監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
交通事故の示談交渉では、過失割合が最も揉めやすいポイントです。
過失割合とは、事故原因について被害者側と加害者側がどの程度責任を負うかを示すもので、事故状況や双方の不注意の程度を踏まえて決められます。
しかし、具体的な事故状況等に対する評価に幅があるため、保険会社を含めた当事者間で意見が対立しやすく、賠償額にも大きく影響します。
そのため、適正な過失割合を主張し、必要に応じて修正を求めることが交通事故の賠償請求では重要です。
本記事では、経験豊富な弁護士が揉めやすいケースや対処法等について解説します。
目次
交通事故の過失割合で揉める理由とは?
交通事故の過失割合は、具体的な事故状況等に対する評価に幅があるうえ、当事者双方が「相手が悪い」と感じやすいことから感情面でも対立し、揉めやすくなります。
まずは過失割合がなぜ重要な争点となるかを理解し、適切な対処の方向性を掴むことが重要です。
損害賠償の金額に影響するため
交通事故の過失割合が揉める大きな理由の一つは、損害賠償金に直接影響するためです。
被害者側に過失が認められると、その割合分だけ賠償金が減額される「過失相殺」が適用されます。
被害者としては、当然ながら少しでも多くの賠償を受け取りたいと考えます。
一方、相手方保険会社は支払額を抑えたいという立場にあり、双方の利害が真っ向から対立します。
このように、金銭面での思惑が大きく関係するため、過失割合は示談交渉で特に争いが生じやすいのです。
警察は過失割合に関与しないため
交通事故の過失割合が揉める理由の二つ目に、警察が過失割合の判断に関与しないことが挙げられます。
事故発生時には警察が現場検証や実況見分を行い、事情聴取も実施するため、一見すると警察が過失も判断してくれそうに思われがちです。
しかし、警察が扱うのはあくまで「刑事事件」であり、被害者が加害者に賠償を求める「民事上の過失割合」については判断しません。
そのため、双方の主張が対立したまま調整機関が存在せず、結果として過失割合が争いになりやすくなるのです。
事故状況の食い違いがあるため
交通事故の過失割合が揉める理由の三つ目は、事故状況の認識に食い違いが生じやすいことが挙げられます。
過失割合は、被害者側と加害者側の注意義務違反の程度を事故状況から判断して決められますが、その前提となる事実関係が一致していない場合、双方の主張は大きく対立します。
たとえば「信号は自分が青だった」と当事者双方が主張するようなケースでは、過失の評価自体が進まず、示談交渉が難航しがちです。
このように、事故状況の食い違いは過失割合が揉める典型的な原因の一つといえます。
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過失割合について揉めやすい4つのパターン
次に、過失割合について揉めやすいパターンとしてどのようなものがあるか、4つに分類して、以下、解説していきます。
①交通事故に関する証拠が不足している
過失割合が揉めやすい典型例の一つが、交通事故に関する証拠が不足しているケースです。
過失割合は、事故状況や双方の不注意の程度を基に判断されますが、当事者の主張が食い違っているにもかかわらず、状況を客観的に示す証拠がない場合、どちらの言い分が正しいのか判断しにくく、対立が深まりやすくなります。
証拠としては、ドライブレコーダー映像、監視カメラ、目撃証言、事故直後の写真や動画、実況見分調書などが挙げられます。
特にドライブレコーダーは事故状況を鮮明に示す有力な証拠となり得ます。
証拠が無い場合の対処法
では、交通事故に関する証拠が不足している場合、どのように対応すべきでしょうか。
一つの方法として、相手方保険会社に対し、提示された過失割合の理由や根拠を書面で明示するよう求めることが挙げられます。
必要に応じて、相手方が保有している警察の捜査記録や記録映像などの証拠の確認も求めましょう。示談交渉では、相手方の主張とその裏付けを把握することが重要です。
自ら証拠を持っていない場合でも、相手方に根拠を提示させることで、過失割合の適正性を検討しやすくなります。
②損害賠償額が大きい
過失割合が揉めやすいパターンの二つ目は、損害賠償額が高額なケースです。
損害が大きいほど、過失割合の違いによる受取額の差が拡大するため、当事者の利害が強く対立します。
たとえば損害額が1000万円の場合、被害者の過失が3割であれば請求額は700万円、1割であれば900万円となり、その差は200万円にも及びます。
このように、わずかな過失割合の違いでも賠償額が大きく変動するため、重症を負った事故や高額損害の事案では過失割合が特に争われやすくなります。
損害賠償額が大きい場合の対処法
損害賠償額が大きい場合は、過失割合のわずかな差で受け取れる賠償金が大きく変動するため、安易な妥協は避けることが重要です。
相手方保険会社の提示をそのまま受け入れる前に、事故状況や証拠に照らして過失割合が妥当か慎重に確認する必要があります。
そのうえで、交通事故に精通した弁護士へ早期に相談し、専門的な視点から主張の組み立て方や反論の可否を検討しましょう。
また、交渉で折り合いがつかない場合には、ADR(紛争解決手続)や訴訟も選択肢となるため、適切な手続きを視野に入れて進めることが望まれます。
③どちらが悪いか判断がしにくい
過失割合が揉めやすい三つ目のパターンは、どちらが悪いか判断しにくいケースです。
過失割合は、事故状況や双方の不注意の程度から決められますが、双方に一定の注意義務違反がある場合、どちらの過失がどの程度重いのか判断が難しく、主張が対立しやすくなります。
たとえば、同一方向走行中の車線変更に伴う事故で、変更車両が駐車車両を避けようとして衝突したケースや、信号機も道路幅の差もない交差点での出合い頭事故などは典型です。
このような事案では、事故状況を把握しても過失割合の評価が分かれやすく、示談が難航しがちです。
判断がしにくい場合の対処法
どちらが悪いか判断しにくい場合は、過失の評価自体が分かれやすいため、示談交渉が難航する傾向があります。
そのため、被害者としても一定の範囲で妥協して示談に応じるという選択肢があり得ます。
一方で、提示された過失割合が不当だと感じる場合には、中立的な判断を求めるためにADR(紛争解決手続)や訴訟を利用する方法も考えられます。
いずれにしても、事故類型ごとの相場や判断基準を踏まえる必要があるため、交通事故に精通した弁護士に相談し、交渉方針や適切な手続を検討することが重要です。
④駐車場内での事故
過失割合が揉めやすい四つ目のパターンは、駐車場内で発生した事故です。
駐車場内の事故については、参照できるデータや判例が相対的に少なく、典型的な過失割合が明確に示されていない点が問題となります。
判例タイムズや赤い本に掲載されている過失割合は主に道路交通を前提としており、駐車区画内の低速走行や後退、歩行者の動きなど特徴的な事故態様には十分対応していません。
そのため、基準に当てはめにくく、双方の主張が対立しやすいのが実情です。
このように駐車場事故は過失割合で特に揉めやすいため注意が必要です。
駐車場内の事故の対処法
駐車場内での事故は、参照できる基準が少なく過失割合の判断が難しいため、双方の主張がぶつかりやすい類型です。そのため、被害者としても、一定の範囲で妥協しつつ示談を検討するという選択肢があります。
一方で、提示された過失割合が明らかに不合理と感じられる場合には、中立的な判断を求めてADRや訴訟を利用する方法も有効です。
駐車場特有の状況(後退、徐行義務、死角など)がどのように評価されるかを踏まえる必要があるため、交通事故に詳しい弁護士へ早めに相談し、適切な交渉方針や手続の選択を検討することが重要です。
交通事故の過失割合で揉めた場合はどうする?
交通事故の過失割合でもめた場合には、いくつかの対処法があります。
まず、①相手方保険会社に対し、提示された過失割合の根拠を明示するよう求めることが基本となります。
次に、②交通事故紛争処理センターなどのADR機関を利用して、中立的な第三者に判断を求める方法があります。
さらに、③調停や裁判で法的に解決を図ることも可能です。
また、迅速な解決を優先する場合には、④双方が一定の負担を認め合う「片側賠償」などの妥協案を提案することも考えられます。
そして最も重要なのは、⑤交通事故に精通した弁護士に相談し、適切な戦略や証拠収集の方針を確認することです。
保険会社に対して根拠を提示するよう求める
交通事故の過失割合に納得できない場合は、まず相手方保険会社に「提示した過失割合の理由と根拠」を書面で示すよう求めることが有効です。
保険会社は支払額を抑えるため加害者側に有利な割合を提示することがあるため、安易に同意すべきではありません。必要に応じて、警察の捜査記録や映像などの証拠も確認し、相手方の主張内容と根拠を正確に把握することが重要です。
ADRを利用する
交通事故の過失割合で交渉が難航した場合、ADR(裁判外紛争解決手続)の利用が有効です。代表的な機関として、交通事故紛争処理センターと日弁連交通事故相談センターがあり、いずれも無料で利用できます。
ADRでは中立的立場から過去事例を踏まえたあっ旋案や裁定案が示されますが、必ずしも被害者に有利とは限らず、主張が大きく対立していると和解が難しいこともあるため注意が必要です。
調停や裁判で解決する
過失割合で合意に至らない場合、調停や裁判での解決が選択肢となります。
調停は、裁判所で調停委員が双方の間に入り、話し合いによる解決を促す手続きで、感情的な対立を和らげながら協議を進められます。
一方、裁判は当事者が提出する主張や証拠に基づき、最終的に裁判所が判断を下す方法です。交渉や調停で折り合いがつかなければ裁判を検討することになります。
いずれも適切な主張と証拠が重要であり、専門的判断が必要なため、交通事故に詳しい弁護士への相談が望まれます。
妥協案として片側賠償を提案する
過失割合で交渉が平行線となった場合、折衷案として「片側賠償」を提案する方法があります。片側賠償とは、双方に過失があるケースでも、一方のみが損害賠償責任を負う形で示談する方法です。
たとえば、加害者側が「9対1」、被害者側が「10対0」と主張して対立している場合、双方が譲らなければ「9対0」で合意し、被害者は1割を支払わず、加害者は9割のみ支払う形で示談することが可能です。
この方法を用いれば、完全な折り合いがつかない場合でも、双方が一定程度譲歩した形で解決を図ることができます。
弁護士に相談・依頼する
過失割合で相手方保険会社と対立した場合は、弁護士への相談・依頼が有効です。
弁護士に依頼すれば、煩雑な交渉を任せられ、被害者は仕事や生活への影響を最小限にできます。また、弁護士は過去の裁判例や見逃されがちな修正要素を踏まえて主張・立証するため、過失割合が有利に修正される可能性もあります。
さらに、「弁護士基準」による損害賠償金の請求が可能となるため、賠償額が増額される見込みも高まります。過失割合で揉めている場合は、交通事故に精通した弁護士へ早めに相談することをおすすめします。
交通事故の過失割合について揉めた場合は、お早めに弁護士にご相談ください
以上のとおり、過失割合は最終的に受け取る賠償金額に直結するため、相手方保険会社の提示に安易に応じるべきではありません。
なぜ過失割合でもめやすいのか、また対処法についてもご理解いただけたかと思います。
過失割合の主張・立証には、事故状況の分析や専門的な判断が不可欠であり、被害者ご自身で十分に対応するのは難しい場合が多くあります。
そのため、交通事故案件を多数扱う経験豊富な弁護士に依頼し、より納得のいく解決を目指すことをおすすめします。過失割合でお困りの方は、ぜひ弁護士法人ALGへお気軽にご相談ください。

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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
