監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
交通事故に遭い、治療を続けても症状が改善せず、いわゆる「後遺症」が残ってしまった場合、適切な補償を受けるために「後遺障害等級」の認定を受ける必要があります。
特に最も認定件数の多いとされる後遺障害等級14級9号は、「局部に親権症状を残すもの」として認定されることが多く、適切な慰謝料を得るためには、認定条件や相場を正確に理解しておくことが不可欠です。
本記事では、後遺障害14級の慰謝料相場、具体的な症状、そして認定のポイントについて、弁護士の視点から詳しく解説します。
目次
後遺障害等級14級の慰謝料の相場はいくら?
後遺障害等級14級における「後遺障害慰謝料」の相場は、どの算定基準を用いるかによって大きく変動します。慰謝料には主に3つの基準があり、提示される金額が異なります。
具体的には、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判所基準)になります。
被害者が適正な補償、すなわち最も高額な慰謝料(弁護士基準)を得るためには、弁護士による交渉または裁判手続きが必要となるケースがほとんどです。
慰謝料は増額できるのか
結論からいえば、後遺障害慰謝料は増額できる可能性があります。
特に、保険会社が当初提示してくる金額は「任意保険基準」または「自賠責保険基準」をベースとしていることが多く、これは最も高額な「弁護士基準(裁判所基準)」と比べて大幅に低い水準です。
適正な慰謝料額は、後遺障害14級の場合で110万円が目安となります。
この金額を獲得するためには、弁護士に依頼して裁判所が認める基準に基づく交渉を行うか、訴訟を提起することが有効な手段となります。
後遺障害等級14級の症状と認定されるための条件
後遺障害等級14級には、全部で9つの症状が定められています。
そのうち最も件数が多いのが「14級9号:局部に親権症状を残すもの」ですが、その他の症状についても確認しておきましょう。
| 等級 | 後遺障害の症状 |
|---|---|
| 14級1号 | 1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの |
| 14級2号 | 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
| 14級3号 | 1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの |
| 14級4号 | 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
| 14級5号 | 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
| 14級6号 | 1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの |
| 14級7号 | 1手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの |
| 14級8号 | 1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの |
| 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
14級1号:片目のまぶたの一部欠損、またはまつげはげ
後遺障害14級1号は、「1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの」とされています。
具体的な基準としては、「瞼の組織の一部が欠けたり、失われたりした場合」や「まつ毛の生え際に傷が残り、まつげの半分以上を欠損した場合」などが該当します。
視力そのものに影響がない場合でも、美容的な観点や、眼球保護機能のわずかな低下が認められる場合に認定されます。
14級2号:歯3本以上の歯科補綴
後遺障害14級2号は、「3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」と定められています。
交通事故によって3本以上の歯を失ったり、大きく損傷したりした結果、入れ歯、差し歯、ブリッジ、インプラントといった歯科補綴(ほてつ:失われた歯の機能や形態を補う治療)を行った場合に認定対象となります。
認定を受けるためには、事故との因果関係が明確な事、そして補綴治療が完了していることが重要です。
14級3号:聴力が落ちた
後遺障害14級3号は、「1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの」と規定されています。
これは、通常の会話では問題ないものの、小さな声(小声)での聞き取りに支障が出るレベルの聴力低下が一方の耳に生じた場合を指します。
具体的には、平均聴力レベルが30dB以上40dB未満に相当する場合が該当します。
認定には、耳鼻咽喉科での精密な聴力検査の結果が必要となります。
14級4号:上肢の露出面に手のひら大の傷跡
後遺障害14級4号は、「上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」と規定されています。
ここでいう上肢の露出面とは、上腕から前腕にかけての部分を指し、傷跡(醜状痕)の大きさが「てのひらの大きさ」以上であることが条件となります。
手のひらの大きさとは、原則として被害者本人の手のひら(指を除く)の面積に相当します。
この等級は、機能的な障害ではなく、外見上の障害(醜状障害)に対するものです。
14級5号:下半身の露出面に手のひら大の傷跡
後遺障害14級5号は、「下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」と規定されています。
下肢の露出面とは、膝から下の部分などを指し、傷跡(醜状痕)の大きさが「てのひらの大きさ」以上であることが認定の条件です。
上肢と同様に、手のひらの大きさは被害者本人の手のひら(指を除く)の面積が目安となります。
これも機能的な障害ではなく、外見上の醜状障害に対する認定基準です。
14級6号:片手の親指以外の指の骨の一部を失った
後遺障害14級6号は、「1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの」と定められています。
具体的には、親指を除く人差し指、中指、薬指、小指のいずれかの指について、指の骨(指骨)の一部が欠損した場合が該当します。
たとえわずかな骨の欠損であっても、指先の機能や外観に影響を及ぼす場合に認定されます。
骨の一部欠損は、レントゲンやCTなどの画像診断によって確認される必要があります。
14級7号:片手の親指以外の指の第一関節を屈伸することができなくなった
後遺障害14級7号は、「1手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの」と規定されています。
遠位指節間関節(DIP関節)とは、指先の第一関節のことです。
この関節の動きが、正常な可動域の2分の1以下に制限されてしまった場合に認定されます。
これは指の機能障害であり、関節の動きを計測する他覚的所見(医師による客観的な所見)が認定の決め手となります。
14級8号:片足の中指・薬指・小指のうち1~2本の用を廃した
後遺障害14級8号は、「1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの」と定められています。
第3の足指以下とは、足の中指、薬指、小指を指します。
これらの指のうち1本または2本について、機能が完全に失われた(用を廃した)場合に認定されます。
「用を廃した」とは、指の関節が固まって動かない、または指の切断によって一部が失われた状態などを指します。歩行機能に重大な支障がない程度の軽微な足指の障害が対象となります。
14級9号:局部に神経症状が残った
後遺障害14級9号は、「局部に神経症状を残すもの」と規定されており、むちうちなどの神経症状で最も多く認定される等級です。
具体的には、首や腰の痛み、しびれ、めまい、頭痛などが該当します。この等級の認定で重要となるのは、「症状が一貫して継続しており」、かつ「症状を医学的に説明できること」です。
MRIなどの画像所見がなくても、一貫性のある症状経過と、治療経過から神経系統の障害が推認できる場合に認定される可能性があります。
まずは交通事故事件専属のスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
14級に認定されるためのポイント
後遺障害14級、特に最も件数の多い14級9号(神経症状)の認定を受けるためには、以下の5つのポイントを特に意識した対応が重要となります。
交通事故と症状の因果関係が明らかであること
後遺障害の認定を受ける大前提として、交通事故という出来事と、その後に残った症状との間に明確な因果関係が証明できる必要があります。
特にむちうちなどの神経症状では、事故の態様(衝突の程度など)から医学的に症状が発生することが妥当であると判断されることが重要です。
診断書や診療録(カルテ)に、事故直後から症状に関する記載が一貫して残っていることが、因果関係を裏付ける重要な証拠となります。
事故直後から定期的な病院への通院を継続している
症状が残存していることを客観的に示すためには、事故直後からの継続的かつ定期的な通院が不可欠です。
通院頻度が低い場合や、途中で長期間のブランクがある場合、「症状は軽度であった」「治療の必要性が低かった」と判断され、後遺障害の認定が難しくなる可能性があります。
症状が固定する(それ以上改善が見込めない状態になる)までの期間、医師の指示に従い、少なくとも月に10日程度の頻度で通院することが望ましいとされています。
事故直後から症状が一貫して継続している
症状の訴えに「一貫性」があることが、後遺障害14級9号の認定の鍵となります。
事故直後に訴えた痛みやしびれなどの部位や性質が、治療期間を通して大きく変化することなく継続している必要があります。
例えば、当初は首の痛みだけだったのに、後から急に腰の痛みを強く訴え始めるなど、症状の訴えが不安定な場合、後遺障害診断書の信憑性が疑われ、認定が不利になる可能性があります。
症状がそれなりに重篤で、日常生活において慢性的に生じている
残存している症状が、単なる「違和感」程度ではなく、日常生活や労働に支障をきたす程度の「重篤性」を持っている必要があります。そして、その症状が一時的なものではなく、治療を継続しても改善しない「慢性的なもの」であることが求められます。
症状の具体的な内容や、それによって生じている日常生活上の不便を詳細に記録し、医師に正確に伝えることが、重篤性と慢性性を裏付ける上で重要です。
症状を医学的に説明することが可能である
後遺障害の認定では、被害者の自覚症状だけでなく、その症状を裏付ける医学的な根拠、すなわち「他覚的所見」が重要視されます。
14級9号の場合、MRIなどの画像所見(器質的損傷)がなくても、神経学的検査の結果(例えば、知覚検査や徒手筋力テストなど)や、医師の診察所見から、残存する症状が神経系統の障害によって生じていることを医学的に説明できる必要があります。
治療経過全体を通じて、症状の発生機序が合理的であると判断されることがポイントです。
後遺障害等級14級が認定された事例
会社員Aさんは、追突事故により頸椎捻挫(むちうち)と診断されました。事故直後から首から肩にかけての痛みと、手にしびれを感じ、約6か月間、定期的に整形外科へ通院し、理学療法や投薬治療を受けました。
治療期間中、症状の訴えに一貫性があり、医師も症状の重篤性を認識していました。
最終的に症状固定となり、後遺障害診断書を作成。
画像上、神経を圧迫するような明らかな異常所見はなかったものの、一貫した症状経過と、特定の神経学的検査で異常所見が認められたことから、「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級14級9号が認定されました。
その後、弁護士が介入し、相手方保険会社との交渉の結果、自賠責基準ではなく、弁護士基準で慰謝料を受け取ることができました。
後遺障害等級についてのお悩みは弁護士にご相談ください
後遺障害等級の認定は、適正な賠償金を受け取るための最も重要なステップですが、特に14級9号(神経症状)の認定は医学的知識や手続きの複雑さから、被害者の方ご自身で進めるには非常に困難が伴います。
認定の可否は、提出する資料の質や、治療の過程での対応によって大きく左右されます。また、認定後に保険会社から提示される慰謝料額は、弁護士が介入した場合に比べて大幅に低いことがほとんどです。
適正な後遺障害等級の認定を受け、裁判所基準に基づいた満額の慰謝料を獲得するためには、交通事故案件に精通した弁護士へのご相談をお勧めします。
弁護士は、認定手続きのサポートから、保険会社との賠償交渉まで、被害者の方の権利を守るために尽力いたします。

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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
