テレワーク中でもセクハラは起きる?「リモートハラスメント」の防止策

コラム

セクシャルハラスメントというと、身体的接触を伴うイメージが強いと考えられます。

そのため、テレワークであれば、必然的に身体的接触はありませんから、セクシャルハラスメントは起こらないのではないかと考えている企業の方も多いのではないでしょうか。

しかしながら、セクシャルハラスメントは、テレワーク中であっても起こり得ます。
今回は、リモートハラスメントのうち、セクシャルハラスメントについてご説明させていただきます。

テレワーク中でも起こり得るセクハラ問題

セクシャルハラスメントは身体的接触を伴わない場合であっても、起こり得ます。

卑猥な発言や、人の性的指向に関する言動が、セクハラに該当し得ますから、テレワーク中であってもセクハラ問題は生じ得ます。

近年急増している「リモートハラスメント」とは?

リモートハラスメントとは、リモートワーク中に生じる各種のハラスメントの総称です。
コロナ禍によって、リモートワークが普及したことに伴い、リモートハラスメントも急増しています。

テレワークで起こりがちなセクハラの具体例

テレワークで起こりがちなセクハラとしては、

  • 画面に映り込んだ衣類など、性的なものと捉える内容に触れる
  • チャットツールで卑猥な発言を行う

等が典型的です。

テレワーク中にセクハラが起きてしまう原因とは?

テレワーク中にセクハラが起きてしまう原因は多々ありますが、以下のようなものが考えられます。

テレワークの就業ルールが確立されていない

テレワークの就業ルールが確立できていないうちに、感染防止のためにやむなくテレワークに踏み切った会社も多いです。

そのため、テレワークでどのように働けばよいのか、十分に労働者に指示できていない会社や、就業ルールが確立できていない会社も多いです。

このような環境では、労働者の不安や不満が生じやすくなるだけでなく、各種ハラスメントが発生しやすくなってしまいます。

テレワークという働き方に適応できていない

コロナ前の対面でのコミュニケーションと異なり、リモートでのコミュニケーションは、チャットやメールなどの言語を主としてコミュニケーションを行わなくてはならない状況にあります。

また、自宅が映り込むなど、プライベート空間との線引きが難しい働き方でもあります。

このような不慣れな働き方から、ついついプライベートに踏み込むような発言を行ってしまうということもテレワーク中にセクハラが発生してしまう原因の一つと考えられます。

仕事とプライベートの切り替えが難しい

リモートワークは、自宅で行う方がほとんどですが、自宅がプライベート空間であるため、仕事との線引きが難しいこともハラスメントが生じやすい一因です。

個人的な空間で仕事を行うことで、部屋の内装や私服が見えてしまい、仕事と関係ないプライベートな話に踏み込んでしまうことで、セクハラが生じてしまうことがあります。

従業員からセクハラ被害の相談を受けらどう対応すべきか?

セクハラを受けたと従業員から相談があった場合には、相談に対する適切な対応を行うことが、事業主には義務付けられています。

また、事実関係を確認し、どのような措置をとるべきかについて検討し、相談者と行為者へのフォロー、再発防止策の検討などもしなければなりません。

相談者の中には、精神的に追い詰められている方も少なくありませんので、まずは、ゆっくり時間をかけて(とはいっても1回50分程度を目安に。聞ききれない場合には次の相談を設定する。)、話を聞かれるべきかと考えます。

テレワーク中のハラスメントが企業にもたらす損失

テレワーク中のハラスメントが企業にもたらす損失としては、人材の流出や生産性の低下が考えられます。

ハラスメントが横行する職場で働きたいという方はいませんし、ハラスメントを受けた場合には生産性が下がるというデータもあります。

ハラスメントは企業にとって百害あって一利なしと言い切って良いため、企業としては適切に対処していく必要があります。

テレワーク中のセクハラを防止するための対策

テレワーク中のパワハラを防ぐために企業がとるべき対策としては、以下のものが考えられます。

社内方針の明確化と周知・啓発

ハラスメントを防ぐためには、トップメッセージ等によって、社内のハラスメントを許さないという方針を明確にし、従業員に周知啓発していくことが考えられます。

セクハラ防止研修の実施

テレワークが新しい働き方であることからか、無自覚にセクシャルハラスメントを行っている人もいると考えられます。

そこで、何がテレワーク中のセクハラに該当するのか、リモートワークで起こりがちなハラスメントの事例等と共に社内研修を実施して、ハラスメントであることの自覚を促し、テレワーク中のハラスメントを防止していくことが考えられます。

テレワークに関する就業ルールの策定

テレワークのルールが曖昧であることから、労働者間での認識の齟齬が生じてしまい、プライベート空間に過度に干渉して、セクハラが生じることもあります。

そのため、社内でテレワ―ク中のルールを策定・明確化することで、ハラスメントが生じやすい環境を是正し、テレワーク中のハラスメントを防止していくことが考えられます。

相談体制の整備

社内研修や、就業ルールの策定だけでなく、ハラスメントが起きてしまった時のことを想定し、ハラスメント相談窓口を予め設置し、周知することも重要です。

法的な義務ということもありますが、相談窓口を設置し、その存在を周知するだけで、会社がハラスメントを許さないという態度が労働者に伝わり、社内方針の明確化と周知・啓発という意味でもハラスメント防止にもつながります。

テレワーク中のセクハラ対策で不安なことがあれば弁護士にご相談ください。

以上のように、テレワークにおいてもセクハラは生じ得ます。

テレワークであっても事業所であっても、職場で生じたセクシャルハラスメントについては、企業に防止措置を採る義務がありますから、テレワークにおいても、セクハラ対策は必須です。

研修や社内ルールの整備は、専門家の助力が必要となってきますから、弁護士などの労務の専門家の協力を求められることを強くお勧めいたします。

埼玉県内でテレワーク中のセクハラ対策でご不安なことがある企業の方は、是非一度弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

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リモートハラスメントとは、コロナウイルスの影響でリモートワークが普及した中で聞くようになったハラスメントです。

テレワークには、通勤時間を減らす等、様々なメリットもありますが、新しい働き方なだけあって、労務管理に難しい側面も生じています。その一つが、近年増加しているリモートハラスメント=テレワーク中のハラスメント問題といえるでしょう。

今回は、リモートハラスメントについてご説明いたします。

近年増加している「リモートハラスメント」とは?

リモートハラスメントとは、リモートワーク中に行われるセクハラ、パワハラなどの各種ハラスメントの総称です。
新型コロナウイルスの影響で、リモートワークが増加したことから、それに伴って、リモートハラスメントも増加しています。

テレワーク中に起こりやすいパワハラの事例

リモートワーク中は、チャットやメールによって同僚や上司部下とコミュニケーションをとることになるため、感情のままにチャットやメールで「仕事できねぇな!」等と暴言を吐いてしまうというケースもあります。

また、そういったツールに慣れていない中高年に対して、使い方を教えないとか、無視するというケースもテレワーク中に起こりやすいパワハラの一例です。

なぜテレワーク中にパワハラが起きてしまうのか?

テレワークの働き方に慣れていない

コロナ前の対面でのコミュニケーションと異なり、リモートでのコミュニケーションは、チャットヤメールなどの言語をメインとすることになります。
このような不慣れなコミュニケーション方法が原因となって、摩擦を生んでしまうことがテレワーク中のパワハラの原因の一つと考えられます。

対面であれば、その場や事後的なコミュニケーションで摩擦を減らすこともできたかもしれませんが、距離が離れていることで、摩擦が大きくなっていくことも多いです。

テレワーク体制や就業規則が整備されていない

テレワーク体制を整備できていないうちに、感染防止のためにやむなくテレワークに踏み切った会社もあり、テレワークでどのように働けばよいのか、十分に労働者に指示できていない会社や、就業規則も整備できていない会社があります。

このような環境では、労働者の不安や不満が生じやすくなりますので、苛立ちからハラスメントが発生しやすくなってしまいます。

仕事とプライベートの線引きが難しい

リモートワークは、自宅で行う方がほとんどですが、自宅がプライベート空間であるため、仕事との線引きが難しいこともハラスメントが生じやすい一因です。
個人的な空間で仕事を行うことで、部屋の内装や私服が見えてしまい、仕事と関係ないプライベートな話に踏み込んでしまう方も多くいます。

テレワークでパワハラが生じることの企業リスク

会社は、ハラスメント防止措置義務を負っていますから、それがテレワークであろうと事業所であろうと、変わらず防止する法的責任があります。
テレワーク中にパワハラが生じた場合、他のパワハラと同様、会社が賠償責任を負うリスクがあります。

「パワハラを受けた」と従業員から相談あったらどう対応すべき?

パワハラを受けたと従業員から相談があった場合には、相談に対する適切な対応を行うことが、事業主には義務付けられています。また、事実関係を確認し、どのような措置をとるべきかについて検討し、相談者と行為者へのフォロー、再発防止策の検討などもしなければなりません。

相談者の中には、精神的に追い詰められている方も少なくありませんので、まずは、ゆっくり時間をかけて(とはいっても1回50分程度を目安に。聞ききれない場合には次の相談を設定する。)、話を聞かれるべきかと考えます。

テレワーク中のパワハラを防ぐために企業がとるべき対策

テレワーク中のパワハラを防ぐために企業がとるべき対策としては、以下のものが考えられます。

パワハラ防止の社内研修を実施する

まず、テレワークが新しい働き方であることからか、無自覚にハラスメントを行っている人も多いです。
特に、パワハラは、業務上必要だと思って行われているケースも多く、なおさら無自覚な人も多いです。

そこで、何がパワハラに該当するのか、リモートワークで起こりがちなハラスメントの事例等と共に社内研修を実施して、ハラスメントであることの自覚を促し、テレワーク中のハラスメントを防止していくことが考えられます。

テレワーク中の社内ルールを明確化する

テレワークのルールが曖昧であることから、労働者間での齟齬や軋轢が生じてしまい、その苛立ちからパワハラが生じたり、プライベート空間に過度に干渉してしまい、パワハラ・セクハラが生じることもあります。

そのため、社内でテレワ―ク中のルールを策定・明確化することで、ハラスメントが生じやすい環境を是正し、テレワーク中のハラスメントを防止していくことが考えられます。

ハラスメント相談窓口を設置、周知する

また、社内研修や、社内ルールの策定だけでなく、ハラスメントが起きてしまった時のことを想定し、ハラスメント相談窓口を予め設置し、周知することも重要です。

パワハラ防止法上の義務ということもありますが、相談窓口を設置し、その存在を周知するだけで、会社がハラスメントを許さないという態度が労働者に伝わり、ハラスメント防止にもつながります。

テレワークにおいてもパワハラ対策は必須です。ハラスメントに関するご相談は弁護士にお任せ下さい。

以上のように、テレワークにおいてもパワハラ等の各種ハラスメントは生じ得ます。テレワークであっても事業所であっても、職場で生じたハラスメントについては、企業に防止措置を採る義務がありますから、テレワークにおいても、ハラスメント対策は必須です。

研修や社内ルールの整備は、専門家の助力が必要となってきますから、弁護士などの労務の専門家の協力を求められることを強くお勧めいたします。

埼玉県内でテレワーク中のハラスメントにお悩みの企業の方は、是非一度弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

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コロナ禍以降、テレワークが普及し、今や珍しいものではなくなりました。
テレワークは専ら自宅で行われることから、事業所で働く労働者と比べて、様々な違いがありますが、労災保険の適用に関して違いはあるのでしょうか。 今日は、テレワークと労災についてご説明いたします。

テレワーク中の怪我でも労災保険は適用されるか?

テレワークであったとしても、それが労働者である以上、事業所等で働く労働者と同様に労働者災害補償保険法の適用を受け、労災保険給付を受けることができます。

労働災害には「業務災害」と「通勤災害」がある

労働災害には、業務災害と通勤災害があります。
業務災害は、「労働者の業務上の事由による」又は「業務上の」傷病等をいいます。
例えば、外壁工事中に転落する場合などは、業務災害に当たり得ます。
通勤災害は、その名前のとおり、通勤中に事故に遭った場合をいいます。

業務災害の認定基準となる2つの要件

業務災害に該当するかどうかは、「業務上の事由による」かどうかが基準となりますが、それは業務遂行性と業務起因性の2つの要件で判断されます。

業務遂行性

業務遂行性とは、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態をいいます。
労働者が業務に従事している最中はもちろん、休憩中であっても、事業主が指揮監督を行い得る余地があって、その限りで事業主の支配下にあるならば、業務遂行性があるとされています。

なお、休憩時間中に、労働者個人の自由な行為や私的行為が原因となった場合は、次に述べる業務起因性が否定されることになります。

業務起因性

業務起因性とは、業務が原因となって労働者に傷病などが発生したことをいいます。裁判例などでは「業務に内在する危険が現実化したものによると認められること」と表現されることもあります。
前述したように、労働者個人の自由な行為や私的行為が原因となった場合には、業務に内在する危険が現実化したものとは言えず、業務起因性が否定されることになります。

テレワーク中の労災が認定されにくい理由

テレワーク中の従業員は、私的な空間である自宅で労働していることに伴って私的行為が原因で負傷することが多いのがその要因であると考えられます。

テレワークで労災認定されるケース・されないケースとは?

では、どのようなケースがテレワークで労災認定されるのでしょうか。また、どのようなケースでは労災認定されないのでしょうか。

労災認定されるケース

例えば、自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたところ、トイレに行くため作業場所を離席し、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した事案について、業務行為に付随する行為に起因して災害が発生したもので、私的行為によるものとも認められないことから業務災害と認められると認定したケースがあります。

労災認定されないケース

例えば、就業時間内であっても、自宅内のベランダで洗濯物を取り込む行為や、個人宛の郵便物を受け取る行為で転んで怪我をした場合等には私的行為が原因であるとして労災認定がされないと考えられています。

他にも、就業時間中、気分転換にジョギングしていて事故に遭った場合なども、私的行為が原因であると判断されて労災認定はされないと考えられます。

テレワーク中の労災防止のために企業がすべきこと

テレワーク中であっても、労災認定があり得るわけですが、企業はどのように労災を防止していくべきでしょうか。

業務時間と私的時間を区別させる

労災認定されるケースと労災認定されないケースを比較してみると、共に業務中ではあるものの、私的な行為を行っていたかどうかで区別されています。
そのため、まずは労働者に業務時間と私的時間を区別させることが大事です。

就業時間や勤務内容を記録する

労働災害に該当するには、業務遂行性と業務起因性が必要となりますが、テレワークのように自宅であると、就業時間と私的時間の区別があいまいになりがちです。

会社としては、労働者に対して、就業時間や勤務内容を記録させることで、その区別をつけさせることができます。また、区別させることで、就業時間かつ勤務に起因する怪我かどうかを判断する際にも役立ちます。

就業場所を明確化しておく

就業場所が明確になっていないと、私的行為であるかの判断も曖昧になりがちです。
また、自宅での就業場所を明確化することで、会社がその労働者の就業に危険がないか(あまりに狭い場所でやっていないか等。)を判断することも可能になってきます。

テレワークに適した就業環境を整備する

厚労省では、労働者が自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリストを公開していますが、そのチェックリスト内には、無理のない姿勢で作業ができるようになっているか、転倒することが内容に整理整頓されているかどうかや、その他事故を防止するための措置は講じられているかといったチェック項目があります。

テレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト【労働者用】(厚労省)

このように、労働者の自宅で事故が生じないかどうかを確認し、テレワークに適した就業環境を整備することで、労災を防止することが企業には求められています。

テレワークの労災認定で不明点があれば、お気軽に弁護士までご相談下さい。

以上に説明したようにテレワークであったとしても、労働者である以上、事業所等で働く労働者と同様に労働者災害補償保険法の適用を受け、労災保険給付を受けることができます。

もちろん、何でも労災認定されるわけではありませんが、業務遂行性と業務起因性が認められた場合には、労災認定があり得ます。企業は、従業員の安全に配慮する義務があり、労災認定を超えて賠償義務を負うリスクも考えられるところです。

埼玉県内でテレワークでの労災認定に不明点がある企業の方は、ぜひ一度弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

新型コロナウイルスがまん延したことで、日本でも在宅勤務、テレワークが盛んにおこなわれるようになりました。
ただ、テレワークという新しい働き方では力を発揮できず、生産性が落ちた従業員の方もいらっしゃいます。

テレワークで生産性が落ちた従業員に出社命令を出してもよいか?

テレワーク専従で雇った従業員はともかく、一般の従業員に対して命じていたテレワークを終了させて、出社を命じることは許されます。

ただ、配置転換として命令が許されるのか、広く業務命令の一環として行うことが許されるのかは、立場が固まっているとは言えませんので、念のため、就業規則や雇用契約書上、配置転換の権限を有する形にしておくことをお勧めいたします。

新型コロナウイルスの感染リスクを理由に出社拒否されたら?

新型コロナウイルスの感染リスクについては、緊急事態宣言が出されていた頃であればともかく、令和5年12月現在においては、特段の事情の無い限り、業務命令違反が許されるとは言えないでしょう。

そのため、コロナウイルス感染リスクは逓減してきていること、出社命令に従うべきこと等を丁寧に説明して出社命令に従うように説得するのが良いでしょう。
それでも従わない場合には、懲戒処分や退職も選択肢に含めていくことになります。

基礎疾患がある従業員への出社命令は可能か?

例えば、基礎疾患があって新型コロナウイルスに罹患した場合、命の危険があるという場合には、特段の事情が認められて、出社命令に従う義務を負わないと判断されることもあり得ます。

そのため、具体的な感染リスク、使用者が安全配慮のためにどのような対策を講じているか、感染した場合の当該従業員に生じるリスクを総合考慮してから出社命令を出すかどうかを決める必要があります。

出社命令に応じない従業員を懲戒処分にできる?

出社命令も業務命令(配置転換命令又は広い業務命令)の一環ですから、不服従であった場合には懲戒処分の対象となります。

出社命令と懲戒処分に関する裁判例

出社命令というよりは、正しくは配置転換命令ですが、これに従わなかった従業員を懲戒解雇した東亜ペイント事件という著明な判例があります。

事件の概要

全国展開している塗料及び化成品の製造・販売を行っている会社の神戸営業所に勤める従業員が、名古屋営業所への転勤命令に応じなかったため、懲戒解雇したという事案です。
従業員が転勤を断った理由としては、母親や妻、娘と同居している等の家庭環境を考慮して欲しいといった事情でした。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

高裁では、転勤命令の業務上の必要性がそれほど強くないこと、従業員が名古屋に転勤した場合には、母親、妻及び長女との別居を余儀なくされ、相当の犠牲を強いられることになること等から転勤命令は無効とされ、懲戒解雇も無効と判断されました。

しかしながら、最高裁は「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではない」として、会社に広範な転勤命令を出す権限があると判断しました。

ポイント・解説

最高裁では、就業規則等で配置転換権が認められることを前提に、広範な裁量を認めたところがポイントです。そのため、配置転換や出社命令等の業務命令に反する従業員に対しては、例外的な場合を除き、懲戒処分も有効になることを示唆しています。

そもそもテレワークで生産性が低下する理由とは?

設備・勤務環境の整備が不十分

テレワークは、自宅で行うことが想定されることが多いですが、自宅では設備や勤務環境はオフィスに比べて不十分なことが多いです。
また、自宅で子育てや介護を行っている場合、テレワーク中にも子供や要介護者から対応を求められる等して、仕事を中断せざるを得ないこともあり、自ずと生産性が下がってしまうこともあります。

コミュニケーション不足

テレワークの場合、同僚や上司とのコミュニケ―ションは、チャットツールやメール、電話になりますが、どうしても対面でのコミュニケーションに比べると、文章表現の問題で稚拙なものとなったり、うまく伝わらないこともあります。

また、オフィスで同僚や上司の状況が一目で把握できる場合と異なり、各人が何をしているか、何か問題を抱えていないか、ということも把握し難い状況にあります。
このようなコミュニケーション不足も生産性を下げる一要素であると考えられます。

労働時間の管理が難しい

また、職場で現認ができる場合と異なり、従業員がどのような仕事を行っているかどうかを直ちに確認することはできません。
そのため、社員が実際に労働しているかどうかを管理することが難しいということも、生産性を低下している要素の一つであると考えられています。

業務の進捗状況が把握しづらい

加えて、管理職が業務の進捗状況を把握しづらいこともあげられます。
適宜の声掛けや確認についても、テレワークの方がコミュニケーションコストがかかると感じる方がいるからか、億劫になってしまい、進捗管理がしがたいといったことも、生産性の低下につながっていると考えられています。

テレワークで従業員の生産性を低下させないための対策

テレワークに適した勤務環境を整備する

テレワークに適さない設備で稼働する従業員を減らすため、会社からIT機器を貸与するとかチャットツールを導入するなど、勤務環境を整備することで、生産性を高めていく工夫が考えられます。

適度なコミュニケーション機会を作る

また、コミュニケーション不足に対しては、対面やweb会議等、顔が見える形でコミュニケーションをとる機会を積極的に作っていくことが考えられます。
コミュニケーションに感じるコストを逓減していくことで、業務の円滑さを高め、生産性を高めていくことが考えられます。

勤怠管理や評価制度を見直す

労働時間管理や業務の進捗管理の難しさについては、勤怠管理の手法や評価制度を見直すことでの対応が考えられます。
例えば、クラウド型の勤怠管理システムを導入するとか、評価については成果主義を重視することで、管理の手間を減らすことや、業績の向上を図ることが考えられます。

テレワークを効率化するITツールを導入する

その他、テレワークを効率化するために、クラウドでのデータ共有を活用するとか、webミーティングツール、チャットツール等のテレワーク下でのコミュニケ―ションや業務を円滑にするITツールを導入して業務効率化を図ることも考えられます。

従業員の健康面・メンタル面にも配慮する

テレワークは、プライベートと仕事の切り替えがうまくいかずに、健康面やメンタル面を崩してしまう従業員の方もいらっしゃいます。
健康面やメンタル面を崩せば、自ずと仕事の効率も落ちてきます。
会社は、従業員が健康面、メンタル面に不調が無いかを、定期的に確認して対処していく必要があります。

テレワーク環境下の従業員対応でお困りなら、まずは弁護士にご相談下さい。

テレワーク下での業務は、今までの労務管理と様々な面で異なります。そのため、テレワーク下での従業員対応に苦慮されている企業も多いです。
また、新型コロナウイルスの影響がなくなってきたことで、いざフル出勤にもどそうとすると、思わぬ抵抗にあわれている企業もあるのではないでしょうか。

テレワーク下での従業員対応でお困りの埼玉県内の企業は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

テレワークが普及して、少しの時間がたちました。
テレワークは、出勤した社員と異なり、同じ場所にいない=目が届きずらいところもあり、その労働時間管理については、苦労されている企業も多いように感じます。
業務内容にもよりますが、裁量労働制や、事業場外みなし労働時間制を活用することも、一つの解決策です。
今回は、テレワークの労働時間管理について、説明していきます。

テレワークにおける労働時間管理の課題

テレワークであったとしても、みなし労働時間制が適用される労働者等以外については、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日)に従って、適切に労働時間管理を行わなければなりません。

テレワークであれば、同ガイドラインに照らし、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録による方法によって、管理していくことになります。やむを得ず、自己申告制によって労働時間の把握を行う場合にも、同ガイドラインを参考とした措置を採っていく必要があります。

テレワークでも労働基準関係法令が適用される

テレワークであったとしても、労働基準関係法令が適用されることに違いはなく、出勤している労働者と同様に、テレワークの労働者にも、労働基準関係法令による保護が与えられています。

労働時間の管理を怠った場合のリスクとは?

仮に、労働時間管理を怠った場合には、思わぬ残業代を請求されるとか、残業時間を管理していなかったために、残業時間が上限規制を超えてしまうとか、過労死などの労災リスクも生じてくることになります。

テレワークでのみなし労働時間制

テレワークでの労働時間管理の方法として、裁量労働制や事業場外みなし労働時間制を採用するという方法があります。

裁量労働制

裁量労働制には、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制がありますが、裁量労働制の要件を満たした労働者に、テレワークを行わせることも可能です。
裁量労働制は、業務遂行の方法、時間等について労働者の自由な選択に委ねることを可能とする制度で、労使協定等で定めた時間を労働したものとみなす制度ですから、労働時間管理の手間はぐっと減ります。
もっとも、労働者の健康確保の観点から、決議や協定において定めるところにより、企業は、労働者の勤務状況を把握して、適正な労働時間管理を行う義務があることにも注意が必要です。

事業場外みなし労働時間制

テレワークにより、労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、
使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なときは、労働基準法第38条の2で規定する事業場外労働に関するみなし労働時間制を適用することが可能です。
この制度の適用により、当該業務の遂行に通常必要とされる時間を労働したものとみなされます。
ただ、テレワークにおいて、事業場外みなし労働時間制を適用するためには、以下の要件を満たす必要があります。

テレワークでの「事業場外みなし労働時間制」の適用要件

①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと このいずれの要件も満たす必要があります。

①については、情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であることと言い換えることができます。
使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて随時具体的指示を行うことが可能であり、かつ、使用者からの具体的な指示に備えて待機しつつ実作業を行っている状態又は手待ち状態で待機している状態にはないことを意味するとされています。
②について、「具体的な指示」には、例えば、当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これら基本的事項について所要の変更の指示をすることは含まれないとされています。

「事業場外みなし労働時間制」でも割増賃金は発生する?

例えば、みなし労働時間が1日9時間とされている場合には、1時間分の割増賃金を支払う必要があります。また、法定休日に労働を行わせたり、深夜に労働する場合にも、割増賃金が発生します。
事業場外みなし労働時間制は、あくまで、事業場外で働いている労働時間について、みなし制度を採用しているものであるため、そのみなし労働時間が、法定労働時間を超えたり、休日労働、深夜労働に及ぶ場合には、割増賃金が発生します。

テレワークで採用できるその他の労働時間制

このほか、テレワークで採用できる労働時間制としては、フレックスタイム制や変形労働時間制があります。

フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、清算期間やその期間における総労働時間等を労使協定において定め、清算期間を平均し、1週当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内において、労働者が始業及び終業の時刻を決定し、生活と仕事との調和を図りながら効率的に働くことのできる制度です。

テレワークにおいても、例えば、労働者の都合に合わせて、始業や終業の時刻を調整したり、オフィス勤務の日は労働時間を長く、一方で在宅勤務の日の労働時間を短くして家庭生活に充てる時間を増やすこと等で活用が可能です。
もっとも、あくまで始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる制度であることから、使用者が各労働者の労働時間の把握を適切に行わなければならないことに変わりはありません。

変形労働時間制

変形労働時間制とは、月や年といった単位で労働時間を弾力的に設定することができる制度です。
ただ、始業および終業の時刻や所定労働時間をあらかじめ定める必要があり、その意味では、通常の労働時間制と同様に、使用者は、労働者の労働時間を管理していく必要があります。

テレワークにおける時間外・深夜・休日労働の割増賃金について

テレワークであっても、労働基準関係法令が適用されることに変わりはなく、時間外・深夜・休日労働の割増賃金を支払う必要があります。

時間外労働が労基法上の労働時間に該当しないケースとは?

テレワークで労働すると、ついつい長時間労働になってしまうという労働者もいます。
しかしながら、労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間をいいますから、就業規則に残業や休日労働について、事前許可、事後報告制を採用している場合に、勝手に時間外・休日労働したとしても、労基法上の労働時間には該当しません。 もちろん、時間外労働しなければならないような業務量があったなど、黙示の指揮命令があると判断される場合等は除きます。

テレワーク中の休憩時間はどう管理するのか?

テレワークであったとしても、通常の労働者同様、原則として労働者に一斉に付与することになります(労基法34条2項)。
ただ、労使協定によって、一斉付与の原則を適用除外とすることも可能です。

いわゆる「中抜け時間」の取扱いについて

テレワークは、事業所での労働と異なり、家庭の都合などから、中抜け時間が生じやすいと考えられています。
この場合には、その開始と終了の時間を報告させる等によって、休憩時間として扱うとか、始業時間の繰り上げ、終業時刻の繰り下げをするとか、時間単位の年次有給休暇扱いとする会社もあります。

テレワークの労働時間を適正に把握・管理するためのポイント

テレワークの労働時間を適正に把握・管理するためのポイントとしては、やはり労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインを参考としていくべきです。

始業・終業時刻の客観的な把握

同ガイドラインによれば、使用者は、原則として自らが現認することによって始業・終業時間を確認するか、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することを求めています。
テレワークの労働者の労働時間を現認することはできませんから、パソコンの使用時間の記録や、クラウドのタイムカード等を利用することで対処している企業が多いかと考えます。

やむを得ず自己申告制で把握する場合

同ガイドラインでは、上記の原則的な方法を採れない場合には、やむを得ず自己申告制を採ることもあるとされています。
ただ、①自己申告を行う労働者や、労働時間を管理する者に対しても自己申告制の適正な運用等ガイドラインに基づく措置等について、十分な説明を行うこと、②自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること、③使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと等を遵守する必要があるとされています。

就業規則や社内ガイドラインの策定

結局のところ、テレワークと一口にいっても、業務内容や、採用された労働時間制によっても、管理の手法は変わってきます。
そのため、就業規則を整備したうえで、社内ガイドラインを策定し、労使の間で、テレワークの労働時間に関する認識に齟齬が生じないようにしていく必要があります。

時間外・休日・深夜労働の許可制

前記したとおり、テレワークであっても、時間外労働や休日・深夜労働は発生し得ます。
また、テレワークは、労働者と距離が離れていることもあり、時間外労働が発生していても、直ぐに気付いたり、止めることは難しいこともあります。
そのため、事前の許可制を採用することで、予期せぬ割増賃金の発生を防ぐことが考えられます。

テレワークでの長時間労働対策として企業がとるべき対応

テレワークにおける長時間労働等を防ぐ手法としては、次のような手法が考えられています。
①メール送付の抑制等やシステムへのアクセス制限等
まずは、システム面から、労働を抑制する手法です。
この他にも、②時間外・休日・所定外深夜労働についての手続き(例えば、事前許可制)を設定し、労働者が時間外労働を行う前に、企業が把握できるようにすること等も考えられます。
そして、実際に③長時間労働等を行う労働者への注意喚起を行うことが考えられます。
このような対策を行うことで、長時間労働を抑制し、労働者の健康を維持していくことが重要です。

テレワークの労働時間管理で分からないことがあれば弁護士にご相談ください。

以上に述べてきたように、テレワークの労働時間管理には、どの労働時間制を採用するかといった問題から、実際の運用まで、様々な問題があります。
自社のみで進めると、労働時間制が無効とされたり、実際の運用の際に苦慮する事態が出てくる可能性がありますから、弁護士などの専門家の助力を求めることをお勧めします。
埼玉県内でテレワークの労働時間管理でお悩みの企業は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

テレワークという言葉が一般に普及してしばらく経ちました。
テレワークとは、労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務のことを意味します。
労働者にとっては、時間や場所にとらわれずに柔軟に働くことができる勤務形態という意味でメリットがあり、企業(使用者)にとっても、育児や介護等を理由とした労働者の離職の防止や遠隔地の優秀な人材の確保、オフィスコストの削減等のメリットがあります。

では、テレワークを導入する際に、どういった点に気を付けて行けばよいのでしょうか。
今回は、テレワークの導入の際に気をつけるべきポイント等について詳しく解説していきます。

テレワーク導入時の対象業務・対象者に関する留意点

まずは、テレワークを導入する対象業務や対象者を選別していかなければなりません。
もちろん、全社員、全業務をテレワークとすることもあり得るでしょうが、通常は、一部の社員に対して導入される企業が多いです。

テレワークの対象業務の選定

まずは、どのような業務がテレワークに向いているかどうかを選定するなど、対象業務レベルで選定していくことが考えられます。
例えば、IT関係の業務については、一般的にテレワークに向いている仕事と考えられています。
これは、プログラムの作成や一定量のデータ入力であれば、決まった場所で働く必要性がそこまで高くないことや、労務管理の面からも成果や仕事量が可視化しやすいことが理由として挙げられます。

テレワークに向かない業務とは?

例えば、保育や介護等、いわゆるエッセンシャルワーカー(社会基盤を支えるために必要不可欠な仕事に従事する労働者)等が従事する業務については、その性格上テレワークを実施することが難しいでしょう。
ただ、エッセンシャルワーカーであっても、個別の業務によっては実施できる場合もあり、必ずしもその業務の一般的な態様を前提に対象業務を選定する必要はありません。
仕事内容の本質的な見直しを行う機会にもつながりますから、一般的にテレワークに向いていない業務であったとしても、テレワークでも可能な業務を洗い出す作業を行うことも考えられます。
ただ、オフィスに出勤する労働者に多くの業務が偏らないように留意していくことも、もちろん必要です。

テレワーク勤務の対象者の範囲

テレワークに向いている業務について勤務している従業員を対象としていくことが第一の選択となります。
ただ、テレワークを導入するきっかけは様々で、労働者自身がテレワークを希望する場合もあれば、企業から指示する場合もあります。
対象者を選定するにあたっては、対象業務に従事する労働者自身にも納得してもらったうえで進めていく必要があります。
また、新入社員、中途採用の社員及び異動直後の労働者については、業務について上司や同僚等に聞きたいことも多く、不安が大きい場合があるとされています。そういった点にも注意しながら、対象者の範囲を選定していく必要があります。

テレワークを希望しない労働者への対応は?

就業場所は、労働条件明示義務の対象にもなっているもので、契約書や就業規則上に記載された範囲を超えてテレワークを行わせることはできませんから、その場合には、労働者の合意を得たうえで、労働契約の変更が必要となってきます。
そのため、まずは、テレワークを命じることができるかどうかを確認する必要があります。
ただ、在宅での勤務は、生活と仕事との線引きが困難になることもあり、契約書や就業規則上、テレワークを命じられるとしても、まずは労働者とコミュニケーションをとり、労使双方の納得が得られる方法を模索することがよろしいです。

テレワークの導入時には就業規則の変更が必要か?

テレワークを命じるには、明示された就業場所に含まれている必要があります。
また、テレワークでの勤務については、費用負担の取扱いや労務管理の面からも、労使で協議して策定したテレワークのルールを定めておくことが望ましいです。 そのため、テレワーク導入時には、就業規則を変更し、テレワーク勤務規程を策定する必要があるといってよいでしょう。

就業規則の作成義務がない会社の場合

10人未満であれば、労基法上、就業規則の作成義務はありません。
しかしながら、テレワークを実施するうえでは、様々な労使の取り決めが必要となります。これを労働契約書等で全て記述することは困難でしょうから、就業規則を作成しておくことをお勧めします。

「テレワーク勤務規程」の新設について

テレワークについて、就業規則を変更する場合には、本則に全て記載して盛り込むか、各種規程としてテレワーク勤務規程等を策定する方法が考えられます。
いずれの方法でも有効ですが、テレワーク対象者に、改めて周知する際に、本則全てを提示するよりも、テレワーク勤務規程を提示する方が簡便でしょうから、テレワーク勤務規程を新設されることをお勧めします。

テレワークの就業規則で定めておくべき事項

テレワーク勤務規程に定めておくべき事項としては、以下のものが考えられます。

対象者

例えば、まずは、【テレワーク】での勤務の対象者がどこまでの範囲なのか明記すべきでしょう。
就業規則に規定する対象者は、実際にテレワークを行う者やテレワークをする可能性がある人すべてにしておくべきです。
ただし、その規定の仕方については、例えば、

①テレワークを希望する、
②勤続年数の要件(1年以上など)を満たす、
③自宅の執務環境・セキュリティ環境などが適正と認められる

など対象者を明確に限定する規定が必要です。
他方で、近時の新型コロナウィルス感染症の拡大のような緊急時の対策として、感染症の拡大や災害発生時などには全従業員に【テレワーク】を命じることができる旨の規定を設けておくという方法もあります。

就業場所

「使用者が許可する場所」においてテレワークが可能とし、その使用許可基準を定めておくことが考えられます。
例えば、自宅での勤務(在宅勤務)だけを許可するのか、サテライトオフィス勤務(所属するオフィス以外の他のオフィスや遠隔勤務用の施設を就業場所とする働き方)やモバイル勤務(カフェなどを就業場所とする働き方)も許可するのか、ワーケーションはどうなのか、どういった基準で許可するのかといったところも定めておくことが考えらえます。
許可基準を緩くしたり、不明確にしていると、情報管理が行き届かない場で仕事をしてしまい、会社としては情報漏えいなどのリスクに晒されることも考えられます。

労働時間の取扱い

テレワークは、オフィスでタイムカードを切るわけではないため、労働時間の取扱いにも規定が必要です。例えば、テレワークに使用する情報通信機器の使用時間の記録などによって把握することも考えられます。 また、中抜けの希望もあるでしょうが、その中抜けの取扱いについても、テレワーク勤務規程の中に盛り込んでおく必要があります。 その他、時間外労働の管理の方策として、テレワーク勤務規程に、原則として残業を認めないという規定を盛り込むことも考えられます。

通信費等の費用負担

テレワークによって労働者に過度の負担が生じることは望ましくないとされています。 また、通信機器は貸与も多いでしょうが、どのようなルールで貸与するかも予め規定に定めておくことが望ましいです。 通信費や光熱費は自宅であれば、業務使用と個人使用を切り分けることが困難であるため、一定額を会社負担とする例もあります。 いずれにせよ、費用負担は、予めテレワーク勤務規程によって定めておくことが望ましいです。

通勤手当

テレワークであれば、オフィスへの通勤費は不要となります。 この点についても、労使でどのように負担するか(例えば、オフィスへ出勤するときは別途実費精算とすることや、テレワーク前に購入した定期券に清算を必要とする場合の清算方法など)、予め就業規則で定めておくことが望ましいです。

人事評価

テレワークを行う労働者と、行わない労働者との間の人事評価を変更することも考えられますが、そこに不合理な差があってはなりません。その取扱いについて、就業規則上に定めを置くとしても、不合理な差別とならないように注意が必要です。

服務規律

テレワークでは、オフィスでの勤務と異なるところが多く、服務規律も、オフィスだけを想定したものでは対処に困る事態も考えられます。 たとえば、情報管理の面では公共性の高いネットワークへの接続禁止を定める等してセキュリティ面の管理を徹底していくことが考えられますし、服装規程も、各テレワークの実態に沿ったものに変更することもありうるでしょう。

安全衛生

テレワークであったとしても、事業主には、労働衛生慣例法令の適用と規定遵守の必要があります。
健康相談を行うことができる体制の整備や、必要な健康診断を受けさせる措置も変わらず必要となります。

教育訓練・研修

テレワークを推進するうえでは、社内教育の面でもオンラインで実施することが考えられます。
ただ、当該事項については、労基法89条7号から考えて、就業規則に規定する必要があります。
テレワークを行う労働者の教育訓練・研修について、規定が漏れないように注意しましょう。

テレワークの導入について不明点があれば弁護士にご相談ください。

テレワークが普及して、少しの時間が流れました。
コロナウイルスに関しては、影響が落ち着いてきたところがありますが、テレワークについては、各企業にとって、導入を検討したり、導入を継続し続けないといけない時代にまでなったと考えられます。
テレワークを導入するにあたっては、今回説明したように、労使で協議し、決定しておかなければならないところも多く、また労務管理の方法も従来型のものだけでは足りない状況にあります。
適切なテレワークを導入するにあたっては、弁護士などの専門家の関与が不可欠です。
埼玉県内でテレワークの導入についてお悩みの企業は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

現代社会において、メンタルヘルス不調というものは無視できない問題です。
その原因の一つには、ハラスメント(嫌がらせ)があります。

職場においては、多種多様な立場の人と接触を持つことから、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメント等を受けてしまう恐れがあり、その結果、メンタルヘルス不調に陥ることがあります。

今回は、職場におけるハラスメントとメンタルヘルス不調の関係についてお話したいと思います。

ハラスメントとメンタルヘルスの関連性

メンタルヘルスとは、体の健康ではなく、こころの健康状態を意味するものとされています。
誰しも、気持ちが落ち込んだりすることはありますが、直ぐに回復することがない状態にまで落ち込んでしまうと、生活にも支障がでてきてしまうことがあります。

メンタルヘルスの不調は、ストレスが積み重なることで起きると言われますが、このストレスの原因の一つにハラスメント(嫌がらせ)があります。

職場における人間関係のストレス

誰しも、職場の上司や同僚から、厳しい言葉を投げかけられたことがあるのではないでしょうか。また、どうしても相性の悪い上司や同僚というものがいるのではないでしょうか。

職場での人間関係を続けていくうえでは、こういった方々とも、業務上必要な範囲で接していく必要があるため、ストレスとなることがあります。

ハラスメントが企業に与えるリスク

企業内でハラスメントが生じた場合には、企業に様々なリスクが生じます。
違法なハラスメントがあった場合には、損害賠償請求を受けることもあります。
また、ハラスメントの行為者が刑事罰を科せられる恐れもあり、社名も報道されてしまうことも考えられます。

ハラスメントが横行する企業というものは、生産性が下がり、離職も増える傾向があります。
求人をかけても、ハラスメントがある企業に努めたい人は少ないため、新規採用の点でも、悪影響が生じてきます。

メンタルヘルス不調の原因となるハラスメントの種類

ハラスメントは、広義では嫌がらせということですが、様々な種類があります。

パワーハラスメント

パワーハラスメントとは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」(労働施策総合推進法30条の2)と定義されています。

典型的な例としては、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害の6つがあるとされています。

企業は、労働施策総合推進法によって、このような職場におけるパワーハラスメントが無いよう防止措置をとることが義務付けられています。

セクシャルハラスメント

セクシュアルハラスメントとは、相手方の意に反する性的言動を意味するとされています。
また、企業は、雇用機会均等法11条において「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」の無いように防止措置をとることが義務付けられています。

セクシュアルハラスメントの典型例としては、対価型セクハラと環境型セクハラがあるとされています。

マタニティハラスメント

マタニティハラスメントとは、妊娠・出産したこと、育児や介護のための制度を利用したこと等に関して、上司・同僚が就業環境を害する言動を行うことを意味するとされています。近年では、男性の育児休業に対する不当な扱いや嫌がらせをとらえて、パタニティハラスメントという言葉も使われるようになっています。

企業は、育児介護休業法において「労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」という不利益取扱の禁止や、男女雇用機会均等法において「上司・同僚からの妊娠・出産等に関する言動により妊娠・出産等をした当該女性労働者の就業環境が害されることがないよう防止措置を講じること」が義務付けられています。

その他職場で発生しやすいハラスメント

昨今話題になっているのは、LGBT対するハラスメントや、顧客から従業員が受けるカスタマーハラスメントがあります。前者は厳密にはセクシュアルハラスメントの一種です。

後者のカスタマーハラスメントは、顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるものを意味すると考えられています。

いわゆるクレーマーに対応する従業員は過度のストレスを負うことが多いですが、度が過ぎる顧客の言動については、企業は従業員を守る義務(安全配慮義務)があるため、担当者を増やすとか、担当者を上席に変更すると言った対処を取る必要があります。

ハラスメントによるメンタルヘルス不調者への対応

ハラスメントによって、メンタルヘルス不調となった労働者は、遅刻・早退や、欠勤を繰り返す等、勤怠が乱れることが往々にしてあります。その場合は、以下でご説明する休職の措置を検討することになります。

他方で、ハラスメントによってメンタルヘルス不調という労働者から相談があった場合には、企業は、相談を受け付け、事実の調査し、適切な措置とる必要があります。
この適切な措置とは、例えば、事実の調査によってハラスメントが認定できた場合には、過去事例と比較しながら、懲戒処分などを行うことが考えられます。

なお、被害者に対する不利益取り扱いは、法律上禁止されていますので、喧嘩両成敗と言った形で、相談してきた労働者に対しても、処分を下すということはできませんのでご注意ください。

メンタルヘルス不調者の休職と職場復帰

メンタルヘルス不調によって、勤怠が乱れた場合には、自社の就業規則上の休業規則に従って、休職命令を出すかどうか検討していくことになります。
休職させた後、休職には期間制限がありますから、休職期間が満了するタイミングでは、職場に復帰(復職)できるのか、退職となるのかを検討していく必要があります。

どちらの場合も、労働者の主治医や産業医等会社の指定する医師の意見を聞きながら判断していく必要があります。

ハラスメントとメンタルヘルスにまつわる判例

ハラスメントとメンタルヘルスにまつわる裁判例としては、前田道路事件判決があります。

事件の概要

当該従業員は、営業所長就任直後から、業績に関する虚偽の報告を行うための不正経理を開始し、それを埋め合わせるべく設定したノルマが達成できないことについて上司より指導・叱責を受けた結果、自殺に及んだという事案です。

第1審判決では、当該従業員に過剰なノルマを強要し、執拗な叱責を行ったことは、社会通念上許容される業務上の指導の範疇を超えた違法なものであると認められましたが、第2審判決では、結論が覆りました。

裁判所の判断

第2審判決では、当該ノルマを、当該従業員自身が作成していたこと等から過剰なノルマを強要していたものとは認められないこと等を認定し、上司らが不正経理の解消や工事日報の作成についてある程度の厳しい改善指導をすることは社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超えるものとは言えないものと認定しました。

ポイントと解説

同裁判例が第1審と第2審で結論が変わっているのは事実認定の差にあります。

ただ、過剰なノルマを会社が課していたと認定される場合には、違法なパワハラとなり、自殺との間に因果関係が認められれば損害賠償を負うという見解は共通しています。
会社が過剰なノルマ(パワハラ)をした場合に、損害賠償のリスクを負うことには十分にご注意ください。

ハラスメントのない職場環境を作る重要性

ハラスメントがない企業の方が労働者の生産性が高いといわれており、またハラスメントには、各種のリスクがあることは、本稿においてご説明させていただいたとおりです。

ハラスメントには百害あって一利なしですから、ハラスメントの無い職場環境を作る重要性は明らかです。

ハラスメント防止のために企業が講ずべき対策

ハラスメント防止のために企業が講ずべき対策としては、

  • 事業主の方針等の明確化(ハラスメントを許さない旨のトップメッセージの発信)
  • ハラスメント禁止に対する周知・啓発
  • 労働者の相談に対応するための窓口の整備
  • 事後の迅速かつ適切な対応(調査)の実施準備
  • ハラスメントに対応した懲戒規程などの再発防止策

が求められています。

企業内での活動や対策も重要ですが、調査等、専門的な知見が必要な場合には、自社のみで悩まずに、弁護士に相談するという選択も重要です。

ハラスメントとメンタルヘルスに関するQ&A

以下、ハラスメントとメンタルヘルスに関するよくある質問にお答えいたします。

ハラスメントを直接受けていなくても、ハラスメントが発生している職場に勤務することでメンタルヘルス不調になる可能性はありますか?

可能性はあります。

例えば、自身に対しての身体的接触や言動でなかったとしても、職場での大声での発言が、環境型セクシュアルハラスメントに該当する可能性はあり、そのことが原因でメンタルヘルス不調になる可能性はあります。

職場でのハラスメントを早期発見するにはどうしたらいいでしょうか?

職場でのハラスメントを早期発見するためには、1on1でのMTGを実施することだけでなく、360度評価を採用し、同僚からの評価を求めると言ったことでも発見できます。

また、ハラスメントの研修を行うという際に、社内で匿名アンケートを取得することで、忌憚ないハラスメントの情報を得ることも考えられます。

職場におけるパワハラの事実確認では、どのような証拠が有効となりますか?

例えば、それがメール等の形に残る手段で行われたものであれば、そのメール等が証拠となります。発言が化体した証拠が残っていれば、それは有効な証拠となります。
また、周囲の同僚といった第三者の供述も、有効な証拠となりえます。

職場でのハラスメントが、仕事の生産性に影響を及ぼすことはありますか?

悪影響を及ぼすことがあります。

例えば、すぐ怒鳴り、人格非難をする同僚や、朝令暮改的な言動で部下を怒る上司を想定して頂ければわかりやすいと思います。そのような人と、仕事上必要とはいえ、進んでコミュニケーションを取りたい人はいないと思います。そうすると、報連相がおろそかになっていき、自発的な行動も少なくなっていきます。

ハラスメントにより、うつ病となった社員から労災請求された際の対処法を教えて下さい。

労災請求されたとしても、業務起因性があるかどうかの判断をするのは労基署になります。

労基署が非器質性精神障害について業務起因性があるかどうかを判断するには、長時間労働があったかどうか等も重視されますが、ハラスメントがあったかどうかも重視されます。
労災認定されるかどうかはともかく、自社でもハラスメントの調査を行うことが必要となります。

セクハラした社員に対し、解雇処分を下すことは問題ないでしょうか?

セクシュアルハラスメントの程度や過去事例との比較が必要となります。

もちろん、不同意性交など当たりうるセクシュアルハラスメントであれば、解雇としても問題はないかと思いますが、肩を揉むといったセクシュアルハラスメントで一発解雇とすることは、問題があるでしょう。

男性の育児休業取得を認めないとすることは、ハラスメントに該当しますか?

本稿でも解説しましたが、男性の育児休業取得について認めないとすることはパタニティハラスメントに該当します。

パワハラが原因で社員が自殺した場合、会社はどのような責任を負うのでしょうか?

パワーハラスメントが直接の原因で社員が自殺した場合、会社は損害賠償責任を負うことになります。
年齢等にもよりますが、1億円以上の賠償金となる可能性もあります。

女性社員のみにお茶汲みをさせることはハラスメントにあたるのでしょうか?

女性社員のみという取扱いは、セクハラに該当し得ますし、雇用機会均等法が禁止する性別に基づく差別にも該当し得ます。

会社の忘年会や新年会の強制参加は、アルコールハラスメントに該当しますか?

忘年会や新年会に参加させたとしても、アルコールを強要しない限りは、アルコールハラスメントには該当しないでしょう。

ただ、飲酒を強要する場合、アルコールハラスメント(厳密にはパワハラなのでしょうが。)に該当し得ると考えられます。

職場におけるハラスメント問題でお困りなら、弁護士に相談することをお勧めします。

以上に述べてきたように、職場におけるハラスメントには百害あって一利なしですから、企業としてはなくす方向で対策をとるべきです。

ただ、専門的な知見が必要となりますし、自社のみで対応することには困難も伴うことから、弁護士などの専門家に相談することをお勧めいたします。

埼玉県内で職場におけるハラスメント問題でお困りの企業は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

令和において、従業員のメンタルヘルス不調は、どのような企業においても避けて通ることのできない問題です。
自社の社員からメンタルヘルス不調だという社員が現れた時のポイントについて、見ていきたいと思います。

労働安全衛生法改正によるメンタルヘルス対策の強化

労働安全衛生法の改正によって、企業に求められるメンタルヘルス対策が強化されています。
具体的には、従業員の労働時間の状況の把握の方法について客観的な方法によるべきとして長時間労働の有無を把握するよう求めたり、長時間労働者には医師による面接指導を実施させること等が求められるようになりました。

メンタルヘルス不調社員への配慮は会社の義務

労働契約法上、使用者(企業)には、労働者の生命身体等に対する安全配慮義務が規定されており、メンタルヘルスの不調についても、会社は対処しなければなりません。

安全配慮義務違反に対する損害賠償責任

仮に、メンタルヘルス不調社員に対して、何ら対処しなかった場合には、会社は安全配慮義務を怠ったとして、不法行為、債務不履行に基づいて、従業員に対して、損害賠償責任を負う可能性があります。
実際に、会社に対して高額の損害賠償を命じた裁判例も多数あります。

メンタルヘルス不調を早期発見する重要性

従業員のメンタルヘルス不調に気付き、早期に対処していけば、そもそも安全配慮義務を怠ったとされないことも十分あります。
また、重篤な結果が生じないうちに、会社の制度や体制を見直すきっかけにもなりますから、メンタルヘルス不調を早期に発見することは重要です。

職場におけるメンタルヘルス不調の兆候とは

メンタルヘルス不調は、精神的な問題でありますから、外観上わからないこともあります。
ただ、勤怠が乱れた場合は要注意です。遅刻が増えるとか、早退が増えた場合には、メンタルヘルス不調の兆候として、気を配っておくことがよろしいです。

メンタルヘルス不調と休職時の対応

メンタルヘルス不調によって、従前の業務を提供できなくなった社員に対しては、休職という選択があります。
自社の就業規則の休職に関する規定にしたがって対応していく必要があります。

休職中の社員への対応

休職中の社会保険料をどうするかといったことは、予め就業規則に定めておくと、それに従えばよいので、対応に苦慮することもないでしょう。
また、休職期間中にも、定期的に様子をうかがうなどして、コミュニケーションをとっていくことが大事です。

復職可否の判断について

休職期間が満了した場合に、復職が出来なければ、自然退職又は解雇という規定になっている会社が多いかと思います。
この場合、復職できるかどうか、主治医や産業医の診断結果を基に会社は判断していくことになります。

主治医の診断書による判断

診断書の内容としては、従前の業務に復帰できるかどうか、という観点から記載してもらう必要があります。
仮に、配置転換によって軽易な労務であればできるという診断であれば、それを前提に検討していく必要があります。

職場復帰を支援する「リハビリ出勤制度」とは

会社によっては、リハビリ出勤制度として、正式な復職前の試し出勤制度を採用しているところもあります。
休業していた労働者の不安を和らげることができますし、実際に短時間働くことで、復帰できるかどうかの準備ができる制度です。

メンタルヘルス不調を理由とした解雇は認められるか?

メンタルヘルス不調であることのみで解雇することは難しいかもしれません。メンタルヘルス不調の原因が会社になく、欠勤が長期間続くとか、業務で重大なミスをした場合には、解雇が有効とされる可能性がないとまでは言えませんが、休職の規定がある場合は、そちらを先に経なければ解雇は認められません。

休職期間が満了しても復職可能とならなければ、自然退職という形で対処することが穏便です。

メンタルヘルスによる解雇の妥当性が問われた判例

有名な判例として日本ヒューレット・パッカード事件があります。

事件の概要

労働者に精神的不調(妄想性障害の合理的疑い)があった事案で、会社が休職命令を発令しました。

しかしながら、労働者から、休職期間満了時までに復職願いが提出されなかったため、会社が就業規則に従って労働契約を終了させたという事案です(ほかにも論点は多いのですが、今回はこの点について取り上げます。)。

裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)

「…雇用契約上の傷病休暇・休職の制度は,使用者が業務外の傷病によって長期間にわたって労働者の労務提供を受けられない場合に,雇用契約の終了を一定期間猶予し,労働者に治療・回復の機会を付与することを目的とする制度と解すべきであり,一方,労働者の治療・回復に係る情報は,その健康状態を含む個人情報であり,原則として労働者側の支配下にあるものであるから,休職期間の満了によって雇用契約は当然に終了するものの,労働者が復職を申し入れ,債務の本旨に従った労務提供ができる程度に病状が回復したことを立証したときに,雇用契約の終了の効果が妨げられると解するのが相当である。」(東京高判平成28年2月25日)

ポイントと解説

この事案は、労働者から、会社が休職期間の満了を理由に労働者を退職させることは実質的には解雇に当たるから、会社側が休職期間満了時に当該労働者について医師の診断を求め、当該労働者が復職できない健康状態であることを確認し、復職できないことにつき合理的な理由を主張立証すべきであると主張していました。

しかしながら、裁判所は、復職願を労働者が提出し、自ら債務の本旨に従った労務提供ができる程度に病児が回復したことを証明すべきであると明示した点がポイントです。

メンタルヘルスケアで会社に求められる対応

以上に述べてきたとおり、会社には、メンタルヘルス不調の社員に対して対応していくことが求められています。

厚生労働省が提唱する4つのケア

厚生労働省はメンタルヘルスケアのために、「労働者の心の保持増進のための指針」において以下の4つのケアを提唱しています。
①労働者が自らのストレスに気付き予防対処する「セルフケア」
②管理監督者が心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談対応を行う「ラインによるケア」
③事業場内の産業医等の産業保健スタッフ等が心の健康づくり対策を提言・推進し、労働者、管理監督者等を支援する「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」
④事業場外の機関及び専門家を活用し、その支援を受ける「事業場外資源によるケア」
です。

ストレスチェック制度の導入

常時50人以上の労働者を使用する事業場において毎年1回のストレスチェックが義務付けられました。
これ以外の事業場においては、ストレスチェックは当分の間努力義務とされましたが、できるだけ実施されるように、国では様々な支援をしています。

産業医との連携による適切な対応

上記した厚労省の4つのケアのうち、事業場内産業保健スタッフ等によるケアでも指摘されますが、産業医との連携はメンタルヘルスケアにおいて重要です。
産業医は、専門的立場から、対策の実施状況の把握、助言・指導などを行っていただけますから、会社としても産業医と連携して、メンタルヘルス不調をケアしていくことが重要です。

メンタルヘルスに関するQ&A

長時間労働者の面接指導でうつ病が疑われた場合、会社にはどのような対応が求められますか?

長時間労働を解消することと、病院への受診を促す対応が求められます。
長時間労働が、うつ病や過労自殺を引き起こすことは広く知られているところであり、まずは長時間労働の是正、それと併せて、病院での治療を促すことをお勧めいたします。

診断書にメンタルヘルス不調のため就労不能と記された場合、必ず休職させなければならないのでしょうか?

休職させるかさせないかの判断は、会社がすべきですが、医師の診断書は無視できませんので、原則的に休職規程にそって休職させるべきでしょう。
ただ、労働者の希望も聴取しながら、休職ではなく合意退職に至るというケースもありますので、労働者とよく話し合ってください。

派遣社員がメンタルヘルス不調を抱えている場合、派遣先としていかなる対応をなすべきでしょうか?

派遣社員の雇用主は、派遣元ではあるものの、派遣社員は派遣先から直接指揮命令を受けています。そのため、派遣先であったとしても、安全配慮義務があるものと考え、派遣元に丸投げせずに対処していく必要があります。
具体的には、派遣元とも協議しながら、派遣社員へ病院への受診を促すなどして、対応していくべきでしょう。

うつ病の発症を理由に、退職勧奨を行うことは法的に認められますか?

退職勧奨は、強迫など違法となる対応で行わない限り、法的に問題ありません。
ただ、うつ病の発症の原因が業務に起因している場合や、その症状が重篤な場合、後から、真意に基づかないなどと争われることはあるかもしれません。

うつ病の社員が休職から職場復帰する場合は、元の職場に戻すべきでしょうか?

原則として、復職可能というのは、従前の職務に戻ることを意味します。ですので、元の職場に復帰できる場合が復職になります。ただ、軽易な労務であれば復職可能な場合などもありますので、社員と会社で協議の上、職場を変える分には問題ありません。

メンタルヘルス不調が疑われる社員に受診を勧めましたが、応じてくれない場合はどうしたらいいですか?

就業規則に受診命令を出せるような規定はあるでしょうか。こういった場合には、受診命令を出すといったことが考えられます。
そして、従わない場合は、業務命令違反で戒告などに処して、受診を促していくことが考えられます。

ストレスチェックを実施しない会社への罰則はあるのでしょうか?

ストレスチェックを実施することが義務付けられている場合でも、事業主がストレスチェックを実施しなかったことそれ自体により罰則が科されるわけではありません。

ただ、常時50人以上の労働者を使用する事業者は、1年に1回、検査結果等の報告書を所轄労働基準監督署に提出する必要があります(安衛則52条の21)。
この報告をしなかった場合や、虚偽の報告をした場合には、50万円以下の罰金に処せられます(労安衛法120条5号)。

メンタルヘルス不調による再休職を予防するにはどうしたらいいでしょうか?

前回の休職の原因を探求し、その解消をしていくしかありません。また、労働者とのコミュニケーションを深めることも有効とされています。

職場のメンタルヘルス不調における、管理職の役割を教えて下さい。

管理職は、勤怠を管理し、また直接従業員と関与しているので、不調を発見しやすいと言えます。
ですので、管理職には、そのような不調がある社員を見逃さずにケアしていくことが求められます。

メンタルヘルス不調で遅刻・欠勤を繰り返す社員を解雇することは違法ですか?

休職規程がある場合、まずは休職させるべきといわれます(解雇猶予の制度。)。
そのため、休職規程がある場合は休職させるべきです。

うつ病が疑われる社員に対し、会社が指定した医師の診察を受けさせることは可能ですか?

可能です。ただ、社員にも医師選択の自由がありますので、就業規則上の根拠があった方がよろしいです。

ストレスチェックを受けさせる時間についても、賃金を支払う必要がありますか?

賃金については、労使間協議により決めることとなりますが、健康診断と同様に賃金を払うことが望ましいです。

社員の主治医からメンタルヘルスについて情報を得る場合、従業員本人の同意は必要ですか?

必要です。主治医からも、本人の同意書の提出が無ければ情報は開示できないというケースが多いと思われます。

メンタルヘルス不調社員への対応でお悩みなら、労働問題を専門とする弁護士にご相談下さい。

以上に述べてきたように、メンタルヘルス不調の社員の問題は会社にとって避けることのできない問題である一方で、非常に専門的な知識と判断が求められるものです。
自社の内部だけで検討するのではなく、弁護士などの専門家と相談の上対処されることをお勧めいたします。
埼玉県内でメンタルヘルス不調社員への対応でお悩みの企業は、ぜひ一度弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

今や、従業員のメンタルヘルスに関して、企業が無関心でいることはできません。
従業員のメンタルヘルスが不調になることによって生産性が低下することや、離職してしまうことといった問題にとどまらず、使用者である企業が損害賠償責任を負う可能性もあります。

今回は、メンタルヘルス問題と使用者の損害賠償責任について、解説したいと思います。

従業員のメンタルヘルス問題に伴う企業リスク

メンタルヘルスとは、厚生労働省によると、「体の健康ではなく、こころの健康状態」のことを意味するとされています。
したがって、従業員のメンタルヘルス問題というのは、従業員の心の健康状態に問題があるということになります。

企業は、従業員に対して、その生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする必要がありますから(安全配慮義務)、従業員のメンタルヘルスにも配慮する義務があります。
この義務を怠った場合には、損害賠償責任を負うリスクがあります。

使用者が配慮すべき安全配慮義務とは?

労働契約法第5条に、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」とあるように、使用者である企業には、労働者である従業員の健康に配慮する義務を負っています。

安全配慮義務違反で企業に問われる責任

安全配慮義務は、雇用契約に付随する義務として取り扱われていることから、労働者は、この義務違反を理由として債務不履行に基づく損害賠償請求を行うことができます。
また、不法行為責任を理由とする損害賠償請求も同様に行うことが可能です。

中小企業における取締役に対する責任有無

取締役には、会社法上、職務を行うについて悪意又は重大な過失があった時には、第三者に生じた損害を賠償する責任があります(会社法429条1項)。
中小企業における取締役は、自ら労務管理を行っていることもあることから、労働者から、悪意又は重大な過失によって、メンタルヘルス不調に陥らせた責任を取るよう、損害賠償請求を受けることがあり得ます。

損害賠償請求の法的根拠と争点

損害賠償請求の法的根拠は、前記したとおり、債務不履行又は不法行為責任が考えられます。
いずれの場合でも、争点としては、安全配慮義務があったかどうかや、労働者のメンタルヘルス不調が安全配慮義務によるものなのかどうかという点になることが多いです。

使用者が賠償責任を負う範囲

使用者が賠償責任を負う範囲としては、安全配慮義務違反と因果関係がある損害になります。
この損害とは、治療費や通院交通費、休業損害、逸失利益、慰謝料等が考えられます。
メンタルヘルス不調によって休業期間が長引くとか、会社を離職せざるを得なくなった場合などには、高額になっていくこともありえます。

メンタルヘルス問題と損害賠償請求に関する判例

メンタルヘルス問題と損害賠償請求に関する判例としては、有名な電通事件最高裁判決(最判平成12年3月24日)があります。

事件の概要

大手広告代理店に勤務する労働者が、長時間にわたり残業を行う状態を1年余り継続した後に、うつ病に罹患し自殺したという事案です。

裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)

「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。
労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法六五条の三は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。
これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。」と述べて、企業の損害賠償責任を認めました。

ポイントと解説

判例からもわかるように、長時間労働をさせていた場合にメンタルヘルス不調に至った場合には、安全配慮義務違反と認められやすいところがあります。
同判例の調査官解説では、安全配慮義務違反かどうかについて、業務の量等を適切に調整するための措置を採ることが重要であるとされています。
その意味で、残業が増えている従業員がいた場合には、割り当てる課題を減少させられないかどうかや、人員が補充できないかということに気を配る必要があります。

過失相殺や素因減額による減額の主張は認められるか?

労働者のメンタルヘルス不調の原因が、安全配慮義務にあるだけではなく、労働者の既往症や心因的要因等にもある場合には、割合を考慮して、過失相殺等の理由によって、使用者が負うべき賠償額を減額することが可能です。

もっとも、過労自殺のような事案では減額の主張は認められ難い傾向にあるとも言われており、前述の電通事件においても、自殺者本人の性格などを理由とする減額等については認められていません。

メンタルヘルス問題による労使トラブルを予防するには

メンタルヘルス不調による労使トラブルを予防するためには、労務管理を行って長時間を減らすことや、ハラスメントの予防などを行うこと、従業員同士のコミュニケーションを促進し、風通しの良い職場にしていくことが何よりです。

また、万一メンタルヘルス問題を生じた従業員がいたとしても、休職制度を利用するなどして休養を取らせ、回復した後、復職できるような環境をつくることも大事です。

メンタルヘルス問題に関するQ&A

メンタルヘルス不調の原因が、業務上の理由であるか否かの判断基準を教えて下さい。

メンタルヘルス不調の原因が業務上の理由であるか否かの判断基準については、労災における業務上かそれ以外かに関する認定基準(「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日基発1226第1号))を参考にするとよいです。
そこでは、対象疾病を発病していること、対象疾病の発病前概ね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること、業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないことという3つの要件を満たすかどうかが基準となります。

うつ病発症による損害賠償で、通院にかかったガソリン代を請求されました。通院交通費も会社が負担するのでしょうか?

メンタルヘルス不調が安全配慮義務違反によるものであれば、その治療のための通院交通費も、会社が負担すべき損害とされることが一般的です。

うつ病により社員が自殺した場合、会社はどのような責任を問われるのでしょうか?

債務不履行又は不法行為責任による損害賠償責任を問われる可能性があります。
人が亡くなってしまった場合には、損害額が1億円を超える可能性も考えられます。

安全配慮義務違反による慰謝料を、労災保険から支払うことは可能ですか?

労災保険には、慰謝料という費目がありません。そのため、労災保険から支払うことはできません。

派遣社員のメンタルヘルス問題による賠償責任は、派遣先企業と派遣元企業のどちらが負うのでしょうか?

派遣先、派遣元、ともに賠償責任を負う可能性があります。

直接の雇用関係にない下請会社で働く従業員に対しても、安全配慮義務を負うのでしょうか?

原則として、直接の雇用関係にない下請け会社で働く従後ウインに対して安全配慮義務は負いません。
しかしながら、元請け会社と下請会社の従業員との間にある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係が認められる場合には安全配慮義務を負うと解されています。

過去にメンタルヘルス不調に関連する投薬歴があった場合、損害賠償請求は無効となりますか?

単に投薬歴があったことの一事をもって無効となることはありません。
ただ、安全配慮義務とメンタルヘルス不調の間に因果関係がない(私傷病)ということになって、損害賠償義務を免れることや、過失相殺・素因減額などによって賠償額を減じることができる場合もあります。

採用時にメンタルヘルスの罹患歴がないことを確認しましたが、虚偽の回答であったことが分かりました。損害賠償額は減額できますか?

労働者のメンタルヘルス不調の原因が、労働者の既往症や心因的要因等にもある場合には、割合を考慮して賠償額を減額することが可能ですが、採用時に虚偽の回答をしたことだけで減額できるかは、事案によるとしかいえません。

メンタルヘルス不調が疑われる社員に対し、精神科への受診を勧めましたが応じてくれませんでした。この場合でも会社は賠償責任を負うのでしょうか?

安全配慮義務は尽くしたと認定されれば、会社が賠償責任を負うことはありません。
ですので、単に受診を勧めたものの応じなかったというだけでなく、残業させすぎていないか等といった別の事情も考慮して判断されることになります。

メンタルヘルス問題で請求される損害賠償額は、大企業ほど高額になるのでしょうか?

慰謝料等は勤め先によって変わるわけではありませんので、大企業であればある程高額になるわけではありません。ただ、休業損害等の消極損害は、給料が高ければ高額になりますので、その意味で大企業の方が高額になることはありえるでしょう。

メンタルヘルス不調で休職・復職を繰り返す社員を解雇することは違法ですか?

休職は解雇猶予の制度ですから、休職・復職を繰り返している社員を解雇することは違法になりやすいです。
休職期間満了による退職・解雇という手がありますが、仮に労災=業務起因性がある場合には、解雇制限がかけられますので違法になる点にご注意ください。

上司のパワハラによるうつ病発症で慰謝料を請求されました。パワハラの事実を確認するにはどのような方法がありますか?

パワハラの事実を確認するためには、当事者間のメールのやり取りなど形に残る証拠や、周囲の人間への聞き取り等が考えられます。

適正なメンタルヘルス対策を講じることで労使トラブルを予防することができます。不明点があれば、まずは弁護士にご相談ください。

企業にとって、メンタルヘルス不調の労働者の問題は、現代社会において無視できない問題です。
また、対処を間違ってトラブルに発展することも多く、労使トラブルに発展しやすい分野でもあります。
他方で、適正なメンタルヘルス対策を講じることで、従業員の生産性向上にもつながることから、企業としても、力を入れていくべき分野です。

もっとも、法的に判断や対処が難しいところもあり、就業規則で休職規程がどうなっているかなどもかかわってくることから、労働法に詳しい専門家である弁護士の関与は、必須と言ってよいでしょう。
埼玉県内でメンタルヘルス問題にお悩みの企業は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

管理職には、残業代を支払わなくても良いという話をよく伺います。
管理監督者に対して、残業代を支払わなくてよいというのであれば正しいのでしょうが、管理職というだけで管理監督者に該当するかどうかは、別の問題です。
今回は、管理職と残業代について、解説していきます。

管理職に対しても残業代を支払う義務があるのか?

管理職に対して、残業代を支払う義務があるかと言われれば、管理監督者(労基法41条2号)に該当しない限り、残業代を支払う義務があるとお答えせざるを得ません。

管理監督者に残業代を支払う義務はない

労基法第41条によると「この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。」とあり、同2号には「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」と規定されています。

これが管理監督者のことで、同条から明らかなように、管理監督者には、残業代に関する労基法の規程が適用されないことになります。
そのため、管理監督者に残業代を支払う労基法上の義務はないことになります。

管理監督者でも深夜手当の支払いは必要

他方で、管理監督者であっても、深夜割増手当は支払わなければならないとされています。
管理監督者が午後10時から午前5時の間に労働した場合には、深夜割り増しを行う必要がありますので、この点は注意して支払いを行っていただければと思います。

管理職には残業代を支払わないと就業規則で定めている場合は?

管理職について、管理監督者に該当することを前提に、就業規則上、残業代を支払わないこととしている就業規則を見ることがあります。
しかしながら、労基法に反する就業規則は無効となってしまいますので、仮に就業規則で定めていたとしても、管理監督者に該当しない限り、その就業規則は無効となります。

労働基準法における管理監督者の該当性

では、残業代を支払わなくともよい管理監督者とは、どういったもののことをいうのでしょうか。
これは、名称にとらわれず、実態に即して、以下の事項を考慮しながら判断するとされています。

労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有している

管理監督者は、労基法上の労働時間、休憩、休日などの規制を受けない労働者ということですから、この枠を超えて活動させざるを得ない重要な職務内容を有していることが必要であると言われます。
例えば、部下の人事考課に関与し、会社の機密事項などにも精通し、経営者と一体となって経営を左右するような職務内容についているかどうかが問われます。

労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有している

上記と重なるところもありますが、いわゆる名ばかり支店長の様に、何ら責任も権限もないような従業員について、役職名だけ大仰なものにしたとしても、管理監督者に該当するとは言えません。
従業員の採用や人事考課などについても、責任と権限を有していることが求められます。

現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものである

実際の労働状況を見ても、勤怠管理がなされるような者ではなく、出退勤に関するペナルティもない、自身で出退勤を自由に決めることができるような勤務態様をしているかどうかも、重視されます。

賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされている

業種や企業規模によって異なる面もありますが、少なくとも他の従業員と同様の賃金しか得ていない者については、管理監督者とは言い難いでしょう。残業代や休日手当が支払われない点を考慮しても、ふさわしい待遇がされているかというところも、考慮されることになります。

管理職が必ずしも管理監督者に該当するわけではない

会社の管理職と言えば、課長や部長、リーダーなどの役職名が付されたものをひろく意味するかと思いますが、以上に見てきたとおり、管理職であれば、管理監督者に該当するわけではありません。

企業で違う管理職の扱い

実際のところ、自身が勤めている会社の管理職と、他の会社の管理職の制度は異なっていることもあり、一概に管理職といったとしても、その職責、待遇は千差万別と言わざるを得ません。

「名ばかり管理職」と残業代の問題

かつての高度経済成長期における管理職は、概ね管理監督者と言ってよいような者が多かったと言われますが、人員構成が変化してきたこと(高齢化)で、ポストの問題からも、スタッフ管理職として名ばかり管理職を増加させてきました。

また、フランチャイズやチェーン店の増加で、名ばかり店長も増加し、管理監督者に該当しないような管理職が増加しました。
これによって、管理職には残業代を支払わなくてよいと考えている企業と、労基法の間に、齟齬が生じ、残業代請求の問題が出てくることになりました。

管理職の勤務実態を把握する必要性について

会社としては、予期せぬ残業代の未払いを避けるためにも、自社の管理職の勤務実態を把握する必要があります。
もしも、自社の管理職が、名ばかり管理職に過ぎず、管理監督者には該当しないというのであれば、管理職への残業代の支給について、検討せざるを得ませんし、賃金体系そのものの見直しも必要となってくる可能性もあります。

管理監督者の該当性が問われた裁判例

管理監督者の該当性が問われた裁判例としては、日本マクドナルド事件が有名です。

事件の概要

ハンバーガーチェーン店の店長が、過去2年分の割増賃金の支払を求めるなどした事案で、会社としては、店長以上の職位の従業員を就業規則上、管理監督者として扱っていたため、残業代を支払う必要はないと主張した事案です。

裁判所の判断

裁判所は、同企業における店長は、店舗のアルバイト従業員の採用やその育成、従業員の勤務シフトの決定等の権限を有し、店舗運営については重要な職責を負っているといえるものの、その権限は店舗内の事項に限られ、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められず、その賃金も管理監督者に対する待遇として十分とはいえないとして、管理監督者に該当しないと判断しました。

ポイントと解説

同裁判例の企業は、非常に有名な企業であり、店長という職位自体で1000人以上いるという特殊性はありますが、管理監督者に該当するかどうかは、名ばかり店長では、管理監督者に該当しないという従来の解釈のとおり判断したものと言えます。

管理職・管理監督者の残業に関するQ&A

管理監督者から残業代の請求があった場合、企業はどう対応すべきでしょうか?

管理監督者に該当するかどうかは、法的な判断を含む問題です。
自社のみで判断するのではなく、弁護士への相談をすることをお勧めいたします。

裁判で管理監督者の該当性が否定された場合、過去の残業代を支払わなくてはなりませんか?

裁判で管理監督者に該当しないと判断された以上、当該労働者には残業代を支払う必要があったことになります。
残業代の時効は、2年(2020年4月以降3年)ですので、時効にかかっていない部分の残業代は支払わなくてはなりません。

管理監督者に労働時間の規制が及ばないのは何故でしょうか?

労基法は、労働者保護のための法律です。
ですが、管理監督者に該当するような者は、自らの労働時間は自らの裁量で律することができ、かつ管理監督者の地位に応じた高い待遇を受けるので、労働時間の規制を適用する(保護する)のが不適当と考えられたからです。

管理職の職務内容や権限を把握するには、どのような資料が必要ですか?

その者の職務内容がわかる資料や、雇用契約書、就業規則、賃金台帳などがまず考えられます。

勤怠管理は一般社員と同様ですが、待遇については差があります。このような管理職は管理監督者に該当しますか?

勤怠管理が一般社員と同様ということは、遅刻早退について、減給を行っているということでしょうか。
仮に、減給を行っている場合、出退勤の自由を有しているとは言えませんので、端に賃金が高いだけでは管理監督者に該当するとは言い難いでしょう。

管理監督者は36協定の対象となるのでしょうか?

管理監督者については、時間外労働や休日労働が想定されませんので、36協定の対象とはなりません。ただし、行政解釈によると、管理監督者も、36協定の締結にあたって過半数代表を選出する際の投票などに参加する労働者に当たるとは考えられています。

遅刻や早退による減給の対象外としている管理職は管理監督者に該当しますか?

これも、単にそれのみで管理監督者に該当しないとは言い難いです。職務内容や責任・権限、待遇などについても考慮しなければ、何とも言い難いでしょう。

管理職の待遇を把握するには、どのような資料が必要ですか?

賃金台帳が考えられます。待遇については、各社の規模によっても異なるでしょうが、自社の社員での待遇差がわかる資料があると良いと考えられます。

管理監督者が長時間労働によって健康障害を生じた場合、企業はどのような責任を問われますか?

管理監督者に該当したとしても、労働者であって、会社が安全配慮義務を負っていることは変わりありません。
健康維持のための勤怠管理については、管理監督者にもしなければならないとされていますので、安全配慮義務違反による損害賠償責任を負うことが考えられます。

パートやアルバイトを採用する権限がない店長は、管理監督者には該当しますか?

上記したとおり、部下の採用や人事考課の権限がない店長については、経営者と一体となるような権限がないと評価されると考えられますので、管理監督者に該当しないと判断される可能性が高いでしょう。

管理監督者でない管理職に残業代を支払っていない場合、会社は罰則を科せられますか?

管理監督者でない以上、その管理職も労働者です。
労働者に残業代を支払っていない場合、労基法違反によって、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性がありますので、注意が必要です。

管理職について正しい知識を持つ必要があります。企業法務でお悩みなら弁護士にご相談ください。

以上に見てきたように、単に管理職との名称を付したからといって、管理監督者に該当するとは言えません。管理監督者に該当し、残業代を支払わなくても良いかどうかは、ふさわしい職責と待遇が無ければ、いけませんが、この判断は法的な判断であり、自社のみで検討・判断することはリスクがあると言わざるを得ません。

管理職について正しい知識をもって、労務管理していく必要が企業にはあります。
埼玉県内で、管理職に関してお悩みの企業の方は、ぜひ一度弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。