遺留分を請求された場合の対処法

相続問題

遺留分を請求された場合の対処法

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

相続人には、遺言書どおりでは遺産が相続できない場合でも、最低限の遺産(遺留分)を得られる権利が保障されています。もし、他の相続人から「遺留分を侵害された」として遺留分侵害額請求をされた場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

請求を受けた場合、まずは冷静に請求内容を確認することが重要です。
請求が法的に正当なものなのか、金額は妥当なのかを見極め、慎重に対応を進める必要があります。

ここでは、遺留分侵害額請求をされた場合の確認事項や対処法について詳しく解説します。

遺留分侵害額請求をされたら、内容をよく確認しましょう

遺留分侵害額請求をされた場合、まずは請求内容をきちんと確認しましょう。

請求者の権利の有無、遺留分が本当に侵害されているか、請求額の妥当性、そして時効が成立していないかなど、確認すべき点は多岐にわたります。
これらの点を一つひとつ丁寧に検討することが、適切な対応への第一歩となります。

請求者に遺留分を請求する権利はある?

まず、請求者に遺留分を請求する権利があるかを確認しましょう。

遺留分が認められているのは、被相続人(亡くなった方)の配偶者、子(またはその代襲相続人である孫など)、そして直系尊属(父母や祖父母など)に限られます。

被相続人の兄弟姉妹や甥・姪には遺留分はありません。
また、相続放棄をした人、相続欠格や相続廃除によって相続権を失った人は遺留分を請求する権利がありません。

請求者がこれらの遺留分権利者に該当するかどうかを最初に確認することが重要です。

遺留分の侵害は事実かどうか

次に、遺留分の侵害が実際に発生しているかを確認します。遺留分侵害額は、遺留分額から、実際に相続で取得した財産の価額を差し引いて計算されます。

遺留分を算定するための財産には、被相続人が亡くなったときに所有していた財産だけでなく、相続人に対して相続開始前の10年間に行われた生前贈与(特別受益)なども含まれます。
これらの財産をすべて洗い出し、請求者の遺留分額と実際に取得した財産額を正確に計算し、本当に遺留分が侵害されているのかを判断する必要があります。

もし、請求者が遺留分額以上の財産をすでに受け取っていれば、遺留分は侵害されていないことになります。

請求された割合は合っている?

請求されている遺留分の割合が正しいかどうかも確認が必要です。

全体の遺留分割合は、相続人が直系尊属(父母など)のみの場合は遺産の3分の1、それ以外の場合は2分の1です。個別の遺留分割合は、この全体の遺留分割合に、各相続人の法定相続分を乗じて算出します。

例えば、相続人が配偶者と子2人の場合、全体の遺留分は2分の1です。
配偶者の法定相続分は2分の1、子の法定相続分はそれぞれ4分の1なので、配偶者の遺留分は4分の1(1/2 × 1/2)、子1人あたりの遺留分は8分の1(1/2 × 1/4)となります。

請求された割合がこの計算と合致しているかを確認しましょう。

遺留分請求の時効を過ぎていないか

遺留分侵害額請求権には時効があります。

具体的には、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しなければ、時効によって消滅します(民法1048条)。
また、遺留分侵害の事実を知らない場合でも、相続開始の時から10年経ったときは同様に権利が消滅します。
そのため、請求がいつ行われたかを確認し、時効が成立しているかを確認する必要があります。

もし時効期間が過ぎている場合は、支払いを拒否できる可能性があります。

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払わなくていいケースでも連絡は必要?

請求内容を確認した結果、時効が成立している、請求者に権利がないなど、遺留分を支払う必要がないと判断した場合でも、請求を無視することは避けるべきです。

無視を続けると、相手方が調停や訴訟といった法的手続きに進む可能性があります。
支払う義務がないと考える場合でも、その根拠を明確に示して相手方に回答しておきましょう。
これにより、無用な紛争の拡大を防ぐことができます。

もし相手が内容証明郵便で請求してきた場合は、回答したという証拠を残しておく意味でも、こちらも書面で回答するのが望ましいです。

遺留分の請求は拒否できないの?

遺留分は法律で認められた相続人の権利であるため、法的に有効な遺留分侵害額請求を全面的に拒否することはできません。

請求を無視したり、単に支払いを拒否したりすると、最終的には調停や訴訟に発展し、裁判所の命令によって支払いを強制される可能性があります。
最悪の場合、財産を差し押さえられることも考えられます。

遺留分は減らせる可能性がある

遺留分自体は存在する場合でも、請求された金額が不当に高い場合は、その金額について争うことは可能です。
ただし、遺産分割で主張できる事情でも、遺留分に関する請求では主張できないものがあるため、注意が必要です。

自身に寄与分がある場合

寄与分とは、被相続人の財産の維持または増加に特別の貢献をした相続人に認められる、相続財産からの割増分のことです。

寄与分がある場合、遺産分割の時には、寄与分が加算されて具体的相続分が増加します。
しかし、残念ながら、遺留分侵害額請求の場面では、支払うべき遺留分額から差し引くことは認められていません。そのため、寄与分の存在は、遺留分を減額させる事情にはなりません。

請求者に特別受益がある場合

請求者である相続人が、被相続人から生前に多額の贈与(特別受益)を受けている場合、その分を考慮して遺留分侵害額を減らせる可能性があります。

もし請求者が遺留分額を超える特別受益を得ていれば、遺留分はすでに満たされていると主張することも可能です。

遺留分を主張する相続人が被相続人からの援助について話していたり、被相続人の通帳や取引履歴をたどると大きな送金や出金があったりする場合には、特別受益が主張できないかを検討してみましょう。

遺産の評価額を争う

遺留分侵害額は、相続財産の評価額を基に計算されます。
特に不動産などは評価方法によって金額が大きく変わることがあります。

請求者が提示する評価額が不当に高い場合は、自身でも市場価格や路線価などを調査した上で減額を主張することが可能です。

相続財産の評価額を適正に見直すことで、結果的に支払う遺留分侵害額を減らせる可能性があります。

遺留分を請求されてお困りのことがあれば弁護士にご相談ください

遺留分侵害額請求への対応は、法律的な知識が不可欠であり、ご自身だけで進めるのは非常に困難です。

請求内容が正当かどうかの判断、特別受益や財産評価の主張、相手方との交渉など、自身では正しいと思ってした対応が、実は間違っていたということも少なくありません。
もし請求を無視すれば、調停や訴訟に発展し、かえって時間的・精神的な負担が増大する可能性があります。

遺留分に関するトラブルでお悩みの場合は、早期に相続問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士に依頼すれば、法的な観点から適切な対応策を提案し、相手方との交渉や法的手続きを代理で行ってくれるため、円満な解決につながりやすくなります。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。