監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
内縁関係、いわゆる「事実婚」の状態であっても、法律上の婚姻関係に準ずるものとして、一定の法的保護が与えられています。
そのため、内縁関係が不当に破棄された場合や、内縁の配偶者に不貞行為があった場合など、特定の状況下では慰謝料を請求することが可能です。
しかし、婚姻届を提出している法律婚とは異なり、まず「内縁関係にあったこと」を証明する必要があるなど、慰謝料請求のハードルが高い側面もあります。
本記事では、内縁関係における慰謝料請求に焦点を当て、請求が認められるケースと認められないケース、慰謝料の相場、請求に必要な条件や具体的な方法について、弁護士が詳しく解説します。
目次
内縁関係とは
内縁関係とは、一般に「お互いに婚姻の意思を持ち、夫婦としての共同生活の実態があるものの、婚姻届を提出していないために法律上の夫婦とは認められない関係」を指します。
当事者間に「婚姻の意思」があり、「夫婦共同生活」の実態が伴っている点が重要です。
近年では、婚姻届の提出という形式にこだわらない結婚の形として「事実婚」と呼ばれることも多く、両者はほぼ同様の意味で用いられています。
法律婚ではありませんが、判例上「婚姻に準ずる関係(準婚関係)」として、一定の法的保護の対象とされています。
内縁関係と同棲の違い
内縁関係と「同棲」との最も決定的な違いは、「婚姻意思の有無」にあります。
内縁関係が成立するためには、当事者双方が将来的に婚姻届を提出する意思、あるいは夫婦として生涯を共にするという明確な意思を持っていることが必要です。
これに対し、同棲は、単にカップルが生活上の便宜などのために共同生活を送っている状態を指す場合も含まれ、必ずしも婚姻の意思を伴うとは限りません。
したがって、お互いに婚姻意思がなく、家計も別々であるような場合は、単なる同棲に過ぎず、内縁関係とは認められません。
内縁関係で慰謝料請求できるケース
内縁関係は、判例上「婚姻に準ずる関係」として、法律婚に準じた法的保護が与えられています。
そのため、法律婚の夫婦間で慰謝料請求が認められるような、権利を侵害する不法行為があった場合には、内縁関係であっても慰謝料を請求できる可能性があります。
ただし、慰謝料請求の前提として、当事者間に有効な「内縁関係」が成立していたことを証明する必要があります。
不貞行為
内縁関係にある当事者間においても、法律婚の夫婦と同様に、互いに貞操義務を負うものと解されています。
貞操義務とは、配偶者以外の者と性的な関係(肉体関係)を持ってはならないという義務です。
したがって、内縁の配偶者がこの貞操義務に違反して不貞行為を行った場合、それは不法行為に該当し、精神的苦痛を受けたもう一方の配偶者は、不貞行為を行った配偶者に対して慰謝料を請求することができます。
また、不貞行為の相手方に対しても、故意または過失がある場合には、共同不法行為者として慰謝料を請求することが可能です。
正当な理由なく内縁関係を解消・破棄された
内縁関係は「婚姻に準ずる関係」として法的に保護されているため、法律婚における離婚と同様、正当な理由なく一方的に内縁関係を解消・破棄することは不法行為に該当し、慰謝料請求の対象となります。
ここでいう「正当な理由」とは、基本的には民法第770条第1項に定められている法定離婚事由に準ずると考えられています。
具体的には、①相手方の不貞行為、②悪意の遺棄、③3年以上の生死不明、④回復見込みのない強度の精神病、⑤その他婚姻(内縁)を継続し難い重大な事由、がこれにあたります。
したがって、これらの事由に該当しないにもかかわらず、「他に好きな人ができたから」「性格が合わないと感じたから」といった理由で一方的に関係を破棄された場合には、不当破棄として慰謝料を請求できる可能性が高いといえます。
既婚者であることを隠して内縁関係になった
内縁関係を結んだ相手が、実は既婚者であった、いわゆる「重婚的内縁」のケースです。
この場合、相手が既婚者であると知りながら内縁関係を結んだのであれば、その関係は公序良俗に反するものとして原則として法的保護を受けられず、慰謝料請求も認められません。
しかし、相手方が既婚者である事実を意図的に隠しており、こちらがその事実を知らずに内縁関係に入った場合には、貞操権(誰と性的な関係を持つかを自由に決定する権利)を侵害されたとして、相手方に対して不法行為に基づく慰謝料を請求することが認められる可能性があります。
一方的な別居
法律婚の夫婦は、民法上、互いに同居し、協力し、扶助する義務(同居義務、協力義務、扶助義務)を負っています。内縁関係も「婚姻に準ずる関係」である以上、これらと同様の義務を負うものと考えられています。
したがって、内縁の配偶者が、合理的な理由(例:DVからの避難、単身赴任など)がないにもかかわらず、一方的に同居を解消して別居した場合は、同居義務違反に該当する可能性があります。
さらに、生活費を送金しないなどの状況が伴えば、法定離婚事由の一つである「悪意の遺棄」にも該当し得、不法行為として慰謝料請求の対象となる場合があります。
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内縁関係で慰謝料請求できないケース
内縁関係において慰謝料請求が認められないのは、基本的には法律婚において慰謝料請求が認められないケースと同様です。
例えば、相手の不貞行為を理由に慰謝料を請求しようとしても、それを裏付ける客観的な証拠が乏しい場合や、不貞行為が発覚した時点ですでに内縁関係が破綻していたと認められる場合などです。
また、内縁関係特有の事情として、相手が既婚者であると知りながら内縁関係を継続していた「重婚的内縁」の場合、公序良俗違反として原則として法的保護が受けられません。
さらに、そもそも「内縁関係」自体の成立が証明できない場合も、慰謝料請求は困難となります。
内縁関係の慰謝料相場
内縁関係の慰謝料相場は、請求の理由にもよりますが、法律婚の離婚慰謝料とおおむね同等であり、数十万円から300万円程度とされています。
内縁関係も「婚姻に準ずる関係」として法的に保護されるため、不法行為によって生じた精神的苦痛に対する賠償という点では、法律婚と大きな差は設けられていません。
ただし、これはあくまで目安であり、実際の金額は内縁期間の長さ、子供の有無、不法行為の態様や悪質性など、個別の事情によって大きく変動します。
| 請求理由 | 慰謝料相場 |
|---|---|
| 浮気(不貞) | 50万円~300万円 |
| 一方的な関係の破棄 | 数十万円~300万円 |
| 重婚的内縁 | 数十万円~300万円 |
| 一方的な別居 | 数十万円~300万円 |
内縁期間の長さは慰謝料額に影響する?
内縁関係の期間の長さは、慰謝料の金額を算定する上で重要な考慮要素の一つとなります。
一般的に、内縁期間が長ければ長いほど、関係破綻によって受ける精神的苦痛はより大きいと判断される傾向にあります。
例えば、15年間連れ添った内縁の配偶者による不貞行為と、1年間の内縁関係における不貞行為とでは、前者の方が、精神的ダメージが大きいと評価される可能性が高いでしょう。
ただし、慰謝料額は内縁期間だけで決まるわけではなく、不法行為の悪質性、有責性の程度、未成年の子の有無、支払い側の資力など、他の様々な事情も総合的に考慮されて最終的に判断されます。
内縁関係の慰謝料請求に必要な条件
内縁関係において配偶者に慰謝料を請求するためには、大きく分けて二つの条件を証明する必要があります。
第一に、当事者間に「内縁関係が有効に成立していたこと」の証明です。
婚姻届を提出していないため、この点がしばしば争点となります。
第二に、「相手方の不法行為の存在」の証明です。
例えば、不貞行為があったこと、正当な理由なく一方的に関係を破棄されたこと、DVやモラハラがあったことなどを、客観的な証拠に基づいて立証しなければなりません。
これら二つの証明ができて、はじめて慰謝料請求が法的に認められることになります。
内縁関係を証明するには
内縁関係の存在は、慰謝料請求の前提として極めて重要です。
なぜなら、相手方から「内縁関係ではなく、単なる同棲だった」と反論されるケースが少なくないからです。
内縁関係を証明するためには、①婚姻意思の存在と、②夫婦共同生活の実態を、客観的な証拠をもって示す必要があります。
具体的な証拠としては、住民票の続柄欄の記載(「妻(未届)」「夫(未届)」など)、賃貸借契約書(連名契約や同居人としての記載)、健康保険証(被扶養者となっている場合)、長期間の同居の事実、周囲の知人や親族から夫婦として扱われていた事実、結婚式を挙げた証拠(写真や招待状)などが挙げられます。
内縁関係証明について詳しく見る不貞等の証拠を集める方法
内縁の配偶者による不貞行為などの不法行為を理由に慰謝料を請求する場合、その事実を裏付ける客観的な証拠が不可欠です。
証拠収集の方法としては、ご自身で収集する方法と、探偵(興信所)に調査を依頼する方法があります。
主な証拠としては、ラブホテルに出入りする場面の写真や動画、肉体関係があったことを推認させるメールやLINE、SNSのやり取り、ラブホテルや宿泊施設の領収書、クレジットカードの利用明細、交通系ICカードの履歴などが考えられます。
一つの証拠だけでは弱くとも、複数の証拠を組み合わせることで、不貞行為の事実を強固に立証できる場合があります。
内縁の夫・妻に慰謝料請求する方法
内縁の夫または妻に対して慰謝料を請求する具体的な方法としては、まず、当事者間で直接話し合い(交渉)を行うのが一般的です。
ここで慰謝料の金額や支払方法について合意ができれば、その内容を合意書(可能であれば公正証書)として残しておくとよいでしょう。
話し合いで解決しない場合や、相手が交渉に応じない場合は、家庭裁判所に「内縁関係調整調停」を申し立て、調停委員を介して話し合う方法があります。
調停でも合意に至らない場合は、最終的に地方裁判所に慰謝料請求訴訟(裁判)を提起し、裁判所の判決によって解決を図ることになります。
離婚慰謝料を請求する方法について詳しく見る内縁関係の慰謝料請求は弁護士にご相談ください
内縁関係の慰謝料請求は、法律婚のケースと比較して、まず「内縁関係の成立」自体を立証しなければならないという点で、難易度が高いといえます。
また、相手方から関係性を否認されることも多く、法的な主張や証拠収集を適切に行う必要があります。
弁護士にご相談いただければ、内縁関係を証明するためにどのような証拠が有効か、慰謝料請求が認められる可能性はどの程度かについて、法的な見地から具体的なアドバイスが可能です。
相手方との交渉や、調停・裁判といった法的手続きの代理も一任できるため、ご自身の精神的な負担を軽減し、適正な慰謝料の獲得を目指すことができます。
ご自身だけで悩まれず、まずは、弁護士に相談されることをおすすめします。

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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
