局処分決定前や公判中等)であっても、返還されることになっています(刑事訴訟法123条)。

家宅捜索されることが多い犯罪

家宅捜索が行われることが多い犯罪としては、覚せい剤や大麻などの薬物犯罪、窃盗、児童ポルノ禁止法違反などが挙げられます。
前者の薬物事件は、被疑者の自宅に薬物や器具などの証拠品が存在することが多いためです。
また、後者の窃盗、児童ポルノ禁止法違反などについても同様に、被疑者の自宅に犯罪で得た物や犯罪で使用された物が存在する可能性が高いため、家宅捜索を受けることが多い事件類型といえます。

家宅捜索に弁護士の立ち会いは可能か

起訴前の段階(=被疑者段階)では、弁護士には「弁護人」固有の立会権は法律上存在しません。
しかし、刑事訴訟法114条2項には、「前項の規定による場合を除いて、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内で差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行をするときは、住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者をこれに立ち会わせなければならない。」と規定されています。
そこで、家宅捜索の対象となる住居等の住人や看守者(会社代表者等)が依頼した弁護士を、「これらの者に代わるべき者」として指定すれば、同弁護士が家宅捜索の立会いに関する代理人として、家宅捜索に立ち会うことができます。

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家宅捜索での対応と弁護士ができること

家宅捜索では、捜査機関から、捜索差押許可状の記載に反して事件に関係のないものまで押収されてしまうこともあります。そのため、捜査中には、違法な捜査はなかったかを常にチェックし、もし違法な捜査があれば、その旨をその場で捜査機関に、若しくは公判段階で裁判所に対して主張する必要があります。

また、家宅捜索の結果、犯罪の嫌疑が高まったとして、逮捕されてしまうことは少なくありません。このような場合、家宅捜索によって必要な証拠が収集されたことで証拠隠滅のおそれが無くなり、ひいては逮捕の必要性も無い等の主張を行うことで、逮捕・勾留を避けられる可能性があります。
家宅捜索を受けてしまった場合、早期に弁護士が介入すれば、以上のような弁護活動を行い、不当な家宅捜索や逮捕などについて争うことができます。

家宅捜査を受けた場合は、早期に弁護士へ相談を

家宅捜索が行われるということは、何らかの犯罪の嫌疑がかけられていることは間違いありません。そのため、犯罪の立証を裏付ける証拠が家宅捜索によって収集されている可能性が高いといえます。

そして、家宅捜索を受けた場合、その内容に問題(違法性)が無いかどうかは専門家でなければ判断しがたいですし、家宅捜査に続いて逮捕されてしまう場合もあります。
今、逮捕されていない、取調べを受けていないからといって、安心することは全くできません。
早期に弁護士に相談することで、不当な家宅捜査や逮捕・勾留について事前に対策を練り、争うことができます。そのため、弁護士への早期段階でのご相談をお勧めします。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。