【書類送検されたら前科がつく?前科と書類送検の関係】
ニュース等で「容疑者が書類送検された」という報道に触れる機会は少なくありません。
この「書類送検」という手続が、具体的にどのようなものであり、自身の将来にどのような影響を及ぼし得るのかを正確に理解されている方は、多くはないのではないでしょうか。
書類送検とは、逮捕とは異なるものですが、決して軽微な手続であると断定することはできません。
本稿では、弁護士が、書類送検の法的な意味合いや、しばしば混同されがちな前科との関係性について、分かりやすく解説いたします。
目次
書類送検とは
書類送検とは、法律上の正式な用語ではありませんが、一般に、警察が犯罪の捜査を遂げた事件について、被疑者の身柄を拘束しないまま、関係書類や証拠物のみを検察官に送致する手続を指す報道上の用語です。
刑事訴訟法第246条本文は、司法警察員が犯罪の捜査をしたときは、原則として速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならないと定めており、これを全件送致主義といいます。
被疑者の身柄を拘束した上で送致する「身柄送致」に対し、身柄を拘束せずに行われる送致が、俗に「書類送検」と呼ばれているのです。
このように身柄拘束を伴わない事件は「在宅事件」として扱われ、被疑者は日常生活を送りながら、捜査機関からの呼び出しに応じて取調べを受けることになります。
在宅事件は長期化する可能性も。呼び出しや示談など在宅捜査中の注意事項書類送検されたら前科がつくのか
書類送検されたという事実のみをもって、直ちに前科がつくことはありません。
あくまで書類送検は、警察から検察官へ事件を引き継ぐための一連の手続に過ぎず、この段階ではいまだ有罪か否かの判断は下されていないからです。
前科とは、刑事裁判において有罪判決が確定した事実を指しますので、書類送検後、検察官が起訴し、裁判を経て有罪が確定して初めて前科がつくことになります。
書類送検されるのはどんな時?
書類送検は、被疑者が逮捕されていない、いわゆる在宅事件において行われます。
逮捕は、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がある場合に加え、刑事訴訟規則第143条の3に規定されるとおり、被疑者が逃亡するおそれや証拠を隠滅するおそれといった「逮捕の必要性」が認められるときに行われる身柄拘束処分です。
したがって、事案が比較的軽微であったり、被疑者の身元が確かで定職に就いていたり、あるいは被害者との間で示談が成立しており、逃亡や証拠隠滅のおそれがないと捜査機関が判断した場合には、逮捕されずに書類送検となる可能性が高まります。
書類送検後の捜査で起訴されると前科がつく
書類送検後、検察官が事件を起訴し、刑事裁判において有罪判決が確定した場合には、前科がつきます。
日本の刑事裁判における有罪率は99.9%以上と極めて高い水準にあり、これは検察官が有罪判決を得られると確信した事件のみを起訴しているためです。
したがって、検察官によって起訴された場合、事実上、極めて高い確率で有罪となり、前科がつくことを覚悟しなければなりません。
不起訴になっても前歴は残る
検察官が起訴しないという判断、すなわち不起訴処分となれば、刑事裁判は開かれないため、前科がつくことはありません。
しかし、前科とは別に「前歴」というものが存在します。
前歴とは、犯罪の被疑者として捜査の対象となった事実そのものを指すため、書類送検された時点で捜査対象となっている以上、たとえ不起訴処分に終わったとしても、捜査機関の記録として前歴は残ることになります。
前歴とは?前歴は消せるのか、回避するには逮捕も書類送検もされなければ前科はつかない
警察が捜査した事件は、原則として全て検察官に送致されますが(全件送致主義)、これには例外が存在します。
刑事訴訟法第246条ただし書及び犯罪捜査規範第198条には、検察官があらかじめ指定した極めて軽微な犯罪については、警察限りで事件を終結させることができる「微罪処分」という制度が定められています。
微罪処分となれば、事件は検察官に送致されることなく、つまり書類送検されることなく手続が終了するため、処罰を受けることはなく、前科がつくこともありません。
書類送検を免れるケース
書類送検を免れる、すなわち微罪処分として処理されるのは、犯罪捜査規範第198条に定められた、ごく限られた軽微な事案に限られます。
具体的には、窃盗、詐欺、横領といった財産犯の中でも被害額が極めて僅少であること、犯行の態様が悪質でなく、かつ偶発的であること、被害が回復され、被害者が被疑者の処罰を望んでいないこと、そして被疑者に再犯のおそれがないこと等の条件を総合的に考慮して判断されます。
例えば、店舗で万引きをしたものの、店長に謝罪し、商品の代金を支払い、被害届を出さない旨の合意が得られたようなケースがこれに該当し得ます。
書類送検を免れるには被害者との示談が必須
微罪処分となるための重要な要件の一つに、被害の回復と被害者の宥恕(処罰を望まない意思)があります。
これらを充足するためには、被害者との間で謝罪と賠償を尽くし、示談を成立させることが事実上不可欠です。
事件の極めて早い段階で示談を成立させることができれば、書類送検自体を回避できる可能性が生じます。
そのためには、迅速かつ適切な対応が求められるため、早期に弁護士へ相談し、対応を協議することが肝要です。
書類送検されてしまった場合の対処
既に書類送検されてしまった場合、弁護活動の目標は、検察官による不起訴処分を獲得することにあります。
検察官が起訴・不起訴を判断するにあたっては、刑事訴訟法第248条の規定により、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況といった一切の事情が考慮されます。
中でも、被害者の処罰感情の有無と被害回復の状況は、極めて重要な要素です。
したがって、不起訴処分を得るためには、被害者との間で真摯に示談交渉を行い、宥恕を含む示談を成立させることが最も有効な弁護活動となります。
もっとも、加害者本人が被害者と直接交渉することは、被害者感情を逆撫でしかねず、困難を伴う場合が多いため、専門家である弁護士を介して交渉を進めることが賢明です。
前科がついてしまうと仕事や生活への影響が大きい
万が一、書類送検後に起訴され、有罪判決が確定して前科がついた場合、その影響は社会生活の様々な側面に及びます。
例えば、特定の職業(弁護士、公務員等)においては、前科が欠格事由となり、その職に就くことができなくなります。
また、一般企業への就職活動においても、履歴書の賞罰欄への記載義務が生じ、採用において不利益な判断を受ける可能性があります。
さらに、海外への渡航に際し、ビザの発給が制限される国も存在するなど、その影響は決して軽微なものではありません。
前科が及ぼす影響書類送検された際に弁護士に依頼するメリット
書類送検される事件は、比較的軽微なものが多いとはいえ、前述のとおり、起訴されれば極めて高い確率で前科がつくことになります。
前科による不利益を回避するためには、不起訴処分を獲得することが最善の道です。
弁護士に依頼することで、被害者との間で適切な内容の示談を迅速に成立させられる可能性が高まるだけでなく、被疑者に有利な事情をまとめた意見書を検察官に提出するなど、不起訴処分に向けた専門的な活動が期待できます。
書類送検された段階で速やかに弁護士に相談することが、将来にわたる不利益を最小限に食い止めるための鍵となります。
この記事の監修
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埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。