監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
被相続人(亡くなった人)が一部の相続人に対して遺贈(遺言に基づく財産の処分)・生前贈与(亡くなる前に行った財産の贈与)・死因贈与(亡くなることを条件とする財産の贈与)をすると、贈与等を得た相続人と贈与等を得ていない相続人が存在することになってしまい、共同相続人の間で不均衡が生じてしまいます。
そこで、民法では、被相続人が行った遺贈・生前贈与を「特別受益」として考慮したうえで共同相続人間の不均衡を是正するべきものとされています(民法903条、904条)。
今回は、この特別受益について分かりやすく解説していきます。
目次
特別受益とは
「特別受益」とは、被相続人からの遺贈・生前贈与・死因贈与(以下「贈与等」といいます。)によって一部の相続人が得た、特別の利益のことをいいます。
このような贈与等においては、遺産分割時にその贈与等による利益を相続財産に加算したうえで、各相続人の相続分を算定しなければならないとされています(民法903条1項)。
この相続財産への計算上の加算を、「特別受益の持戻し」といいます。
特別受益の持戻しを行うことにより、特別受益を相続財産に含めたうえで(計算上、いったんは贈与等をなかったものとして扱う)、共同相続人間の具体的な相続分を計算できるようになるため、贈与等による共同相続人間の不均衡が是正されます。
対象者
「特別受益者」が得た贈与等の利益が、特別受益の持戻しの対象となります。
この「特別受益者」とは、遺産分割の当事者となる共同相続人のうち、被相続人から贈与等により財産を得た者のことをいいます。
つまり、特別受益者は共同相続人に限定されることになるため、被相続人の友人・愛人・相続人の配偶者・相続人の子など、相続人でない人は特別受益者には該当しないため、このような者が得た利益は特別受益の持戻しの対象にはなりません。
※共同相続人
- ①被相続人の配偶者(民法890条)
被相続人の配偶者は、常に相続人になります。 - ②相続順位の最上位に該当する者(民法887条、889条1項)
第1順位:被相続人の子、孫など、被相続人の直系の下の世代(これを「直系卑属」といいます。)。被相続人に近い世代を優先。
第2順位:被相続人の父母や祖父母など、被相続人の直系の上の世代(これを「直系尊属」といいます。)。被相続人に近い世代を優先。
第3順位:被相続人の兄弟姉妹、または兄弟姉妹の直系卑属。被相続人に近い世代を優先。
特別受益と遺留分の違い
相続人間の不均衡が生じた際、特別受益のほかに「遺留分」が問題になることもあります。
両制度は、以下のような違いがあります。
| 特別受益 | 共同相続人の一部の人が、贈与等によって特別に得た利益。 共同相続人間の不公平を是正するための制度。 共同相続人に対する贈与のみが計算の対象。 |
|---|---|
| 遺留分 | 被相続人の、兄弟姉妹及び兄弟姉妹の直系卑属以外の法定相続人に最低限保障された遺産の取得分。 遺された相続人の生活保障のための制度。 共同相続人以外の者に対する贈与等も計算の対象。 |
特別受益の時効
特別受益に時効はありません。
そのため、数十年前に行われた生前贈与であっても、特別受益の持戻しの対象にすることができます。
但し、令和5年4月1日の民法改正により、被相続人がなくなってから10年を経過した後にする遺産分割で、かつ被相続人が令和5年4月1日以降に亡くなっている場合、原則として特別受益の主張ができなくなってしまうようになりました(民法904条の3)。
特別受益の範囲(対象となる贈与)
特別受益の対象となるのは、①遺贈のほか、生前贈与・死因贈与のうち②婚姻のための贈与・③養子縁組のための贈与・④生活の資本としての贈与です(民法903条1項)。
遺贈
遺贈とは、被相続人の遺言に基づいて財産を無償で譲渡することをいいます。
相続人に対する遺贈は、その目的を問わず、常に特別受益の対象となります。
婚姻のための贈与
被相続人が支度金・持参金等の名目で、相続人の婚姻に際して財産を贈与していた場合、その贈与は特別受益の対象となります。
但し、その贈与額が少額で、被相続人の資産及び生活状況に照らして扶養(民法730条)の範囲といえる場合には、特別受益に該当しないと考えられています。
養子縁組のための贈与
養子縁組のための費用についても、上記婚姻のための贈与と同様に持参金や支度金等の名目での相続人に対する財産の贈与は、特別受益の対象となります。
生活費の援助
扶養の範囲を超える高額な生活費の贈与は、生活の資本としての贈与として特別受益に該当する場合があります。
特別受益の対象となる贈与か否かは、贈与額のほか、贈与目的、被相続人の資産・生活状況、被相続人と相続人の関係性など、扶養義務(民法730条)の範囲内かどうかによって判断されます。
不動産の贈与
居住用不動産や土地の贈与、居住用不動産の購入資金、特定の相続人に不動産を無償で使用させていた場合の賃料相当額などは、特別受益の対象となることが多いです。
但し、相続人が被相続人と同居していた場合は、特別受益とは認められない場合が多いです。
また、婚姻期間が20年以上の配偶者の一方に対する不動産の贈与等は、特別受益の持戻し免除の意思表示が推定されることとなっています(民法903条4項)。
学費
原則として、被相続人が扶養義務者である場合、学費の支出は扶養義務(民法730条)の履行に基づくものであるとして、特別受益には該当しません。
但し、被相続人の資産および生活状況等に照らして扶養義務の範囲を超えるものといえる場合には、そのような学費の支出は特別受益の対象となります。
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特別受益の計算方法
特別受益が認められる場合は、特別受益の持戻しを行い、「みなし相続財産」(特別受益の持戻しによって算出された、計算上の相続財産)を算出します。
そのうえで、以下のように具体的な相続分を算出します。
- 特別受益者
みなし相続財産×法定相続分-特別受益文(民法903条1項) - 特別受益を得ていない相続人
みなし相続財産×法定相続分
特別受益の計算例
例えば、被相続人である夫が4000万円の財産を残して亡くなり、相続人が妻、長男、長女の3人の場合で、夫が長男に対し1000万円の土地を生前贈与していた場合を考えてみましょう。
- みなし相続財産
みなし相続財産は、相続財産4000万円に土地の価額1000万円を加算した5000万円になります。 - 各相続人の相続分
法定相続分は、妻が2分の1、長男・長女がそれぞれ4分の1ずつになります(民法900条1号、4号)
| 相続人 | 特別受益を考慮しない場合の相続分 | 特別受益を考慮する場合の相続分 |
|---|---|---|
| 妻 | 2000万円 (4000万円×1/2) |
2500万円 (5000万円×1/2) |
| 長男 | 1000万円 (4000万円×1/4) |
250万円 (5000万円×1/4-1000万円) |
| 長女 | 1000万円 (4000万円×1/4) |
1250万円 (5000万円×1/4) |
特別受益の相続税の計算方法
遺贈・死因贈与に基づく特別受益については、相続税の課税対象となります。
生前贈与に基づく特別受益については、
- 相続時精算課税制度の適用を受けない場合
相続開始前3年以内の贈与は相続税の課税対象となる。それ以前の贈与については、相続税の課税対象にはならず、贈与税の課税対象となる。 - 相続時精算課税制度の適用を受ける場合
制度の適用を開始した時から相続開始時までのすべての生前贈与が相続税の課税対象となる。
特別受益についてわからないことがあれば弁護士にご相談ください
被相続人による贈与等があった場合、それが特別受益に該当するのか、特別受益に該当するとしてどのように持戻しを計算するのか、相手方とどのように交渉していけばいいのかといった点について精確に把握するためには専門家の知識・経験に基づいたサポートが欠かせません。
特別受益について何かわからないことがあれば、お気軽に弁護士法人ALGまでご相談ください。

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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
