
監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
目次
離婚の公正証書とは
離婚の際に夫婦間で合意した養育費や財産分与などの取り決めを、法的な効力を持つ文書として残すために作成されるのが離婚の公正証書です。
公正証書は、公証役場で公証人が作成する公文書であり、強い証明力と執行力を持つことが特徴です。公正証書の特徴によって、離婚後のトラブルを未然に防ぎ、特に養育費などの継続的な支払いを確実にする役割があります。
公正証書の必要性
公正証書は、離婚後の養育費や慰謝料などの不払いを防ぐために非常に重要となります。
公正証書に「強制執行認諾文言」といった文言を記載することで、万が一相手が支払いを怠った場合、裁判の手続きを経ることなく強制執行を行うことが可能になります。
私的な合意書や口約束では法的な強制力が弱いため、将来的なリスクを回避するためにも、公正証書の作成を強く推奨します。
離婚時に公正証書を作成する手順と費用について
離婚の公正証書を作成するためには、いくつかの手順と費用が発生します。
まず、夫婦間で話し合いを行い、離婚の条件について合意を形成することが前提となります。次に、必要書類を準備し、公証役場にて公証人と面談を行います。
その後、合意内容に基づき公正証書が作成されます。
詳細は下記のとおりです。
作成にかかる費用
公正証書の作成費用は、公正証書に記載する養育費や慰謝料などの合計額(目的価額)に応じて決まります。具体的な手数料は、以下の表の通りです。
目的価額(養育費の総額) | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17,000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23,000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29,000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 43,000円に超過額5000万円までごとに13,000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 95,000円に超過額5000万円までごとに11,000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 249,000円に超過額5000万円までごとに8,000円を加算した額 |
引用元:日本公証人連合会(https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow12)
上記の表に加えて、郵送費用や戸籍謄本などの書類取得費用も別途かかります。
①公正証書の作成に必要な書類
公正証書の作成には、以下の書類が必要となります。
- 当事者双方の本人確認書類:運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなど
- 実印と印鑑登録証明書:3カ月以内に発行されたものが必要となることが多いです
- 戸籍謄本:夫婦の婚姻関係と離婚の事実を確認するために必要です
- 不動産登記簿謄本や固定資産評価証明書:財産分与に不動産が含まれる場合
- その他:年金分割のための情報通知書など、記載内容に応じて必要な書類が異なります
これらの書類は、公正証書に記載する内容によって追加で求められることがあります。
②公証人役場の公証人と面談
必要書類を準備したら、事前に予約した公証人役場で公証人と面談を行います。この面談では、夫婦が合意した内容を公証人に伝え、公正証書の原案を作成してもらいます。
当事者双方が公証人役場に出向くのが原則ですが、一方が都合が悪い場合は、委任状を作成して代理人に依頼することも可能です。
公証人は、中立な立場で公正証書の作成を進めてくれるため、安心して相談できます。
③公正証書の作成
公証人との面談後、合意内容が反映された公正証書の原案が作成されます。原案に目を通して内容に間違いがないか確認し、問題なければ署名・捺印を行います。
これにより、正式に公正証書が完成します。完成した公正証書は原本が公証役場に保管され、当事者には正本と謄本が交付されます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
公正証書に記載すべき内容
公正証書に記載する内容は、離婚後の生活に直結するため、詳細かつ明確に定めることが重要です。
以下に、記載すべき主な項目を挙げます。
なお、例では、当事者を甲と乙として表記します。
離婚への合意
まず、夫婦が離婚することに合意している旨を明確に記載します。これにより、将来的に離婚の事実自体が争点になることを防ぎます。
例:「甲と乙とは互いに、甲と乙が離婚をすることに同意する。」
親権者について
未成年の子どもがいる場合、どちらが親権者になるかを定めます。親権は、子どもの監護・教育、財産管理など、子どもに関わる全ての決定権を持つ重要な権利です。
子どもが複数人いる場合には、それぞれの親権者が誰であるかを明記するようにしてください。
例:「甲と乙の間の長男〇〇(令和〇年○月○日生)及び長女〇〇(令和○年○月○日生)の親権者をいずれも母である乙と定め、乙において監護養育する。」
養育費の支払い
養育費は、子どもの生活費として支払われるものですので、子どもの成長の上で欠かせないものです。支払いの期間(いつからいつまで)、金額、支払い方法(振込先口座など)など、詳細に記載します。
また、将来的な金額変更の可能性についても言及しておくと良いです。
例:「(1) 甲は、乙に対し、甲と乙との間の未成年者の〇〇の養育費として、令和〇年○月から長男が満20歳に達する日の属する月まで、毎月末日限り金○万円を、〇〇銀行〇〇支店の乙名義の普通預金口座(口座番号〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。
(2) 長男の進学、病気、事故等の事由により特別の出費を要する場合は、その負担につき甲乙間で別途協議定める。」
面会交流
親権を持たない親と子どもが定期的に会うための取り決めです。面会頻度(月に1回など)、時間、交流場所、引渡方法などを具体的に記載することで、スムーズな交流を促します。
例:「(1) 乙は、甲に対し、甲が甲乙間の長男と月〇回程度、毎月第〇土曜日の午前○時から午後○時まで、面会することを認める。
(2) 前項の面会につき、乙は〇〇駅東口改札付近で長男を甲に引渡、甲は終了時間に同場所で長男を乙に引き渡す。」
慰謝料
離婚の原因となった有責行為(不貞行為など)に対する慰謝料の支払いについて定めます。
支払いの有無、金額、支払い方法、支払い期日を明確に記載することで、後々のトラブルを防ぎます。
例:「(1) 甲は、乙に対し、本件離婚に伴う慰謝料として金○万円の支払い義務があることを認める。
(2) 甲は、乙に対し、前項の金員を、令和〇年○月○日限り、〇〇銀行○〇支店の乙名義の普通預金口座(口座番号〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。」
財産分与
夫婦の共同財産(預貯金、不動産、自動車など)をどのように分けるかを記載します。
それぞれの財産について、誰が何をどれだけ取得するのか、金額や分与方法を具体的に定めます。
例:「甲は、乙に対し、本件離婚に伴う財産分与として、金〇万円を支払うことを約し、これを令和〇年〇月〇日限り、〇〇銀行○〇支店の乙名義の普通預金口座(口座番号〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。」
年金分割
婚姻期間中に夫婦が支払った厚生年金や共済年金を分割する取り決めです。公正証書に記載することで、年金分割の割合を合意し、将来の老後の生活を安定させるのに役立ちます。
この点について、特に合意分割を行う場合には離婚協議書等の作成が必要となりますので、記載いただくことが望ましいと思われます。
なお、年金分割制度の具体的な内容につきましては、弊所サイト上で詳細にお話させていただいているものもございますので、ご確認ください。
例:「甲乙間の別紙年金分割のための情報通知書記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を、0.5と定める。」
公正証書を作成することへの合意(強制執行受諾文言)
上記のとおり、相手方が金銭の支払いに応じない場合には「強制執行認諾文言」といった文言を記載することで、万が一相手が支払いを怠った場合、裁判の手続きを経ることなく強制執行を行うことが可能になります。
そのためにも、公正証書を作成する際には強制執行受諾文言を記載するようにしましょう。
例:「甲は、本合意書に定める金銭債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。」
清算条項
離婚に際して、公正証書に記載された内容以外には、お互いに金銭的な請求権が存在しないことを確認する条項です。これにより、相手方からの将来的な予期せぬ請求を防ぐこととなり、突発的なトラブルが発生しにくくなります。
例:「甲と乙は、本件離婚に関し、本合意書に定めるほか、何らの債権債務関係がないことを相互に確認する。」
公正証書に書けないことはあるか
公正証書は、公証人が法律に基づいて作成する公文書であるため、法律に違反する内容や公序良俗に反する内容は記載できません。
例えば、不当に高額な慰謝料や、子どもの福祉に反するような面会交流の取り決めは、公正証書に記載することはできません。
また、確定していない事実や、法律上の効果を持たない単なる覚書のような内容は、公正証書にすることが難しい場合があります。
離婚の公正証書は弁護士にお任せください
離婚公正証書は、以上でご説明させていただいたとおり、ご自身で作成することも可能でございます。
しかし、記載内容が不十分である場合など、公証役場では当事者双方のより良い形での公正証書の作成を促すことはないことが多いです。
そのため、公正証書の内容に不十分なところがあるか確認したい、ご自身に最大限有利な内容を公正証書に入れたいなどのご希望がございましたら、弁護士に相談することをおすすめいたします。
弊所では、離婚事件を多く取り扱っておりますので、お気軽にご相談ください。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)