不利益変更のケース別のトラブル防止のポイント

コラム

従業員を雇用し、事業を続けている企業にとしては、目まぐるしく変わる情勢の変化に対応するために、従業員の労働条件の不利益変更を検討せざるを得ないことがあります。
今回は、労働条件の不利益変更について、ケース別のトラブル防止のポイントをご説明いたします。

就業規則による労働条件の不利益変更の禁止について

労働条件は、企業と従業員との合意によって変えることができます(労契法8条)。
他方で、合意がない中では、例外を除けば、就業規則所定の労働条件を不利益に変更することはできません(労契法9条)。

不利益変更を行うことのリスク

そもそも労働条件を不利益に変更するということは従業員側からすれば軽々に受け入れられるものではありません。
従業員のモチベーション低下を招き業績が悪化するリスクや、変更後に労働審判や労働訴訟などに発展し、裁判所から無効と判断されるリスクもあり得ます。
賃金を減額した場合に、裁判所から無効と判断されると、それまでの間に未払い賃金が溜まっていくことになってしまい、思わぬ金額の支払いを求められるリスクになってしまいます。

労働条件の不利益変更が認められる条件とは?

就業規則の不利益変が認められる条件

ただ、労働条件の不利益変更はいかなる場合も認められないわけではありません。
労働条件は、従業員と個別に合意することや、労契法第10条に該当する形での就業規則の変更、労働協約の締結によって変更することができます。
以下では、就業規則の改訂による労働条件の不利益変更の要件について取り上げます。

不利益変更の「合理性」を判断する基準

就業規則を不利益変更するには、合理性及び周知性の要件を満たす必要があります(労契法10条)。
このうち、合理性の要件を満たすかどうかは、
①労働者の受ける不利益の程度
②労働条件変更の必要性
③変更後の就業規則の内容の相当性
④労働組合等との交渉の状況
⑤その他の就業規則の変更に係る事情(例えば代償措置、激変緩和措置、同業他社・世間相場との比較等)
を総合考慮して判断されます(労契法10条)。

不利益変更のケース別のトラブル防止のためのポイント

労働条件といっても、様々な条件があります。以下では、各条件を不利益に変更する際のケース別のポイントをご説明いたします。

賃金・手当に関する不利益変更の注意点

賃金や手当は従業員の生活に直結する重大な事項であるため、これを不利益に変更する場合には、明瞭な形での合意が求められます。
また、就業規則の変更による場合には、高度の必要性に基づいた合理的な内容であることが求められます。
先程上げた①労働者の受ける不利益の程度が大きければ大きいほど、高度の必要性が無い限り、就業規則による変更は許容されません。
少なくとも、どの程度の賃金減額となり、その必要性が十分な説得力を持った形で説明できなければなりません。

時間外労働・残業代に関する不利益変更の注意点

ここでは、いわゆる固定残業代の設定や変更などが想定できるかと思いますが、時間外労働に関する割増賃金も賃金の一種ですから先ほどと同じ説明が当てはまります。

労働時間・休日・休暇に関する不利益変更の注意点

就業規則で定められた労働時間や休日・休暇を変更することは、不利益変更にあたり得ます。
例えば、労働時間を増やすことや、休日・休暇を減らすことは不利益変更にあたります。
他方で、日曜が休日であった会社が、月曜日を休日に変更することはどうでしょうか。
日曜日が休日であった自動車教習所が、日曜日に営業する必要があると判断し、所定休日を日曜日から月曜日に変更するとともに、事務員の平日の就業時刻を午後5時20分から午後6時に変更したという裁判例があります(福岡地方裁判所小倉支部平成13年8月9日判決(九州自動車学校事件))。
裁判所は、日曜日が休日でなくとも大きな不利益はないという判断を示し、労働時間の合計が総体としては短縮されていること等を考慮して全体的には利益な方向への変更ということもできるとして、休日変更の合理性を肯定しています。

不利益変更でトラブルにならないために企業がすべきこと

労働条件の不利益変更は、労働者の反発を招きやすく、もしトラブルになった場合は、前述したようなリスクがありますので、企業としてはできる限り避けたいところです。

従業員と合意書を取り交わしておく

まずは、個々の労働者との間で事前に合意書を取り交わしておくことが重要です。
労働者との間で合意が得られれば、労働条件を不利益に変更しても良いからです。

これは単に労働者が異議を述べなかったということだけで不利益変更について同意があったとは言い難く、労働者から明瞭な形での合意を取得するか、十分な手続き(説明、質問、異議申し出の機械など)が尽くされたことが必要となってきます。
説明で用いた資料や協議の際の議事録などを残しておくことで、後の労使紛争に備えることができます。

代償措置や経過措置の検討

代償措置や経過措置を置くことで、労働者からの同意を取得しやすくなりますし、不利益変更の合理性を判断する際にも重要な要素となりますので、その検討をしておく必要があります。
ある労働条件は不利益に変更するものの、他の労働条件を利益に変更することが可能な場合は、総体として変更の合理性も認められやすくなりますし、そもそも従業員から合意が得られやすくなります。
また、急激な変化を緩和するために段階を踏んで変更をするなどの経過措置も不利益変更の合理性を支えてくれる事情となります。

従業員から労働審判や訴訟を起こされた場合の対応

労働条件の不利益変更を行った後、従業員から、従前の労働条件に基づく賃金の請求等の労働審判や訴訟が起こされる可能性があります。
これは裁判所から審査されることとなりますので、自社のみで対応することはできませんので、弁護士に相談し、依頼することで対応していく必要があります。

労働条件の不利益変更に関する裁判例

就業規則変更による不利益変更については、大曲市農協事件判決(昭和63年2月16日)が著名です。

事件の概要

これは、農業協同組合の合併に伴って新たに作成された退職給与規程の退職金支給倍率の定めが一つの旧組合の支給倍率を低減した(例として64→55.55,55→45.945,61→53.75)ことが争われた事例です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は、農業協同組合の合併に伴って新たに作成された退職給与規程の退職金支給倍率の定めが一つの旧組合の支給倍率を低減するものであっても、それによる不利益は退職金額算定の基礎となる基本月俸が合併後増額された結果軽減される一方、右支給倍率の低減が、合併前に右組合のみが県農業協同組合中央会の退職金支給倍率適正化の指導・勧告に従わなかったため他の合併当事組合との間に生じた退職金水準の格差を是正する必要上とられた措置であるなど判示の事情があるときは、右退職給与規程の退職金支給倍率の定めは、合理性があるものとして有効であると判断しました。

ポイント・解説

本判決のポイントとしては、最高裁が就業規則の不利益変更が許容される合理性について「当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいう」との解釈を示したことや、「特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである」として、賃金や退職金のような重要な労働条件の不利益変更を許容する合理性についてはより慎重になるべきであるとの解釈を示したことがポイントです。
賃金等の変更については、前記したとおり、一層の注意が必要です。

不利益変更で無用な労使トラブルを避けるためにも、弁護士に相談することをおすすめします。

労働条件の不利益変更は、従業員の既得権益を奪う側面があることから、従業員からの強い反発を招きやすいです。
そのことがわかっていても、企業としてはやむに已まれぬ事情から、不利益変更を行わなければならない場合があり、互いに激しく争う可能性もあります。
不利益変更が法的に許容されるかどうかは、検討すべき事項が多いだけでなく、事案毎に事実関係が異なり、裁判所の結論についての予測がたて難く、また敗訴した場合には、多額の支払いを求められる事態にもならず、リスクも大きい問題です。
自社のみで検討し、実行していくことは困難な問題と言えますので、労働問題に精通した弁護士の助力を受けながら、進めていくことをお勧めいたします。
埼玉県内で不利益変更にお悩みの企業はぜひ一度弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

最低賃金という単語を聞いたことがある方は多いと思います。
ただ、最低賃金制度の詳細については、ぼんやりとしか理解していない方が多いです。今回は、最低賃金制度の概要と、最低賃金制度に違反した場合の労基署の対応について、ご説明したいと思います。

最低賃金制度の概要

最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、会社が、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です(労基法28条、最低賃金法)。
仮に最低賃金よりも低い給与額で労働者を雇い入れたとしても、最低賃金法によって無効とされて、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます(最低賃金法第4条2項)。
そのため、仮に会社が労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合には、最低賃金との差額を支払う必要があります。

地域別最低賃金

地域別最低賃金とは、産業や職種にかかわりなく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金として定められるものです。
各都道府県ごとに定められているので、全部で47件の最低賃金が定められています。

特定最低賃金

特定最低賃金とは、特定の産業について定められた最低賃金です。
関係労使の申出に基づいて最低賃金審議会の調査審議を経て、同審議会が地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について定められています(ただし、18歳未満又は65歳以上の方、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の方、その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方などには適用されません。)。
令和2年4月1日時点で、全国で228件の最低賃金が定められています。
この228件のうち、1件だけ全国単位で定められており(全国非金属鉱業最低賃金)、その他は各都道府県内の特定の産業について定められています。

最低賃金の減額特例について

最低賃金制度は例外が定められています。
一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、①精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者、②試の使用期間中の者、③基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める者、④軽易な業務に従事する者、⑤断続的労働に従事する者については、会社が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として個別に最低賃金の減額の特例が認められています。

最低賃金法に違反した場合のリスク・罰則とは?

最低賃金法に違反した場合には、前記したとおり、最低賃金額との差額の支払い義務があります。
また、地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わなかった場合、50万円以下の罰金が定められています(最低賃金法40条)。特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わなかった場合には、30万円以下の罰金が定められています(労働基準法120条)。
それ以外にも、最低賃金を支払っていない会社として、会社の社会的信用を失うリスクもあります。

最低賃金制度に違反した場合の労基署対応

最低賃金制度に違反した場合には、労基署から以下の対応がなされます。

労働基準監督署による立ち入り調査

まず、労基署から立ち入り調査をされる可能性があります。

立ち入り調査(臨検監督)の種類

立ち入り調査には、定期監督と言われるものと、災害時監督、申告監督、再監督といったものがあります。
最低賃金違反については、定期監督か申告監督によることになりますが、予告なく行われる場合が多いです。

立ち入り調査でやってはいけない対応とは?

企業は誠実に立ち入り調査に対応しなければなりません。
間違っても、労基署からの調査を拒むことはしない方が良いです。それをきっかけに強制捜査に発展する可能性もあります。

弁護士の立ち会いを依頼すべき理由

顧問弁護士等に立ち合いを依頼することで、労基署に対し、企業の実情を踏まえた対応を行うことができます。
また、労基署に対して、顧問弁護士と共に改善に着手することを伝えることで、労基署に対して法令順守の姿勢をアピールすることもできます。

違反が認められた場合の是正勧告書の交付

仮に立ち入り調査で問題点等が発見された場合、労基署からは是正勧告書、指導票、使用停止等命令書が交付されます。
臨検監督を行い、当該事業場において法違反が発見された場合に、労働基準監督官が違反事項を説明し、期日を指定して是正を勧告します。この際に交付するのが是正勧告書です。

是正報告書の作成・提出

是正勧告書には、違反している法律の街灯条項、違反事項、是正期日が規定されていますので、企業は、是正勧告書に記載された事項の趣旨に従って是正期日までに、労働基準監督署所長に是正報告書を作成・提出することになります。

指導票を交付された場合の対応は?

指導票は、法違反には該当しないものの、改善した方が好ましい点がある場合等に交付されます。
ただ、指導票に対しても、指定された日までに是正報告書を作成・提出しなければなりません。
法違反が認定されていないので、従わなくても、そのこと自体で処罰されることはありませんが、コンプライアンス上は好ましくありません。

是正勧告に従わない場合は逮捕・送検のおそれ

是正勧告に従わない場合は、是正する意図のない悪質な事業者と判断されて、送検などの厳しい対応を受けかねません。
労基署とコミュニケーションを取りながら、是正措置を行っていくべきです。

最低賃金制度に違反しないために企業がとるべき対策

一般的に最低賃金額を下回る賃金を採用している企業は存在しません。
しかしながら、地域別最低賃金額は、毎年(10月に改訂されることが多いです。)確認しておかなければ、事後的に最低賃金を下回ってしまう恐れがあります。
企業は、毎年定められる地域別最低賃金額に十分に注意を払っておく必要があります。

最低賃金を下回っていないか確認する方法

最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。
具体的には、実際に支払われる賃金から①臨時に支払われる賃金(結婚手当など)、②1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)、③ 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)、④所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)、⑤午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)、⑥精皆勤手当、通勤手当及び家族手当を除外したものが最低賃金の対象となります。

自社の給与が最低賃金を下回っていないかを確認する方法としては、最低賃金の対象となる上記賃金額と適用される最低賃金額を以下の方法で比較することになります。

① 時間給制の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)

② 日給制の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、
日給≧最低賃金額(日額)

③ 月給制の場合
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)

④ 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。

⑤ 上記①~④の組み合わせの場合
例えば、基本給が日給制で、各手当(職務手当など)が月給制などの場合は、それぞれ上記②、③の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。

最低賃金にまつわる裁判例

最低賃金にまつわる裁判例として帝産キャブ奈良事件(奈良地判平成25・3・26労判1076号54頁)があります。

事件の概要

固定給+歩合給のタクシー乗務員として勤務していた乗務員が、最低賃金との差額を請求してきた事案です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は、不就労時間及び組合活動時間を所定労働時間から控除すべきとする企業側の主張を退け、1か月の所定労働時間の実数を算定し、また、特別勤務手当は雇用契約とは別個の労務に対する報酬に該当するから、同手当を最低賃金の制限対象としての歩合給に含めるべきではないなどとして、未払賃金請求を一部認容しました。

ポイント・解説

(月額固定給÷月間所定労働時間+月額歩合給÷月間総労働時間)で、当該月の時間当たり賃金額を算出して、最低賃金(時間当たり)と比較したところがポイントです。

労働基準監督署への対応でお困りなら弁護士にご相談ください。

労働基準監督署からの立ち入り調査は、対応を間違うと強制捜査のおそれもあり、企業にとって非常に重要な問題です。
可能な限り、顧問弁護士等の専門家の協力の下、立ち入り調査などに対応していくべきです。
埼玉県内で労働基準監督署への対応でお悩みの企業の方は、ぜひ一度弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

育児・介護休業法が令和3年6月に改正されました。改正法は順次施行されていきますが、令和4年4月1日から施行される部分もあります。今回は企業の方が令和4年4月施行分の育児・介護休業法について対応しておくべきポイントについてお話いたします。

令和4年4月より施行される「育児・介護休業法改正」で何が変わる?

令和4年4月1日から、企業では、①育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置が義務付けられたこと、②有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件が緩和されたことがポイントです。

育児・介護休業法とはどんな法律?

育児・介護休業法は、子供や介護を要する家族がいる労働者が、働きながら育児・介護を行えるようにするために、雇用継続や再就職の促進を目的として制定された法律です。
少子高齢化で労働人口が減少していく中、仕事と育児・介護が両立しやすい職場づくりをすることで、企業にとっても優秀な人材の確保・育成・定着に結び付けるようなメリットがあります。

育児・介護休業法が改正された目的は?

現実問題として約5割の女性が出産・育児によって退職しており、その理由が仕事と育児の両立の難しさで辞めたとの調査もあります。
令和3年改正では、こういった現状に対処し、育児と仕事の両立という目的を更に促進するため、「出産・育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするため、子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設、育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け、育児休業給付に関する所要の規定の整備等の措置を講ずる。」ことを目的とするとされています。

育児・介護休業法の改正内容とポイント(令和4年4月施行)

前記した様に、令和4年4月1日に施行される育児・介護休業法の改正内容は、①雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化と、②有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和です。

①雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化

育児休業を取得しやすい雇用環境の整備として、①育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施、②育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備等、③自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供、④自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休養取得促進に関する方針の周知、④自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知のいずれかの措置を講じなければならないとされました。なお、複数の措置を講じることが望ましいとされています。

また、妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置として、①育児休業・産後パパ育休に関する制度、②育児休業。産後パパ育休の申し出先、③育児休業給付に関すること、④労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会社会保険料の取扱いについて、面談(オンライン面談でも可)、書面交付、FAX、電子メールなどのいずれかの手段によって行わなければならなくなりました。

②有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和

現行法上、①引き続き雇用された期間が1年以上、②1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかでない場合に取得が可能でしたが、これが緩和され、①の要件は撤廃されることとなりました。
もっとも、無期雇用者と同様の取扱いになっただけですので、引き続き雇用された期間が1年未満の場合は、労使協定において対象から除外可能です。

法改正への対応を怠った場合のペナルティは?

育児・介護休業法が改正されたことで、事業主の義務が増えたわけですが、これに違反した場合、事業主は行政から報告を求められます。
また、行政から必要な措置を講ずるように助言、指導、勧告を受ける場合もあります。
仮に勧告に従わないとか、もしくは虚偽の報告を行った場合には罰則として、企業名の公表と20万円を上限とする過料のペナルティがあります。

育児・介護休業法改正に向けて企業がとるべき対応

企業は、施行後に上記①②の措置を取らなければなりませんので、就業規則の変更や実際に妊娠・出産を申し出た労働者への個別周知と意向確認に関するマニュアルの整備、研修の準備などをしておく必要があります。

妊娠・出産を申し出た労働者への個別周知と意向確認

個別の周知事項とは?

企業は、本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、個別に、①育児休業・産後パパ育休に関する制度、②育児休業・産後パパ育休の申し出先、③育児休業給付に関すること、④労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会社会保険料の取扱いを周知させる必要があります。
ただ、このうち、産後パパ育休は施行日との関係で令和4年10月1日から対象となります。

個別周知・意向確認はどのような方法で行う?

個別周知・意向確認は、面談、書面交付、FAX、電子メールなどのいずれかの手段によって行う必要があります。なお、面談はオンラインでも可能です。また、FAXと電子メール等は労働者が希望した場合のみに行うことが出来ます。

個別周知・意向確認を行うタイミングは?

労働者が希望の日から円滑に育児休業を取得することが出来るように配慮して適切な時期に実施することが必要とされています。
具体的には、①妊娠・出産の申出が出産予定日の1カ月半以上前に行われた場合は出産予定日の1か月前までに、②それ以降に申出があった場合でも、出産予定日の1か月前までに申し出が行われた場合には申出から2週間以内、出産予定日の1か月前から2週間前の間に申出がお紺われたバイは1週間以内など、出来る限り早い時期に措置を行う必要があります。
仮に出産予定日の2週間前以降に申出があった場合や子の出生後に申出があった場合でも、出来る限り速やかに措置を行う必要があるとされています。

就業規則の変更・周知

有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和については、就業規則の見直しが必要になりますので、施行前に変更・周知しておく必要があります。

必要に応じて労使協定の締結

また、有期雇用労働者については無期雇用労働者と同様の扱いになることから、引き続き雇用された期間が1年未満の労働者については、労使協定の締結によって除外が可能ですので、企業の必要に応じて労使協定を締結しておく必要があります。

今後も改正育児・介護休業法が順次施行されます!

今後も、改正育児・介護休業法は淳司施行されていきます。
具体的には、以下のスケジュールで施行されます。

男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設 (令和4年10月1日施行)
育児休業の分割取得 (令和4年10月1日施行)
育児休業の取得の状況の公表の義務付け (令和5年4月1日施行) 

育児・介護休業法改正へ適切に対応できるよう、弁護士がアドバイスいたします。

育児・介護休業法の改正に適切に対応するためには、社内での制度整備(研修や個別周知・意向確認に関するマニュアル作成など。)や、就業規則の変更(有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和や産後パパ育休の創設など。)が必要となります。
このような改正については、労働法務の専門家である弁護士のアドバイスを受けながら対処していくことをお勧めします。
埼玉県内で育児・介護休業法改正についてお悩みの企業様は弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所に是非ご相談ください。

皆さんは令和3年1月から労働者派遣契約書を電磁的記録によって作成することが出来るようになったことをご存知でしょうか。
今回は、労働者派遣契約の電子化の解禁について、ご説明させていただきたいと思います。

令和3年1月1日から労働派遣契約の電子化が解禁

労働者派遣法が改正されたことにより、令和3年1月1日から、派遣元企業と派遣先企業との間で取り交わされる労働者派遣(個別)契約を、電磁的記録(電子データ)によって行うことが出来るようになりました。

労働派遣契約の電子化が解禁された背景

労働者派遣(個別)契約は、期間が短いものも多いことから契約締結が繰り返されることもありますが、改正前は、書面による契約締結が義務付けられていたため(改正前労働者派遣法26条1項、改正前労働者派遣法規則26条1項)、一回一回書面によって契約を締結していました。
これは、事務作業が頻繁に発生するもので、様々なコストがかかるとして、電子化が望まれていました。
これらの声に押されて、労働者派遣契約書の電磁的記録による作成が認められるに至りました。

電子化は義務?書面契約のままだと罰則はあるのか?

電子化は義務ではなく、書面の作成に代えて認められただけですので、書面契約のままだと罰を受けるといったことはありません。

企業が労働派遣契約を電子化するメリットは?

企業が労働者派遣契約を電子化するメリットは何と言っても、事務作業のコスト削減にあります。

ペーパーレス化によるコスト削減

書面を一々印刷、製本することは、それだけ事務作業の時間を増やすことになります。
このようなペーパレス化によるコスト削減が期待されます。

捺印申請や郵送手続きなどの工程削減

また、署名押印を行うということは、捺印申請や双方の郵送手続きなどの工程が必要となりますが、電子化すれば、そのような手間はありません。

データの保管・管理の簡便化

書面であれば保管場所にもコストがかかりますが、電子データであれば、そのような保管に関するコストも不要となり、また管理も簡便となります。

テレワークでも対応が可能

コロナウイルスの影響で、日本でもテレワークが浸透してきました。郵送であると、送付先、受領先とも固定されがちですし、封筒等の資材も職場に行かなければなりませんが、電子データであれば、場所を問いませんので、テレワークにも対応することが可能です。

電子契約はセキュリティ面で問題ないのか?

もちろん、サイバー攻撃や情報漏洩による不安というものは存在しますが、それは社内における電子データ一般に言えることであり、電子契約についてのみにリスクがあるわけではありません。
社内での情報漏洩やサイバー攻撃に対する意識改革や、対策を取っていくことで対処していくべき問題でしょう。

労働派遣契約の電子化で企業に求められる対応

労働者派遣契約の電子化によるメリットは、上記したようなコストの削減にあります。
企業としては、DX推進の一環として、電子契約に対応できるような環境を整備しておく必要があります。

電子契約システム導入の検討

まずはインフラが整っていなければなりませんので、電子契約システムの導入を検討することになります。

社内ルールの策定と周知

セキュリティ面での対策として、情報漏洩などの対策に関する社内ルールを策定する必要があります。
また、ルールを策定しただけで終わるのではなく、実働する方々がルールを熟知していないことには、ルールは機能しませんから、社員に周知することが重要です。

派遣契約に関するご相談は、労働問題を得意とする弁護士にお任せください。

労働法に関する問題は、派遣契約に関するものも含めて、頻繁に改正が繰り返されています。こういった改正に対応していくには、労働問題を得意とする弁護士の協力が不可欠です。
埼玉県内で派遣契約に関するお悩みを抱えている企業の方は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

令和3年6月に育児・介護休業法が改正され、令和4年4月1日から3段階で施行されることとなりました。今回は、育児・介護休業法改正のポイントについて、ご説明いたします。

育児介護休業法とはどんな法律?改正された目的は?

育児・介護休業法とは、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」の略称です。
この法律は、子供や介護を要する家族がいる労働者が、働きながら育児・介護を行えるようにするため、雇用継続や再就職の促進を目的として制定された法律です。
少子高齢化で労働人口が減少していく中、仕事と育児・介護が両立しやすい職場づくりをすることで、企業にとっても優秀な人材の確保・育成・定着に結び付けるようなメリットがあります。

令和3年改正では、このうち育児と仕事の両立という目的を更に促進するため、「出産・育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするため、子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設、育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け、育児休業給付に関する所要の規定の整備等の措置を講ずる。」ことを目的とするとされています。

【2022年4月~】育児介護休業法改正のポイント

令和3年6月改正のポイントは、以下の5点です。

①男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設 (令和4年10月1日施行)
②育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け(令和4年4月1日施行)
③育児休業の分割取得 (令和4年10月1日施行)
④育児休業の取得の状況の公表の義務付け (令和5年4月1日施行) 
⑤有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(令和4年4月1日施行)

男性の育児休業取得促進のための「出生時育休制度」の創設

これまでも男性であろうと育休を取得することは可能でした。
しかしながら、実際の育児休業取得率は、男女で大きな差が存在していました。また、男性で育休の取得を希望していた労働者のうち、約4割は、育休の利用ができなかったというデータもあり、男性労働者の休業取得の希望が十分に叶えられていないという現状がありました。
そこで、男性の育児休業促進のため、産後パパ育休(出生児育児休業)が創設されることになりました。
この制度は、この出生後8週間以内に4週間まで育休とは別に取得可能な制度です。
また、分割して2回取得することが可能です(ただ、原則として休業の2週間前までに、まとめて申し出る必要があります。)。

「雇用環境整備」と「個別の周知・意向確認」が事業主の義務に

育児休業を取得しやすい雇用環境の整備がとして、①育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施、②育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備等、③自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供、④自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休養取得促進に関する方針の周知、④自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知のいずれかの措置を講じなければならないとされました。
また、妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置として、①育児休業・産後パパ育休に関する制度、②育児休業。産後パパ育休の申し出先、③育児休業給付に関すること、④労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会社会保険料の取扱いについて、面談(オンライン面談でも可)、書面交付、FAX、電子メールなどのいずれかの手段によって行わなければならなくなりました。

従来の育児休業が2回まで分割取得可能に

従来の育児休業は、原則として分割ができませんでしたが、2回まで分割して取得することが可能になりました。例えば、夫婦が育休を交代できる回数が増えるなど、柔軟な取得が可能となりました。

パートなど有期雇用労働者の育児・介護休業の取得要件が緩和

現行法上、①引き続き雇用された期間が1年以上、②1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかでない場合に取得が可能でしたが、これが緩和され、①の要件は撤廃されることとなりました。
もっとも、無期雇用者と同様、引き続き雇用された期間が1年未満の場合は、労使協定において対象から除外可能です。

事業主に「育児休業取得状況」の公表を義務付け

常時雇用する労働者が1000人を超える事業主は、育児休業との取得の状況を年1回公表することが義務付けられました。
具体的には、育児休業等の取得割合又は育児休業等と育児目的休暇の取得割合のいずれかをインターネットの利用その他適切な方法で、一般の方が閲覧できるように公表するように求められます。

育児介護休業法の改正で企業に求められる対応

このようなポイントごとに、企業には以下の対応が求められます。

就業規則の見直し

有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件が緩和されたことや、産後パパ育休の創設、育児休業の分割取得の規定を設ける必要がありますので、就業規則の見直しが必要となります。

制度の説明と取得の意向確認

妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認が義務付けられましたので、先ほど述べた①育児休業・産後パパ育休に関する制度、②育児休業。産後パパ育休の申し出先、③育児休業給付に関すること、④労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会社会保険料の取扱いについて、面談(オンライン面談でも可)、書面交付、FAX、電子メールなどのいずれかの手段によって行わなければなりません。

研修の実施や相談窓口の設置

そして、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の措置を講じなければなりませんから、前記したような①育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施、②育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備等、③自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供、④自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休養取得促進に関する方針の周知、④自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知のいずれかの措置を講じなければなりません。

事業主の義務を怠った場合のペナルティは?

育児・介護休業法が改正されたことで、事業主の義務が増えたわけですが、これに違反した場合、事業主は行政から報告を求められます。
また、行政から必要な措置を講ずるように助言、指導、勧告を受ける場合もあります。
仮に勧告に従わないとか、もしくは虚偽の報告を行った場合には罰則として、企業名の公表と、20万円を上限とする過料のペナルティがあります。

育児介護休業法に伴う対応で不明点があれば弁護士にご相談下さい。

今回の改正では、新たな休業制度や意向確認の措置、雇用環境の整備など大きな変更がありますので、会社としては、就業規則の改訂、研修の実施や、個別の説明に関するスキーム作りなど、対応を求められることが多いです。
労働法に詳しい弁護士と共に制度設計をしていくことで、改訂の際の誤りを防止することも可能となりますので、育児・介護休業法の改正に伴う対応にご不明点がある埼玉県内の企業様は、ぜひ一度弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

最初から正社員として採用するのではなく、試用期間を設ける会社は非常に多いかと思います。同様に、有期雇用契約を締結した後、無期雇用に転換されるような会社も多いです。
では、有期雇用契約において試用期間を設けることはできるのでしょうか。
本日は有期雇用と試用期間について、ご説明いたします。

試用期間と有期雇用の法的性格

試用期間とは、一般的に解約権留保付労働契約と解されています。
他方で、有期雇用契約とは、1年等といった期間の定めがある労働契約を意味します。

試用期間を設けるメリット

採用面接や試験といった短期間で限定された手法で採用者の適性を正確に評価することは難しいと言わざるを得ません。
そのため、採用者に本当に適性があるか否かを判断するために、3~6か月程度の試用期間を設ける必要があります。
こうすることで、試用期間経過での本採用拒否については、本採用後の解雇よりも、適法と認められやすくなるメリットがあります。

有期雇用契約をするメリット

いわゆる正社員の場合は、一時的な労働力需要のために採用したとしても、簡単に契約を終了することが出来ません。
有期雇用契約は、その名のとおり、期間の定めがありますので、労契法19条に反しない限り、期間満了によって終了します。そのため、一時的に労働力が必要な場合にメリットがあります。

試用期間としての有期雇用契約は認められるか?

では、試用期間としての役割を持った有期雇用契約を利用することはできるのでしょうか。
実務上、有期雇用契約を試用期間のように扱い、その期間中に適性があると判断した場合に、期間の定めのない労働契約を締結されるということがあります。
このような場合、裁判例上、有期雇用契約の成立が否定されて、期間の定めのない労働契約の試用期間であったと判断されたことがあります(神戸弘陵学園事件判決)。
会社としては、契約期間満了の方が、都合が良いのでしょうが、裁判所からは、期間の定めのない労働契約の試用期間とされることがあり得ます。

試用期間として有期雇用契約した場合、期間満了による雇止めは可能か?

以上に述べたように、試用期間として有期雇用契約を締結した場合、期間の定めのない労働契約の試用期間と判断される可能性があります。
したがって、雇止めは考えられず、本採用拒否の適否が検討されるにすぎないことになります。

試用期間満了による本採用拒否は解雇と同等の扱い

試用期間満了による本採用拒否は、会社が解約権として留保してきた権利を行使するため、法的性質は解雇となります。そのため、解雇と同様に簡単には認められませんが、本採用後の解雇に比べれば、認められやすい傾向にあります。

有期雇用契約でも試用期間と判断される可能性がある

以上に述べたように、有期雇用契約を締結していたものの、その後に無期雇用が続くことが構造的に予定される場合には、有期雇用が試用期間と解釈されることがあります。

試用期間を有期雇用契約とする際の留意点

試用期間の代わりに有期雇用契約を締結したところで、裁判所からは、実態として試用期間であると判断される可能性もあります。
少なくとも、有期雇用契約を利用する際には、以下の点に留意が必要です。

契約期間満了により労働契約が終了する旨の合意が必要

この点が無ければ、有期雇用契約ではなく、試用期間と判断されてしまう可能性が上がります。
仮に有期雇用契約と判断されたとしても、更新の期待があるとされてしまった場合には、労契法19条の適用を受ける可能性も出てきます。

有期雇用契約は期間途中での解除が困難

有期雇用契約は、「やむを得ない事由がある場合」でなければ中途解約はできません(労契法17条)。
安易に試用期間代わりに1年間に期間を定めて契約した場合、途中で解約することは非常に困難であると考えていただいた方がよろしいです。

試用期間と有期雇用に関する裁判例

前記しましたが、神戸弘陵学園事件が有名です。

事件の概要

常勤講師が、学園から、最初の契約期間を1年とする有期雇用契約を締結させられたものの、その間の勤務状態を見て期間の定めなく再雇用するか否かの判定を受けると説明されていたという事案です。
この常勤講師は、学園から最初の契約期間の満了で再雇用されることが無かったため、その有期雇用契約の実態が試用期間であったと訴えた事案です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は、「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。」と述べて有期雇用契約ではなく試用期間であると判示しました。

ポイント・解説

名目だけを有期雇用契約としても、その実態が試用期間であるのであれば、裁判所としては、期間の定めがあるとは認定しません。
会社に一方的に都合が良いということは認められない点に注意が必要です。

試用期間や有期雇用に関するお悩みは、労働問題に詳しい弁護士にご相談下さい。

以上に述べたように、試用期間と有期雇用に関しては、その実態を見ながら判断していく必要があり、会社としては有期雇用契約であるから大丈夫であろうと考えていたとしても、裁判所から試用期間と判断されて、期間の定めのない労働契約を締結していたということにもなりかねません。
このような法的判断を含む事項については、自社のみで悩まず、労働問題に詳しい弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めいたします。
埼玉県内で試用期間や有期雇用にお悩みの企業の方は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

退職者が顧客を連れて行ってしまう、いわゆる顧客の引き抜き行為は、企業に対して非常に大きな損害を与える行為であり、企業としては、対策しておきたい事柄です。
今日は、退職者による引き抜き行為を防止する方法について、解説していきたいと思います。

退職者による顧客の引き抜きが行われることのリスク

企業内で活躍していたものであればあるほど、退職時に顧客を引き抜いていく可能性があります。
このような引き抜きによって、会社は予定されていた売上の減少や、顧客から信頼を失うといったリスクがあります。

顧客の引き抜き行為を防止する方法とは?

では、実際に顧客の引き抜き行為を防止するにはどうしたらいいのでしょうか。

退職後の競業行為を禁止する

まず、退職後の競業行為を禁止することが考えられます。
退職時に、退職合意書や誓約書の形で退職者に対して競業行為を禁止することで顧客の引き抜きを防止することが可能となります。
ただ、在職時と異なり退職後の競業避止義務は職業選択の自由を側面する側面などから、無限定に認められるものではありません。場所的範囲や期間を限定するなどの工夫も必要となってきます。

顧客との取引を禁止する

また、顧客との取引を禁止する合意を書面で行うことも考えられます。
ただ、次の各点に注意しておく必要があります。

取引を禁止する顧客の範囲や期間を設ける

在職時と異なり、退職後にも競業避止義務を課すということは、退職者の転職の選択肢を奪ってしまうことになるため、合意したとしても裁判所から無効と判断されてしまう可能性があります。
他方で、顧客の範囲や期間を限定することで、退職者の利益に配慮している場合には、裁判所からも有効と判断される可能性が上がります。

顧客情報の持ち出しを禁止する

退職者が、退職後に顧客にアプローチしないように、退職時に顧客情報の持ち出しを禁止しておく必要もあります。

秘密保持契約を締結する必要性

退職時に秘密保持契約を締結することで顧客情報の持ち出しを禁止することが出来るようになります。

顧客情報は不正競争防止法上の「営業秘密」にあたるか?

顧客情報も不正競争防止法上の営業秘密に該当します。
ただ、以下の3要件を満たす必要があります。
①秘密管理性
②有用性
③非公知性
このような要件を満たす顧客情報であれば、営業秘密に該当します。

そもそも顧客の引き抜き行為で違法性を問えるのか?

在職時であれば会社に対する忠実義務、誠実義務等に反するものとして責任を追及することが出来ます。
退職後であっても、不正競争防止法違反があれば違法性を問うことはできますし、あまりに社会的相当性を逸脱するような引き抜き行為であれば、損害賠償請求の対象となることもあります。

顧客の引き抜き行為を禁止する上での注意点

顧客の引き抜き行為を禁止するうえでは、以下の点に注意しておく必要があります。

禁止事項は就業規則と誓約書のどちらかに規定しておけば良い?

どちらにも規定しておくことが望ましいです。
就業規則に定めることが前提ですが、個別に誓約書を取ることで、従業員に引き抜き行為が禁止されていることを認識させることも重要です。

不当な禁止事項を定めると無効になる場合も

労働者には職業選択の自由があることから、あまりに自由を制限するような事項を定めた場合には、合意したとしても無効とされてしまう場合もあります。
事後的な無効は、それこそ企業に不測のリスクを生じさせかねませんので、あまりにも制限的な事項とならないように注意しましょう。

退職者による顧客の引き抜き行為が発覚した際にできること

退職者による顧客の引き抜き行為が発覚した場合には、内容証明郵便などで警告書を送付する、損害賠償請求を提起する、退職金の没収を行う、差し止め請求を行う等といった手段が考えられます。
ただ、事案に応じた対応が求められますので、退職者による顧客の引き抜き行為が発覚した場合には、弁護士に相談されることを強くお勧めします。

顧客の引き抜き行為に関する裁判例

顧客の引き抜き行為に関する裁判例では、例えば以下の三田エンジニアリング事件があります。

事件の概要

ビルの空調機器、システムの保守点検等の作業に従事していた退職者が、会社の承諾が無い限り退職後1年間は競業してはならないという規定に反し、退職直後に競業他社に入社したとして退職金の返還を求められた事案です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

東京高判平成22年4月27日
これについて、東京高裁は、「本件競業禁止規定により禁止されるのは,従業員が退職後に行う競業する事業の実施あるいは競業他社への就職のうち,それにより会社の営業機密を開示,漏洩し,あるいはこれを第三者のために使用するに至るような態様のものに限定されるものと解すべきであり,かつ,このように本件競業禁止規定の趣旨を限定的に解してのみ本件競業禁止規定の有効性を認めることができるというべきである。」と述べて、競業禁止規定の限定解釈を行いました。
そして、本件退職者は、そのような行為を行ったとは言えないとして、退職金の返還を認めませんでした。

ポイントと解説

この裁判例のポイントは、1年という期間制限を定めたと競業禁止規定についても、退職金返還の場合には無限定には認めず限定を課してその有効性を肯定した点です。退職金は、賃金の後払い的性格があることもあって、簡単にその有効性は認められません。
画一的な基準を見出すことは難しく、事案ごとの検討が求められることになります。

退職者による顧客の引き抜きで会社が損害を負わないよう、労働問題に強い弁護士がサポートいたします。

以上に述べてきたように、退職者の顧客の引き抜き行為については、退職前からの準備が不可欠です。また、発覚後の対応についても、専門的な知見が必要な難しい分野でもあります。労働問題に強い弁護士にサポートしてもらうことをお勧めいたします。
埼玉県内で退職者の顧客の引き抜き行為についてお悩みの企業の方は、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にぜひ一度ご相談ください。

新型コロナウイルスについては、現在ワクチン接種が進んでおり、令和3年9月30日時点で、一回目接種率は63.93%、二回目接種率も54.08%と、国民の半数以上がワクチン接種を完了している状況になっています(政府CIOポータル参照 https://cio.go.jp/c19vaccine_dashboard)。 しかしながら、ワクチン接種が進むにつれて、新しい労務問題が生じてきています。

従業員に新型コロナウイルスのワクチン接種を義務付けることは可能?

新型コロナウイルスのワクチンは、「いずれも、新型コロナウイルス感染症の発症を予防する高い効果があり、また、重症化を予防する効果が期待されています。」とされるように(厚生労働省新型コロナワクチンQ&A参照)、新型コロナウイルスの脅威に対向する手段として、非常に有用なところがあります。
従業員が新型コロナウイルスに感染した場合、営業所の一時閉鎖などを行うリスクを抱えていますから、企業にとっては、可能であれば、従業員全員に接種してほしいと考えることは自然です。
しかしながら、ワクチン接種を会社が従業員に対して義務付けることまでは出来ません。
ワクチンには、副反応のリスクもあり、この接種を強制することは、従業員の自由を制限しすぎるものであって、認められません。
国も、国民に対し、予防接種法第9条の規定による努力義務(強制ではない)を課しているにすぎません。

ワクチン接種証明書の提出を求めてもいい?

では、ワクチン接種証明書の提出を求めるのはどうでしょうか。
これも義務化することは難しいと言わざるを得ません。接種証明書の提出を義務付けることはワクチン接種を義務付けることと同じになってしまいかねません。
提出するかどうかは、従業員の自由な意思に任せるしかなく、接種証明書の提出を強制するようなことはできないとお考え下さい。

ワクチン接種を推奨するための企業の措置

ワクチン接種を義務付けることは出来ませんが、企業にとっては新型コロナウイルスのリスクに備える手段であって、必要性も高いことから、これを推奨していくこと自体に問題はありません。

有給休暇や欠勤扱いとすることは問題ないか?

推奨するからといって、業務命令として接種させているわけではありませんので、ワクチン接種中に、従業員が使用者の指揮命令下にあるとは言えません。ワクチン接種については、労働者の自由意思に基づくものであることから、業務として行われるものとは認められません。
したがって、ワクチン接種について有給休暇扱いや欠勤扱いとすることに問題はありません。

厚生労働省が望ましいとする労働時間の取り扱い

厚生労働省としては、「職場における感染防止対策の観点からも、労働者の方が安心して新型コロナワクチンの接種を受けられるよう、ワクチンの接種や、接種後に労働者が体調を崩した場合などに活用できる休暇制度等を設けていただくなどの対応は望ましいものです。」とされています(厚生労働省QA参照)。
中抜けなどをペナルティなく認めるようにすることも推奨されています。

職域接種の場合は労働時間として扱うべき?

職域接種であろうと、ワクチン接種は個人の自由意思に任されているものです。

そのため、労働時間として扱わなくても問題ありません。 ただ、従業員の負担もあるため、労使で協議して、ペナルティなく中抜けなどさせるとか、特別休暇を創設するといった手段はあり得ます。

ワクチン接種に備えた「ワクチン休暇」の新設について

前記したとおり、ワクチン接種に備えたワクチン休暇の創設は、厚生労働省としては望ましいものとしています。

ワクチン休暇は有給か?無給としてもいいか?

ワクチン休暇は、法定の有給休暇と異なり、企業の福利厚生の一環として導入するかどうかを決めるものです。慶弔休暇等と同様に、会社の制度ですので、それを有給とするのか無給とするのかは、会社の広範な裁量にゆだねられています。
そのため、有給とするか、無給とするかは、会社で決断してよろしいです。

就業規則の変更について

仮にワクチン休暇を導入する場合、「一般的には、労働者にとって不利益なものではなく、合理的であると考えられることから、就業規則の変更を伴う場合であっても、変更後の就業規則を周知することで効力が発生するものと考えられます。」とされています(厚生労働省QA)。

ワクチン接種で健康被害が出た場合は労災の対象?

ワクチン接種を接種するかどうかは、従業員の意思にゆだねられている以上、業務起因性は認められず、労災の対象とはならないことが原則です。
ただ、医療従事者については、強制こそされないものの、業務の性質上、ワクチン接種をしなければならない状態にあります。
そのため、「医療従事者等に係るワクチン接種は、労働者の自由意思に基づくものではあるものの、医療機関等の事業主の事業目的の達成に資するものであり、労災保険における取扱いとしては、労働者の業務遂行のために必要な行為として、業務行為に該当するものと認められることから、労災保険給付の対象となります。なお、高齢者施設等の従事者に係るワクチン接種についても、同様の取扱いとなります。」とされています(厚生労働省QA)。

ワクチン接種の拒否を理由に懲戒処分とすることは可能?

これは出来ないとお考えいただく方がよろしいです。
あくまでワクチン接種は従業員の自由意思に基づいて行われるものであり、これをしないからといって、懲戒処分とすることは出来ません。

ワクチン接種に関する不利益な取り扱い・ワクハラ(ワクチンハラスメント)の禁止

当然ですが、ワクチン接種を推奨する際、ワクチンを接種しないものの人格を否定するような行為は、パワーハラスメントに該当する行為で、禁止されます。
また、これに伴って解雇や雇止めなどの不利益な取り扱いを行うことも当然出来ません。

従業員のワクチン接種において求められる企業対応

企業としては、従業員にワクチンを接種してほしいと考えるのは自然ですし、ワクチン自体の有効性もあります。
そのため、企業としては、あくまでも従業員の自由な意思による接種が前提であることを周知しながら、従業員に対して、自分の身を守ることや、周囲の従業員、取引先などの身を守ることにもつながること、ワクチンに対する正確な理解を周知していくなどしてワクチン接種を推奨していくことが求められます。

新型コロナのワクチン接種における労務管理で不明点があれば弁護士にご相談ください

新型コロナウイルスのワクチン接種については、コロナ禍同様、企業にとって経験したことのない出来事であり、また、副反応のリスク等もあることから、非常にデリケートな問題です。
ワクチン接種に伴う欠勤等も問題となり得ますし、いわゆるワクハラ(ワクチンハラスメント)の被害も聞こえてくるところがあります。このような労務管理の問題については、専門家である弁護士と共に進めていくことが何より大事です。
埼玉県内で、新型コロナのワクチン接種における労務管理でお悩みの企業様はぜひ一度弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

成果が上がらない社員に対して改善の業務命令をだすとか、上司の指示に従わない従業員に対して改善の業務命令を出すといったことがあります。
しかしながら、そのような業務命令に従ってくれる労働者ばかりではありません。
このような業務命令に従わない労働者に対して、どのように対処していくべきなのでしょうか。

業務命令に従わない労働者への処分はどうするべきか?

業務命令に従わない労働者にたいしては、まず懲戒処分を下すかどうかが検討されます。
上司からの業務指示の違反、時間外労働(休日労働)命令、配転命令、出向命令に従わない場合には、業務命令違反という形で、懲戒事由に該当し得ることになります。

労働者が負う「誠実労働義務」とは

労働者は、労働義務を「債務の本旨に従って」履行しなければなりません(民法493条)。
この義務を、職務専念義務ないし誠実労働義務といいます。
例えば、会社から出張・外勤の業務命令が出ているにもかかわらず、労働者が勝手に内勤業務に従事したという場合では、債務の本旨に従った労働の提供とは言えず、職務専念義務ないし誠実労働義務に反するものといえます。
業務命令違反は、こういった労働者の義務に反しますので、懲戒処分が検討されることになります。

業務命令に従わないことを理由に解雇はできるか?

では、業務命令に従わないことを理由に、直ちに解雇できるのでしょうか。
もちろん、最終的には解雇ということも考えられますが、業務命令に従わなかっただけで直ちに解雇しても、無効とされるリスクが高いです。

懲戒解雇の有効性が争われた裁判例

懲戒解雇の有効性が争われた裁判例として、ユニスコープ事件判決があります。

事件の概要

翻訳業に従事していた労働者が、スケジュールや納期を守らなかったり、業務の進行状況に対する問い合わせにも答えないといった問題があり、改善命令を出したところ、2か月間タイムカードを押さずに反抗する態度を取ったため、懲戒解雇したという事案です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

東京地判平成6年3月11日
裁判所は、労働者の「勤務態度は、非協調的・独善的なものであったものと評価されてもやむをえないものということができる。」と指摘し、他方で、会社代表者は、労働者のこのような勤務態度を理由に直ちに労働者を解雇したものではなく、労働者が会社に勤務していた約一年五か月の間、労働者に対し、その勤務態度の問題点を度々指摘して注意を喚起したり、勤務体制に配慮するなどして、労働者の非協調的な勤務態度の改善を求めてきたことや、労働者は解雇されるまで、その勤務態度を改善しなかったばかりか、かえって、反抗手段としてタイムカードを押さなかったり、無断欠勤をするなどしたことを考慮して、解雇には合理的理由があると指摘しました。

ポイント・解説

ポイントとしては、労働者がどれだけひどい勤務態度であったとしても、業務命令によって、労働者に対して改善の機会をあたえたかどうかが、解雇の有効性について考慮されている点です。
解雇が最終手段であることから、裁判所は解雇の効力について非常に謙抑的に判断しています。労働者に対して改善の機会(=業務命令など)を与えずに解雇することは、まずできませんので、注意が必要です。

業務命令違反による懲戒処分が認められるための要件

では、解雇に至らずとも、業務命令違反によって懲戒処分が認められるためには、どのような点に注意すればよいでしょうか。

①業務命令が有効であるか

当然のことですが、業務命令自体が有効でなければ、これに反したことを理由として、懲戒処分を下しても無効となってしまいます。

業務命令が無効になるケースとは?

例えば、配転命令において労働者に著しい不利益があるような場合には、配点命令は無効とされることになります。そのため、配転命令に違反していたとしても、配転命令自体が無効であることから、その違反を理由とした懲戒処分も無効となります。

②業務命令違反の事実は存在するか

これも前提となりますが、業務命令に反した事実が無ければ、それを理由として懲戒処分を下すことは出来ません。
労働者が、実際に業務命令を受けたか、それに反する行動をとったかどうかについては、極力、客観的な証拠や資料で裏付けし、周囲からの聞き取り調査を行って、事実の存否を確認しておく必要があります。

③就業規則に懲戒事由として規定されているか

また、就業規則に懲戒事由として明定されているかどうかが問題となります。
裁判例は、就業規則に明らかに定められていない事由に基づく懲戒処分については否定的です。

④懲戒処分の程度は相当なものか

懲戒処分にも軽重がありますから、行為に見合わないような処分がなされた場合には、社会通念上相当でないものとして、無効となります。

⑤懲戒手続が適正に行われているか

懲戒処分は、制裁罰として刑事処罰との類似性を持ちますから、罪刑法定主義類似の諸原則を満たすものでなければならないとされています。
このため、懲戒処分を行うには、適正な手続きを踏むことが必要であるとされ、その中でも、労働者(被処分者)に対して、弁明の機会を与えることが重要とされています。
被処分者に、懲戒事由を告知し、弁明の機会を与えなければ、懲戒処分は特段の事情が無い限り(事実関係が明白で疑いの余地が無い場合等。)有効とされませんので、注意が必要です。

業務命令違反に対する懲戒処分の進め方と注意点

では、具体的な処分としてはどのように進めていけばよいでしょうか。

弁明や是正の機会を与える

まずは、懲戒事由となる業務命令違反を告知し、弁明や是正の機会を与えることが第一です。
懲戒処分は、労働者に不利益なものですから、まずは弁明や是正の機会を与えることから始めます。

段階的に処分を実施する

業務命令違反が明らかとなれば、次は処分を下すかどうか検討することになります。
これは、どの程度の懲戒処分を下すか、という量刑判断も含みます。
出来る限り、けん責などの軽い懲戒処分から始めることをお勧めします。
重い懲戒処分を直ちに下す場合には、無効となる可能性が高くなります。
軽度の懲戒処分や、形に残る注意指導を実施して、今後労働者がどうなっていくかを見守る方が、妥当なことが多いです。

合意による退職を目指す

懲戒処分を下された労働者は、その後、改善すればよいのですが、改善しないことも多いです。
また、労働者としても、会社に居づらい状況になりますし、これ以上業務命令違反が続けば、懲戒解雇を検討せざるを得なくなることもあります。
そこで、退職勧奨を行う等して、合意による退職を目指すことが、労使双方にとって良い結果をもたらすことが有ります。
労働者との合意による退職を目指すことも、ご検討ください。

最終的には懲戒解雇を検討

合意による退職は出来ず、懲戒処分後も業務命令違反も継続する場合には、最終的には懲戒解雇を検討いただくことになります。
数度の懲戒処分にもかかわらず、業務命令違反が継続するのであれば、懲戒解雇を行ったとしても有効と判断される可能性は高くなってきます。

業務命令に従わない社員の処分でお困りなら弁護士にご相談ください

業務命令に従わない社員に対しては、注意指導や軽度の懲戒処分などで改善を図ることが何より大事ですが、労働者によっては、全く改善せず、会社に対して反抗的な態度に終始することもあります。
こういった労働者が、会社に在籍しづるけることは、会社にとっても、他の従業員にとっても、良いことではありません。
もちろん、上記してきたように、懲戒解雇は簡単なものではありませんから、慎重な決断が求められます。この際に、弁護士などの専門家に相談、依頼できる環境を整えておく必要があります。
埼玉県内で業務命令に従わない社員の処分でお困りの企業の方は、ぜひ一度弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

日本では、長期雇用を原則とした制度のため、採用してから、辞めるまで、経営の状況や周囲の環境が変わらないことの方が珍しいです。最近も、コロナウイルスの影響でテレワークが促進されたこと等がありましたが、思いもよらないタイミングで労働条件の変更を考えなければならないことも有ります。
ただ、一度決めた労働条件を変更する際、それが労働者にとって有利であればともかく、不利益な内容も含まれている場合には、注意が必要です。

就業規則や労働条件の不利益変更の禁止について

労働者の同意もなく、就業規則や労働条件を、労働者の不利益に変更することは原則としてできません(労契法9条参照)。

不利益変更を行うことのリスク

例えば、賃金の減額を伴う不利益変更の場合、減額される労働者は、非常に不満に感じるため、労使間の激しい紛争を生じるリスクがあります。
既存労働者の大勢と労使紛争となれば、会社の生産性も低下する恐れがあります。

労働条件の不利益変更が認められる条件とは?

労働条件の不利益変更は、どうあっても認められないものではなく、使用者と個々の労働者の合意によって変更できることはもちろん、就業規則の不利益変更によっても、条件次第では認められます。

就業規則の不利益変が認められる条件

労働契約法第10条には、就業規則による不利益変更が認められる条件が規定されています。
「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」
同条によれば、労働者の個別の同意がなくとも、合理的なものであるとされた場合には、労働条件の不利益変更は有効なものとされます。

不利益変更の「合理性」を判断する基準

合理性を判断する判断要素は、同条に定められています。
①労働者の受ける不利益の程度、
②労働条件の変更の必要性、
③変更後の就業規則の内容の相当性、
④労働組合等との交渉の状況、
⑤その他の就業規則の変更に係る事情
ただ、これらを総合的に勘案することになるため、その変更が合理的であるかどうかは非常に難しい判断になります。同じ事案であっても、地裁と高裁など、審級毎に判断が覆ることも少なくありません。

不利益変更のケース別のトラブル防止のためのポイント

労働条件といっても、賃金に関するものや労働時間に関するもの等、様々な条件があり、それぞれを変更するにあたっては、以下の点に注意しておく必要があります。
なお、どのような不利益変更の場合にも当てはまりますが、それぞれの労働者と合意を得ることを目指すことが第一であるので、個別の労働者の納得が得られるような変更にすることが肝要です。

賃金・手当に関する不利益変更の注意点

賃金・手当に関する不利益変更は、そもそも減額の前に就業規則を変更しておく必要があります。
そして、賃金・手当は労働者にとって特に重要な権利であることから、高度の必要性に基づいた合理的なものである必要があるとされます。
賃金制度をどのように設計しなおすか、またそれが長期で見ればとの程度の不利益となるか、なぜ賃金・手当を減額する必要があるのか、代償措置や経過措置を取れないか、等といったことに注意しながら、進めていくことが重要です。

時間外労働・残業代に関する不利益変更の注意点

時間外労働に対する割増賃金、いわゆる残業代について、労基法よりも高い割増率を設定している企業は少ないため、固定残業代を不利益に変更しようとする場合に問題になることが多いです。
この場合も、賃金・手当の変更同様の注意点があります。

労働時間・休日・休暇に関する不利益変更の注意点

年次有給休暇の5日間の取得が義務付けられたことに伴い、今まで休日や休暇としていたところに年休を当てようとすることがあると聞きますが、労働者にとって、休日や休暇を奪うことにほかならず、不利益変更に該当します。
実際には休む日数が変わっていなくとも、権利が奪われるような場合も、当然不利益変更となりますので、労働時間・休日・休暇に関する変更を行う際には、それが不利益であるかどうか、きちんと検討しておくことが必要です。

不利益変更でトラブルにならないために企業がすべきこと

労働条件が不利益変更される場合、労働者は既得権益を侵されたと感じ、非常に抵抗し、激しい労使紛争に発展するリスクが大きいことは、前記したとおりです。
そのため、不利益変更に伴う労使紛争を避けるため、以下の点に注意する必要があります。

従業員と合意書を取り交わしておく

個別の合意を取ることが何より大事ですので、合意を得た場合には、合意書を取り交わしましょう。
事後のトラブルの際も、従業員が合意したことを証明する書面が残っていれば、不利益変更の有効性を主張する証拠になります。

代償措置や経過措置の検討

合理性を判断する一要素でもありますが、不利益変更について、代償措置や経過措置を設けることで、従業員から合意を取りやすくなります。
即座に労働条件が変更されることにはならず、即効性は低いですが、長期的に見れば、不利益変更を実現できるため、このような措置も検討しておく必要があります。

従業員から労働審判や訴訟を起こされた場合の対応

従業員から、労働条件の不利益変更に対して、労働審判や訴訟を起こされることが有ります。
この場合は、同意が無いのであれば、従前ご説明したとおり、合理性の判断で争っていかなければなりませんが、これは評価が伴うことから非常に難しい事件となります。
自社のみで対応することは不可能ですので、専門家である弁護士に依頼することをお勧めいたします。

労働条件の不利益変更に関する裁判例

労働条件の不利益変更については、同意によるものや就業規則変更による方法がありますが、就業規則による変更に関する判例として著名なものに大曲農協事件判決があります。

事件の概要

農業協同組合の合併に伴って、労働条件を統一しようとして、新たな就業規則を作成しましたが、ある労働者との関係では、退職金算定における支給倍率が、例えば64→55.55、55→45.945、61→53.75といった具合に下げられたという事件です。
この退職金の引き下げに不満を抱いた従業員が、新規程への不利益な変更は効力を生じないから、旧規程の支給倍率を乗じた金額から実際に受領した退職金額を差し引いた金額が退職金として未払いであるとして、その差額の支払を求めた事件です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

これに対して、最高裁は、農業協同組合の合併に伴って新たに作成された退職給与規程の退職金支給倍率の定めが一つの旧組合の支給倍率を低減するものであっても、それによる不利益は退職金額算定の基礎となる基本月俸が合併後に増額されたため軽減されていることや、合併前の農業協同組合の労働条件の格差が是正されない場合には、合併後の協同組合の人事管理の面で著しい支障が生じること、給与調整の累計額からすれば、そもそも旧規程の退職金水準に達していること、休日、休暇などの点で、有利な取り扱いを受けたこと(但し、代償措置としてではない。)などを鑑みれば、新規程への変更に合理性があると判断しました(最判昭和63年2月16日)。

ポイント・解説

裁判所は、「賃金、退職金など労働者にとつて重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである」とも述べており、特に賃金などの重要な権利についての不利益変更には厳しい立場を取っています。
もっとも、合併に伴う必要性や、退職金を減額したとしても、その他の条件での優遇なども考慮すれば、合理性があるとしており、いかなる場合でも労働条件の不利益変更が許されないものではないとしたところがポイントです。

不利益変更で無用な労使トラブルを避けるためにも、弁護士に相談することをおすすめします。

労働条件の不利益変更は、会社としては必要性があると思っていても、従業員には理解されず、労使紛争に発展する可能性が高いです。こうした場合には、個別の合意を取るための十分な説明を行うことが第一ですが、労使紛争に発展した場合には、裁判所から思いもよらず、その効力を否定されることもあり得ます。
不利益変更に関する労使紛争は非常に難しいところが多い為、不利益変更を行う前から、専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。
埼玉県内で労働条件の不利益変更でお悩みの企業は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。